夢と知りせば

 

 

ふわり――

突然だった。

何の前触れもなく、肌を刺すような強い冬の風が木々の間をすり抜ける。

「祐一く・・・」

ぐるりと視界が反転する。すごく速く、だけど緩やかに変わる目の前の景色。

空。どこまでも広がり、蒼く。蒼く澄んだ――

町。さらさらの雪に飾られた、冬特有の色の――

雪。白く塗りつぶされた、輝く地面。

――ごっ。

鈍い音。耳からではなく、自分の体に直接響く。

じわり。

雪の上だからだろう、すごく冷たい。でも同時に頭が温かく感じる。

痛み。痛いけれどあまり痛くないような。全てが曖昧でよく分からない。

起き上がろうとしても、なかなか体が言うことを聞いてくれない。

「祐一君・・・」

自分の中で思っただけなのかもしれない。口から漏れた、か弱い呟き。

なんだか怖い。自分が、ボクが消えてしまいそうで・・・この世からいなくなってしまいそうで。

たす・・・け・・て――

「あゆっ!」

祐一君?

「・・・祐一・・・くん・・・」

微かに、本当に微かに口が動く。本当にボクの体なのかと思えるほどいうことを聞かない。

ぐうっと、祐一君の顔が視界に入る。ものすごく近い。

うぐぅ、なんだか照れくさい。

「・・・祐一・・・君・・・」

――あれ、祐一君泣いてるの?

視界がぼやけてよく分からないのだけれど、涙をぬぐってあげようと手を動かそうとする。

「喋るな!今、病院へ連れて行ってやるから!」

病院?

そういえば、結構前から頭がずきずきと痛む。

「痛いよ・・・すごく・・・」

「分かったから、だから喋るな!」

そういえば何で痛いのだろう。記憶が混乱してよく分からない。

町。

そう、木に登って。祐一君を待っていて。

「あはは・・・落ちちゃったよ・・・」

――もしかしたら最後になってしまうかもしれない。ボクが、ボクとしていることの。

だから、笑って・・・。笑っていなきゃ・・・。

祐一君が、心配しないように――。ボク、たぶん大丈夫だから。

「ボク・・・木登り得意だったのに・・・」

祐一君とボクの二人だけの秘密の場所。二人の学校。

その屋上から見える赤い、赤い町は――心が奪われるぐらいとても綺麗だった。

――最後?お別れ?

つらい。嫌だ。つらい。嫌だ。つらい――

眠気が増してくる、すっと瞼を閉じてしまう。最後に見えたのは祐一君の心配そうな顔。

「でもね、今は全然痛くないよ・・・」

だから・・・大丈夫。心配しないで。

実際、もう痛みは感じない。ずきずきと頭に響いていた危険信号。生きている証。

「ボク・・・どうなるのかな・・・」

そんなことは分かっている。自分のこと、ボクの体のことだもん。

だけど、現実を認めたくはなかった・・・。例え、変え様のない事実だとしても――

「痛くないんだったら、絶対に大丈夫だ!」

「・・・うん」

――そうだと・・・いいな・・・。

「・・・あれ・・・」

微かにだけど動くことができた身体。

「・・・あはは・・・」

何がおかしかったのだろう・・・、自分に訪れる現実か、それとも――

「・・・体・・・動かないよ・・・」

「俺が、連れていってやるから!」

もう・・・だめ。だめなんだよ・・・。

「だから、動かなくったっていいから!」

「・・・でも・・・動けないと・・・遊べないね・・・」

確実に近づく刻。

瞼に、じわりと暖かいものがたまる。涙――

「・・・祐一君・・・」

いつか・・・もし・・・奇跡が起きたのならば。その時は――

「・・・また・・・ボクと遊んでくれる・・・?」

「・・・・・・」

帰ってきたのは沈黙だった、でももしかしたらうなづいてくれてるのかもしれない。

もう一度、瞼を開こうとするけれど・・・叶わない。

すると。いきなり、手に温かい感じが広がる。

手。自分の手を包む暖かい、祐一の手。

それが、答え。

「・・・嬉しいよ・・・」

心に溜まっていた不安が消え、ほんの少しの希望が胸に残る。

「・・・約束・・・してくれる・・・?」

ぎゅっと、手に力が加わり。手に、心に暖かいものが広がる。YES――

「・・・だったら、指切り・・・」

ちょっと前と変わらないような・・・指切りを・・・。

また会える、そんな嬉しさが込みあげてくる。

・・・指切り?

「・・・えっと・・・」

忘れていた。ほんの少しの時間だけど。忘れられた。

ボクの体。少しも・・・動かないこと――

「あはは・・・手が動かないよ・・・」

死が、永遠の別れが近いこと――

「動かないと、指切りできないね・・・ボク・・・馬鹿だよね・・・」

言うと、すぐにぐっと強く、強く手を握られる。痛いぐらいに強く――

自分の小指に絡む小指。

「ほら、これで指切りだ・・・」

約束。誓い。破ったら針千本だよ、本当に飲んでもらうんだから――

「ちゃんと・・・指切りしたぞ、あゆ・・・」

きのせいか、祐一君の声が震えている。何かを・・・堪えるように

「・・・約束だから・・・」

「うん・・・」

ささやかな・・・希望を。儚く溶ける雪のような奇跡を信じて――

「・・・約束、だよ」

――最後だから、さいごだから笑っていなきゃ・・・。

大好きな人に、誰よりも愛しい人に――自分なりの、精一杯の笑顔を捧げよう。

「あとは、一緒に・・・切る・・・」

途切れ途切れの声。祐一の声。

薄れていく意識。眠い。眠たい。

「・・・ら・・・たん・・・」

眠ろう。そして、夢を見よう。

いつまでも、いつまでも。

夢の中で祐一君とまた・・・出会って。

「・・・指・・・・・・ろ・・・」

再会は、この場所で。

そして、きっと――

「・・・・を・・」

――幸せに。

「・・・・・」

7年前。この時。

ボクの中の全てが止まった。

思い。

時間。

記憶。

全ては夢の中に。埋もれた。

7年前の、心の中にしまっておくにはあまりに辛い真実――

 

 

 白い場所。白い空間。

雪景色と言うわけではない。いや、そもそもこの世の場所ではない。

意識体。夢の中。それなのになぜ・・・ボクはここにいる?

記憶。

それは過去のものではない、高校生として祐一君と過ごした記憶。

楽しかった。かけがえのない思い出。

罪悪。

好きだった。誰よりも、祐一君を。

7年前も、そして今現在も・・・。

だけど、ボクは祐一君と一緒にいてはいけない存在、存在なのだ。

過去の記憶。7年前の記憶。開けてはいけないパンドラの箱。

あの場所、今は切られてしまった大木を見て。封じていたはずの全てを思い出した。

確かに、ボクは死んだのだ。死んでしまったのだ。

罪。

自分のわがままのために、祐一君の前に現れてしまった。

あの時。祐一の気配をこの町で感じたとき。もう一度だけ、一緒にいたいと願った。

思い。

祐一君への思い。だけどそれで叶う幸せは一時的なもの。

後で絶対に後悔する。前よりもずっと悲しくなると、分かっていたはずなのに――

ボクは消えゆく存在なのに、春になったら解けてしまう雪のように儚い影なのに――

祐一君を、再び好きになってしまった。それは、きっと祐一君もそう。

あのときの祐一君は知らなかった、いや忘れようとして心の奥にしまっていた。

けれど・・・きっと、気づく。ボクがもう――この世にはいない人だと。

 祐一君は悲しむだろう。悪ければ立ち直れないかもしれない。

それでも、すこしでも絆が薄いうちに忘れてしまおう。忘れてもらおう。

そうしなければ・・・お互い、辛くなるばかりだから――

 胸を締め付ける思い。胸に突き刺さる思い。

「うぐっ・・・うぐっ・・・」

涙があふれる。止めようとしても止まらない。

「悲しいことがあっても、自分の都合のいいように考えていつも前向きに」

いつだったか言った、祐一君の言葉。

自分にとって都合のいいように・・・。

前向きに・・・いつも、いつも・・・。

「ねぇ、祐一・・・君・・・この場合は・・・どう考えればいいの・・・」

答えは返らない。誰もいない空間に泣く音だけが響く。

悲しさが胸から溢れる。いっそこの身体を引き裂いてしまえたらどんなに楽だろう。

「もう、会えないと思うんだ」

ボクの言ったこと。そして。紛れもない真実。

「せっかく再会できたのに」

約束、指切り。7年前の誓い。

「ごめんね、祐一君」

遅すぎた、全てが遅すぎた。もっと早く気づくべきだった、自分の過去に。

そうすれば・・・すこしは悲しくはなかったのだろうか・・・。

今ここにあった思い出も、ずっと昔の思い出も――

「よぉ、あゆ」

そういって、駆けつけてきた。赤く燃える夕日の中を――

「ありがとうな、あゆ」

少し照れくさそうに、はにかみながら――

「またな、あゆ」

明日があった。朝が来て、昼が来て、夜が来て・・・また朝が来る日が――

けれど、今はもうない。取り戻すことはできない。絶対に。

奇跡。

そう、2度目の奇跡が起らない限り、絶対に。

自分の過去の記憶。開けてはいけないパンドラの箱。

今ここにある、現実が夢だと知っていたのなら覚めなかった。思い出さなかった。

開けてはいけない禁断の箱には。暗い、暗い闇。絶望しかつまっていなかった――

 うぐっ、うぐうっ――

嗚咽が止まらない。もう、再び会うことはできないのかな・・・。

ふと、頭に蘇る言葉。どちらが始めに言い出したのだろうか。

「再会は―――学校で」

約束はまもられなかった。祐一君に針千本を飲ませてやらねば。

考え、思っているうちに、涙も止んだ。

見に行ってみようか。約束の場所。立った二人だけの生徒がいる学校へと。

命の灯火が、奇跡の力が燃え尽きる前に――

 

 

 学校。

普通なら、勉強は楽しくない事の方が多いだろう。

でも2人だけの、この学校は違った。

いつ休んでもいい。勉強しなくてもいい。昼御飯はたい焼きでもいい。

空想のだけれど、自由で縛られない学校。ずっと前からある大木の学校。

二人の思い出の場所。

「木・・・切られちゃったんだよね」

ずぅっと上空から見る学校。天まで届きそうな大きな木。

そこに登って、町を眺めるのが好きだった。赤い、赤い町。大好きな思い出の中の景色。

 その大木も、今では切り株になってしまった。

ふと気づいた。その切り株の上に、何かがいる。人。

「祐一君・・・」

嬉しさと同時に悲しさがこみ上げてくる。

(約束。覚えていてくれたんだ。)

(だめだよ、ボクはいてはいけない存在。祐一君には忘れてもらわないと・・・)

(遅い。遅いよ。ずっと待っていたんだから・・・)

(一緒に生きることができたらどんなにいいか・・・でも・・・)

(だめだ)

(いつか、祐一君も諦めてくれるだろう。そして、忘れて・・・)

ボクは・・・また、消えてしまうのだから・・・。

 祐一君は、なかなか帰らなかった。日が沈み、夜が来て。また日が昇って。また・・・沈む。

凍死してしまうのではないか、もしかしたら死ぬまでここにいるのではないか?

不安。そして、交錯する思い。

(どうして、どうして・・・。)

こんなに寒いのに。もう諦めてもしかないのに・・・。

天高いところ、生身の人では到底行けないところから降りて、彼の近くへ。学校へ向かう。

赤い夕焼け。真っ赤に燃える雪。学校のあった場所。約束の地。

彼の横にあるのは、ボクのコートとリュックと・・・

(人形・・・。)

天使の人形。どんな願いでも叶えてくれる不思議な人形。

ボクの、落し物。大切な探し物・・・。

「・・・俺は、今でもおまえのこと好きだぞ」

突如として聞こえた呟き。

心を揺さぶる言葉。

たまらなかった。もう、我慢できない。最後、これで本当に最後のわがままにしよう。

もう一度、最後に。約束を果そう。

「ボクもだよ、祐一君」

それは、7年間も続いた思い。紛れもない真実。けして・・・叶うことのない――

祐一君の顔にはあきらかな驚きと、微かな喜びの混じった複雑な表情が浮かぶ。

震える声。

「・・・だったら・・・どうして、もう会えないなんて・・・言ったんだ・・・」

「もう・・・時間がないから・・・」

真実。

ボクに宿った奇跡の力は。後少ししか持たないだろうから――

「今日は、お別れを言いに来たんだよ・・・」

涙が溢れそうになる。堪えなければ。表情に出してはいけない。

――最後は笑顔で。

そうしなければ、きっとまた。心に傷が残る。

「俺は、忘れ物を届けに来たんだ」

天使の人形。最初で最後のプレゼント。

「・・・見つけて、くれたんだね」

「苦労したぞ・・・本当に」

嬉しいよ、心からそう思う、偽りのない思い。

「・・・ありがとう・・・」

祐一君がこちらを向き、手に持ったボクの忘れ物を渡す。

羽のついたリュックに、風に揺れながら舞う天使の人形が付いている。

ふっとダッフルコートが消え。次の瞬間には身体に羽織っていた。

「・・・祐一君」

愛しい人。どんなことがあっても変える事はできない、かけがえのない人。

「遅刻だぞ、あゆ」

いつもどおりの、からかいの言葉。かけがえのない日常。

それが嬉かった。

「今日は、日曜日だよ」

「それもそうだな」

「うん」

「でも、また会えたな」

本当は、会わないつもりだったから。だから、ここでけじめをつけよう。

「うん・・・。だって、腐れ縁だもん」

ふわりと、なびく。優しく、穏やかな冬の風。別れの季節の風。

「本当に、これでお別れなのか・・・」

「・・・うん」

それが、この運命が換えられたらどんなに良いか。

「ずっと、この街にいることはできないのか?」

「・・・うん」

どれだけ、どれだけ幸せで。望んだことか。願ったことか――

「そうか・・・」

「・・・うん」

だけど、これが現実。

変えられない真実。ボクは、消えるしかない。

「だったら、せめて、最後の願いを言ってからにしてくれ」

「・・・・・・」

願い。

どんな願いでも3つ叶う。不思議な人形。蘇る思い出。

 

――実は、あの人形はただの人形ではないんだ

じゃあ・・・何?

――持ち主の願いを叶えてくれる、不思議な人形なんだ

うそくさい。

――今、嘘臭いって思っただろ?

――ちょっと

すごく思った。

――でも、本当だ――

 

「約束したからな。3つだけ願いを叶えるって・・・」

2つは叶えてもらった。3つ目の願い。最後の願い。

「だから、せめて・・・」

悲痛な表情。血が出るほど、手を握り締めているのが分かる。

「俺に、最後の願いを叶えさせてくれ・・・」

最後の願い。この世から消えるだろうボクの。祐一君が幸せになるための――

「そう・・・だね・・・」

ぐっと、リュックを抱きしめる。

つらい。はちきれんばかりに悲しい。この一言を言わなくて済むならどんなに楽か。

だけど言わなくては。祐一君を、ボクから解放しなくては。

そうしなければきっと祐一君は幸せになれないよ―――

勇気を。

とっておきの勇気を振り絞って、笑顔で言おう。

よし、心は決まった。決心はついた。泣かない。笑おう。顔を上げて言う。

「お待たせしましたっ。それでは、ボクの最後のお願いですっ」

いつもどおりの、笑顔で言おう。

「・・・祐一君・・・」

じわり。胸に押し寄せる思い。だめ、だめだよ。

「・・・ボクのこと・・・」

目が熱くなる。涙。泣いちゃダメだ。

「・・・ボクのこと、忘れてください・・・」

思いが溢れる。耐え切れない。瞼から涙が溢れる。。

「ボクなんて、最初からいなかったんだって・・・そう・・・思ってください・・・」

頬をつたう涙。笑顔で送ろうと決めたのに。涙は、思いは止まらない。

「ボクのこと・・・うぐぅ・・・忘・・・れて・・・」

真剣な表情で祐一君が聞いてくる。

「本当に・・・それでいいのか?」

聞かないで。

言わないで。

心のたががはずれてしまうから。気持ちが止まらなくなってしまうから。

「本当にあゆの願いは俺に忘れてもらうことなのか?」

違う。

違う、本当は違う。でも、仕方ないんだよ・・・

「だって・・・。ボク・・・もうお願いなんてないもんっ」

これ以上、わがままを言ってはいけない。祐一君に辛い思い出ばかり作ってしまう。

「・・本当は、もう二度と食べられないはずだった、たい焼き・・・いっぱい食べられたもん・・・」

祐一君にも会えた。会えない人にも会えた。

「だから・・・」

祐一君に、大好きな人に。いつか幸せになって欲しいから。

「だか・・・ら・・・」

笑顔で送らなきゃいけないのに、涙は止まらない。

本当は言いたくないから。ボクのこと忘れて欲しくないから・・・けど――

「ボクのこと、忘れてください」

これが、消えゆくボクの最後の義務。

どん。

思わぬ衝撃にどさっとリュックを雪の上に落としてしまう。

全身に広がる暖かさ。

祐一君の身体がすぐ近くにあった。

「・・・祐一・・・君・・・?」

ぎゅっと抱きしめられる。熱い抱擁。心が満たされる思い。

「・・・祐一君・・・」

ふわりと、頭に手をおかれる。とても心地よい。

このまま、祐一君の中に溶けて、ずっと一緒にいられたらいいのに。

涙混じりの声

「・・・ボク・・・もう子供じゃないよ・・・」

「お前は子供だ」

きっぱりと言い切る。

「・・・そんなこと・・・ないもん・・・」

「ひとりで先走って、周りに迷惑ばっかりかけてるだろ」

祐一君にも――

「・・・うぐぅ・・・」

「そのくせ、自分で全部抱え込もうとする・・・」

悲痛な声。その声が――

「その、小さな身体に、全部・・・」

ぐっと抱きしめられる。一段強く。満たされる思い。

「・・・祐一・・・君・・・」

「お前は、ひとりぼっちなんかじゃないんだ」

自分に言いきかせてきた。ボクの本当のこころを、思いを打ち明けてはならないと――

「・・・祐一君・・・」

祐一君のことを思えばこそ封印していた思い。

「・・・ボク・・・」

いってはいけない、言ってしまえばもっと哀しい思いをさせてしまう・・・なのに――

「ホントは・・・」

消えてしまうのに、ただ虚しく。儚い思い出を残すだけだというのにっ――

「ボク、ホントは・・・」

誘惑。

甘い、期待。ボクが本当に望むこと。だけど、叶うことがない夢。

「もう一回・・・祐一君と、たい焼き食べたいよ・・・」

ボク、ダメなこだ。言ってはいけなかったのに、思いに任せていってしまった。

祐一君と一緒の学校に通う。

祐一君と一緒に勉強をして、遊んで、いろんな話をして。

祐一君と一緒に笑って泣いて、時には怒って――

望んでいた。どんなことよりそれを望んでいた。

でも、ボクはもうすぐ消える。奇跡が、力尽きる。

だから、いってはいけなかったのにぃっ――――――――。

後悔と、満ちる気持ちとの狭間で、嗚咽が混じった声で。

「もっと、祐一君と一緒にいたいよ・・・」

本当の心。だけど、偽らなければいけない気持ち。

「こんなお願い・・・いじわる、かな?」

祐一君。きっとボクより辛い思いをしてしまっている。

「ボク、いじわる、かな・・・」

ぎゅうっと前より強く抱きしめられる。痛い。痛いくらいに――

ふっとボクが消えるような感覚。時が近い――

「・・・祐一君・・・」

2度目だ。つらい、つらい。永遠のような別れ。

「ボクの体、まだあったかいかな・・・」

「当たり前だ」

後少し、後少しかないから・・・ボクは幸せだったから・・・最後は――

「・・・よかった」

7年前にも思ったこと。

――大好きな人に、誰よりもいとしい人に――自分なりの、精一杯の笑顔を捧げよう。

それをもう一度。

奇跡を、また会えることを――

雄一君に抱きしめられたまま、ふっと意識が途絶えた。

2度目の奇跡を信じて―――――――。

 

 

 

 一瞬だった?それとも永遠?

よく分からなかった。時間なんて・・・。でも、確かに意識はある。

柔らかい地面にぺたりと寝そべっているボク。目の前はまだ暗い。

目。瞼。自分の世界を広げる五感の一つ。

それをゆっくりと、ゆっくりとひらく。

もしかしたら、彼のいない世界かもしれないから。

見えるのは、四角くかたどられた部屋。白い、清潔そうな部屋。そして人。

人?人が見える。誰だろう?

「うぐ・・・・」

「えっ!?」

看護婦らしい人が、驚いたような顔をしたまま凍る。

でも、すぐに笑顔に戻って・・・

「先生!!患者の、月宮さんの意識が戻りました――」

「なにっ!!」

もう一回驚いた声。今度は渋い中年男性の声。

ぱたぱたと聞こえるスリッパの音が、ボクは戻ってきたのだと確信させた。

祐一君の、大好きな人のいる世界に――

 

 あのとき――。

夢のような、虚ろいゆく世界で開けてしまったパンドラの箱。過去の記憶。

絶望しか詰まっていないような気がした。

でも、奥のほうにあったのだ。

ずっとずっと深い闇の向こう、絶望の奥底に。

奇跡の光。思う心。希望が潜んでいた。

 2度目の奇跡、それはきっと祐一君のおかげで起きたのだろう。

祐一君がいなければ、ボクが目覚めることはなかったのかもしれない。

祐一君に、もう一度会いにいこう。

最後の、3つ目のお願いを叶えてもらうために――

7年間、ずっと晴れなかった闇が。鮮やかに晴れた空へと変わった。

 

 

あとがき

KANONは実に感動した。うむ、いいゲームだ。

(もっとも、こういう関係のゲームのやった絶対数事態が少ないのだが――)

その、あゆエンド最終部分のあゆ視点です。

内容が少し、くどい気もする。あまり気にしないで下さい。

感想(主に苦情)をいただけるとありがたい。

何の反応もないのが一番怖いのだよ。何がダメなのか、何がいいのか、読んでくれてるのかもわからんからね。

なにより精進したいしね、感想(やっぱり苦情)を元にして。

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