前置き。
この小説では、完全オリジナルなストーリでスパロボシリーズを基盤にKanonをやっちゃいます。主にネルガル重工やアナハイムは出てきますが、他はほとんど出てきません。
また、精神コマンドを完全な技として解釈してください。
妄想の小部屋[スーパーロボット的なKanon]
――DOUBLE NUNBER――
地球を襲った二つの隕石。
それが、それらが全てのはじまり。
N u m b e r 0 0
〜 始 動 〜
朝のニュースでは、相変わらず暗い出来事しか流れてこなかった。
「また、町が消えたってさ」
相沢祐一は朝食後のお茶を飲みながら、隣で漫画を読んでいる真琴に投げやりな口調で話しかけた。
「ふーん。でも、この国じゃないんでしょ?」
真琴は漫画から顔を上げずに、それだけ言う。
「でも、近いぞ……。隣の国だし。うわ! 十万人も被害が出たらしいぞ」
「ふーん……」
祐一はテレビを観ながらいちいち大げさすぎるほどの反応を示す。
「祐一、真琴の邪魔しちゃダメだよ」
名雪が、わざとらしく大声を上げている祐一をムッ、と睨む。
「……。でもさ、世界情勢に興味関心がないというのは、問題じゃないか?」
祐一はなんとか言い訳を考えてはみるが、
「真琴は、漫画からせかいじょーせいを学んでるからいいのー」
らしいよ、と名雪は祐一を見る。
「勝手に言ってろ」
なんとも疎外感を感じた祐一は、まだ台所にいる秋子のところにお茶のおかわりを貰おうと席を立った。
と、
「祐一さん」
秋子がリビングに来た。
「? なんです、秋子さん」
「ちょっと、付き合ってもらえますか?」
秋子は遠慮がちに、でも断ることはできない、なんとも困りましたわって顔で、祐一を見る。
もともと居候の祐一は、その性格からも頼まれると断れない立場と、タチだった。
「別にいいですよ。分かりました、お米ですね」
秋子が祐一に付き合ってもらいたいときは、たいていお米を買うときの荷物持ちとして付いて来て欲しい時だ。
「いえ、今日は違います」
「そうですか……」
そうでないとしたら、なんなのか?
祐一には想像もできなかった。
でも、と祐一は考える。
「お米以外なら、楽だろうな……」
「なにか言いましたか?」
「いえ、独り言ですから」
こうして、相沢祐一の日常は、日常の中から切り取られた。
―数日前―
「いきなりの訪問で、びっくりしましたよ」
ネルガルのドックに、秋子は来ていた。
その秋子の応対をしているのは、プロスペクターだった。
「約束のものは、出来ているんですか?」
秋子は、いつもと変わらない笑顔で、ネルガルの重役と話をしている。
「アレの期日はまだ先……だったんですけど。実は、昨日から最終調整をしていましてね。もうじきロールアウトですよ」
プロスペクターは、少し自慢げに秋子に告げたが、
「そうですか」
まるでいつもと変わらない秋子の笑顔に、少しガッカリしたようだった。
「ちゃんとこちらの注文どおりに?」
秋子の表情が、笑顔から不安げなものへと変わる。しかしプロスペクターの表情は笑顔のままだ。
「かなり無理な注文でしたが、なんとかご希望のスペックに仕上げました。テンカワ君の残していったブラックサレナのデータがかなり役に立ちましたね。ブッラクサレナを基盤に完全な機動性重視で、装甲を出来うる限り削り、ディストーションフィールドの出力をナデシコCよりもさらに20パーセント向上させる。代わりに単体で行動した場合は一時間でバッテリー切れですが……。単体でのボソンジャンプも可能ですし、軽量化をしたため、高速での緊急回避――いわゆる分身というやつも可能になってます」
しかし、とここでプロスペクターは真面目な顔になる。
「単体でのボソンジャンプはA級ジャンパーでないと無理ですが」
「それは、分かっています」
「よかったよかった。それを承諾していただければ、そちらの希望に十分添える機体ですよコレは」
ところで、とプロスペクターはメガネを外し、ハンカチで拭いてからかけ直した。
「パイロットの方は?」
秋子は頬に手を当て、微笑んだ。
「あの子です」
「……あの子?」
プロスペクターは眉を顰め、秋子の視線の先を見た。
「本気、ですか?」
そのパイロットを見るなり、プロスペクターの眉間に皺が浮かんだ。
「ええ、本気ですよ」
しかし秋子は、いつもと変わらぬ表情。
「彼女なら、きっと乗りこなせますよ」
秋子の視線の先には、非常におばさんくさい――もとい、非常に物腰の上品なひとりの少女がいた。
「IFS処理は、もう施してありますから」
秋子は、ネルガルの研究員になにやら説明を聞いている少女を見ながら、プロスペクターに告げた。
「なら、あとは乗るだけですか……」
プロスペクターは、分かりました、と大きくため息を吐いた。
「では、そこのお嬢さんに見せてあげてください」
プロスペクターに言われて、少女に説明をしていた研究員は頷いた。そして、そのまま壁際に行き、壁に埋め込まれているキーボードに指を滑らせ、打つ。
と、それまで壁だった秋子の背後が、ウイイィィィン、と機械的な音とともに、開いた。
「……」
秋子はそれを無言で見つめていたが、その壁が完全に開ききる頃には、感嘆のため息を漏らしていた。
「あれが……」
壁が開き、そこに現れたのはネルガルのドッグだった。そしてそこには、一体のエステバリスが、あった。
「あれが、エステバリス――AQUA(アクア)」
そのエステバリスは、深くどこまでも深い蒼だった。
―三日前―
「いきなりの訪問ですいません、ニナさん」
秋子は、ニナ・パープルトンに丁寧にお辞儀をした。
「いえいえ、私の方もこの国に寄ってすぐに時間が取れなくてすみませんでした」
ニナも秋子にお辞儀を返す。
「時間があまりないので、本題に入らせてもらっても……」
秋子は言いづらそうにニナを見る。しかしニナはにっこり微笑み、
「ええ、いまペガサス級から下ろしていますから」
見に行きましょう、とニナは秋子を促した。
「すみません」
秋子は本当にすまなさそうにニナの後に続いた。
「あのペガサス級にネルガルの手が加わるのは少々、気が進みませんが……。こんな時代ですもの。仕方ありませんよね」
歩きながら、ニナは口を開いた。
ニナはそう言うものの、まだ納得し切れていないようだった。それを察した秋子は、しかしかける言葉を見つけられなかった。根っからの研究者のニナのこういうところを、秋子はまだ完全に理解したとは言いがたいのだ。
「確かに、ネルガルのディストーションフィールドはI・フィールド以上のものがあるかもしれませんが……。あのすぐに無くなってしまうバッテリーは考え物ですよ。そうは思いませんか?」
「は、はぁ。そうですね」
曖昧な返事を返す秋子に、ニナは愚痴をこぼす。
「そもそも、あれは人間が自ら開発した技術ではないといってますし。万が一、の事態も考えられるっていうのに……」
そこまで言うと、ニナはため息を吐いた。
「だからこそ、Zを持ってきたんですけど」
「なにか、問題でも?」
秋子はそんなことを聞いていない。
「問題、っていうほどのものではありませんよ。もともとZ+Cは宇宙空間専用の機体で、それを大気圏内にすることはなんの問題も無かったんですよ。でも、どうしても大型ジェネレータは外せないんです……」
ニナはMSの外見にこだわる方ではないが、ここまで言いよどむということは……。秋子は少しだけ心配になった。
「大型ジェネレーターを取り付けた以上、Z+CはMS形態になるとどうしても大型ジェネレーターを外さなければならなくなり……機動性がガタ落ちなんですよ」
まいったわ、とニナは頭を抑えた。
「でも、そういうことはウェブライダー形態のときは?」
「それなら心配はありませんよ。ただ、やはりあれはパイロットを選ぶというか……」
あ、とニナはそこで思い出したように秋子の方を見た。
「パイロットの方は、どちらに?」
「それでしたら、一足先に倉庫に行かせましたから」
「……そうですか」
「ええ。今頃は、もう機体に乗っているかもしれませんね」
「それなら、ペガサス級を先に見ておきますか?」
ニナは、名案とばかりに秋子に聞いてきた。
「せっかくですけど、今日はZを持ってすぐに帰らなければならないんですよ」
まるで、お買い物をしに来た主婦のような口調だった。
「そうですか……」
仕方ないですね、とニナは言うが、なんとも残念そうな顔で秋子の方を見た。
「ところで、ハイメガランチャーの微調整は済んだんですか?」
電話の方では言いよどんでいたようですけど、と秋子はニナを見る。
「それは……」
「済んでないんですか?」
「いえ、一応数値は設定しておきましたが……。まだ一度も撃ってない状況でそれを判断するのは、危険ですから」
それなら仕方ないですね、と秋子は微笑んだ。
「着きましたよ。アレが、Z+Cです。手がいろいろ加えてあるので、Z+Cカスタムとでも言いましょうか」
ニナが指差した先には、銀色の戦闘機があった。
真上から見れば、巨大な紙飛行機のようにも見える。ただ、中心よりもやや右寄りに、巨大なランチャーを一つ装備している。
「ウェブライダー形態では、ハイメガランチャーとミサイルしか撃てませんから、気をつけてくださいね」
ニナは秋子にそう告げると、Z+Cに近づいていった。
「そうそう」
ニナは一旦、秋子の方に向き直ると、
「Z+AとGP04はまだ月の本社で最終調整をしてますので、お渡しするまでにまだ三日は掛かると」
すみません、と頭を下げるニナに秋子は、
「いえ、期日を早めたのは私の方ですから」
謝るのは私ですよ、と今度は秋子が頭を下げた。
「それにしても……」
「?」
ニナはZ+Cのコックピットでマニュアル片手に奮闘している少女を見て、思わずため息を漏らした。
「私たちは、あんな子たちまで戦場に送り込まなければならないんですね」
「……あの子たちは、ただ戦うだけでなく、勝たなければならないんです。私たちは、本当につらい未来しかあの子たちに残せないんです」
秋子は、普段はあまり見せない厳しい表情で誰にともなく、云った。
祐一は、秋子に連れられて学校に来ていた。
「……秋子さん、学校なんかに何の用ですか?」
祐一は秋子の背中に問いかけるが、秋子は何も言わない。
「あ、秋子さん?」
「……着けば、分かりますよ」
ということはまだ目的地に着いたワケではないらしい。祐一の脳裏にイヤな想像が浮かぶ。
まさか……呼び出し?! いまさらながら、舞と深夜に学校に来ていたのがバレたとか!?
それともこの間、北川と一緒にピンポンダッシュをしたことがバレたか?!
いやいやそれとも、あゆがまだ金を払ってないあのたい焼き屋のオヤジがとうとう学校に苦情を言ったのか!?
そこまで考えて、祐一はふと自分の過去を思い出してみた。
なぁんか俺、けっこー犯罪ちっくなことをしてないかい?
「ヤバいな〜」
祐一が頭を抱えていると、秋子が遠くから祐一を呼んだ。
「もう着きますから、祐一さん。ついてきてくださいね」
「は、はぁ。もう着きますか……」
学校の敷地内でそう言うということは、
「やはり、職員室か」
いや、もしかしたら校長室かもしれない。
祐一の気は重くなるばかりだった。
が、着いたのは職員室でも校長室でもなかった。
というか、校舎の方では無かった。
「ここですよ、祐一さん」
秋子が入っていったのは、
「た、体育館?」
なんだ? また舞踏会か? それにしては時期が早いうえ、何故秋子さんがそんなものに参加するんだ? そもそも秋子さんはいつもと変わらない格好だし。
「……わからん」
いろいろ想像してみるが、答えはそのどれとも一致しなかった。
「…………」
祐一は、体育館に入るなり、絶句した。
「……祐一さん」
秋子は、そんな祐一を気遣わしげな眼で見る。
体育館の中には、巨大な鉄の塊――ロボットがあった。
祐一は当然そんなことを知らないが、これこそATX計画が凍結しているいまでも奇跡的に残った機体。全高22,2メートル・重量85,4トン。PTX−003C・ゲシュペンストMk−Vアルトアイゼンだった。
機体を彩る真紅と、頭の巨大な角であり武器でもあるヒートホーン、なにより目に付くのは両腕が銃でいうところのリボルバのような形をしているということだった。
「あれは、ゲシュペンストMkVアルトアイゼンのカスタム機で、正確にはアイゼルン――鉄血と呼ばれています。本来、左腕は三連マシンキャノンなのですが、リボルビング・ステークに取り替えられています。これにより、接近戦においてはまさに最強の機体といっていいでしょう。その代わりに胸に取り付けられたマシンキャノンは命中精度が低いので、遠距離はまったく期待できません」
たんたんと説明する秋子の声を聞きながら、祐一はアイゼルンに近づき、しげしげと眺めている。
「うちの学校にこんなものがあったなんて……。秋子さん、どうしてこんなものここにあるって知ってたんですか?」
ここに通ってる俺ですら知らなかったのに、と祐一は秋子に問いかける。
「それはですね、祐一さん」
秋子は言いづらそうに一瞬、祐一から視線を外した。それでも決意を固め、真正面から祐一を見据えた。
「……な、なんですか?」
その秋子があまり見せない鋭い眼光に、祐一は背中を冷や汗が伝っていくのを感じた。さっきまでしていたイヤな予感よりも万倍イヤな予感が、祐一を突き刺す。
「これは、私がここに運んだものだからです」
「……は?」
言葉の意味が飲み込めない。
「祐一さんには、これに乗って戦ってもらいます」
それでも秋子は祐一に死刑宣告をしていく。そうなのだ。この瞬間に、いままで日常を生きてきた相沢祐一は、死んだのだ。
「祐一さんは、いまからこのアイゼルンのパイロットです」
「ちょ、ちょっと待ってください!! 秋子さん、なに言ってるんですか? 俺がこのロボットに乗るだって? そんなこと」
「できなくは、ありません」
「なんで断言できるんですか!!」
祐一は、これは夢だと思った。しかし、これは夢か? この握り締めた拳の中で生まれる冷や汗の感触や、震える足の感覚……体育館特有の汗の染み付いたような臭い。これらすべてが夢で納得できるのか。
「祐一さんの適正検査はもう済ませてあります。操縦方法も、祐一さんの身体が覚えています……。だから、あとは実戦の経験を積むだけです」
「そんな、いつ!?」
「祐一さんが最近、北川くんと一緒にやっているゲーム、です」
「もしかして、バーニングPT?」
心当たりがあった。最近、北川と一緒にゲーセンに行っては必ずやるゲーム。あれは、一ヶ月くらい前に突然この町のゲーセンに最新台として入ってきた。
「その、バーニングPTで、祐一さんは常にハイスコアを出してきました」
「でもそれは、ゲームの話です!!」
「そうです。でも、あのゲームはこのアイゼルンの、PTの操縦となんら変わりない操作方法になっているんです」
頭の中が真っ白になっていく。もう、秋子が何を言っているのかも、半分くらいしかわからない。意識に、白い靄がかかっていく。
「でも、でもそれなら北川も……」
「北川くんの機体は、間に合わなかっただけです。それに、どちらにせよATX計画とSRX計画が凍結してしまったいま、残った機体はわずか……。これが手に入ったのも奇跡にも近いことです」
なにを、言ってるんだ? どうして、俺なんだ?
「どうして、俺なんですか?」
「…………」
秋子の顔が、すまなさそうに下を向く。それでも、祐一は秋子から視線を外さない。
やがて、秋子が観念したように口を開いた。
「それは……、私が、仕組んだからです」
眩暈がした。祐一はもう、自分が立っているのか寝ているのかさえわかならい。どうして天井があんなにも高く感じられるのかさえ、もうわかならい。秋子が急激に遠ざかっていくような感覚にとらわれる。
「どうして……」
秋子は、思わず祐一から視線を逸らす。
しかしそれでも秋子は、キッと祐一を見る。
「!!」
その、再び秋子の鋭い視線に射られて、祐一は少しだけ意識がはっきりした。
「祐一さん、いまはこんなことで呆けている時間は無いんです。私たちがこうしている間にも、人は死んでいるんです。戦場で」
戦場。祐一にはそれが冗談にしか聞こえなかった。いま眼の前にこんな冗談みたいなロボットがあって、自分は冗談みたいにパイロット。もう、なにもかも冗談なのだろうか。
「気をしっかり持ってください祐一さん。これは、まぎれも無い事実です。世界中で戦闘が行われていて、祐一さんはいまからこのアイゼルンに乗って戦場に赴くんです」
秋子の声は、不必要にはっきり祐一の耳に届いてくる。いくら祐一が聞きたくないと思っても、声は祐一の耳を打つ。
「迷っている時間はありません。祐一さん、アイゼルンに乗ってください」
もう、祐一はどうしていいのかわからなかった。ただ、ここで断れば、秋子はとても悲しい顔になるだろう。それだけが、やけにはっきりと祐一には予想がついた。だから、
「……わかり、ました」
祐一は、それだけ呟くと、その場に膝をついた。
それからのことは、よく祐一には思い出せなかった。取り合えず、ずっと意識はあったし、自分で動いていた。でも、それだけしか覚えていない。すべて、夢だったのか? そう思ってはみるが、眼の前に広がる光景を見れば、そんな考えも失せる。
同じなのだ。秋子が言ったとおり、このコックピットの作りはバーニングPTと一緒だった。ただ違うといえば、自分の好きな機体を選べないところ、それと、負けは即、死に繋がるということ。
「バカ、みたいだ」
自分は気が狂ったんだ。だから、これは妄想だと、思いたい。思いたいだけだ。
祐一はグリップを握ってみる。ゴムの感触。硬くも無く、でもいうほど柔らかくも無い。なにからなにまで、あのゲームと同じ。でも、ともう一度秋子の言葉を思い出す。これから自分が行くところは、戦場なのだ。たくさんの人が死んでいる戦場なのだ。
『祐一さん』
急に、秋子の声と、顔が現れる。
「……なんですか?」
ゆっくりとした動作で、祐一は秋子を見る。
自分の正面に、秋子の画像が現れていた。カメラでも置かれているのだろうか、秋子が心配そうに、顔色が悪いわよと祐一に声を掛ける。
「心配しないでください」
そう返す祐一の声にも、覇気が無い。
『気が動転しているのは、わかります……。でも、祐一さん』
秋子が祐一をしっかりと見据えてくる。
『これから祐一さんには、人類の敵と戦ってもらいます』
秋子の言葉は、祐一にはアニメの台詞にしか聞こえなかった。
Nunber00 END
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