前置き。
この小説では、完全オリジナルなストーリでスパロボシリーズを基盤にKanonをやっちゃいます。主にネルガル重工やアナハイムは出てきますが、他はほとんど出てきません。
また、精神コマンドを完全な技として解釈してください。
妄想の小部屋[スーパーロボット的なKanon]
――DOUBLE NUMBER――
地球を襲った二つの隕石。
それが、それらが全てのはじまり。
Number02
〜戦火〜
コックピットのシートで、祐一は混乱していた。
状況がまるで飲み込めてない。どうして佐祐理さんや天野がいるんだ? しかも、あの……あの見たことも無いロボットは、何だ?!
祐一のアイゼルンの前には、美汐の機体――エステバリス・AQUA(アクア)がその深く蒼い、まるで戦場に似つかわしくない色で佇んでいた。両手でラビットライフルを持ち、アイゼルンを見ている。なんともスマートな機体だった。まるでムダというものを感じさせない、細い外見。祐一は知らないが、その外見フレームは前火星大戦で活躍したテンカワ・アキトの機体の後継機・ブラックサレナに手を加えたものだった。
『相沢さん、私は供給されるエネルギーの関係上、祐一さんについていくことが出来ません。ですから』
と、AQUAの頭が天を仰ぐ。
祐一も、つられて天を仰ぐ。と、そこには一機の戦闘機が飛んでいた。
「あれは……?」
『あははー。これは、佐祐理の機体で、Z+Cって言うんですよー』
その銀色の戦闘機は、あたりにミサイルの雨を降らせながら大空を旋回していた。
「一体、どうして佐祐理さんや天野が……」
『相沢さん、私も名前で』
『その説明は、いまは出来ません。いまは、佐祐理と一緒に尾岳を越えることに専念してください』
聞こえてくる声は、やはり美汐と佐祐理のものだった。いつもとかわらない、落ち着いた声と明るい声。それらが、この戦場にはどうしても似つかわしくない。
「……でも、どうして」
祐一は呟かずにはいられなかった。
自分だけならまだしも、という思いが急にこみ上げてくる。どうして二人が? 普通の女の子じゃないか!
ガンッと、祐一は拳をモニタに叩き付ける。怒りが、確かにいまの自分の胸中にある思いは、疑問よりも大きな怒りがある。
…………。
そんな怒りをぶつける相手は、いまはこんなにもいるじゃないか。
不意に、そんな考えが浮かぶ。それは、眼の前にまたしても敵――アリ型で大砲を背負ったヤツを見つけたからか、それとも……
「ッ!!」
その真意を図る前に、祐一は敵に突っ込んでいった。
ペダルを踏み込み、スティックを前に倒し、右のスティックを倒したまま後ろにスライドさせる。
轟ッ、とスラスターは炎を上げ、アイゼルンに爆発的な推進力――突進力を与える。
粉塵を巻き上げ、アイゼルンは敵に突っ込む。
「このっ」
祐一は後ろにスライドさせていたスティックを前に押し出す。
ズンッ!!
敵の腹に、ステークを突き刺し、祐一はスティックのボタンを親指で押す。
ズドンッ!!
敵にステークが打ち込まれる。
爆発が起こるよりも早く、祐一は後ろへと飛び退る。
叩き付けるような爆風を受け、アイゼルンのコックピットが大きく揺れる。その振動の中で祐一は、
「分かった……。行こう、佐祐理さん」
自分でも分からないが、何故か微笑んでいた。
山を登るのは容易かった。
後ろは美汐のAQUAが守っていたし、空からZ+Cが援護していたから、頂上まで行くのはさして苦ではなかった。
残った美汐のことが気がかりだったが、美汐の機体にはディストーションフィールド――祐一はバリアと理解した――が付いていて、敵の攻撃をまるで受け付けないその姿を見れば、それらはまるで取り越し苦労だったと理解した。
しかし、問題は頂上にたどり着いてからだった。
祐一のアイゼルンが頂上から敵の本陣である島の西側を見た瞬間に、集中砲火が襲ってきたのだった。
ガンッ!
アイゼルンが、敵の砲撃をまともに受け大きく揺らぐ。
「ッの!」
なんとか体制を整えたが、そこまでだった。
「これじゃあ、西側になんて行けないじゃないか……」
レーダーには、敵を示す赤いマーカーが十五はある。
これから、ここに突入するなんてムリなんじゃないのか? 現実問題としての不安が、祐一に圧し掛かってくる。
『祐一さん、行きましょう』
頭上を旋回して敵の様子を伺っている佐祐理が、急に口を開いた。
『このままでは、佐祐理も格好の的です。空の敵は佐祐理が全て引き受けますから、祐一さんは地上の敵だけに専念してください』
「ちょ、ちょっと佐祐理さん?!」
『佐祐理は、祐一さんを信頼しています。……祐一さんも、佐祐理を信じて下さい』
言うなり佐祐理の駆るZ+Cは山を越えた。
「なっ!!」
あまりに唐突な出来事で、祐一は言葉を失ったが、
「……信じて、くださいか」
その言葉は何故か、それだけで信じるに足るものだと、祐一は思った。
疲れが吹き飛び、祐一の心に安心感が生まれる。そうだ、戦っているのは俺だけじゃない。佐祐理さんも、天野も戦ってるんだ。
祐一は、ペダルを踏み込んだ。
「行って……みるさ!!」
そこは地獄だろう。敵が、自分の十倍以上いるのだから。
しかし、そこに行くのは一人じゃない。
「佐祐理さんも、天野も戦ってるんだ!!」
ペダルを踏み込む足に力を込める。
握るスティックに汗が滲んでいたが、いまではそれすら心地よかった。
「うわああぁぁぁ!!」
アイゼルンが、地を蹴った。
そのまま空中でスラスターを全開。
17個という、常識外れな数のスラスターが一気に全開になり、赤き弾丸となった祐一の駆るアイゼルンは山を滑っていく。
ドオンッ、ドオンッ、ドオンッ!!
断続的に聞こえて来る爆発音。しかし、どれももう祐一のアイゼルンには当たらない。
いまは……いまはもう迷わない!
さらにペダルを踏み込む。スラスターが限界点を超えようとしている。ノズルが焼け付こうが、もう関係ない。
「そうだ……関係ないんだッ!」
目の前に迫る敵の軍団に、祐一は突撃した。
敵は固まっている。山の向こう側に絶えず砲撃をするため、固まっていたのだろうか? そんな考えもよぎるが、いまはそれどころではない。
いまだ、いまがチャンスなんだ。そう、言い聞かせる。
このアイゼルン最大の武器――クレイモア。それを使うには、いましかないッ!
祐一は、ペダルを踏み込みながら左手でスティック横のガラスで守られているボタンを、叩き、押した。
ビィーーーーム!!
機体を固定しろ、とのメッセージが表示される。祐一は指示通り、敵の軍団の目の前で機体を停止させる。
ミシリッ。
足の間接フレームが、猛スピードからの急停止に耐え切れず悲鳴を上げる。それでも、祐一は機体を固定しようとブレーキペダルを踏み込む。力いっぱい。
ガガガッ、と大地を削りながらも、なんとかアイゼルンは敵の軍団の目の前で停止。
祐一は機体を固定する。足を踏ん張らせ、両手を腰に当てる。
まるで無防備のアイゼルン目掛けて、敵が押し寄せる。さっきまではいなかったのに、ここぞとばかりに敵がアイゼルンに押し寄せて来た。
それを見て祐一は笑いを、止められなかった。
「好都合だ……」
敵をギリギリまで引き付ける。砲撃が来ようとも、固定されたアイゼルンは微動だにしない。
すさまじい砲撃にアイゼルンの装甲が剥がれ、内部が見え出す。コックピットの警告音は引っ切り無しに鳴っている。
高鳴る鼓動に合わせ、敵がさらに近づいて来る。
いまだッ!!
ロックオン完了の電子音。
そして祐一は、両スティックのボタンを、同時に押した。
「抜けられると……思うなッ!!」
叫ぶ祐一、そして――
ズガガガガガガガガガガッ!!
秒間一万発で、チタン製のベアリング弾が広域に発射。
『!!』
『キャシャー!?』
その一秒にも満たない掃射で、敵は沈黙。
「…………」
目の前には、敵の体液と思しき液体が散らばり、そして敵の残骸が山を成していた。
「やった……のか?」
シートにうずもれながら、祐一は呟いた。
『やりましたね、祐一さん!!』
佐祐理の歓声が聞こえてくるが、祐一はただただ呆としているだけだった。しかし、まだ敵はいる。
ズガンッ!!
直後、祐一の機体は倒れた。
「?!」
直撃弾だ、と気づく前に、さらに警告音が響く。
下か!!
二度も同じ轍は踏まない。祐一はアイゼルンを素早く起こし、バックステップ。それと同時に、地面からあの細長い敵が姿を現す。
「ここだッ!」
祐一は敵に突進。
ステークをその腹にブチ込み、発射。しかし、一発しか出ない。
「弾切れ!?」
そうだ、ステークは片方に6発づつだ。気づくや否や、祐一は左のステークもぶち込む。
ズンッ、ズンッズンッ!!
一瞬遅れたが、それでも敵を倒すには十分だったようだ。
『グシャァ!』
断末魔を上げ、胴体が真っ二つに折れる。
「……弾倉を、取り替えないと……」
呟くが、そんな余裕は無い。
すぐに生き残っている敵が、アイゼルンに襲い掛かる。
「っ、の!」
祐一は胸部マシンキャノンを発射。敵が怯んでいる隙に、後退。
少しは時間が稼げたか? 敵はこちらに向かって来る。その距離は200。
敵の射程は、おそらく145。
祐一はステークから空薬莢を落とす。そして、腰に付いている予備の弾倉を取り出し、すぐに装填。
ビーーーーッ!
装填し終わった直後、ロックされる。
「どこから?!」
前方の敵ではない。それなら、
「上か!」
スティックを右に倒し、ペダルを踏み込む。アイゼルンが右に滑る。
瞬間、地面が爆ぜる。
空の敵に攻撃する手段を、アイゼルンは持たない。いや、17個のスラスターを吹かせば、あるいは可能なのかも知れない。しかし、祐一が今までにやってきたバーニングPTには空を飛ぶような機体はない。
空中を高速で移動する敵にどう対抗すればいい? しかも、目の前には依然として大砲アリがいる。
『ハイメガランチャー!』
佐祐理の声が聞こえた、と思ったときには、空には一筋の光の槍が奔っていた。
ニナが心配していた、大気圏内でのビームの威力半減は生じなかった。ビームは真っ直ぐに発射され、祐一の頭上にいた敵は半身を失い、地に落ちた。
『すみません、ハエみたいにすばしっこい敵でしたから。逃げられちゃいました』
あはっ、と言う声が聞こえる。
「さ、佐祐理さんは……大丈夫?」
半ば呆然と祐一は聞いていた。
『はい、佐祐理の方は全然平気ですよ。さあ祐一さん、残った敵を頑張って倒しましょう!』
言うなり、いきなりZ+Cは空中分解した。
「なっ?!」
驚く祐一に目の前に、Z+Cの翼が落ちてくる。
続いて、
『よっと……。なかなか難しいですね、コレ』
そんな声が、聞こえてくる。
祐一はハッと顔を上げた。そこには、空中分解したと思われていたZ+Cが翼を無くした状態でもがいていた。
――もがく?
飛行機に、手足でもあるのか?
いや、あった。
祐一は知らなかったのだ。Z+Cが、可変型であるということを。
「そんな、バカな……」
呆然と呟く祐一の眼前で、Z+Cは飛行機(ウェブライダー形態)からロボット(モビルスーツ形態)へと変形した。
『……っと。さあ祐一さん、行きましょう!』
佐祐理が、Z+Cのモビルスーツ形態がアイゼルンの隣にゆっくりと着地した。
『ミサイルが切れてしまったので、佐祐理も行きますよ!』
Z+Cの持っていたハイメガランチャーの銃口からビームが、発射されずに、サーベルのような形を保ちつつ現れた。
銀色の機体――Z+Cと、赤い機体――アイゼルン(鉄血)。
「さ、佐祐理さん、それって……?」
赤い機体の方はまだ途惑っているようだったが、銀色の機体はやる気満々だった。
『さあ、突撃です!!』
「お、応っ!」
それでも、Z+Cが突っ込んでいくと、アイゼルンもスラスターを吹かして突進した。
敵も、ただ突っ立っているワケではない。砲撃してくる。それでも、敵の数はもうはじめの半数にも満たない。空を飛んでいる敵なんて、もう一体もいない。
それを認識した瞬間、祐一は確信した。
――――勝てるッ!
これはもう、王手だ。
どんな機転を相手が利かそうとも、もうこの勝負の勝敗は揺るがない。そう、確信した。
「うわああぁぁぁ!!」
祐一は胸部マシンキャノンを乱射しながら、敵へと爆進した。
闇の中、ホールの中央の壇上だけに明かりが降り注いでいた。
そこには秋子がひとり、立っていた。
『初陣にしては、良い方ではないかね?』
どこからか、高圧的な声が聞こえてくる。
「…………」
秋子は無言で、目の前に広がる闇を睨んでいる。
『INSECT――太陽系列外宇宙生物を30体相手に、こちらの人的被害は一桁に収まった。これは、快挙だよ』
全てを数字の上でしか判断できない者の戯言を、秋子は胸を締め付けられる思いで聞いていた。
『しかし連合長。こちらはパンツァーガンダムを12機も失っています。これで良い、とはとても思えません』
別の男の声が聞こえてくる。
『連合軍は、自分たちの開発したモビルスーツを過信していただけ、ではないのですか?』
さらに別の男の声。この声の発言に、連合長に意見した男が激昂した。
『どこの文明かも分からんものを使う輩に言われたくはないわ!!』
『言ったな! いつまでも過去の栄光に縋っている軍ごときが!』
『黙れっ! そもそもこの会合に民間会社が参加していることが間違いなのだ!!』
『――静粛にしないか』
鶴の一声。
『――!!』
『?!』
連合長と呼ばれた男の一言で、二人はたちまち押し黙った。
『……勝った事は事実だ。とにかく、今日のところはもう下がりたまえ』
「はい……」
秋子は頷くと、踵を返した。
『待ちたまえ』
「……」
秋子は立ち止まるだけで、振り向こうとはしなかった。
『次の出撃は、三日後。ギルギットに向かってもらう』
ギルギット――パキスタンの首都・イスラマバートの北北東に位置し、中華人民共和国とパキスタンを分けているカラコルム山脈の麓に位置している町。北にはヒンドゥークシ山脈とパミール高原がある。南東に下っていけば、ガンダーラ仏跡もある。
そこへ、行けと言われているのだ。
「……わかりました」
秋子はそれだけ言うと、闇の中へ消えていった。
廊下を歩いていた秋子は、意外な人物と出会った。
「あら、ネルガルのプロスペクターさん」
「どうもどうも」
プロスペクターは人の良さそうな笑みを浮かべ、秋子に頭を下げた。
「今日は、少しご報告がありまして」
「なんでしょう?」
秋子はいつもと変わらない笑顔。プロスペクターは少しだけ躊躇した後、口を開いた。
「実はですね、エステバリス――BEAST(ビースト)に取り付けるはずだったベクトル・ドライバー、つまりは重力偏向機関なんですが……」
語尾が小さくなっていくプロスペクター。しかし秋子は首を傾げるだけで、なにも言ってこない。
ふぅ、とタメ息を吐くと、プロスペクターは今一度、口を開いた。
「まだ調整に時間が掛かりそうです。理論的には可能なのですが、実現するとなると、勝手が違いますから」
「そうですか」
秋子は頷くと、
「じゃあ、三日後の出撃には間に合いませんね」
冷静に判断を下した。
「そう、なりますね」
すみません、とプロスペクターは頭を下げた。
「あなたの気にするとこではありませんよ。それに、次の出撃では名雪も出ますから」
「名雪さんといいますと、娘さんですよね」
「はい、そうですよ」
秋子は、少しだけ悲しそうな顔になったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「機体の方はあるんですか?」
「ええ、もちろん」
アナハイムのですか? とプロスペクター訊きたかったが、その言葉は飲み込むことにした。こういうのは、あまり検索するものではない、と分かっている。
「いやー、それにしてもいつ見てもお若いですね」
プロスペクターは話を変えることにした。
「あら、もう高校生になる娘を持つ女性に言う言葉ではありませんよ」
秋子は頬に手を当て、苦笑した。それでもプロスペクターは続ける。
「いやいや、お若いですよ」
これは心の底から思っていることだった。
「そのうえ指揮官としても有能ですから、言うこと無しですね」
「そうでもありませんよ。私は指揮官である前に、母親ですから」
「……そうですか」
娘を戦場に送り出す母親の心境など、分かるはずもない。それでも、
「私は、こう見えて昔は正義の味方になりたかったんですよ」
プロスペクターは秋子に話しかけた。
「テンカワくんじゃありませんけど、私も正義の味方になれると思っていたんです。悪者をバッタバッタと薙ぎ倒す正義の味方に」
秋子は、そうですか、と頷くだけ。それでも、プロスペクターは秋子の目を見て。
「私は、なりたかったんです」
なにが言いたかったのだろう? それはプロスペクター自身にも分からなかった。ただ、これだけは言いたかった、言わなければと直感で思っただけだった。
「私は、上官の命令を聞くだけですから。……正義の味方、ではありませんよ」
「そうですか」
「それでは。夕飯の支度がありますので」
「お気をつけて」
秋子を見送りながら、プロスペクターは何故か罪悪感に苛まれていた。
初戦闘では、祐一は大勝利を収めることが出来た。
まだ煙が燻っている大地に立ちながら、祐一は決めた。己の行く末を決めることが出来るのは、最終的には自分自身。
祐一は、決断した。己はこれから、戦いの中に身を置こうと。
そうして、日は暮れていった。
夕日に照らされ、アイゼルンはまさに、血に濡れた鉄の塊に見えた。
「もう、血は見たくない……」
これは戒めだろうか?
だとしたら誰に対する戒めなのだろう……。答えは、終ぞ出なかった。
Number02 END
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