前置き。
この小説では、完全オリジナルなストーリでスパロボシリーズを基盤にKanonをやっちゃいます。主にネルガル重工やアナハイムは出てきますが、他はほとんど出てきません。
また、精神コマンドを完全な技として解釈してください。
妄想の小部屋[スーパーロボット的なKanon]
――DOUBLE NUNBER――
地球を襲った二つの隕石。
それが、それらが全てのはじまり。
Number01
〜戦場〜
コックピットの中で、祐一は秋子に手渡されたマニュアルを読んでいた。
「操作方法は、まんまバーニングPTだ……」
コックピットの中も、そのまんまだった。
3本のペダル。2本のスティック。多少見慣れないボタンが幾つかあるが、おおまかな作りは、ゲームそのままだった。
一ヶ月前に町のゲーセンに入ってきたゲーム。あれにハマったときから、俺はこうなる運命だったのか? こんな物騒なものに乗って、命を賭けて戦う運命だったのか?
『祐一さん……そろそろ積み込みますから、動かしてみてください』
目の前の秋子が、気遣わしげな眼で祐一を見ていた。
気づかなかった。祐一はゆっくりと顔を上げ、わかりましたと頷いた。
『取り合えず、体育館から出ましょう』
「はい……」
祐一は足元のペダルを少しだけ踏み込む。
アイゼルンが、ゆっくりと右足を踏み出す。
「でも、出るったってどうやって……」
祐一はモニタを見る。と、いつの間にか天井の一部が開いていた。そこだけ何かに切り取られたかのようだった。
「いつの間に……」
呆気にとられた祐一だったが、これでどこから出ればいいかは分かった。
『そのアイゼルンは、アルトアイゼンの1,42倍もスラスターの出力が上がっています』
秋子の声が、祐一の耳に響いては来るが、祐一はそれを理解できない。
動いているのだ。このシートに伝わってくる振動、メインモニタに流れていく風景。スピーカーから聞こえてくるモーター音、ペダルを踏み込んでいる足の感覚。全て、自分がやっているのだ。
「……なんなんだよ」
たった、これだけだ。体育館から出るだけ。それだけで、自分はこんなにも興奮している。こんなので戦闘になったら、自分はどうにかなってしまいそうだ。
『祐一さん、ペダルを強く踏み込んでください』
秋子に指示されるまま、祐一はペダルを一気に踏み込む。
キュゥゥゥウウウン。
なにかが、急速に、一点に収束していく感覚。そして、
ドンッ!!
アイゼルンは、飛んだ。
「!? な、なんだ?!」
背中に積んでいる4つのスラスターと、腰に付いている5つの小型スラスター。さらに追加された、踵の部分に取り付けられたスラスター。極めつけは脹脛の部分からもスラスターが4つずつ飛び出した。計17個のスラスターが一気に火を噴き、アイゼルンは空中に飛び出した。
『祐一さん、そのまま飛んでください。モニタにマーカーが出ているはずです。そこに向かってください』
秋子に言われるまま、スラスターを吹かし続ける祐一。しかし、このアイゼルンは肩に大型のクレイモアを積んでいるため空中でのバランスを取ることが非常に難しい。
「く、どこにマーカーが――」
言いかけて、祐一は気づいた。自分を、アイゼルンを覆っている影に。
いまは昼間だ。それなのに、自分のまわりだけ夜になったみたいに暗い。その影の正体は――
「せ、戦艦!!」
巨大な船が、空を飛んでいた。
モニタに戦艦を記すマーカーが赤く光っているが、祐一は我を忘れてその戦艦を見上げていた。
デカイ……。ひたすらに、デカイ。
『祐一さん。それは、これから私たちの母艦となる、ペガサス級戦艦ホワイトベースです』
「ホワイト、ベース……」
その名の通り、白き木馬。艦橋が突き出ていて、その両端に、足のように格納庫が付いている。両舷に3門づつ大型メガ粒子砲が備わっており、それが最大の武器である。
『前大戦で使われていたものよりもかなり大型化されて、運用に困っていたところを私が引き取りました』
秋子がなにか言っているが、祐一はもはや聞いてはいなかった。ただただ、ホワイトベースを眺めている。
と、いきなりスラスターの限界が近いことを知らせる画面が現れ、赤く点滅した。
「ヤバッ」
祐一はグリップを前に倒し、取り合えず前に進んでみる。
しばらく行くと、白い装甲の一角がポッカリ開いているところを見つけた。
「あそこか!」
祐一は、さらにペダルを踏み込み、急加速。
そのまま一気に穴まで突っ込んで行った。
『祐一さん、そのままでは格納庫の天井に激突してしまいます。スピードを緩めてください』
秋子に言われるまま、祐一はスピードを落とす。
アイゼルンは、スピードを落としつつ、穴に入っていった。
それを確認したのか、ホワイトベースは南へ転進。
全速で、空を駆けた。
祐一は格納庫に入るなり、まず首を傾げた。
「……新幹線?」
祐一のアイゼルンの前には、四両編成の新幹線が置いてあった。
「さらに、アレは?」
右を見てみれば、そこには大型のドリルを二個付けた戦車のような四角いものが鎮座している。
「……なんなんだ?」
まるで状況が飲み込めない。
『祐一さん、すぐに予備弾倉を装備してください』
秋子の声を聞き、祐一は思い出した。
「そういえば秋子さんは、来ないんですか?」
『私は、もうこのホワイトベースに乗っていますよ』
画面の中の秋子は、にっこり微笑んだ。
そんなバカな、と祐一は呟いた。さっきまで、秋子は自分と一緒に体育館にいたじゃないか?
「……いつの間に?」
『いまは、それについて説明している場合ではありません。この艦はこれから、日本列島の南の端まで一気に飛びます。到着まで、二時間と掛かりません。それまでに、祐一さんはそのアイゼルンの使い方を完全にマスターしてもらいます』
秋子はキッと祐一を見た。祐一はただ、頷くしかなかった。
『いいですか。そのアイゼルンの最大の武器は、両腕のステークです。しかしこれは弾数が6発ずつ、計12発しかありません。しかも、同時に複数の敵を攻撃できないので、肩に巨大なクレイモア――指向性特殊地雷が積んであります。それは、秒間10000発のチタン製ベアリング弾を発射するとても強力なものですが、これも弾数は4発。使いどころはしっかりと見極めてください。頭の角――ヒートホーンですが、これはそれなりの強力ではありますが、敵にしっかりとくっついてからでしかまるで効果を発揮しないので、敵に隣接し過ぎて逆にやられないようにしてください。装甲は、かなりのものですから、ダメージはそんなに受けないと思います。対ビームコーティングもしてありますから、ビーム攻撃に対してはそれないりに対応できます。祐一さんの反応速度に追いつくために、マグネットコーティングも施してありますから、操縦に違和感は感じないはずです。その機体での戦闘方法は、胸のマシンキャノンで敵をけん制しつつ、フルブーストで敵に一気に近づき、至近距離で敵を撃破することです』
わかりましたか? と秋子は聞いてきたが、祐一は頭がこんがらがりそうだった。
「そんなに一気に言われても……」
『そうですね。でも、祐一さんなら大丈夫です。ちゃんと味方もいますから、援護はしてくれます』
そういって秋子の顔がモニタから消え、代わりにかなりゴッツイモビルスーツが画面に現れた。
『それは、パンツァーガンダムといいます。直訳すると、戦車ガンダムというものです。その名の通りに巨大なカノンを4門装備し、キャタピラで移動します。装甲は、アイゼルン以上で、まず、これの撃破はムリです』
「なら、全部それに任せればいいじゃないですか」
『そうもいかないんです。敵は、……そういえば、敵の説明もまだでしたね。同時に敵の説明もしましょうか』
秋子がそう言うと、画面に3体の生物らしきものが映された。
虫のようだが、肩のところに明らかにカノンらしきものが付いている。
『それらが、祐一さんの戦ってもらう人類の敵です。どこからやって来たか、目的はなんなのか、それらは一切不明です。ただ、これらは人類にいきなり攻撃を仕掛けてきました。祐一さんが朝見ていたニュースで、町が消えたと言っていましたね。あれは、それらの仕業です』
祐一は、画面に映し出されている虫のような生物兵器を見て、嫌悪感を抱いていた。怒りにも似た、嫌悪感。こいつらに、ひとは殺されているのか?
『それら3体は、空を飛んだり地を這ったりして襲ってきます。パンツァーガンダムは、それらを倒すべく作り出された、まさに地上最強のモビルスーツでした。ですが、それが先日破られました』
秋子はそこで一旦言葉を切った。
祐一は、ただ黙って秋子の次の言葉を待った。
『それらは、進化します』
「?!」
祐一の目が見開かれる。画面が、切り替わったのだ。
そこに映し出されているのは、さっきまでの3体とは違った、虫は虫でもなんとなく軟体生物を連想させるヤツだった。
細長い胴。頭の方には、巨大な牙。尻尾の方には銃らしきものがついている。
『先日、突如としてそれが現れ、パンツァーガンダムは、それの前に惨敗をしました』
「どうして、ですか? さっきの3体よりも、こっちの方が弱そうじゃないですか?」
『そうですね。おそらく、それはさっきの3体ほど装甲も厚くは無いですし、遠距離からの攻撃も出来ません』
「……なにか、あるんですか?」
そこまで弱そうなのに、そいつに地上最強のモビルスーツは敗れたのだ。
『その敵は、地に潜り、地中から奇襲してくるんです』
え、と祐一は思った。それだけで、それだけで敗れたのか?
『パンツァーガンダムは、その名の通り、戦車そのものです。分厚い装甲、そして圧倒的な火力、キャタピラでの移動。前後左右、もちろん上からの攻撃に関しては、文句なしです。でも、戦車は縦の攻撃に非常に弱いんです』
「あ……」
祐一も、聞いたことがあった。戦車を倒すならば、縦の攻撃だ。
『どんなに分厚い装甲でも、下からの攻撃で倒されてしまえば、後は袋叩きです』
そこで祐一さんの機体です、と秋子は続けた。
『祐一さんのアイゼルンならば、地中から姿を現した瞬間にそれを引きずり出してステークを打ち込めます』
姿を現した瞬間にそれを掴んで引きずり出す……。それは容易なことではないと祐一にも理解できた。
『これから祐一さんが向かうところには、敵はすでに30体はいます。先行していったパンツァーガンダムの部隊もまだ何機か残っていますから、それらに援護してもらい、祐一さんは一気に突撃してください』
そこでモニタは、敵の図から、地形の図へと変わった。
小さな島が映し出された。西と東に一直線に伸びた、細長い島で、山がそれを二つに分けていた。
『この島は
下甑島 といって、九州の鹿児島県の甑海峡の南にあります。私たちはいまから下甑の釣掛崎 というところに行き、尾岳を挟んで西側にいる敵を攻撃します。先ほどの連絡で、敵はもうすでにかなり釣掛崎の方まで進行しているらしいので、着いたらすぐに戦闘です』( 覚悟して置いてください、と秋子は祐一に言うが、祐一はもう混乱しっ放しだった。
この日本で、本当に戦闘が行われていて、そこで人が死んでいる。その事実は、想像以上に重かった。
「秋子、さん……」
祐一は、やっとのことで、それだけを呟いた。
『なんですか?』
「…………」
しかし祐一は、そこから先の言葉が続かない。
なにを云っていいかが、いまの祐一には分からなかった。
『……祐一さん、もうあと3分で到着です。話は、帰ってきてからにしましょう』
「わかり、ました」
『祐一さん』
強い口調だった。
「はい……」
『生きて、帰ってきてくださいね』
「……はい」
頷き、祐一は壁に取り付けられていたアイゼルンの予備弾倉を腰に取り付けた。
そこは、まぎれもない戦場だった。
レーダーには赤い点と青い点がいくつもあり、それらがせわしなく動き回っている。
『祐一さん、心の準備はいいですか?』
心の準備なんて、まだぜんぜんだ。聞きたいことは山ほどあるし、やり残したことなんて、それの万倍とある。もしかしたら生きて帰って来れないのかもしれない。それなのに、心の準備なんて……
『祐一さん』
「はい」
『……カタパルトに乗ってください』
祐一は言われるまま、アイゼルンをカタパルトへ乗せる。
カタパルトから見える光景は、箱の中から空を見上げて見える光景と一緒だ。
一面の青空。
それと、秒数を逆算していく電光掲示板。
5、4、3、
数字はどんどん小さくなっていく。
それを見て、祐一の心もだんだんと落ち着いてきた。そして、
2、1、0!!
ドンッ!!
アイゼルンに一気にGがかかる。祐一の身体がシートに沈み、アイゼルンは青空を突き抜けた。
足元の地上が近くなるにつれて、敵の姿、それと戦う人間の姿が見える。
敵は、20メートル以上もあろうかという、巨大な虫だった。
巨大な虫が、巨大なカノンを背負って地を這い、空を飛んでいる。
「…………」
まるで悪い夢のようだ。
しかし、それらは現実だ。紛れも無い、現実なのだと、祐一は自分に言い聞かせ、ペダルを踏み込んだ。
17個のスラスターが一気に火を噴き、祐一の機体は降下から、ガクンと機体を揺らししばしそのまま水平に飛ぶ。
そして、目の前に山を確認し、グリップを下げ、その山の麓に着地。
素早く振り向く。
これで、背後を取られる心配は無い。取り合えず、敵を……
ビーーーーッ!!
「?!」
いきなり、危険を促す警告音がコックピットに響く。
こんな音まで、バーニングPTと同じだった。
「ロックオンされてる! ど、どこから?」
――正面!!
祐一はスティックを右に倒す。
アイゼルンはスラスターを吹かし、右へ跳んだ。
「いきなりか!!」
しかしまだ敵は執拗にアイゼルンを追いかけてくるようだ。
ここに至って、祐一は自分を狙っている敵の姿を確認出来た。
例えるならば、蟻。巨大な戦車砲を2本背負っているアリだった。
こいつが――
祐一ははじめて見る敵に、寒気がした。まるで意思というものを感じさせない、ガラスのような眼。それが、真っ直ぐ、祐一のアイゼルンを捉えている。
「こいつが、人類の――敵ッ!!」
祐一は、ペダルを踏み込み、スティックを前に倒した。
「このー!!」
アイゼルンは、敵に一直線に突っ込んでいく。
敵が、背負っている戦車砲を発射させる。
しかしそれらは、アイゼルンをかすめるだけで、当たりはしない。
「直撃をもらわなければ!!」
背後でさっき発射された弾が爆発し、その爆風によりさらに加速。
「うわぁーーーー!!」
祐一は、右のスティックを倒したまま後ろに引いた。それに合わせて、アイゼルンが右腕を引き、攻撃態勢に入る。
「くらえっ」
敵をロックオン。眼の前が、敵いっぱいになる。射程距離に入ったことを知らせる電子音が、響く。
いまだっ!
祐一は、右のスティックを素早く握りなおし、左のスティックを後ろに引くのと同時に、力一杯、右のスティックを前に押し出した。
ズンッ!
敵の頭に、ステークが突き刺さる。
『グシャアアアァァァ!!』
この世のものとは思えない、断末魔。
祐一は、躊躇うことなく、右のスティックのボタンを押した。
ズドンッ!!
ステークが、打ち出される。
祐一は素早く右腕を引き、そのまま後ろへ跳んだ。
ゴウゥゥンッ!!
爆風が巻き起こる。
「た、倒したのか?」
まるで実感が無い。
祐一は呆然と煙を眺めていた。しかし、敵はひとつではない。
ビーーーーッ!!
またしても、警告音。
次から次へ!
今度は、背後だった。スティックを右へ倒し、ペダルを踏み込む。
アイゼルンはその場で急旋回。それがいけなかった。
ドンッ!
「うわぁ!」
敵の砲撃をまともに喰らい、アイゼルンは後ろへ下がる。
揺れるコックピットの中で、祐一は眩暈に襲われていた。頭を振り、それを追い払うと、祐一はモニタに映る敵を確認する。
それは、さっきのアリとはまた違った虫のようだった。たとえるならば、
「カブト虫?」
いや、クワガタだ!
二本の角が前に突き出していて、その二本の角の間から、さっきの砲撃をしてきたのだ。
クワガタが、動く。
来る!!
さっきの砲撃がもう一度来ると判断し、祐一はスティックを今度は左に倒す。
左に滑るように移動しながら、祐一は生まれてはじめてビームの攻撃というものを見た。
シュン!!
と光が走り、木々が一気に焦げる。燃えるを通り越して、炭になってしまった。
「あの攻撃に、こいつは耐えたのか?」
改めて、アイゼルンのすごさを実感する間もなく、祐一はペダルを踏み込んだ。
クワガタがこっちに向き始めたのだ。
「させるか!!」
クワガタとアイゼルンの距離は100。
一気に詰めれば、間に合う!
祐一はスラスターを全開に吹かす。
フルスロットルで、アイゼルンはクワガタに突っ込んでいった。
さっきのカタパルトからの発射時のようなGが祐一に襲い掛かる。
「――ッ!!」
それでも、祐一はスティックを前に倒し続けた。
クワガタが眼の前に迫る。そして、
いまだっ!!
ズンッ!
アイゼルンのヒートホーンがクワガタの角の付け根に突き刺さる。
「まだだぁ!」
祐一はアイゼルンを踏ん張らせ、ヒートホーンを突き刺したまま立ち上がった。
平べったいクワガタの腹部が丸見えになる。
「くらえッ!」
ズガガガガッ!
胸部のマシンキャノンを容赦なく、そこに打ち込んだ。
いくらけん制用とはいえ、65ミリの鉄の銃弾である。
コンクリートも紙のように打ち抜くそれは、クワガタの腹も打ち抜いた。
『クシャシュシュシュ!!』
しばらく暴れていたクワガタも、ピクリとも動かなくなる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
いつの間にか汗をかいている。ゲームでは、一度も汗なんてかかなかったのに。
「つ、次……」
祐一はヒートホーンに突き刺さったままのクワガタをどかした。
その瞬間に、
ズドンッ!!
「なッ――!!」
またしても、遠距離からの射撃。
後ろを振り向くと、山の上にさっき倒したアリと同じヤツがいた。
「まだ、いるのか!」
そいつに突っ込もうとした瞬間、さらに――
ドンッ!!
今度も背中からの衝撃。
――挟まれた!!
いくら装甲が厚いとはいえ、このまま前後から撃たれるのは良くない。
「なら!」
と、先に山の上から撃ってきたヤツにアイゼルンを向かせる。レーダーを見ると、敵の距離はどっちも一緒だ。
行くぞ!
祐一がペダルを踏み込もうとした瞬間、またしても警告音。
「そんなこと!」
いちいち気にしていてはキリが無い。祐一はペダルを踏み込んだ。
ガンッ!!
その瞬間、アイゼルンは前のめりに倒れた。
「なにが?!」
祐一は慌てて足元を見る。と、そこには大きな穴があった。
「あ、穴ぁ?」
まさか、と祐一が思った矢先、倒れこんでいるアイゼルンを押し上げる形で、地面が盛り上がった。
ヤバイ、と思ったときには遅かった。
アイゼルンは地中から現れたあの細長い敵の牙に捕まってしまった。
「くそっ」
スティックを動かしても、アイゼルンは空中でもがくだけで、牙からの脱出が出来ない。
「それなら!」
ステークを打ち込もうとスティックを引いた、と、
ズドンッ!!
空中で無防備のアイゼルンに、まわりの敵は容赦なく攻撃してきた。
「な、仲間もいるじゃないか!?」
人間の言葉を理解できるとは思えなかったが、祐一は叫ばずにはいられなかった。
ズドンッ!!
砲撃は、容赦なくアイゼルンに打ち込まれていく。
その度に、耳障りな電子音と、赤いランプが点滅する。
「こ、このままじゃ……」
祐一は胸部マシンキャノンを発射するが、敵の細長い身体はその射線から完全に外れているため当たらない。
ペダルを踏み込んでみても、牙がしっかり食い込んでいてまったく身動きが出来ない。
「このままじゃ……」
祐一の脳裏に、厭なものが浮かんだその時、
『祐一さん!』
聞き覚えのある声が、祐一の耳に届いた。
そして、
バシュ!!
『ギシャー!』
モニタに、紫色の何かがかすめたと思ったら、敵の牙が外れた。
『いまです!』
その声に従い、祐一は地面に降り立つと同時に、ステークを敵に打ち込んだ。
『一発では、倒せません』
冷静に、そんなことを告げてくるさっきとは違うしかし聞き覚えのある声。
祐一はその声に従い、ステークを3発打ち込む。
ズドンッズドンッズドンッ!!
連続で打ち込まれた3本のステーク。それらが爆発し、敵の細長い胴体は真っ二つに折れて、それっきり動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
肩で息をし、一回大きく空気を吸い込み、吐く。
だいぶ落ち着き、祐一はそこで声を出した。
「佐祐理さんと、天野……だよな?」
『あははー、なんとか間に合いましたね』
『相沢さん、私も別に、名前で呼んでもらっても……』
声の主は明らかに、佐祐理と美汐だった。
Number01 END
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