聖  夜

 

 

 明日は楽しいクリスマス〜

 

 町はクリスマス一色。

 実際は一ヶ月近く前からクリスマス色に染まりつつあったが、さすがにイブともなればもう、どこを見てもクリスマス。

 そんな中を真琴と二人で歩いていく。

「ねぇ、祐一あれ買って〜」

 さっきから台詞それしかないのかよ……

「ダメだ」

 俺もこの言葉しか喋ってない気がする。

「ケチ〜」

 とりあえずハイハイ、とだけ言っておく。

 にしても……

「八百屋の前にいるサンタって、どうみてもかかしだよな……」

 臨時のサンタさんは手に鎌なんか持っていた。

 そのとなりの魚屋のサンタは手に新鮮な鰯を握っている。

「……いくらクリスマスイブだからって、ここまでやるか?」

 商店街はどこを行ってもクリスマス。

 本屋にもクリスマスセールとか書いてはいるが、実際に安くなるはずもない。

 ……詐欺だ。

「ねぇ、祐一」

「ダメだ」

「まだなにも言ってないじゃないっ!!」

「ん。そうか」

 そもそも、名雪も香里と買い物があるから〜、とか言って朝から出かけてるし……

 お前ら男いないのかよ!?

「ねぇってば!」

「なんだ? もう金ならないぞ」

 今日の買い物は終了だ。

 何故か米も買ってるし、荷物持ちとしても限界だ。

「さんざん肉まん食ったくせに、まだなにか買うつもりか?」

「だぁかぁらぁ! 違うって言ってるでしょ!!」

「……耳元で、怒鳴るな!」

 

 ごんっ。

 

「っ……痛ったぁい!! 何するのよぅ!?」

「お前が耳元で怒鳴るからだ。バカ!」

「バカって言った方がバカなんです〜!!」

「なんだと!」

「やっるっていうの?!」

「ぐるるるる……」

「がううぅぅ……」

「……」

「……」

 不毛だ。

「さ、行くぞ」

「ちょ、ちょっとぉ!」

 真琴が服にしがみついてきたため、俺はバランスを崩し……

「! なっ」

「え……」

 

 どすんっ。

 

 ……。

「ぐえっ」

 米袋の下敷きになった俺は、もうダメだった。

「ゆ、祐一〜」

 情けない声を上げる真琴……

「ふっ。俺は、もうダメだ。強く、生きろよ……」

 商店街の明かりが、とても暖かく感じた。

「……商店街か。なにもかもなつかしい」

 

 がくっ。

 

「ヘンな人がいるよ〜」

「こら、名雪。見るんじゃありません! バカがうつるわよ!」

 聞き覚えのある声が……

「あ、真琴ー。こんなところでなにしてるの?」

「祐一のバカが急に倒れて、急にヘンなこと言い出したの」

「相沢君、悪いけど今日はあたしたち他人だから。行くわよ、名雪」

「わわっ。待ってよ、香里ー」

「そこのツインテールの娘も、連れてきなさい」

「あ、真琴も行く?」

「うんっ」

「じゃあね、祐一」

「バーカ!」

 視界の端で真琴があっかんべー、とかしているのを、俺は夢見心地で眺めていた。

 

 

 むなしい……

 

 

 

 

「にしても、なんだってお前はあんなところで米袋の下敷きになってたんだ?」

「なんとなくだ」

「そっか」

 なんとなく、の一言で納得してくれたのは、北川。

 あのあと俺は、北川に救出されるまでずっと米袋の下敷きになっていたのであった。

「にしても、本当にこれみよがしだな」

「何が?」

 俺的にこれ見よがしだと思うのはお前が持っているそのプレゼントの山だと思うが。

「クリスマスだよ、クリスマス。これじゃ、クリスマスにはなにかしなさい、って言ってるようなもんだろ?」

 ……確かに。

 どこもかしこも、こうクリスマスなんたらかんたらー、とかやってるからな。

「でも、さ」

「ん?」

「別に特別なもんなんか無いよな」

「それもそうだ」

 男二人。

 さみしいクリスマスになりそうだ。

 

 

「ただいまー」

「おかえりなさい、祐一さん」

 家主の秋子さんのこの笑顔を見るたびに、帰ってきた、って感じになるんだよな。

「名雪と、真琴はいますか?」

「ええ。さっき、帰って来ましたよ」

「そうですか」

 さっきの仕返しでもするか……

「じゃあ、お米はいつものところにお願いしますね」

「はい」

 じゃ、ちゃっちゃと済ませますか。

 

 

 手洗いうがいも終わったし。

 荷物も全部置いたし。

「さてさて……」

 おしおきだべー、ってなもんだ。

 二人は居間でテレビを観ている。

 やるならいまだ。

 背後から忍び寄り、両脇を――突く!

 たいていの人間はこれでイチコロだ。

 みているがいい、いまからこの相沢祐一様が、世にも恐ろしいお仕置きを……

「相沢君、廊下でなにしてるの?」

「へ?」

 か、香里?

「ねえ」

「……はい」

「邪魔なんだけど」

「……いまどきますので」

 じゃあね、とか言って、香里は居間へと入っていった。

「……不利だ」

 真琴と名雪だけならなんとかなるかもしれないが、香里はダメだ。

 このままでは返り討ちだ。

 考えろ!

 …………。

「むむぅぅ」

 なかなかいい考えが思い浮かばない……

 

 ドンッ!

 

「おわうっ!!」

 って、敵襲?!

「米兵か! 米兵なのか?!」

 それとも、アレか? アレなのか!!

「鬼畜米兵!!」

「……なにやってるの、祐一?」

 ドアを開けてやってきたのは、真琴だった。

「……なんだ、真琴か」

 はふぅ、と胸を撫で下ろす。

 何事かと思ったよ。

「べいへい、ってなに?」

「お前は知らなくてもいいことだ」

 そうさ、あんな時代、知らないほうがいいんだ……

「ヘンな祐一」

「なんだとぅ!」

「それよりもさっ!!」

「な、なんだ?」

 いきなり真琴が目を輝かせて詰め寄ってくる。

 なにかあったのか?

 いや、この場合は、なにかあるのか……

「祐一、サンタクロースって知ってる?」

「はぁ?」

 サンタクロースというと……

「あの、某清涼飲料水のマスコットになったときに真っ赤になってしまった白ひげのおじいさんか?」

 出身地は、確かフィンランド。

「そうなの?」

「そうなのって、お前が訊いてきたんだろ」

「そこまで詳しく聞いてないわよっ! だから、世界中の良い子にプレゼントを配ってくれる鹿の牽くソリに乗ったおじいさんよ!」

「鹿?」

 サンタって、鹿だったか?

「真っ赤な鼻したトナカイじゃなかったか?」

「……そうだったかも」

「で、そのサンタがどうかしたか」

 クリスマスにサンタはセットだからな。

 わざわざ頼まなくても付いてくる。

 だから、世界中の親御さんは辛いんだ。

 まったく、どこの誰だ? いい子にプレゼントとか馬鹿げたことを考えたヤツは。

「……聞いてる?」

「なんのことだ」

「聞いてないじゃないっ!!」

「聞く、聞くから叩くな!」

「もう!!」

 ぷんすか怒る真琴。

 まぁ、考え込んでいたのは俺の方だったからな。

 悪いのは俺か。

「で、そのサンタさんがなんだって?」

「そうなのよ! サンタさんよ!!」

 またしても目をキラキラと輝かせる真琴。

 サンタがどうこうっていう歳でもないだろ……

「クリスマスには、サンタさんが来てくれるんだから!!」

 …………。

「はぁ?」

「だぁかぁらぁ! サンタさんが来てくれるの!」

 ほほう。

「で?」

「サンタさんが来てくれる、って言ってるでしょーっ!!」

「うわぁ」

 ど、怒鳴られても……

「だいたい、サンタさんってのはな」

 世界中の親御さんのことだぞ、っと言いかけてやめてみる。

「サンタさん、真琴の好きなもの持ってきてくれるんだってさ〜」

 案の定、真琴は目を輝かせてうっとり。

 マジで信じてやがんな、コイツ。

 なら……

「でも、お前のところには来てくれないだろうな〜」

「なんでよぅ!」

「知らないのかー? サンタさんってのは、世界中の良い子のところにしか来ないんだぞ」

 モチロン、良い子がアクセント。

「ま、真琴良い子だもん!」

「ひとが寝ているところに納豆やコンニャク、果てはネズミ花火や殺虫剤を投げ入れるヤツのどこが良い子だ!!」

「あ、あうーっ……」

 ヤバ! さすがに言いすぎか。

 涙目だよ。

 ここは一つ。

「でも、まあ今日一日良い子にしていたら、サンタさんは来てくれるかもな」

「ほ、ほんと!?」

 泣いたカラスがもう笑った、とはこのことか。

 もう満面の笑顔とは……

「そうだな。サンタさんも意地悪じゃないだろうし。今日一日良い子にしていたら、いままでのことは水に流してくれるかもな」

 ちなみに、俺はそうそうあの出来事を忘れはしない。

 サンタに変わって、いつか鉄槌を食らわしてくれる。

「なら、真琴は今日一日は良い子になる!!」

「そうかそうか」

 それはよかった。

 少なくとも今日一日は何事もなく終わりそうだ。

「ところで真琴」

「なぁに、祐一?」

「お前の欲しいものってなんだ?」

「……」

 何故に無言?

「祐一なんかに教えるわけないじゃん! べーっだ!!」

「お、おい!!」

 

 ドタドタドタッ。

 

「おーい……」

 ま、俺も金無いから今回は秋子さんにでも頼むか。

 

 

「というわけでですね、秋子さん。真琴の心の奥底に残っていた純粋な夢を壊さないように、サンタ役を買ってください」

「……」

 あ、あれ?

 いつもならここいらで、了承、の一秒返しが……

「了承できません」

「はぁ?!」

 な、なんですとー?!

「というか、わざわざ私がしなくてもいいですよ」

「?」

 なして? どーして?

「サンタクロースは、いるんですから」

「……はぁ」

 笑顔で優しく語りかけてくる秋子さん。

「そんなこと言って、真琴の欲しいもの、もう聞いたんでしょ?」

「知りませんよ」

 い、一秒もかからず返された。

「え……でも、そうなると真琴の純粋な夢が」

「だから、それはサンタさんがなんとかしてくれますよ」

 うわっ! マジだー!!

「そ、それもそうですね〜」

 あはは、と乾いた笑いとともに、俺はリビングを後にした。

 

 

「と、いうわけなんだ。北川、もう俺にはお前しか頼るべき人がいない!!」

 俺はあの後電話で北川を呼び出し、俺の部屋で先線会議をしていた。

「そんなこと言われてもなー。俺にもどうこう出来る問題でもないだろ?」

「そんなことは百も承知だ!!」

「だったらはじめから呼ぶな!」

「だぁぁぁ! そんな帰ろうとするなよ!」

 俺は去ろうとする北川の首根っこを掴んだ。

「ぐ、ぐるじい……」

「なんとかできるように知恵を出してくれよ〜」

「わ、わがっだがら……」

 

 がくっ。

 

「こ、こら北川! 知恵を出す前に逝くな! 逝くなら知恵を出してからにしろ!」

「まだ死んでないわい!」

 ごほごほと咳き込む北川。

 なかなかしぶといヤツだ……

「そもそも、俺らふたりで何が出来るよ。三人いれば、なんとかなるかも知れないけど……」

「三人?」

 何故に三人?

「ほら、三人寄れば……なんだっけ?」

「三人寄れば? えっと、聞いたことあるぞ」

「だろ? なんだっけか」

 確かに聞いたことはあるが。

 神様の名前だった気がするぞ。

 確か……

「キリストなんて怖くない?」

「それは違うと思うぞ、相沢」

「そうか? なら、なんだ?」

「多分……シバ神の如き強さじゃないか?」

「それっぽいぞ!」

「だろ?」

 そうに違いない! あからさまに神とか付いてるし。

「文殊の知恵、よ。まったく、よくそれで現役高校生名乗れるわね……」

「そのむやみやたらにえらそうな口調は……」

「み、美坂!?」

「悪かったわね。むやみやたらにエラそうで」

 ドアのところでお盆を持って立っていたのは、学年主席で有名な美坂香里さんでした。

「あたしのどこがエラそうなのかしら、相沢君?」

「い、いや……ベツにどこも」

「ん〜?」

 こ、こわいぞ、美坂香里。

「ふぅ」

 ?

 急にため息とは。

「まあいいわ。で、その文殊の知恵がどうかしたの?」

「力を貸してくれるのか?」

 だとしたら、この北川なんかいらなくなるくらいの戦力増強だ!!

「ま、内容によるわね」

 というわけで、俺は香里に真琴の純粋な夢と、秋子さんの発言についてかいつまんで説明した。

「ま、名雪が信じてるくらいだから、もしかしたらとは思ってたけど」

 名雪も信じてるのか、やっぱり。

「お金に関しては無理だけど、知恵くらいなら貸してあげるわよ」

「ほんとか?!」

「ウソ言ってどうするのよ」

「あ、ありがたいっ」

 本当にありがたい!!

「さすがは美坂だな」

「別に。あなたたちふたりだと、その真琴って子の夢がぶち壊されちゃうから……それが不憫だと思っただけよ」

 一言多いよ……

「で、あなたたちはどうするつもちなの?」

 いつの間にか俺たちの正面に座って腕を組む香里。そして俺と北川は、何故か正座をしていた。

「どうって?」

「その子から、欲しいもの聞き出すんでしょ?」

 そうだ!!

「なにか、手があるの?」

「俺が無理でも、約一名聞き出せそうなヤツが……」

「なら、すぐに電話!」

 思い立ったが吉日生活! というやつか。

 っていうか実際今日しかもうないんだけどな。

「ラジャーであります隊長!!」

 俺はさっそく天野に電話することにした。

 

 

「と、いうわけなんだ。天野、悪いけどいまから真琴をそっちに行くように仕向けるから欲しいもの聞いてくれないか?」

『……』

 何故に無言ですか?

「あ、天野〜」

『相沢さん、なに言ってるんですか?』

「な、何って……」

 なんでそんに嬉しそうな声なんだ?

『サンタクロースはいるんですよ』

 …………。

「も、もしもーし」

『なんですか?』

「あ、天野だよな?」

『私は天野美汐ですが』

 そうですか。

 いや、なにか違うぞ!!

 なにか……

「天野にしては声が弾んでるような……」

『ずいぶんと今日の相沢さんは失礼ですね』

 あ、オコッテマスネ。かなり、フキゲンデスネ。

「いやいや、全て気のせいだから気にしないでくれ」

『そうですか。で、私に用事ってなんですか?』

 天野がサンタさんを信じているとなれば……

「すまん、間違い電話だ」

『? そうですか。では』

「ああ、じゃあな」

 

 ガチャン。

 

 …………。

「はあ〜」

 撃沈。

 

 

「ダメだったのね」

「……はい」

 なぜか俺のベッドに座る香里。

 その正面で正座をする俺と北川。

 香里は腕組みをしながら何事か考えている。

「なあ、相沢」

「なんだ北川よ」

「もしかして、俺っていらない子?」

 ぐわぁ!

 その質問は直球ストレートだ。

 なんて答えればいいか……

 こう答えるしかないじゃないか。

「うん、いらない子かも」

 北川の顔色が青くなり、赤くなり。信号機か?

「俺、帰っていいかな?」

「ダメよ」

 何故そこでストップをかける、香里。

「ど、どうして?」

「決まってるじゃない」

 なにをいまさら、といった香里の顔。

 北川の顔色が一気に良くなる。

 もしかして、いらんこと考えてないか?

 だとしたらやめておいた方が身のため……

「いないよりは、いる方がいいでしょ」

「それだけ?」

「それ以上に、ナニカ?」

 香里、もうちょっと言い方があるだろうに……

 見ろよ、北川の顔色がもはや死人のようだ。

「……」

「き、北川?」

「なんだ、相沢」

「生きてるか?」

「死んだ……」

 さ、さいで。

「とりあえず、作戦を練るわよ」

 北川がこんな状態だというのに話を進めていく香里。

 みじめだな、北川。

「手当たりしだいにあの子の欲しそうなものを買うのは……」

「俺の財布的にムリだ」

「なら、打つ手無しね」

 早ッ!!

「なんかないのか?」

「あるわけないじゃない」

 キッパリ言わないでくれ〜

「そんなこと言わずに、なんか無いか?」

「もう振っても何も出てこないわよ」

 断言してお手上げのポーズ。

 本当に手詰まりっぽいな。

「どうしよう……」

「そうね」

 ぽつり、と呟く香里。

「なにかあるのか!!」

「手紙を書かせてみたら?」

「……手紙? サンタにか?」

「他の誰に書かせるのよ」

 それはいい手かもしれない。

 確かに、それなら、うまくいけば真琴から欲しいものが聞きだせる!!

「この際さ、水瀬のも聞いたらどうだ?」

 それまで黙っていた北川がナイスなことを言ってくれる。

「さすがは親友! イイこと言うな!!」

「あったりまえさ!」

 ガシッ、と抱き合う俺と北川。

 香里はそんな俺たちをみて、頭を押さえていた。

 いいさいいさ、どうせ男の友情なんてわからんだろうし。

 

 

「真琴〜」

「なに?」

 というわけで俺は、真琴の部屋へと単身、侵入を試みた。

「知ってたか。サンタさんには手紙を書かないといけないんだぞ」

「手紙?」

「そうだ。手紙だ。その手紙に欲しいものを書いたら、サンタさんがそれを読んで、真琴のもとに欲しかったものを持ってきてくれるんだ」

 我ながらうまい口実を考えたものだ。

 これなら真琴もすんなり手紙を書くだろう。

「でも真琴、紙とか持ってないわよぅ」

「そう言うと思ってだな」

 俺は持参のレターセットを真琴の目の前に突き出す。

 このレターセット、かなり前のものだから郵便番号を書く欄が五桁しかないというすぐれものだ。

「これに書くの?」

「そうだ」

「わかった!」

 さぁ、これで万事オッケーだ!

「……」

 この際だから、覗き見でもしておくか。

「見たらダメだからね」

 さいで。

 じゃ、待つとしますか。

 今頃一階では、北川と香里が名雪に欲しいもの書かせてる頃だし。

「……」

 まだかね〜

「…………」

 お、遅すぎ。

「真琴、欲しいものは一つだけだぞ……」

「分かってるわよぅ」

「そ、そうか」

 ならいいんだが……

「………………」

 な、長すぎだろ。

 もしかして、欲しいものをごちゃまぜにしてないか?

 全自動ドライヤー付き冷蔵庫付きストーブ付き洗濯機みたいに。

 ってかそんなあるはずの無いもの書かれても困るぞ!

「ま、真琴?」

「……あうーっ」

「ど、どうした?」

 なんで泣きかけなんだ?!

「字が……」

「え?」

「字が書けない……」

 そ、そうだった!!

 真琴は字が書けないんだった!!

 これは盲点だった……

 いや、ある意味これは一番使えるかも。

「なら俺が代筆してやろう。ほら、紙貸せ」

「ダメ!!」

 な、なして!?

「いいもん! 何とかするから」

 なんとか出来るのか?

「もぅ、祐一出てってよ〜」

「お、おい……」

 押すな押すな。

 

 バタン。

 

 お、追い出されてしまった。

 打つ手無しやん。

 

 

「で、またしても相沢君だけ失敗と……」

 俺のベッドの上に座布団を三枚ほど敷いてそのうえに座る香里。

 北川はその真横に座り、俺はその二人の正面でプローリングの床に正座……

「あたしと北川君はうまくいったっていうのに……」

 なにしてたのかしらね。

 キツイ視線がそう言っている。

 うわ〜ん。

 真琴が字が書けないことは伏せて説明すると、どうしても俺だけのせいで失敗したようにしか説明できなかった。

「まあ、いいわ」

 香里はそういうと、ポケットから封筒を取り出した。

「取り合えず、いまはコレね」

「それは……」

「名雪の」

 ああ、欲しいものですか。

「片付けられるものから片付けましょう」

「そうですね」

 香里は封筒の中から紙切れを取り出し、目をそれに走らせる。

 と、

「…………」

「どうしたんだ?」

 北川もそれを読む。

 と、

「…………」

 なんだ、ふたりして。

「なにが書いてあるんだよ?」

 気になるではないか。

 香里がその紙を離す気配が無いので、俺はベッドに登って、その紙を見てみる。

 と、そこには。

「なになに、けろぴー」

 けろぴー?

 けろぴーってのは、アレか。

「なあ、けろぴーって、あれだよな」

「でしょうね……」

「じゃないか?」

 名雪が抱き枕代わりに使ってる、あのでっかい緑色したカエルのぬいぐるみだよな。

「もうひとつ欲しいのか?」

「なんじゃない?」

「邪魔だと思うが……」

「あたしは名雪じゃないんだから、分かんないわよ」

 どうしたものか?

「ってかさ」

 なんだ、北川よ。

「アレって、売ってるのか?」

 ………………。

「見たこと、ないわね」

「とりあえず、探してみよう」

 俺には、それしか言えなかった。

 

 

 そんなこんなで、商店街。

「さすがに日も暮れてきたし、手分けして探しましょ」

「うぃ!」

「ラジャー」

 こうして、俺たち三人は赤く染まった商店街へと走っていった。

 俺としては、なんとなく目星をつけてある。

 あの、どでかい獏のぬいぐるみが置いてあった店だ!

 おそらく、あんなヘンなものまであったんだから、けろぴーの一つや二つ、置いてあるに違いない!

「あ、祐一君だー」

 この声は!?

「とぅ!」

 俺は即座に横っ飛びで、その背後から突進してきたものを回避した。

「きゃああぁぁ!!」

 俺に突進してきたソレは、俺が避けたことにより止まれなくなり、

 

 ゴンッ。

 

 と、そこの街頭に頭をぶつけて止まることを余儀なくされた。

「うぐぅ……。よけたー、祐一君が避けた〜」

 街頭に頭をぶつけたのは、まあ言わずと知れた月宮あゆだ。

「突進してくるお前が悪い」

「そんなこという人、嫌いです」

「うわぉ!」

 俺の背後にもう一人少女が立っていた。

「あ、栞ちゃん!」

 あゆあゆはもう笑っている。

 さっきまで泣いていたのに、器用なヤツ。

「いまのは、祐一さんが悪いんですよ」

 とか責めてくるのは美坂香里の妹さんの栞。

「え? お、俺?」

「はい」

 笑顔でそんこと言われても……

「でも、あのままだったら俺、コイツに張り倒されて今ごろ賽の河原だぞ!!」

「うぐぅ、ボクそんなことしないよ〜」

「だったら、あんなに勢いをつけるな!!」

 あの勢いだったら、マジに死ねるぞ。

「それにしても、祐一さんはどうして商店街なんかに?」

「いやな……」

 俺はいままで三回はしてきた説明をまたしようかと思い――思いとどまる。

 待て待て。

 いま俺の目の前にいるのは、あの天野が信じているくらいだから、絶対にサンタを信じて止まない小学生コンビだ。ここで話したら、いたいけなこどもの夢を潰してしまうかもしれない。

「祐一さん、いま、かなり不穏当なこと考えていませんでしたか?」

「いやいや滅相も無い!!」

 首をブンブン振って否定する俺。

「そうですか……」

 口ではそう言っているが、栞の眼は座っている。

 なぁんか、やな感じです、ハイ。

「そ、それよりもさ」

 こんなときこそ、話題を変えるとき!!

「香里も、商店街に来てるぞ」

「お姉ちゃんも?」

「お、おう」

「そうですか。じゃあ、もう行きますね」

「じゃあな〜」

 栞はそのまま走って行った。

 俺はそれを出来る限りの爽やかな笑顔で見送る。

 た、助かった。

「ねえ、もしかして名雪さんの買い物?」

「うわぉ!!」

 ま、まだいたか……

「名雪さんの買い物なんでしょ?」

「ど、どうしてそう思う?」

「だって、名雪さんまだサンタさん信じてるって、この間言ってたもん」

「そうか……」

 名雪め、人前で憚らずにそんなことを言っているのか……

「って、あゆ?」

「なに祐一君?」

「お前、サンタさんって……」

「それがどうかした?」

「信じて、無いのか……?」

「え、サンタさんはいるよ」

「だ、だよな〜」

「そうだよ。ボクのココロの中に、いるんだよ」

 ………………。

「はい?」

「サンタさんっていうのは、心のなかにいるんだよ」

「は、はぁ?」

 ずいぶんとまぁ。

「あゆらしからぬ、答えだな」

 なんか、サンタさんがプレゼント持って来てくれるんだよ〜、とか一番言いそうなヤツが、こんなことを言うとは。

「意外だ」

「ひどいよー」

 でも、意外だし。

「今日は雪でも……あ、降ってきた」

「そういえば、明日はホワイトクリスマスだね」

 空は、いつの間にか灰色になっていて、そこから、白い結晶がふわふわと落ちてきていた。

「寒いから、ボク、もう行くね」

「あ、ああ」

「じゃあ、明日ね♪」

「え? あ、明日?」

「明日は、秋子さんがクリスマスパーティーを朝から家でやるから来てね、って言ってくれたんだよ!」

 嬉しそうに言うあゆ。

 待て、俺はそんなこと秋子さんから聞いてな……

「そんなこと、言ってたかも」

 俺が天野に電話しようとしたときに、そんなこと言われたかも。

「じゃあ、明日ね〜」

「ああ、また明日」

「ばいばい」

 そう言って、あゆは雪の舞う商店街へと消えていった。

 そうか、明日はホワイトクリスマスか……

「急ごっ」

 俺は早足で、その店へと向かった。

 

 

 

[本日の営業は終了いたしました。 店主]

 

 ウソだろ……

 ここまで来て、これかよ。

「もう、万策尽きたじゃないか……」

 俺は自分の無力さにほどほど呆れていた。

 まったく、これじゃ、どうしよもないじゃないか。

「所詮、俺なんてこんなもんかよ」

「あれ、祐一さんですかー」

 ……この、どこかのほほんとした声は――

「佐祐理、さん?」

「あははー。奇遇ですねー。佐祐理たちも、このお店に用があったんですけど」

 閉まっちゃったねー舞、とか言ってるのは、佐祐理さんに違いなかった。

 で、その隣で相変わらず無口なのは。

「よう、舞」

「……」

 反応が寂しい……

「祐一さんも、このお店に何か?」

「ええ、ちょっと」

「閉まっちゃいましたねー」

「……残念」

「どうしよっか、舞?」

「……斬る」

「ちょっと待て!!」

 俺は、無言で剣を取り出す舞を取り押さえる。

「斬るとか言うな! 斬るとか!!」

「……じゃあ、壊す」

「なお悪いわ!!」

 全力で舞から剣を取り上げて、俺は佐祐理さんに向き直る。

「佐祐理さんたちは、この店になにか用が?」

「ええ。佐祐理たちもここで明日のパーティーに持っていくプレゼントを買おうと思ったんですけど……」

 これじゃダメですねー、とか言うってことは。

「もしかして、佐祐理さんも秋子さんに呼ばれた、とか?」

「はい。明日は朝からお邪魔しますね〜」

 やっぱり……

 もう、どうにでもなれ。

「……返して」

「いえいえ、佐祐理さんならお邪魔になんかなりませんよ」

「そんなことありませんよー」

「……返して」

「大丈夫ですって。佐祐理さんは、もう少しずうずうしいほうがいいんでいすよ」

「そうですか〜」

「……返して」

「そうですよー」

「あははー」

「あははー」

 なんとなく二人で笑っていると、

 

 ゴンッ!!

 

「ぐおっ」

「ま、舞?」

「ぽんぽこたぬきさん」

 い、痛い……

 いったいになにで殴ったらこうも痛いんだ?

 って素手だし〜

「なにするんだ!?」

「……返して」

「なにを?」

「それ、私の……」

 それ?

「これのことか?」

 俺はさっき舞から取り上げた剣を差し出す。

「…………」

 無言で手を伸ばす舞。

「っと。まだダメだ」

「……」

 ちょっと、舞の目つきが鋭くなったり〜

 こ、怖ッ。

「もう、これをむやみやたらに振り回さないと誓うか?」

「……誓う」

「本当だな?」

「はちみつくまさん」

「よし」

 それなら返そう。

 俺は舞に剣を手渡してやる。

「……」

 それっきり、また無言の舞。

「それじゃ、佐祐理たちはもう帰りますね〜」

「ああ、気をつけて」

「さようなら」

「……さようなら」

「じゃあなー」

 こうして、俺たちは別れ、俺は一人商店街の入り口へととぼとぼ歩くのだった。

 虚しいな。

 

 

 と、その途中、またしても見知った顔を。

「って、真琴?」

 なにしてるんだ?

「おーい、真琴ー!」

「あ!!」

 真琴は慌てて手に持っていた何かを、赤い何かに突っ込む。

 ……赤い、何か?

 って、あれは郵便ポスト!?

「おい、もしかして……」

 俺は悪い予感がしつつも、真琴に走りよった。

「な、なあ、いまそこに入れたのって……」

 俺はそうでないことを祈りながら、郵便ポストを指差す。

「サンタさんへの手紙は、もう送ったから! これで真琴にもプレゼントが届くんだもんね〜」

 うらやましいでしょ、とか真琴が言っているが、俺はそれど頃では無かった。

 

 

「結局、最後の最後まで相沢君は失敗続きと」

 その夜、俺と香里、それに北川は公園に来ていた。

 香里は北川の上着を尻に敷き、その横には北川が震えながら立っていた。

 そして俺は、二人の前に正座……

「この際、信じてみたら?」

「な、なにを?」

 俺だって、信じられるものがあったらそれに縋りたい。

 香里はなんとなく楽しそうな笑みを唇の端に浮かべながら、

「奇跡――サンタクロースの存在ってのを」

 

 

 朝。

 今日は楽しいクリスマス〜

「なわけないしな……」

 結局、俺は名雪の欲しいものは買えず、真琴に至っては欲しいものすら分からなかった……

「はぁ、どうすらいいんだよ」

 香里はあんなこと言ってたけど、俺はとてもじゃないけどそんな気にはなれない。

 でも、気になることがひとつ。

「真琴、どうやって手紙書いたんだ?」

 字が書けないんじゃなかったのか……

 今日のどさくさにまぎれて聞いてしまおう。

 

 

 俺が着替えを済ませ、秋子さんの用意してくれたトーストをおいしく頂き、名雪を起こそうと二階へ上がろうとしたとき、

 

 ピンポーン。

 

 玄関のチャイムが鳴った。

 そういえば、佐祐理さんは朝から来るとか言ってたっけ。

 いまは十時だから、来ても不思議じゃないか。

「はいはーい」

 名雪は後回しだ。

 お客さんを優先させておこう。

「おはよう、相沢君」

「おはようございます、祐一さん」

 玄関の扉の向こう側にいたのは、

「香里、に栞」

 美坂姉妹だった。

 と、その後ろに、オプションが約一名。

「ちっす」

 本人はそれを自覚していないから、哀れなものだ。

「早いな、三人とも」

「まあね。他にすることも無いし」

 さいで……

「あがっていいかしら?」

「ダメなわけないだろ。あ、でもまだ名雪は寝てるから……。居間で待っててくれ」

「相沢君が、起こしてるんだったわね」

「そうだけど」

「大変だな、相沢」

 北川をはじめ、美坂姉妹まで俺に哀れみの視線を向けてくる。

「な、なんなんだ?」

「水瀬と、仲良くな」

「名雪を泣かせるんじゃないわよ」

「なんのことだ!!」

 まったくワケがわかならない。

 そんなこんなで三人にあがってもらい、俺は名雪の部屋へと向かう。

 その途中、

「真琴? なにしてるんだ?」

「祐一には関係ないでしょっ!」

 確かに関係ないけどさ。

 その手に持った広告の山。

 気になるではないか。

「教えてくれたっていいだろ。減るもんでもなし」

「じゃあ、特別に教えてあげるわね!」

 急に胸を張って、エラそうに腰に手を当ててふんぞり返りやがって。

「これはね、昨日サンタさんの手紙を書くのに使ったのよっ!!」

「手紙書くのに、なんで広告なんだ?」

「前に見た漫画で、こうやって切り抜きで手紙書いてたよ」

 ほ〜……

「ってそりゃ、脅迫状だろ!!」

 なんておそろしいもん作ってるか!

「いいじゃない! 祐一には関係ないでしょっ!!」

 そう言って、ドタドタと下に行ってしまう。

 おいおい、そんなんで届くのか?

 っていうか、切手貼ったのか?

 ……貼ってないだろうな。

 そうしたら、朝一であのポストを開けるのを待って、そんで回収する際に確かめさせて貰う事も可能だったのでは?

「その手があったかーーーー!!」

 なんで今頃気づくんだよ!

 あぁ〜〜

 急に空しくなったな。

「ちゃっちゃと、名雪を起こそう」

 

 

「……おはようございま、くー」

「寝るな!!」

 そんなやり取りを数回繰り返し、なんとか名雪を起こすことに成功した俺は、居間に行った。

「よう、遅かったな」

「大変そうね」

 気の毒そうに、北川と香里が俺を見る。

「そんなに言うなら、代わってくれ」

「あら、そんなことしたら、名雪がかわいそうよ」

「だな。水瀬のためにも、頑張れよ、相沢」

 なんなんだ、コイツらは……

「あれ? 栞がいないみたいだけど」

 さっきから一度も会話に参加してこないし、姿も見えない。

「栞なら、天野さんを迎えに行ったわよ」

「あのツインテールの子も一緒に行ったみたいだな」

「そうか」

 ま、同い年だからな。

 気が合うのかもしれない。

「さて、そろそろ佐祐理さんも――」

 

 ピンポーン。

 

「来たみたいだな」

 ソファーに座ろうとしていた俺は、結局ソファーに座ることなく、玄関へと向かった。

「おはようございます、祐一さん」

「おはよー、祐一君っ!」

「……おはよう」

 なんともめずらしい三人組だ。

 佐祐理さんと舞はわかるが、そこにあゆが合わさると……

「舞はおとうさんだな」

 

 ぽか。

 

「痛いぞ、舞」

「……祐一、失礼」

 誰に失礼なんだ?

 佐祐理さんはみたまんまおかあさんって風貌だし、舞なんかスーツを着てたらおとうさんじゃないか。

「うぐぅ。もしかしてボク、こども?」

「なにをいまさら」

 あゆは当然そんな二人のこどもという設定だな。

「この子とは、たまたま商店街を通りかかったときにあったんですよー」

 佐祐理さんはいつもと変わらないあははー、な笑い。

「知り合いなんですか?」

「祐一さんの友達は、佐祐理たちの友達ですよー。ねえ、舞?」

「はちみつくまさん」

 うれしいことを言ってくれるぜ!

 さすがは佐祐理さん!!

「あら。もう来てる人がいるんですか?」

「ええ、名雪の友達と、いまは出かけてるんですけどその妹が」

 あとプラス一名いたけど、まあこの際説明がめんどいのでカット。

「じゃあ、佐祐理たちもあがらせてもらいますね」

「どうぞどうぞ」

 佐祐理さんたちは脱いだ靴をしっかりと揃え、しずしずと居間へと行ってしまった。

 で、俺は。

「ねえ、祐一君!」

 こいつの世話を押し付けられたらしい。

「いま、なにか失礼なこと考えてなかった?」

「いんや。それよりもあゆ、どうしてお前は付いていかないんだ?」

「祐一君が行ったら、ボクも行くよ」

 さいで。

 じゃあ俺は、天野を迎えに行った二人の様子でも見に行くか……

「ちょ、ちょっと! 祐一君!?」

「なんだ、あゆあゆ」

「ボクはあゆあゆじゃないよ! じゃなくて、どうして靴なんて履いてるの?」

「いやな、ちょっと心配な三人組を迎えに行こうかな〜、と考えてたわけだが――」

 

 ピンポーン。

 

「どうやら行かなくてもいいようだ」

 俺は履き掛けの靴を引きずりながら、玄関のドアを開ける。

「ただいまーっ」

「戻りましたよ、祐一さん」

「お邪魔します」

 いやはや、なんともまたおかしな三人組……

「この場合は、やはり天野が保母さんという設定か?」

 それ以外にいいたとえが見つからないな。

「……それは、私がおばんくさいということですか?」

「そんなこという人、嫌いです!」

「祐一の、ばかーっ!」

 三者三様な非難が返ってくる。

「まあ、入ってくれ」

 取り合えず、この場はなかったことにしてしまおう。

 

 

 そんなこんなで、何故か全員集合状態な居間。

 名雪に、舞と佐祐理さんが料理の手伝いに行ってしまったので、俺と香里、北川の三人は子供の世話にてんてこまいだ。

「何かいま、とても失礼なことを考えてませんか?」

 鋭いな、天野。

「まあ、気にしないでくれ」

 にしても、ほんとにすごい状態だな。

「ところで美坂」

 北川があゆにたいやきをやりながら、香里と話をしている。

「なに?」

 香里は栞にアイスをやっていた。

「……相沢さん、ふたりともべつに餌を貰っているわけではないんですから」

「まあ、気にするな」

 ふう、とかため息を吐いている天野。

 その手には真琴をあやすための肉まんが握られている。

 ちなみに、これらの食料(餌)は全部あきこさんの手作りだったりする。

「美坂ってもしかして、料理できないのか?」

「なんで……そういう考えになったのかしら?」

 ふむ、北川は早くも香里の機嫌を損ねているな。

「だってさ、ほら、手伝いに行かないし」

「あれ以上キッチンに押しかけても、邪魔になるだけでしょう」

 そうか、とか納得してる北川。

 うまく逃げたな、香里。

「ちなみに相沢君」

「! は、はい?」

「あたしも、名雪ほどじゃないにしろきちんと料理は出来ますからね」

「さいでー」

 だからなんで俺の考えてることってこうもバレやすいんだ?

 いまにはじまったことじゃないけどさー

 

 

 そうこうしているうちに、まず料理の第一陣がご到着。

「これは、佐祐理と舞が味付けを担当したんですよー」

 

 おおーっ。

 

 みなを驚かせたその料理は、中華だった。

 クリスマスに何故に中華?

 ってか、これは満漢全席という部類?

 豚の丸焼きとかあるし……

「あ、秋子さん……」

「はい、なんでしょうか?」

「この豚は、どこから?」

「ああ、これは仕事仲間があまったからと、くれたんですよ」

 ははー。仕事仲間ですか。

 そですかそですか。

 ……秋子さんの仕事ってなんだよ〜

「それでは、」

 佐祐理さんがもう仕切ってる。

「いただきましょう!」

 

 

「いただきまーーーーすっ!!」

 

 

 まあみなさんのはやいことはやいこと。

 昼時だからってこともあるんだろうが……

 それにしたって早いだろう。

 もう豚無いし。

 満漢全席だぞ、満漢全席。

 あの料理の山が一時間と待たずに消えてしまった……

 

 

「ごちそうさまっ!!」

 

 

 星、四つ!

 とか北川がほざいていたけど、あえてみなさん無視でした。

 そんなこんなで、晩飯までに腹を減らすということで、皆さんゲームに熱中。

 俺が持ってるゲームはたいてい一人〜二人専用のばかりだから、栞が持ってきた人生ゲームというやつをやった。

「なになに……『会社が倒産で文無しに?!』」

「あたしなんて、『夫の浮気に切れて離婚』よ……」

 なんか、やけに現実味あふるる人生ゲームだな。

「わーいっ! 『たまたま買った宝くじで一等が当たった。三億円Get's』だってさ!!」

「よかったですね、真琴。あ、私は『万馬券を拾った。三百万円Get's』ですか」

 なんか、やけに儲かってまんな、お二人さん。

「おいおい、『彼女に貢ぐために二十万借金』ってなんだよ……」

 それはお前のことだぞ、北川。

「……子供が出来た」

「あははー、男の子ですね。佐祐理は女の子ですよー」

 なごやかだなー、あそこは。

「ええ!? 『過去の罪が暴かれて牢獄行き! 懲役二年』ってなに?!」

 あそこにも現実とそうそう変わらないヤツがいる……

「あ、栞ちゃんやっと結婚?」

「そういう名雪さんはまだ独身ですね」

「そうみたいだねー」

 ふむ、現実でもああなるのかな?

「あらあら。また寄付金ですか」

 ……。

 ちなみに秋子さんのマスは、

『謎の寄付金が届いた。ルーレットの数×十万円もらえる』

 だ。

「では」

 んでもって、秋子さんがルーレットを回すと。

「あら、また十ですか」

 当然のように十ばかり。

 謎の寄付金って、なんなんだ!?

「じゃあ、百万円貰いますね」

 そういって百万円受け取る秋子さん。

 手持ちはすでに兆単位だったりする……

 

 

 ゲームの結果は、あの後真琴がギャンブルに失敗し、文無しに。

 香里はシングルマザーの経験を本にしたら大当たりで、いっきに大金持ち。

 栞と名雪は結局、ごくごく平凡な家庭を築いたらしい。

 天野が後半もなかなかにいい人生を送ってはいたが、真琴を助けるためにその貯えの半分を失った。

 舞と佐祐理さんは子沢山。の割りに安定した収入を得て、わりと上流階級の人生。

 北川はフラれ続け、最後の最後には運命の人にめぐり合えたらしいが……。泣いて喜ばなくてもいいと思うぞ。ゲームなんだし。

 んで俺は、そこそこな人生。わりと一般的な生活らしい。

 あゆは、あの逮捕さえなければ早くゴール出来ていただろうに。結局は自業自得で、あの逮捕以外はそれこそなんもない普通な人生を送ったらしい。

「あら、また当たりですか」

 秋子さんは、ギャンブルがなかなか終わらない……

 一が出ればそれでなにもなく終わり。二から九が出れば文無し。十が出れば、一億円貰えるらしいのだが……

 これでもう二十回目。

 

 カラカラ。

 

 コトン。

 

「あら、一ですね」

 やっと終わった……

 順位は、言うまでもなく秋子さんがダントツの一位で、それより下はどんぐりの背比べだ。

「気づいたら、もうこんな時間だよ」

 外はすでに暗くなり、お開きの時間だった。

 

 

「みんなでココに来るのって、はじめてかな?」

 あゆが嬉しそうに先頭を走りながら俺を見る。

 俺の後ろには、さっきまで水瀬宅にいたひとが、秋子さんも含め、全員いた。

「そうですねー」

 佐祐理さんも、というか全員どこか嬉しそうだ。

 まあ、俺も嬉しいというか、楽しいわけだが。

「そんなに走るなよ、こけるぞ」

「大丈夫だよー」

 

 ごんっ。

 

「……うぐぅ」

 確かにコケはしなかったが、街灯に頭をぶつけるあゆ。

「言ったそばから」

 俺はあゆに駆け寄ると、そのおでこをみてやる。

「まあ、言うほど腫れてないから大丈夫だな」

「でも、すっごく痛いよー」

「我慢だな」

 俺は、あゆのおでこをぴしりっと、叩いてやった。

「い、痛いよ! 祐一君ッ!!」

「はは、悪い悪い」

 そんな俺たちのやりとりを見て、みんなが笑っている。

 なんていうか、今日はいい日だ。

 このまま今日が終わるのがもったいない感じがする。

 ……なにか、忘れてないか?

「これで、あとは夜にサンタさんが来るのを待つだけだね」

 名雪が嬉しそうに言った言葉。

 ――それだ!!

 俺はまだ真琴の欲しいものも、名雪のけろぴーも手に入れてない。

「じゃあ、今日はここで解散ですね」

 秋子さんが少しはなれたところでそんなことを言っている。

「ばいばい、祐一君」

「じゃあね相沢君」

「さようなら、祐一さん」

「……ばいばい」

「あははー、さよならですねー」

「じゃ、また会おうな、友よ!」

「それでは、私も帰りますね。さようなら相沢さん。真琴も、いい子にしてるんですよ」

「ばいばーい」

 真琴が天野に手を振っている。

 俺も、取り合えず皆に手を振るが……

 その心情は穏やかでない。

 あとすこしで今日が終わってしまう!

 それなのに、俺は……

「さ、帰りましょうか」

 秋子さんの一言で、結局俺は帰路についた。

 

 

 夕食が終わり、俺は一人で部屋に閉じこもっていた。

 なんて無力なんだ。

 俺は、なにも出来ないのか?

 もう手は尽くしたのか?

 なにか、なにか手はないのか?

 もしかしたら、なにかを見落としてないか?!

 万に一つも、可能性はないのか?!

 ……どうしよもなかった。

 真琴の手紙は、今頃処分されてるだろう。

 名雪のけろぴーだって、売ってないんじゃ手に入らない。

 そもそも、サンタを信じてるのは秋子さんもだ。

 っていうか天野も信じていた。

「……ほんとに、もうどうしよもないな」

 呟き、俺はベッドに身を預けた。

 そのまま、意識が薄れていき……

 

 

 

 

 

 シャンシャンシャン……

 

 

 

 ?

 

 

 

 シャンシャンシャン……

 

 

 

 なんの、おとだ?

 

 

 

 シャンシャンシャンシャンシャンシャン……

 

 

 

 近づいて、来てる?

 俺はようやく覚醒した頭を振って、身体を起こした。

「なっ!!」

 そして、息を呑んだ。

 明るいのだ。

 外が。

「いまは、まだ深夜だろ?」

 時計は十一時半をさしている。

「な、なんなんだ?」

 夢にしては現実味がありすぎる。

 っていうか、あの音は……

 ――聞こえない?

「そら、耳?」

 そうだよな。

 あんな鈴の音なんて、そうそう聞こえてくるかよ。

 こんな寒い雪の夜に鈴の音を鳴らしながら出歩くヤツなんかいない――

 

 

 

 

「メリークリスマス……ぎりぎりじゃったの」

 カーテンを開けていきなり俺の部屋に入ってきたのは。

「なんじゃ? どうした? なんで固まっとるんじゃ?」

 ……赤い服を着て。

「ヘンな坊主じゃなー。ほれ、プレゼント、ここに置いて置くからな」

 ……白ひげを生やして。

「さて、あとこの家にはふたり……三人もおるのかい」

 ……優しそうな目をした。

「おお、手紙を忘れとったわい」

 ……世間一般で言うサンタクロースその人だった。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……」

「? なんじゃい。なにかおるんか?」

「家宅侵入罪じゃないのか?!」

「……なんじゃそんなこと」

 そ、そんなこと?

「で、でも勝手に入ってきて――」

「今日は聖夜じゃ。不思議なことが一つや二つ、起こってもええじゃろ」

 そんな無茶な!!

「さて、わしは一階に配りに行くから、おぬしはこれを二人の枕元にそっと、置いてきてくれ」

「は?」

「ホレ」

 そういって差し出してきたのは、大きな包みと、小さな包みだった。

「小さい方には、この手紙を付けてやってくれ」

 そういって白ひげのじいさんが差し出してきたのは、

「それ! 真琴の手紙!!」

「うむ。あやうく処分されるところじゃったのでな。一応、持ち主に返してやらんとな」

「こういうのって、貰っておくものじゃ……」

「なに。その子がはじめて出した手紙じゃ。その子が持っておった方がええじゃろ」

 はぁ……

 真琴のはじめて書いた手紙は、どことなく脅迫状めいたつくりになっていた。

「さ、頼むぞ」

「はぁ……」

 

 

「………………って、夢?」

 朝起きたら、俺はベッドから転がり落ちていた。

「なんだかなぁ」

 いくら自分が何も出来なかったからって、夢ん中でサンタさんに頼るとは……

「どうしよもないな……」

 俺は痛む腰をさすりながら、起き上がる。

 と、

「? なんだ、この包みは……」

 俺のベッドの上には、小奇麗な包装紙で包まれた物体が。

 手にとって見ると、カードがはさんであった。

 

 Merry Christmas!

 

「なんだ、これ?」

 俺は包装紙を破かないように、慎重に開けていく。

 中から出てきたのは、

「これ、俺が欲しかったCD……」

 なんでこんなものが――

「もしかして!」

 俺は急いで部屋から出る。

「名雪、入るぞ!!」

 ノックも中途半端に、俺は名雪の部屋に入る。

 と、

「う、ウソ……」

 名雪は、二つのけろぴーに挟まれるように寝ていた。

「な、なんで?」

「祐一!!」

 そのとき、背後から真琴の声がした。

 やけに嬉しそうで、今にも飛び跳ねそうな。声。

「見てみて〜! プレゼント貰ったわよ!」

 真琴は、手に漫画を持っていた。

「良い子にしてたから、サンタさんが持ってきてくれたんだから!」

 …………さ、さいで。

 なんていうか、昨日のアレは、夢ではなかった、のか?

 

 

 

 

 

 

 終わり。

 

 

 

 

 

 

 おまけ。

 

 

 秋子はさっそく、貰ったパン焼き機を使っていた。

「やっぱり、ジャムが自家製なら、パンも自家製ですよね」

 秋子は嬉しそうに、オレンジ色のジャムをテーブルに並べていった。

 

 

 おまけのおまけ。

 

 

「やっぱり、日本人はこれですよね……」

 はふぅ、と美汐はうっとりとその茶碗を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 奥付。

 というか、あとがき。

 

 どもです。

 ついさっきまで、クリスマスイブだと気づかずに、書き終えたらクリスマスが半分終わってました。

 そんなこんなで、一日でたったか書いた小説なんで、かなり無茶苦茶で強引ではありますが、ここまで読んでくださったあなたにはきっとサンタさんの加護がありますよ。

 さてさて、本当は、

 

 サンタさんって、領空侵犯で撃ち落とされたりしないの?

 

 とか、

 

 最近は煙突ないけどどうやって中に入るのさ?

 

 のネタもやりたかったんですけど……

 時間の都合上、省かせてもらいました。

 では、また妄想の小部屋でも会いましょう。


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