前置き。

 この小説では、完全オリジナルなストーリでスパロボシリーズを基盤にKanonをやっちゃいます。主にネルガル重工やアナハイムは出てきますが、他はほとんど出てきません。

 また、精神コマンドを完全な技として解釈してください。

 

 

妄想の小部屋[スーパーロボット的なKanon]

 

――DOUBLE NUMBER――

 

 

 地球を襲った二つの隕石。

 

 それが、それらが全てのはじまり。

 

Number03

 

〜準備〜

 

 

 

 

「祐一さん、明後日はパキスタンに行きましょう」

「……はぁ?」

 相沢祐一は、朝一番に秋子に言われ、いきなり現実を直視した。

 昨日の戦闘から一日経って、祐一は日常に戻った。いや、戻ったと思い込んでいた。

 名雪の声で目覚め、その声の主を叩き起こし、朝食の席に着く。もう一人の居候、沢渡真琴が戻ってきてから一ヶ月。もうじき卒業式だ。三年生は自由登校期間に入り、祐一たち二年生は卒業式の準備に追われていた。そんな日常が、戻ってきた、と思い込んでいた。

 しかし、朝食の席で秋子の言葉で、祐一は正しい日常に戻された。

「あの、パキスタンと言いますと……」

「中国のお隣の国ですよ」

 この国も中国のお隣だが、東と西のお隣では距離が離れすぎている。

「……なんで、パキスタンなんですか?」

「次の出撃が、そこなんです」

 秋子は事も無げに言い、まだ椅子の上で船を漕いでいる名雪にコーヒーを差し出す。

「だから、祐一さんは今日から学校はお休みです」

 祐一は決意した、はずだった。

 戦うと、心に決めたはずだった。でも、出撃と言われて、祐一の決心は揺らいだ。

 軍に属してしまったのだろうか? 出撃なんて物騒な言葉を、秋子の口から聞くとは思ってもいなかった。

「……決めたのに」

 祐一の呟きは、誰にも聞こえてはいなかった。

 

 

 学校の方へは秋子が連絡を入れ、祐一はひとり、リビングで迎えを待った。

「十時までにはお迎えが来ますから、このしおりを読んでおいてください」

 そう言って秋子に手渡された、しおり。それは、修学旅行のときなどに配られたものに酷似していた。文庫本くらいの大きさで、ページ数は20に満たなかった。

「えっと、なになに……」

 することもないから、祐一は取り合えずしおりを読むことにした。

『見敵必殺』

 一ページ目から、この文字が赤字で太く書かれていた。

「……」

 ノーコメントで、ページを繰る。

『規則』

 目次、は無いようだった。見敵必殺の裏側のページには、規則がすでに書かれていた。

 どんな厳しいものなのだろうか? 軍属ではない、と秋子から言われた祐一だったが、こう具体的なものを見ると、気が滅入る。

『其の壱』

 自然、文字を追う眼のスピードが落ちる。一字一句、なにひとつ見落とさないように、神経を集中する。

『集合場所には、必ず5分前に集合すること。時間厳守!!』

 確かに、どこに行こうとも時間は有限だ。だから、こと時間に関してはどこも厳しいのだろう。

『其の弐』

「……」

『おやつは500円まで』

「……?」

 見間違え、かな。

 しかし、見間違えでは無い。其の弐の項目は、おやつについて書かれていた。

『みかんはおやつに含まない。が、バナナはおやつに含む。右の値段(500円)は当然、日本円換算で、消費税別である』

 しかもそれは手書きだったりする……

「なんじゃこりゃ?」

 さらに読み進めてみる。

『戦艦には、艦長の許可さえあれば、ゲーム機器の持ち込みも可』

 艦長、って誰?

 答えはすぐに判明した。下の段に、書いてあったのだ。

『艦長――水瀬秋子』

 なんとなく、納得。

「いや、そうじゃなくて」

 祐一は自分にツッコむ。

 しかし、納得したのは事実。これ以上、いろいろ悩むのはよした方がイイかもしれない。

「にしたって……」

 しおりには、おおよそ中学校の時の修学旅行の注意書きとしか思えないようなことしか書いてない。

 自由時間についてだったり、日記を書くところがあったり、最後に、一言。

『死は、何も得るものなどない』

 これだけが、この一言だけが現実のような気がした。

 なにはともあれ……

 どうしたものか? もう、覚えてしまった。

 というか、常識しかない。これを覚えろと言われれば、すぐにでも覚えられるだろう。

「ま、いっか」

 時計を見れば、まだ九時半。

 迎えが来るのは十時だという。

 テレビをつけてみる。この時間帯にテレビをつけることはあまりない。

 なんというか新鮮な感じを期待していたのに、やっていたのは夜にやっているバラエティーの再放送しかやってなかった。あとは、推理モノ。しかしこれはもう中盤に差し掛かっていたので見る気も起きない。

 とりあえず、バラエティー番組を流しながら、祐一は思い出していた。

 昨日までは日常だった世界を、思い出した。

 遠い過去を思い出すように……

 

 

 学校に行き、放課後。それは、北川とゲーセンまでバーニングPTで遊びに行くのが祐一の日課だった。

 なんというか、何故か祐一と北川が行くころには空いているのだ。

「よしっ! 今日も出陣だ!」

 北川が、石橋が教室を出るのと同時に祐一の席まで突撃してくる。

 席が後ろなのだから、わざわざ粉塵を巻き上げて来る事は無いんじゃないのか?

 そう思いながらも、毎度のことなので祐一は敢えてツッコまない。

「行くか! 北川ッ」

 応と返事をし、祐一もカバンを肩にかける。

「というわけだ名雪に香里! ふたりは部活を頑張ってくれ♪」

「はいはい、今日も放課後から元気ね、相沢くん」

「祐一、ご飯までには帰って来るんだよー」

 香里の嫌味と名雪のお言葉を聞き流し、爽やかに祐一たちは学校を出て行った。

 そして向かうは商店街のゲーセン。

 大人気のバーニングPTは、何故か今日も二台、都合よく空いていたりする。

「おお、今日もか!」

「そのようだな、北川」

「きっと、日頃の行いがイイ俺たちに、神が与えてくれているものに違いない!」

「そうだな」

 二人で頷きあい、即座に座席に座る。

 なんとも良く出来たコックピット。

 そりゃあ、本物を模した物なのだから当たり前だ。

 正面と、左右にあるモニタ。腰より少し高い位置にある二本の操縦桿。それらは大きくスライドするように作られている。

 そして、手に持った以外の武装を使用するための幾つかのボタン。これらは、機体によっては使わなかったりだ。ペダルは三本。

 隅から隅まで、本物そっくり、だそうだ。本物を見たことのない祐一たちにそれはわからないが、この本物っぽい作りが、人気の一つ。

 そうして、自分の機体を選ぶ。最近出来たばかりの、新機体のデータに、祐一はおもしろい物を見つけた。

『PTX−003C・ゲシュペンストMk−Vアルトアイゼン』

 その赤くて角がついているのが、イヤでも祐一の目に付いた。

「オレはコレだ!」

 祐一は、決定ボタンを押した。

 正面のモニタに、機体のスペックが映し出される。

 装甲は、他のどれよりも高い。だが、遠距離の武装が極端に無い。せいぜい、スプレッドミサイルに三連マシンキャノンくらい。

「……近づいて、このステークを打ち込むのか」

 なんとも、時代錯誤的な機体だ。

 でも、

「キライじゃない」

 誰かの台詞を言ってみる。

『相沢、決まったのか?』

 北川の声が聞こえてくる。

「おう、お前は?」

『オレか? オレはだな……見て驚け!』

 そうするとしよう。

 祐一は、戦闘モードに移行した。

 画面が一度だけブラックアウトし、すぐに森林が映し出される。

 目の前に広がるは、無限の大宇宙でも北川の機体でも無い。ジャングルだ。

「……見えないんだが?」

『ありゃ? 地形の選択をミスったな……』

 間の抜けた北川の声。

『とりあえず、ジャンプするか』

 正面にいることは、レーダーで分かっている。

「そうするとしようか」

 祐一はペダルを踏み込む。

 突進することを前提に作られたスラスターに火が点る。

「あんまし、高く飛びすぎるなよ……」

 一度、ペダルから足を離し、

「いっせーのー、っせ!」

 もう一度、強くペダルを踏み込む。

 

 ズドンッ!!

 

 大地に穴を穿ち、アルトアイゼンは宙へと飛んだ。

「う、うわっとと」

 あまりの急加速に、コックピットが揺さぶられる。なんとも、凝った作りだ。

『おお、高い高い。相沢、見えるかー?』

 すぐに、北川の声が聞こえてくる。

 祐一はモニタを見る。そこには、青い機体が映し出されていた。

『見ろ!! 自分で塗ったんだぞ!』

 どうやら北川は、自分で機体のデータを持ち帰り、家でパソコンでも使って色を塗ったようだ。手に持っている武器も、あまりみかけないものだ。

 祐一もそういうことをしたいが、パソコンが無い以上、そんなことはしたくても出来ない。まあ、基本スペックは変わらないし、外見も色くらいしかいじれないから、持ち帰ったヤツが滅茶苦茶強くなる、ということはない。

「まあ、うらやましくはあるけどな」

 祐一は呟くと、北川の機体に向けて、アルトを突進させた。

『? ちょ、ったんまだ、タンマ!!』

「戦いは、始まってるんだよー!」

 祐一はスティックを押し倒し、突っ込んでいった。

 

 

 いま思えば、あの頃から、全ては決まっていたのかも知れない。

 どうしてもっと疑問に思わなかったのか?

 いつも空いていた2個の箱体。そして、次々に入ってくる新機体。

 過ぎたことは、振り返れば振り返るほど、後悔しか浮かんでこない。

「でも」

 そうだ。

 例えそれが全て仕組まれていたことだとしても、

「俺は、決めたんだ」

 祐一が頷くのと、玄関の呼び鈴が鳴るのは同時だった。

「…………」

 迎えが、来た。

 これから、祐一は限りなく遠い、日常に向かわなければならない。

 しかし、それがなんだ。

 これが日常ならば、祐一はそれに向かうだけ。

「そう、向かうだけだ」

 祐一は呟くと、玄関に向かい、扉を開けた。

「あ、祐一さん。おはようございます」

「祐一、おはよう」

 …………。

 夢だ。

 これは、夢だ。

 なんでこうも平和な笑顔の佐祐理さんと、いつもの無表情の舞が、こうして立っているんだ?

 夢でなければありえない。

 これは、自分が望んでいたことだ。

 だからこれは――

「さ、祐一さん、行きましょう」

 祐一は佐祐理に手を引かれ、そのまま黒塗りのリムジンに押し込まれた。

 

 

「はっ!!」

 幾ばくかの時間が過ぎた頃、祐一の意識は本人のもとに舞い戻った。

「あ、起きましたか祐一さん」

「祐一、着いた」

 まず眼に入ってきたのは、笑顔の佐祐理と、相変わらずの舞。

 ……お、落ち着け落ち着くんだ俺。

 まずは呼吸を整え、前を見て……

「って、車ん中にいたんじゃないのか?!」

 舞台はすでに、祐一の見知らぬ場所へと移動していた。

 祐一の眼前に広がるは、格納庫。

 そして、真紅の機体――アイゼルンがその中央に鎮座している。

「ここ、は……?」

 それだけを、やっとのことで祐一は口にすることが出来た。

「ここですか? ここは、佐祐理たちの本拠地とも言える場所ですよー」

「……秘密基地」

 本拠地、秘密基地。

 なんとも聞かないものだ、特に前者は。後者は、よく子供が遊び場に付けたりはするが、これは規模が違う。

「秘密、基地?」

 祐一は改めて、周りを見る。

 閉鎖された空間、というわけでなさそうだ。

 場所は地下というわけではないらしい。その証拠に、太陽が照り付けている地面が少し先に見えている。巨大な、車庫だろうか? イメージはそんな感じに違いない。

「で、ここって?」

 祐一は当然の疑問を口にする。

 ここが、だいたいどんなところかは分かっても、ここがどこなのかは祐一には分からない。少なくとも、自分の住んでいる町ではないだろう。

 ……そういえば。

 祐一は自分の腹部をさすってみる。

 何故か、急激な空腹感に苛まれている。あれから、どれだけの時間が経過したのか……

「それにいまは、何時なんですか、佐祐理さん?」

「あははー。ここは、極東支部ですよ。いまはお昼の12時です」

 ……極東支部? どこだ、そこは? それに、

「佐祐理さん、いまって、本当に……」

「え? いまは12時ですよ。ホラ」

 ふらふらとしている祐一に、佐祐理は自分の腕時計を見せた。

 その、短針と長針が一本になっている腕時計を。

「……その時計、昨日電池を変えたばかり」

 さらに、舞が止めとばかりに口を挟む。

「あ、あははー」

 祐一の笑いも、さゆりんチックになっていた。

 

 

 なんでも飛行機でここまで来たらしい、ということを祐一は説明された。

「だから、ここは伊豆諸島の中の八丈島という島なんです」

「はぁ」

 佐祐理にそう云われても、祐一にはまったく実感なんて湧かなかった。

「とりあえず、いまは模擬訓練をしましょう」

 佐祐理はあくまでも佐祐理のペースで話を続けていく。

 このままでは置いていかれるばかりだ!

 祐一は気合を入れなおし、

「とりあえず、その前にここがどういうところか見てきてもいいかな?」

 言葉で説明されてもなんら実感なんて湧かない。百聞は一見に如かずというとおり、まずは見ておくことが大切だと祐一は思った。

 佐祐理や舞は何度もこの島に訪れていたらしいが、祐一は初めてだ。

「そうですね、じゃあ」

 と佐祐理が舞を見る。

 うむここは――

 などとフラグを作ってみたり……

「舞、祐一さんにいろいろ案内してあげて」

 そのフラグは成り立たなかった。

 

 

「……ここが、調理場」

 こんな調子で、舞は淡々と祐一に施設内を案内していた。

 とりあえず施設内は全て回ったということだったが、そこに行きそこがどこであるかを説明されてばかりだった気が……、などと祐一は思ってみたり。

「中は分かったから、外も案内してくれよ、舞」

「……はちみつクマさん」

 一瞬だけ、舞が笑ったのを見た気がする祐一であった。

 そうして施設を出ようと扉をくぐろうとした時、

「君が、アイゼルンのパイロットか?」

「?」

 祐一はいきなり呼び止められた。

「あの、あなたは……」

 祐一を呼び止めたのは、若い男だった。

「……キョウスケ、少尉」

 舞はその人物を知っているようだった。

「少尉?」

 階級があるということは、軍属の人間だということだろう。

 祐一は少し身構えた。

「ああ、そういえば初対面だったな」

 キョウスケと呼ばれた男は、祐一よりも背が高くガタイもいい。見るからに軍人という感じだった。

 キョウスケは腕を組み、祐一を見下ろす。

 なんとなく値踏みをされているようで、祐一はイヤな気分になった。

「あの、俺になんの用ですか?」

 自然と、口調がキツくなる。

「いや、気にさわったのならすまない。だが、一応オレの機体を譲った男だからな」

 キョウスケの言葉は、祐一にはよく理解できなかった。

「……祐一の機体は、もともと少尉の」

 舞に言われ、祐一はなるほどと納得した。

 自分の物を譲った相手を見たくなると言うのは、祐一にもなんとなく理解できた。

「まあ、いいさ。そのうち模擬訓練も一緒にするようになる」

 そう言うと、キョウスケは祐一たちに背を向けた。

「あの機体、乗りこなしてみせろ」

 それだの言葉を残し、男は去っていった。

「なん、なんだ……」

 認めてくれた、のだろうか?

 祐一は結局、舞に外を案内されている間ずっと、キョウスケの背中と言葉を思い返していた。

 

 

「それでは、さっそく佐祐理と模擬訓練です」

 基地内に戻ってくると、佐祐理が満面の笑顔で祐一たちを迎えた。

「さあ、このシートに座ってください」

 そういって佐祐理が勧めてきたのは、バーニングPTと同じ造りの箱体だった。

「これって……」

「さあさあ、行きますよー」

 いろいろと疑問を感じていた祐一だったが、佐祐理は強引に祐一を箱体の中に押し込んだ。

「…………」

 中の造りは、アイゼルンとまったく一緒だった。

 ただ、見慣れないレバーが一本、右のスティックの後方に取り付けられている。

『あはは、じゃあまずはこの相手からです』

 佐祐理の楽しそうな声が、スピーカーから聞こえてくる。

「あの、佐祐理さん」

『さあ行きますよー』

 祐一の声を無視して、佐祐理は戦闘開始の音を鳴らした。

 

 ビーーーーッ!

 

 いきなりッ!

 祐一は取り合えずは戦闘に集中することにした。

「相手は――」

 レーダーに感アリ!

 前だっ。

 前方にアイゼルンを突進させる。

 と、

『――遅い』

 ついさっき聞いたような声が、聞こえた気がした。

「ッ!!」

 祐一はスロットルレバーを右に倒す。

 轟ッ。と音を立て、アイゼルンが右に滑る。そこに、

 

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッガッ!

 

 大量のベアリング弾がばら撒かれる。

「これは?!」

 アイゼルンのクレイモアに酷似した攻撃、それは祐一の前方にいた敵が仕掛けてきたもの。

 祐一の相手は、

『初撃を躱したからと、立ち止まるなッ』

 真紅の機体が祐一に迫る。

「あ、アイゼルン?!」

 いや、違う。両腕がステークではない。相手は左腕が三連マシンキャノンになっている。

 ということは――

『そこだっ』

 敵の三連マシンキャノンが唸る。

 

 ダダダダダダダダダダダッダダッダッ!!

 

「う、うわぁ!」

 コックピットが大きく揺れる。何発か直撃を貰ったらしい。

 な、なんで――?

 コックピットの中で、祐一は焦るばかりだった。

 なんで相手がさっきの少尉なんだ?!

 硝煙の向こうに見える真紅の機体。あれはまさしく、アイゼルンのオリジナル――PTX−003C・ゲシュペンストMk−V。

 アルトアイゼンだった。

 

 

Number03 END

 


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