※諸注意

この小説は、かなりいろんな意味でギリギリの線を越えちゃったり越えなかったりしてますが、まぁ、そんなに気にしないでください。

 

 

 

 

 

妄想の小部屋[今流行の能力者モノ]

〜やっとこさパーソナルなコンピューターを手に入れたけど相変わらず使うのは文字書いたり音楽聴いたりするだけというなんだかなぁなかんじでもやっぱりノートよりはデスクトップのほうが使いやすいなぁとキーボードを叩きながら実感する今日この頃的小説DX決定版〜

 

 

 

 

 

 

 届かない……

 

 私の叫びは届かない。

 

 私の祈りは届かない。

 

 私の怒りは届かない。

 

 私の願いは届かない。

 

 私の悲しみは届かない。

 

 私がどんなに叫ぼうとも、

 

 私がどんなに声を嗄らそうとも、

 

 私の声は、あなたには届かない……

 

 

 

 

 最凶の剣と槍が激突したその瞬間、名雪と北川は歩みを止めた。

「……なにか、あったのかな?」

「水瀬も、分かるか」

 二人は人っ子一人いない、不気味な商店街の真ん中で歩みを止め、顔を見合わせた。

「胸騒ぎが、するよ」

「ああ。いやな予感がする」

 二人にしては珍しく、真剣な面持ちだった。

「それにしても、ここは不気味だな」

「いまさら何を……」

 いきなり話題が変わるのは慣れてはいるが、この状況でそれをやられるとは思ってもいなかった名雪は、少々とまどった。

「人がいないのもそうだが、この商店街ってこんなに長かったか?」

 長い、というのも、二人はかれこれ三十分は商店街を歩いていた。

「さぁ? わたしも商店街の端から端まで歩いたことはないから」

「それにしたって、不自然だ」

 人もいないし、と北川はもう一度そこを強調して付け加えた。

「まるで誰かに会いたげだね」

「そんなことはないぞ! 俺は美坂に会いたいだなんて一言も……」

「香里に会いたいんだ」

「愛だなんて、そんなっ!!」

 相変わらずのバカっぷりだが、生憎この場所にツッコミができる人間はいなかった。

「空は相変わらずの曇り空……」

 名雪はサッパリきっぱりと北川を無視した。そして、周りを見てふと思い出したように口を開いた。

「そう言えば、わたしたちっていつからこの商店街を歩いてたの?」

 素朴な疑問だが、二人はその答えを知らなかった。いや、分からなかった。

「そういえば、いつからだ?」

「わたしが聞いてるんだけど……」

「俺も、知らないし」

「分からないよね」

 今度は真剣な面持ちで悩みだした。

 しばし頭を悩ました後、北川は口を開いた。

「この答えは、悩んだところで出る答えじゃないような気がするぞ」

 もっとな言葉だった。

「それもそうだね」

 名雪も、それで納得したようだ。

「答えはそのうち向こうからやってくるよね」

「向こうとは……東西南北で言うと、どこらへん?」

「ん〜。北北、西かな」

「そうか」

 北川も納得し、再び二人は歩みを再開した。

「そういや腹減ったな」

 しばらく歩いた後、北川が思い出したように口を開いた。

「そうだね」

 と、二人の視界にこれみよがしに入り込んできたひとつの看板。

『百花屋』

「これは……なんというか」

「入れって、言ってるんだよ」

「そうなのか?」

「そうじゃなきゃ、こんなところにあるわけないじゃない」

 名雪は一人頷くと、イチドサンデーとかイチゴサンデーとか言いながら百花屋に入っていった。

「……この場合、男が奢るべきなんだろうか、やはり」

 北川も、ぶつぶつ呟きながら、それに続いた。

 

 

 百花屋の中にも、誰もいなかった。

「まぁ、表に誰もいないから、当然といえば当然か」

 窓際の席を陣取りながら、北川はメニューを捲っていた。

「そうだねー」

 北川の正面に座って、名雪は何かを待っているようだった。

 よくよく考えたら、この構図はかなり珍しいものだった。いつもなら香里と、男と来るならその相手は必ず祐一である名雪と、香里以外の女子とここに来た事のない北川。北川の場合は、男同士でなんかこんな店来れるか、という雰囲気だから仕方ないといえばそうなのだが。

「水瀬……。ひとつ言っておくがな」

「なぁに〜」

 名雪はもはや上の空だった。

「イチゴサンデーは食えないぞ」

「ふーん。……」

 二拍ほどおいた後、

「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」

「……そんな力いっぱい驚かれても」

 北川は耳を押さえながら、苦笑した。

「どうして?!」

「ウエイター(もしくはウエイトレス)いないし」

「なんでいないの!?」

「人がいないし」

「なんでいないの?!」

「それは……忙しいからかな」

「なんで忙しいの?!」

「そりゃ、不景気だからさ」

「どうして、不景気なの!?」

「やっぱ、合衆国大統領の所為かな?」

「なんで疑問形なの!!」

「ツッコムところそこかよ!!」

 なにか不毛なやりとりをしていた二人だった。

 どっと疲れました、といった感じで北川はタメ息を吐いた。

「そろそろ話を戻そう」

「どこら辺まで?」

 北川は、腕を組んで急にジト目になった。

「……」

「なに?」

「水瀬、もしかしてワザとか、いままで」

「そんなことないよ」

「人の目を見て言い訳してほしいものだな」

「そんなことより、話を戻さないと」

「それもそうだな。で、どこまで戻そうか」

 今度は、名雪がジト目になる番だった。

「ワザと?」

「そんなことないさ」

 とてもワザとらしい言い方だった。

「ふーん。……あ、香里」

「マジ!! どこっどこっ!?」

 北川はいきなり席を立つと、あたりを見回しだした。

「あからさま過ぎると、香里に嫌われるよ」

 名雪の冷ややかなまなざしから、それが嘘だ、とやっと悟った北川は、咳払いをすると座りなおした。

「それで、だ」

「真面目モード?」

「うん。それで、だ」

「同じことを二度も言わなくていいと思う」

「話を混ぜっ返すなよ!」

 北川はまたしても席を立った。

「わ、びっくり」

 名雪の態度は、とてもざーとらしかった。

「もういいよ」

 北川は呟くと、もう余計な横槍は入れられまいと一気にまくしてた。

「そもそもここら一帯には人がいないのにこの百花屋だけ都合よく人がいるわけないだろそれに人がいたとしても一人なわけないからそれなりにたくさんの人が一緒に行動してるだろそうするとだここに入った瞬間にひとの気配なり何なりを感じるはずだろそれがなかったってことはひいてはここに人がいないことにつながるだろ」

「つながるけど、もう少しゆっくり喋って欲しかったな」

 話を半分も聞き取れてなかった名雪は、北川に、机の端のほうに置いてあった呼び鈴を指し示した。

「はぁー、はぁー、はぁー……。ん、そのベルが何か?」

 息を整えてから、北川は口を開いた。

「このベルを押したら人が来るかも」

 笑顔でのたまった名雪を見て、北川は体中の力が抜けたような気がした。

 というか、事実抜けてしまった。

「どうしたの?」

 名雪が顔を覗き込んでも、北川は焦点の合ってない眼で名雪を、というかその向こう側の天井を見つめていた。

「もう、好きにしてくれ」

 まさに精も根も尽き果ててしまった声だった。

「うん、好きにするよ〜。イチゴサンデーを食べるよ〜」

 まるで話を聞いていない名雪だった。

「じゃ、ぽちっとな」

 まるで、今週のビックリどっきりメカでも出てきそうな感じだった。

「お呼びですかー」

 可愛らしい女の子の声が、店内にこだました。

 二人の間に、奇妙な沈黙が訪れる。

「…………。水瀬、そこまでしてイチゴサンデーを食べたいのか?」

「ち、違うよ!! 今の声は私じゃないよ!!」

 両手をブンブン振って名雪は否定した。

「北川君が、わたしを驚かそうとしたんじゃないの?」

 北川も、両手をブンブン振って否定した。

「俺なわけないだろ!! 俺は男だぞ! あんな声出せるか!!」

「でも、北川君だって高い声出せるでしょ?」

「?」

 名雪のいきなりの発言に、北川は首を傾げるばかりだ。

「ほら、ししょ〜〜〜〜ッ!! って」

 名雪は、実際にやってみせた。

「それはまた、別のお話……」

 北川は額に汗をかきながら、天井を仰いだ。

「でも、声は北川君じゃない」

「そんなことを言ったらさ、水瀬だって使い魔呼び出せるじゃん!!」

「あれは使い魔じゃなくて、星神だよー」

 なんとなく危なげな会話をしていた二人だが、厨房の方からコツコツ、という足音を聞き、急に黙り込んだ。

「だ、だれ?」

「俺に聞くなよ」

「でも、わたしから見えないってことは、わたしの正面にいる北川君には見えるってことでしょ」

「そ、それもそうか……」

 北川は、あたりを見回してみた。

「見えないぞ」

「ホント?」

「ウソ言ってどうする」

 それもそうだね、と名雪はいい、北川と同じようにあたりを見回してみる。

「いないね……」

 だろ、と北川は言いながらも、あたりを注意深く観察する。

 足音が、確実に近づいてきているのだ。でも、以前なにも見えない。

「おかしいね……」

 首をかしげる名雪の背後に、一瞬だけ、目に見えるほどの歪みが生じた。

「! 水瀬、後ろだ!!」

「えぇ?!」

 北川の鋭い叫びに戸惑いながらも名雪は、さすが陸上部の部長、横っ飛びで座っていたソファーから離れた。

 瞬間。

 

――――ボンッ!

 

 名雪の座っていたソファーが、弾けた。

 いや、弾けたというのは本当は違う。しかし、それに気づいたのは正面から見ていた北川だけだった。

 名雪がソファーから離れた瞬間、ソファーが捻じれたのだ。捻じれたのは、しかしソファーだけではない。ソファーの近くの机も、まるで誰かが雑巾絞りの要領で絞ったかのように、捻じれていた。

 そして、北川は見ていた。捻じれたのは物体だけではない。目に見えるもの、すべてが捻られていたのだ。名雪が座っていた一帯の空間ごと、捻れていたのだ。

「こ、これって……」

 呆然とする名雪の視界に、影が差す。

「今の一撃を、よくかわしましたね」

 影が、ぱっくりと真っ二つに割れた。

「! あ、」

 そこから、ストールを羽織った、線の細い女の子――美坂栞が出てきた。

「良かったね、北川君。美坂さんに会えたよー」

「違う!! 美坂違いだっ!!」

 こんな状況でも、マイペースな名雪だった。

「それにしても、何で見えなかったんだ?」

 北川は、栞を凝視する

「これですよ」

 栞は、″L'Eremita――隠者(何者にも捉われない腕)″を発動させ、両腕を消し、――北川たちにはその動作は見えなかったが――その腕で自分自身を抱きしめた。すると、二人の視界に映っていた栞が、ゆらゆら揺れる陽炎のようになり、フッ、と消えてしまった。

「とまあ、こんな感じです」

 声だけが、百花屋の店内に響き渡る。

「それで、さっきの歪みはこれですよ」

「! 逃げるぞ!」

 北川は叫んだ。

 同時に、

 

――――ゴギャンッ!

 

 百花屋の出入り口であるドアが、潰れた。

「逃がしませんよ」

 栞の声だけが、フロアに響く。

「いったい、どういうことだ?!」

「わたしに怒鳴らないでよ〜」

 二人はレジから回れ右して、厨房へ走った。

「だから、逃がしませんよ」

 ふふ、という笑い声とともに、今度は厨房へ続くドアが潰された。

 姿が見えない上、相手の力量もわからない。二人にとっては絶望的な状況だった。

「なんで栞ちゃんはわたしたちを襲ってくるの?」

「俺に聞くな!」

 北川と名雪はフロアの真ん中、一番見晴らしのいいところで背中合わせで立ち尽くすしかなかった。

「そんなことをしても、無駄ですよ」

 声だけが、二人に近づいてくる。

「どこだ?」

「わかんない」

 二人はどんな音も聞き逃すまいと神経を耳に集中させた。

「……」

「……」

「……」

 三人の息遣いだけが、荒れた店内に響く。

 どこだ?

 どこ?

 なんで?

 どうして?

 二人の頭の中にはさまざまな疑問ばかりが浮かんでくる。

 これも、答えはないのか?

 だとしても、原因は?

 

――――がちゃん。

 

 北川の背後、名雪の正面で、音がした。北川は思考を停止させ、

「そこか?!」

「ち、違うよ北川君!!」

 北川が振り向くのと、名雪の静止の声は、同時だった。

「ワナだよ!!」

 名雪の静止の声もむなしく、

「そうなんです、ワナなんです」

 振り向いた北川の耳元で、栞の声がした。

「なっ?!」

 北川は、割れたコップを眼に映しながら、死を覚悟した。

「仕方ないんですよ、祐一さんのためなんですから」

「相沢の?」

 予期せぬひとの名が出たことにより、北川は目の前の死すら忘れて、問いかけた。

「さようなら」

 しかし栞はそれには答えず、″Ruota della Fortuna――運命の輪(全てを狂わす歯車)″を発動させ、北川の身体に干渉している全ての力場を捻じ曲げようとした。

 その瞬間、

「だめ〜〜〜〜!!」

 名雪は、力いっぱい叫ぶのと同時に、自分でも無意識のうちに"La Papessa――女司祭(故に最強)"を発動させた。

 パンパンパンッ、とフロア中のガラス製品が割れた。机も支柱が押しつぶされ、飾ってあった植物はことごとく床に、まるで力いっぱい叩き落されたかのように散乱してしまった。

 北川は奇跡的に、名雪のそばにいたことにより助かったが、紙一重で栞はその重力場に巻き込まれてしまった。

「――――ッ!!」

 声にならない叫びを上げて、栞は床に叩きつけられた。

「み、水瀬! もういい、もういいから!!」

 北川は、名雪の肩をつかんで揺さぶった、が。

「……これは、違う」

「? はぁ?」

 名雪はうわ言のように呟くと、

「これは栞ちゃんなんかじゃないよ!!」

 北川の腕をすり抜け、栞の正面に立った。

「相手が栞ちゃんじゃないなら、手加減なんかしないよ」

 名雪は右手を振り上げ、床でまだ苦しんでいる栞に言い放った。その眼が、一瞬だけ、名雪のそれとは違うものになった。

「えーっい」

「待てぇーいっ!!」

 まるで剣狼の導きでもあったかのように、北川がベストタイミングで名雪を後ろから羽交い絞めにした。

「なにするんだよー」

「なにしてるかは、お前だ、水瀬! 落ち着け!! どこをどう見ても、栞だろ」

 じたばたと暴れる名雪を押さえながら、北川は栞をあごで指し示した。

「見ろ、どこが偽者なんだ!?」

「じゃあ、どこが本物なの?」

「えっ?」

 逆に聞き返され、北川はハニワとなった。言われてみればそうだ。この栞が本物であるという証拠なんてない。でも、偽者という証拠もないのも事実。

「いや、証拠ならあるかもしれない」

 もしかしたら、と北川は言うと、恐る恐るうつ伏せに倒れている栞を仰向けにしてみた。栞は気絶していて、息はあっても、動く気配はまったく見せなかった。

「? なにしてるの?」

 北川のいきなりの行動に、名雪は首をかしげた。

「いや、なにな。本物の栞だったら……」

 北川はそう言うと、栞を、正確にはその胸を凝視した。

「……」

 名雪が見守る中、北川が下した決断は――

「本物だ……胸が薄い」

「ちょっと待ってよー。でも、これは偽者だよ」

 名雪が抗議の声を上げる。

「でも、胸が薄いし……どこら辺が、偽者なんだよ」

「ん〜……触れば、分かると思うよ」

「さ、触る?!」

 北川は、すっとんきょな声を上げて栞から一歩飛びのいた。

「触る、といいますと……?」

「腕とかに触れば、いいよ」

 名雪のあっさりした答えに、北川はあからさまに残念そうな顔になった。

「腕ぇ〜?」

「別に、お互いに能力を発動させてないなら、どこだっていいと思うよ」

「そ、そうか!」

 北川はうれしそうな顔になったが、待てよ、と急に考え込んだ。

 ここでヘンな所に触ってしまうとたちまち年齢制限がつきかねない! しかし、自分は男だ! そうです、男なのであります!! ここで胸とかに触っても、香里は許してくれるさ。

 答えは出たらしく、北川は爽やかに栞の胸を見たが、またしても頭を抱え込んだ。

 そうだ……栞の胸はあってないようなもの……。どうせなら、最低でも水瀬くらいは欲しいよなぁ。

 北川が心底残念そうに、名雪を見ていたため、名雪もその視線に気がついた。

「なに?」

「いや、ちょっと人生について考えてただけさ……」

 北川は、仕方がないと割り切ることにした。そして、いざ、栞を見据えてみて、ふと思う。

 なんか中学生に悪戯しようとしているダメ人間に見えなくもないよな、今の俺。

 そんなこんなで、北川は結局、栞の額に手を当てた。

「あ、アレ?」

 そこで、北川は気づいた。

 栞に触れないのだ。栞は、確かに目の前にいるのだが、なぜか触れないのだ。触ろうとすると、なにか見えない薄い壁のようなものに阻まれてしまう。

「ん?」

 能力かな、と北川は首をかしげる。

「違うよ」

「なにが?」

「栞ちゃんも、北川君も能力は使ってないよ」

「じゃあ、単純かつ明快なザ・消去法により、水瀬が能力を使ってるんだな?」

「違うよ〜」

「じゃあ、なんなんだよ」

「わたしも聞いた話なんだけどね」

 名雪は前置きをすると、話し始めた。

「つまり――」

「私は栞であっても、あなたたちの知っている美坂栞ではないんです」

「!?」

「ッ!!」

 北川と名雪は、すぐさま後ろに飛ぼうとしたが、

「遅いです」

 栞は″Ruota della Fortuna――運命の輪(全てを狂わす歯車)″を二人の周りに発動させ、壁を作った。

「あんまり暴れないほうがいいですよ。下手をすると、二人とも捻じ曲がった力場に巻き込まれて……」

 死んじゃいますから、と栞は笑顔で言った。

「で、だ。結局、この栞は誰なんだ?」

 しかし北川はこんな状況に置かれてもマイペースだった。いつの間にやら床に腰を下ろし、名雪に話しかけていた。

「それは、この栞ちゃんは反物質なんだよ」

 名雪も負けてはいない。北川と同じように床に腰を下ろし、北川の質問に答えた。

「半物質?」

 半分なのか? と北川は首を傾げた。

「違うよ。反! 反対の、反だよ」

「ん〜、聞いたことがあるような……ないような」

「物理か何かの授業のとき、さわりだけやったでしょ」

「そうだったか?」

「うん、そうだよ」

 二人は、捻じ曲がった力場の檻の中にいるということを完全に忘れているようだった。

「その、反物質、ってなんだよ?」

「わたしも詳しくは知らないけど……わたしたちじゃ干渉できない世界の物質なんだってさ。それで、その反物質は物質と同じ姿形をしていても正反対の性質を持ってるらいよ」

 北川は、名雪の言葉の半分も理解できていなかった。名雪自身ですら、理解できていないのだから、当たり前といえば当たり前ではあるが。

「それで、その反物質の栞が、なんでここにいるんだ?」

 北川は檻の外、いつの間にかソファーに腰掛けている栞を指差した。

「だって、ここは反物質の世界なんだもん」

「それ、どこで聞いた?」

「折原こーへーくんが教えてくれたの」

「オリハラ……って、あの男か?」

 北川の脳裏に、祐一と同じ雰囲気を纏っていた、あの不可思議な男の姿がよぎった。

「そうだよ」

「……そうか」

 北川は頷くと、檻の中で立ち上がった。

「なら、そいつに聞くのが一番手っ取り早そうだ」

「どうしたの? 北川君」

 北川の表情が急に真面目なものになり、名雪は首をかしげた。

「こんなことは、そうそうに終わらせなくちゃいけないんだ。アイツのためにも」

 北川は独り言のつもりだったが、名雪は自分にも言われた言葉だと勘違いした。

「そうだね。祐一のためにも……」

 二人は檻の中でゆっくりと一歩を踏み出した。

 そんな二人を見て、栞はせせら笑った。

「その力場は、ちょっとやそっとじゃびくともしませんよ」

 それはそうだ。なんといっても物質の檻ではなく、空間そのものの檻なのだから、常識的には出るのは不可能である。しかし、ここは常識が通用しない世界。

「これくらいなら、ワケないよ」

 名雪は、捻じ曲がった力場をまるで少し風が強いかも、程度にしか思っていなかった。何故なら、

「″L’Angelo――審判(裁くは我)″がある限り、私に間接的な攻撃は通用しないよ」

 名雪は、栞ににっこりと笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パソコンを使いたいのか、パソコンに使われたいのか……判んなくなったなぁ。


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おなまえ    めーる   ほむぺ 
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