※諸注意
この小説は、かなりいろんな意味でギリギリの線を越えちゃったり越えなかったりしてますが、まぁ、そんなに気にしないでください。
妄想の小部屋[今流行の能力者モノ]
〜何故か私の周りではヒジョーにこのネタが使われているから私だけ書かないと言うのも仲間外れで寂しい感じがするから書き始めたけどメッチャ長引いたけどなかなかこの能力者のブームは終わらないと思う今日この頃的小説DX決定版〜
儚い夢
それは遠く
儚い夢
それは切なく
儚い夢
それは形無く
儚い――
それは触れること叶わず
儚き――
それは朝霧のように
夢――
それはしんしんと
この降り続ける雪のように
何処かへと過ぎ去ってしまい
やがて――
やがて忘却の彼方へ。
白い世界に、一人の少女の間延びした声が響き渡る。
「"La Papessa――女司祭(故に最強)"はつどー!!」
声の主は、陸上部(部員はカメかナメクジ)の部長、水瀬名雪だった。
間延びした、いかにも緊張感の欠ける声とは裏腹に、彼女の周りの空気は一変した。それまで真っ白でひたすら名雪を拒絶したような感さえあった空間が――名雪を中心に歪曲した。
それは、そうとしか例えようが無かった。空間そのものが大きく歪み、捩れ、曲がったのだ。
「え? え! えーッ!!」
名雪は、自分が発生させた重力場に、自分で驚いていた。その名雪を中心とした重力場は、名雪が動くにつれて、それ自身も動いていった。そして名雪がいるところだけは、穏やかな水面のように静かだった。さながら、名雪を目とした、動く重力の台風のようだった。
「なに、コレ? ヘンなの〜」
しかも本人にまったく自覚が無いのが恐ろしい。本人にはまったく無害なのだから当たり前と言えば当たり前だが。名雪の視点からでは、コップに水を入れてそのコップ越しに世界を見ているような感じにしか分からない。しかし現実は、
「……!!」
「!!」
名雪を襲うべく姿を消していた影たちは、通常の千倍近い重力によって、形を留める事も出来ずに消えていった。
「みんなどこにいったの〜?」
間延びする声を上げながら、名雪は走り去った。実に恐ろしき事は、名雪は"La Papessa――女司祭(故に最強)"を発動させたまま走り去ったということだった。
「……佐祐理」
「舞! 無事だったんだねー」
ひっしと抱き合う女が二人。
いまここに感動の再開が! ってな雰囲気になっているのは、この二人だけである。佐祐理と一緒にいた真琴と美汐はそれどころではなかった。
「ちょっと! こっちも手伝ってよぉ!!」
「感動の再開は、後からでも出来ますから、先輩」
真琴と美汐の二人は、襲い来る影を倒すのに必死だ。しかも、今度は数が半端じゃない。百近い数の影が、休まず次々と襲い掛かってくるのだ。真琴も美汐も、そろそろ体力の限界だった。
「えーい!」
タンッタンッタンッ。
ドンッドンッドンッ。
"Il Mondo――世界(創造と破壊)"で作り出した銃がいくら弾数無限とはいえ、直線にしか進まない攻撃では一度に倒せる敵の数にも限界がある。
さらにいえば、
「……すみません、私の能力は、攻撃向けじゃないので」
美汐は戦力外。まるっきり戦闘タイプではない美汐は、真琴の邪魔にならないように端っこの方で舞と佐祐理を正気に戻すことしか出来ない。しかし、それすらも上手くいってないこの状況では、敗北は目の前だった。
「こうなったら、真琴キーーーック!!」
"Il Carro――戦車(全てを穿孔する衝撃)"を、真琴は発動させた。
轟っ!! と空気の抵抗を受けながらも、真琴が発生させた衝撃波は、影たちを薙ぎ払っていく。しかし、それでも、相手の数の方が圧倒的に多いこの状況では、焼け石に水である。たいした効果は望めないどころか、この"Il Carro――戦車(全てを穿孔する衝撃)"を使った後の真琴は、まったくの無防備になってしまうので、結果。
「た、タスケテ〜」
真琴は敵に簀巻きにされてしまった。
「ま、真琴!!」
美汐の悲痛な叫び声にも、影たちは耳も貸さない。
「殺ッ!」
影たちは、次なる獲物に襲い掛かった。
「殺!!」
舞と、佐祐理に。
ひっしと抱き合っている女二人に、影の鋭い爪が襲い掛かる。
「先輩!」
真琴のことも心配だが、先輩二人のことも心配する美汐にも、影たちは目を付けた。
「殺……」
「ひッ!」
まるで呪文のように「殺」としか喋らないこの不気味な影は、どんなものにも容赦は無いようだ。美汐は一瞬で真琴と同様、簀巻きにされてしまった。
「あ、あうー」
「すみません、真琴。力になれなくて……」
すっかり身動きが取れなくなった真琴と美汐に興味をなくした影たちは、舞と佐祐理を円形に取り囲み、じりじりとその間合いを詰めていく。しかし彼らは気づいていない。先ほど、一人だけ先走って二人に襲い掛かった二人の影が、いつの間にやら消えていることに。
「舞ー」
「……佐祐理」
二人は、二人だけの世界にズブズブと沈んだままだった。
「殺!!」
一人が襲い掛かれば、あとはもうドミノ倒しの要領だ。休み無く、慈悲無く、容赦無く、百を超える影たちが次々に、二人に襲い掛かった。そして、
「!!」
次々と三枚おろしにされていった。
「はぇー、すごいですねー」
「……別に、すごくない」
三枚おろしになってしまった影たちを見て、佐祐理は口に手をあてて驚きを表現した。しかし舞は、さも当然というようにさらりと流すと、"Il Re Spade――剣の王(断絶)"を発動させた。空間の裂け目から一振りの剣を取り出すと、それを両手でしっかりと構える。
「よーし、佐祐理もやりますよー」
やる、が殺るに聞こえなくもない発音で、佐祐理も"Il Re Bastoni――杖の王(媒介を変化せしめし支配者)"を発動させ、さゆりんステッキを戦斧(ハルバート)に変化させた。
「……その必要は、無い……」
「え?」
せっかく殺る気になった佐祐理だったが、舞の言葉通り、もう勝敗は決していた。
「胤!!」
舞が、まわりにいる影たちに気合を一閃、たったそれだけで、
全てが終わった。
「……何があったんでしょう?」
「さぁ……?」
簀巻きにされたまま身動きもとれずに、ぼーっとしていた真琴と美汐にもその光景は目に映ったが、
「何があったんだろうね……?」
「……さぁ?」
ってな感じであった。舞の隣で見ていた佐祐理でさえ、
「……ねえ、舞。何したの?」
舞が気合を入れた一瞬のうちに起こった、影たちの異変。それは全て、
「"Il Regina Spade――剣の女王(殲滅)"……」
舞の二つ目の能力によるものだった。
間違いなく、下準備さえしてしまえば最強の能力、それが、"Il Regina Spade――剣の女王(殲滅)"。自分の周りに目には見えない刃の結界を作り上げ、それに触れたものはなんであれその刃で殲滅してしまう力。しかし、結界を作り上げるためには幾つもの条件が必要とされる。
一つ、"Il Re Spade――剣の王(断絶)"を発動させておくこと。
一つ、敵の注意を一定時間以上、自分に引き付けておくこと。
一つ、相手が、明確に、自分に対する殺意を抱いていること。
一つ、自分が、相手以上の殺意を相手に対して抱いていること。
一つ、相手が複数であること。
以上の五つの条件さえ満たしていれば、この最強の能力は発動し、目に見えている範囲の敵は全て、殲滅される。
「はぁ……」
佐祐理はいまいち理解できていなかった。
「?」
真琴も、美汐も、いまいちどころか、真琴に至っては話しすら聞いていなかった。
「何か……来る!!」
真琴は、先ほどからどこからともなく聞こえてくる僅かな地響きを敏感に感じ取り、そちらばかり気にしていたのだ。そして、その地響きは、確実に四人に向かってきていた。
「これは……」
地響きのほかにも、どこかで聞いたことのあるような声も聞こえてきた。
「…………ぅ」
「?」
真琴は、耳に神経を集中させた。
「……ぅ〜」
確かに、聞き覚えのある声だ。真琴の記憶が確かならば、その声の主は、ダッフルコートなんか着て羽のついたリュックなんか背負ってたはずだ。
「うぐぅ〜」
そして、その通りだった。
「助けて〜」
しかし、走ってきたのはあゆだけではなかった。
「お、お姉ちゃん。私はもう、ムリです……」
「なに言ってるの! もうすぐだから、頑張りなさい」
美坂姉妹も一緒だった。そして、さらにその後方から、
「……」
物言わぬ影たちも、迫ってきた。
「?」
真琴は、その影を見て、首を傾げた。
三人を追い立てる影たちは、今までとは何かが違っていた。でも、真琴にはその何かがわからないため、少しずつ近づきながら、じっと目を凝らしてみる。
「……なんだろ?」
真琴がそうこう悩んでいるうちに、三人は真琴の脇を通り抜けてしまった。そして、影たちが目前に迫って、真琴はその違和感に気づいた。
「ああ! あいつらなにか持ってる!!」
「そうなのよ! だから、さっさと逃げなさい!!」
真琴が影の手に何かを発見したのと、影がその何かを真琴に向けたのは同時だった。
「殺っ!」
「え?」
真琴がそれを見て避けようとしたときには、ソレは真琴に襲い掛かっていた。
漆黒の闇のように、冷たい光だった。
何かが、身体を突き抜けていった。一瞬だけれど、その何かがとても冷たいものだと、分かった。
真琴は漆黒の光に貫かれ、ゆっくりと膝を折った。
「! ま、まことー!!」
美汐の悲痛な叫び声は、襲い来る影たちの足音によってかき消されてしまった。
「クッ! 早く、あなたも逃げないと、捕まるわよ!!」
香里は小さく舌打ちしてから、美汐の腕を引っ張った。
「でも、真琴が……。あの子が!!」
焦点の合ってない眼で、美汐は真琴がいたあたりを見つめている。
「もうっ!」
香里はしびれを切らし、美汐のお腹に拳を叩き込んだ。
「! ――――」
ぐったりとなった美汐を抱えながら、香里は走り出した。他のメンバーは栞を残して走り去ってしまっていた。
「まったく、薄情なんだから……」
最初に異変に気づいたのは、意外なことに名雪だった。
「……アレ?」
唐突に、足が重くなったのだ。まるで、足に何かが絡み付いているようだった。
周りの景色は、いつからか真っ白な世界からどこかの河原になっていた。
「どうしたんだろ……」
やがて足は思うように動かなくなり、
「ア、レ……?」
名雪の足は、まるで地面に打たれた釘のように動かなくなった。
常人ならば完全に恐慌状態に陥るところだが、名雪は冷静にその状況を受け止めていた。
「……これが、足が棒になるってことなんだ」
感心までしてしまっている、名雪だった。
「やっぱり疲れてるのかなー」
名雪は、動かない足を引きずりながら、河原を歩いていく。そして、
「そうだ!」
イイ事を思いついた、とばかりに靴を脱ぎ靴下もさっさと脱いでしまう。
「水で疲れをほぐすよー」
素足で川の中へジャボジャボ入っていくと、丁度いい岩を見つけ、そこに腰掛けた。
「はぁー、冷たくって、気持ちいいよ〜」
のほほん、と名雪が和んでいると、
「もし、そこなお方」
いきなり背後から声を掛けられた。
「!?」
びっくりして振り返ってみると、そこには名雪とそう歳が変わらないであろう、一人の少年が立っていた。
「驚かせちまったみたいだな。オレの名前は、折原こーへーだ。よろしくな」
こーへーと名乗った少年は、名雪に手を差し出して、にっこり微笑んだ。
あぁー、ここに至って、わけのわからんキャラが増えた〜!!
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