時は1784年

 天明四年

 浅間山の噴火、天明の大飢饉より二年……

 田沼意次の政治により、農民は肩身の狭い思いをしていた。

 

 

 世は乱れ、人々の心は荒んでいく……

 

 

 そんな世を救うため、北の国より正義の使者が!

 彼女の名は――

 

 

 

  あゆ太郎侍!!

 

 

第ニ幕  戦場の狼

 

 

 

「あーれぇー」

 林の木々の間を、絹を引き裂く女の悲鳴が響き渡る!!

 と、いうシチュエーション。

「たーすーけーてぇー」

 その声の主は。

「いやぁ〜」

 名雪である。

 いつものこざっぱりとした小袖姿で、いかにも町娘といった風情は、今回も乱れに乱れていた。ちなみに、着ている小袖は淡い黄緑色で、今江戸で流行の、天の川の刺繍が美しい帯(見受けるに、手作り)を巻いていた。

「うぅ、せっかく新調したのに……」

 愚痴をこぼしながらも、懸命に足を運ぶ名雪嬢の後ろに迫る男が、ニ人。

 ……二人?

「むぅあてぇー!!」

 この時代にはおおよそ在りえない金色の髪の毛を持った男、北川潤を先頭に、目が悪いのか細い目をさらに細めて、前を走る北川の背を見つめる男、久瀬主税。さらにその後方には…誰も居ない。

 前回はさらに後方に、黒子(斉藤どうざん)が居たはずなのだが、今回は誰も、居ない。

 黒子(斉藤どうざん)は、どこにいるのか?

 話は、少し前に遡る。

 

 

 ここは、江戸の町外れの川、その橋の下にある小屋。

 この時代では、なんら珍しくもない、浪人達が雨風をしのぐのに作った四畳半の小屋。そこが、『さえない脇役キャラ援助協会』の本拠地である。

 四畳半の狭い部屋の中で、背中合わせになりながら、二人はいた。

「なぁ、久瀬主税」

 愛刀を磨きながら、北川はタメ息を吐くように、久瀬に声をかけた。

「何かな? 北川君」

 こちらは、眼鏡を磨いている。(ふきふき…)

「斉藤は、どうしてるだろうな…」

「あいつか…」

 久瀬は、眼鏡を磨いていた手を止め、虚空の彼方を見つめた。

 斉藤どうざん。通称、黒子。

 彼こそが、この『さえない脇役キャラ援助協会』三人目の幹部である。

 気配をまったく掴ませない、まさに忍びの中の忍びだったのだが…。

 

『自分の、生きがいを見つけました』

 

 この言葉が、北川と久瀬の聞いた、彼の、最初で最後の言葉となった。

 斉藤は、この言葉と、

 

『あゆ太郎侍さんの元で働きたいとおもいます』

 

 と書かれた紙のみを残して、姿を消した……

 

 

「普段、姿は見えなくとも、やはり“いる”と“いない”の差は大きいな」

 ああ、と頷きながら、北川は、斉藤がいつもいた、であろう入り口のすぐ横の壁を凝視した。

 斉藤は、いつもあそこにいた…。そして、俺たちを温かく見守っていてくれたんだ…。

 本当は、斉藤はいつも北川の真横に座っていたのだが、北川は終ぞ気付かなかった。

「とにかく!」

 久瀬は、磨き終わった眼鏡を掛け直すと、声を張り上げた。

「俺たちから斉藤を奪っていったあの女! あゆ太郎侍をなんとしても…」

 久瀬が、熱の籠もった瞳で、北川を見つめる。

「あぁ」

 北川も、まっすぐに久瀬を見つめた。

「なんとしても、倒す!!」

「なんとしても、俺の彼女にしてみせる!!」

 ちなみに、後者は北川である。

 

 

 この言葉の直後に、北川は川へと、強制ダイビングした。

 

 

 話を本線に戻そう。

 名雪嬢は、あの後も走り続けた。

 日頃鍛えている、無駄のない引き締まった足。

 しかし、その足も、着物に隠れてしまってよくは見えない。たまに、はだけてしまった着物の間から見え隠れする程度。

「そんなもので、男性読者が喜ぶとお思いか!!」

 北川の激がとぶ。

「そ、そんなもので…!! っつわ!!」

 北川は、こけた。

 喋りながら走るから…。

「ま、待て!!」

 北川は木にしがみつきながらも、なんとか、立ち上がった。

 その頃には、名雪嬢は、すでに視界の端にまで、移動していた。

「?」

 久瀬が、居なかった。

 先程転んだのは、北川一人である。ならば、転んでいない久瀬は、少なくとも北川よりは前に居ないとおかしい。

 久瀬が居ないことを不審に思いながらも、北川は腕をつき、立ち上がった。

「ん?」

 それら一連の動作が、唐突に止まった。

「俺は今、何に手をついた?」

 疑問形を自分自身にぶつけて、北川はギクシャクと、ぜんまいが腐ったからくり細工のように首を回して、手元を見た。

 そこには……。

「く、く、く、くぅぅぅぅ」

 クッカドゥルドゥー?(米国の鶏の鳴き声)

「久瀬ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 いまいち状況が理解できていないであろう人(北川含む)に、状況を簡潔に説明させていただきますと……。

 北川の真後ろを走っていた久瀬は、木の根につまづいてこけた北川の身体につまづいて、すっころんだ。そして、なんとか立ち上がろうとしたそのとき、北川に全体重を頭に乗せられ、意識は永遠の世界へ…、といった状況なのだ。

 

 

 北川は、自分のせいで久瀬がこうなったとも知らずに、久瀬の頭を自分の膝に乗せ、スポットライトを浴びていた。

 スポットライトを浴びる、即ちそれは、“そこ”より外は闇に包まれることを意味する。

 何故なら、そうでもしないとスポットライトの意味が無いから。まわりも明るいと、わざわざスポットライトで一点のみを照らす、といったことが無意味になるから、そこより外は、漆黒の闇と化した。

「久瀬、何で。何でお前はそんなに目が細いんだ!?」

 話がわけ分かんない方向に脱線しだした。

「何で、何でお前はそんなに偉そうなんだ!? 実際は、女学生に手刀でノックアウトされてしまうほど弱いのに…。何故だ!?」

 北川は、演技ではなく、心の底から、久瀬に問うた。

「何故だ……。何故だ何故だ何故だぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

「っきゃあッ」

 おかしな声と共に、世界が唐突に元に戻った。

 木々の間から、溢れんばかりに降り注ぐ陽光。

 空高く舞う、トンビ。

 そして、空跳ぶカエル。

 ――またか! またなのか?!

 北川は、どこか遠い世界のモノを見るように、そのカエルを見続けた。

 そのカエルが、視界の端へと消えていくと、続いて名雪嬢が飛んで行った。

「――ハァ?」

 じゃあ、さっき俺の後ろでした声は、誰だ!?

 いや、気にするのはそっちでなくて…。いや、確かに声の主も気にはなりましょうが、それよりも、それよりもですよ。

「何故に、あの女子は空を飛んでおるのだ!!」

 そうそれだ! ありがとう、久瀬主税。いつの間に復活したか、作者も気付かなかったけど…とにかく、つっこんでくれてありがとう!

「え? だって、水瀬さんは前回も飛んでたし……」

「水瀬さんって言うなよ。それもそうだが、彼女もアレで一応、人間なんだ。空なんか飛んでたら、ビックリするだろう?」

「一応、ねぇ……。じゃあ、一応、驚いておこう」

 北川は、一つ咳払いをして、

「何故に彼女は空を飛んでいるのだぁぁぁぁぁぁああ!?」

 こんなもんか? と久瀬を見た。

「まぁ、そんなもんだろ」

 久瀬も頷いた。

「それでは」

 北川は、腰の刀を抜いた。

「追うか」

 久瀬も立ち上がり、刀を抜いた。

「CG枠よこせー」

 間抜けな台詞をハモりながら、北川と久瀬は、走り出した。

 目指すはメインキャラクターの地位と、CG枠!!

 取り合えずは、飛んで行った名雪嬢をとっ捕まえて、その後に、声の主を調べてみようかな? ってな算段らしいが、悪党の算段が上手くいった例し無し。

 そんなこんなで、結局声の主は登場できなかったのだ。

 ようは、タイミングを間違えたと。

「うぐぅ」

 

 

 謎の声の主が、タイミングを計り間違えたことへのショックから、地面に『へのへのもへじ』を書いていたところに、その声は届いた。

「あーれぇー」

 名雪嬢が捕まったのだ。このさい、どーして捕まったかは云うまでもないが、一応云っておこう。

 コケたのだ。木の根に足を取られて、コケたのだった。

 またか、とは思いつつも、これも企画だから、と自分に言い聞かせ、声の主は立ち上がった。と、そこに。

「いやぁああぁぁッ!!」

「!?」

 今度の叫び声は、今までとはまったく違う、悲鳴だった。

 そう、正真正銘の、悲鳴。

「いかなきゃっ!!」

 声の主は、腰に携えている刀を握り締めた。

 今度こそ、出番だ。ここを逃すわけには、主人公としても、人間としても、できない!!

 声の主は、刀を抜いた。

 

 

 今日の彼らは、何かが違った。

 久瀬がメガネをかけているとか、北川の妖怪アンテナが二本になっているとか、そんな些細なことから、目付きが尋常ではなく怪しげなオーラを纏っているとか、こんな大きなところまで、違っていた。

 そう、彼らには後が無いのだ。

 だから、多少年齢制限が付くような行動も、彼らはやってのけようとした。

 久瀬主税は、名雪嬢の着物に手を掛け、その手に力を込めて…………。

 それっきり、だった。

「…………」

 久瀬は、名雪嬢の着物に手を掛けたまま、固まった。

「? 久瀬、どうしたんだ? もう、オレたちには後が無いんだぞ」

 名雪嬢を抑えていた北川は、まったく動こうとしない久瀬に声を掛けたが、久瀬はそれにすら反応を示さなかった。

「なぁ、久瀬……」

 北川は、久瀬の肩に手を置こうとし、固まった。

「――――ッ!!」

 久瀬の口から、鮮血が迸った。

 真紅の血は、名雪嬢を、そして北川の身に降りかかった。

「な……ッ!」

「…………エ?」

 北川も、名雪嬢もしばらく状況が読めずにいたが、ソレは唐突に北川を襲った。

 ――――シュッ!

 北川の首めがけて、一陣の閃きが疾った。

「おわッ」

 北川は、その攻撃を『運』と『偶然』と『奇跡』の三拍子で避けた。

「くそったれが!」

 北川は、一旦、名雪嬢から離れた。名雪嬢は、久瀬の血を浴びたまま固まっていた。北川を襲ったのは、風車だった。

「久瀬……」

 刀を素早く正眼の構えに持っていきながら、北川は久瀬の方を見た。

 久瀬は、背中から大刀を生やしていた。その大刀は、久瀬の身体を貫通していた。

「久瀬……!!」

 その姿を見ると、北川の心の中に“憎悪”の炎が燃え上がった。

 どこだ! どこにいやがる!!

 北川は視線を目の前に広がる林の木々のに向けた。

 目標は、すぐに見つかった。

「お、お前は……。いや、貴女は……」

 木々の間に、彼女はいた。乳母車を押しながら、北川に近づいていく。左手には、刀の代わりに一輪の風車を持っていた。

「人の世が 廻って巡る 時代なら 我は舞おうぞ 阿修羅の舞い」

 風車を、乳母車の中にいる誰かに手渡すと、彼女は脇差を抜いた。彼女が、久瀬を殺したという事実は、腰に携えている空の鞘を見れば、一目瞭然だった。

「ま、まさか。本当に貴女が…」

 北川は狼狽し、あたふたと手を上下に振った。

「…………」

 その姿は非常に滑稽なのだが、彼女は無言で脇差を構えた。

「そ、そんな…」

 北川は、まだ納得していないようだが、彼女は、斬りかかった。

「な、何を!?」

 襲い来る白刃の煌きを、北川は真横へ跳ぶことによって避けた。

「や、やめるんだ! 香里!!」

「闘いの最中に、敵と会話しようなんて……、相変わらず甘いわね。…………それにね、私の名前は」

 北川は、一旦、間合いの外へと跳んだ。

「私の名前は、“子連れ香里”!!」

「そ、そんな!? 嘘だと言ってくれ!!」

 北川は、ワザとらしいまでに慌て出した。演技だと言うことが、バレバレである。

「ちょっとこい!」

 北川は、突如として現れた○一に袖を引っ張られた。

「な、何だよ。今いいところなんだから……」

「イイから!」

 ○一は、北川を乳母車の所まで連れて行くと、

「彼女を見るんだ!! そして、感じるんだ!」

 乳母車の中で“おしゃぶり”を咥えている栞を指で示した。

「こ、コレはぁああああぁああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!」

 北川は驚愕した。

「普段から子ども扱いしないでください!! とか言ってる栞ちゃんが自ら赤ん坊の姿になるだなんて!!」

 乳母車の中には、よだれ拭きを着用して、おしゃぶりを咥え、体を丸めている栞がいたのだ。

「北川、これで分かったろ。コレはもはや演技などではない! コレは時代なのだゃぁぁぁぁぁぁああああッ!!」

 ○一の語尾が、凄まじい絶叫へと変わった。

「!?」

 北川は、香里がダメなら……、と見ていた栞から顔をあげた。

「あんたたち、五月蝿いのよ」

「か、香里……」

 またお前なのか……、と北川は問うた。

 祐一は、脳天からばっさり縦一文字に斬られていたのだ、香里の手によって。しかし香里は、

「話を先に進めましょう」

 北川と、血の付いた刀を遠くに放り投げると、香里は栞に向き直った。

「待っててね、大悟郎。すぐに終わらせてあげるから」

 にっこりと微笑む香里。しかし、大悟郎(栞)は、

「(何を言ってるんですかお姉)ちゃん! (私の名前は、栞ですよ! お姉)ちゃん!!」

 必死で何かを訴えている栞だが、悲しいかな、大悟郎は「ちゃん」しか喋れないのだ。

「はいはい。おしめは後で変えてあげるから。ね♪」

 香里は大悟郎(栞)にやさしく微笑むと、

「さぁ、かかってらっしゃい!!」

 北川へと向き直った。

「(お姉)ちゃん! (おしめなんか変えなくていいから、この設定を変えるように――――に言ってよ! お姉)ちゃん!!」

 伏字が少し入ってしまうような発言をしながらも、香里の耳には「ちゃん」しか聞こえない。

「ハイハイ…」

 香里はやさしく微笑むだけだ。

「…………」

 大悟郎(栞)はもはや、何もかもが無駄だと悟った。

「(奇跡なんか、起こらないから存在するんですよね。お姉)ちゃん……」

 悲しげな台詞も、大悟郎(栞)は「ちゃん」の一言でしか表現することが出来ない。

 そんな、大悟郎(栞)よりも、今は香里。

「行くわよ」

 香里は、今まさに戦闘状態へと入りつつあるのだ。

「か、香里ぃ〜」

 しかし、とうの相手である北川は、戦意喪失である。

 相手になるわけが無い。

「せいっ!」

 勝負は一瞬でついた。

 

 

「終わったわよ、大悟郎(栞)」

 香里は大悟郎(栞)にやさしく微笑むと、乳母車を押して、歩き出した。

「(もう、何も言いませんよ…お姉)ちゃん」

 この世の理(ことわり)を悟った大悟郎(栞)は、乳母車の中で明後日の晩御飯を見ていた。

「(明後日は、水瀬さんにご馳走になるんですね、お姉)ちゃん……」

「ん? 何か言った?」

 香里の質問にも、大悟郎(栞)は「ちゃん……」としか言わなかった。

 

 

 戦いは終わった。

 子連れ香里の手によって、悪は滅ぼされたのだ。

 このさい、名雪嬢が何処に行った?

 とか、

 ○一さんはこれからも出てくるの?

 とか、

 主人公変わってない?

 とかいった、どーでもいい疑問は、だすとぼっくす(ゴミ箱)に捨ててしまいましょう。

 それでは、またいづれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐぅ…。ボク、主人公なんだよ」

「五月蝿い! このさいは、話の収集せえつけばいいんだ」

「この――――の手先め!! 成敗してくれる!」

「本編主人公になにをする!」

「そんなの、――――が作った世界では、関係ないんだよ!!」

「なにおぅ!!」

「覚悟!!」

「出来るかぁ!」

 ゴチャゴチャ……。

 モミクチャ……。

 

 

 

 

 

次回へと、つづく。

 

 

 

 CM提供

『水瀬家・TCJF(極秘ジャム工房)』

 以上の提供で、お送りいたしました。

 

 

 

 

――教訓――

 オチは考えてから、書きましょう。

 

 

 

  突然ですが、予告をいたします。

 

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