平穏な日常の影 <後編>
赤そのものが視界に飛び込んできた。
いや、それはどちらかというと光に近しいものなのだろう。
「まぶしい・・・」
ここは、リビングのソファの上。どうやら眠ってしまったらしい。
窓から漏れた太陽の光がちょうど自分に当たる。
夕焼けの匂いが自分の周りを取り巻いているのがわかった。
「・・・名雪は?」
それはきっと、夕焼け特有の感情なのだろう。
家の中には、俺一人で。たった一人で。それが、永遠に続いていくような感覚。
ただでさえ、あんなことがあった後だ。
名雪は自分の部屋でまだ寝ているんだ。そんなはずはない、ばかばかしい。
どんなにそう思っても、名雪の部屋に向かう足はいつもより速い。
『名雪の部屋』
プレートに書いてあるそこは、あいつのいるべき場所。
コン、コン。
「名雪、起きてるか?」
返るのは、一時の間。静寂のみ。
「・・・入るぞ」
がちゃり。閉ざされた扉のその先。
窓からやんわりと入る光が、赤く部屋を染めている、
一緒に勉強をした机も、数えきれないくらいある目覚し時計も、名雪が寝ているベッドさえも――
赤く輝くその光景が、なぜか美しいと感じた。
名雪は、まだ部屋にいた。
くーくーと、けろぴーを抱いて眠る名雪はやはり幼く見える。
おそらく――本当にそうなのだろう。
名雪の心の一部は、まだ過去のまま。その一瞬だけが今もそこにある状態。
だから、何気ないところに、その幼さが形として表れている。
頬にまでかかった名雪の髪をさらりと撫ぜると、ベッドのそばに腰を落とした。
「けろぴー」
「・・・・・・」ふっ、と。
自然な笑みが浮かんだ。
もう一度、その藍色の髪を撫ぜる。
そこから、ふわりと、柔らかな匂いが流れて鼻をくすぐった。
心地よい、そう感じる。
すっと、目を閉じた。
――別に眠るわけじゃない。
二人だけしか居ない、部屋の中。
二人だけで共有する空気。
ただ、この柔らかな時を感じていたかった。――たった一秒でも、多く。
――闇は、しばらく続いた。
どれだけの時間続いたか、それは分からなかったけど。闇の終わりは来た。
闇の終わりは、もう既に日常となった声。
「・・・ゆういち。起きてる?」
「もちろん、起きてるぞ」
閉じていた目を開こうとする――が、
「だめっ。祐一っ。目を・・・開けないで・・・」
泣きそうなほどに悲しい声。目は閉じたままだが、納得はできなかった。
「・・・なんでだ?」
「あ・・・えっと、その。今ちょっと着替えてるから・・・」
いくらなんでもその嘘は分かりやすすぎるぞ、名雪。
でも・・・、その言葉はいわない。言う必要なんて・・・、なかった。
「祐一・・・。」
「なんだ?」
あのときの、秋子さんの纏っていた空気。それのせいなのだろう。
「――水瀬家はねっ・・・昔・・・から、暗殺術を受け継いで・・・いたんだ」
暗殺術。
人を、人のみを殺すために生まれたもの。
それを受け継ぐもの。
漏れる、嗚咽。
闇を裂いて、伝わるつらさ。
けれど、今の俺には・・・名雪の話を聞くことしか、できない。
「それは・・・私も・・・お母さんも・・・そう・・・だった――
――私にとって、暗殺術も、学校の体育の授業も、なんら変わりはなかった。
暗殺術を学ぶのも、それは護身術のように、人を傷つけることは無かった。
だけど、それも、あの日まで。
私の心の一部が欠けた、あの日まで――
それは、目も覚めるような寒さを纏う冬の夜。
そして、私の8歳の誕生日だった。
暗殺術という、私にはごく普通の習い事を終えた帰り道。
私は急に動けなくなった。
手も、足も、声さえも出ない。けれど、何故動けないかは分かった。
『水瀬流捕縛術――時縫い――』
強い、暗示効果による捕縛術。
足音も無く、誰かが近づいてきて、口の中に何かをいれた。
丸い粒のような物が、舌の上を滑っていく。
苦かった。泣きたくなるぐらい不味かったけれど、抗うことはできない。
そして耳元に、突き刺さるような声で言われる。
「殺せ」と。
ただ、一言。
何者かの気配が消えると同時に、身体の呪縛が溶けた。
私は自分の体を抱いた、身体が熱くて、燃え尽きてしまいそうだった。
黒いものが、心の中でざわざわと蠢く。
その時の気持ち、狂気。今でも覚えている。
「殺シタイ・・・」
「誰デモイイ・・・、ズタズタニ殺シテシマエ」
「全テヲ――壊セ」
口調そのものは静かなのに、恐ろしいほどの邪悪に満ちた思い。
かッと脳が灼熱する、どくんと心臓が跳ねて。
意識がふっと―――――――一瞬間消えた。
風景が変わった。
そして、目の前。
雪。
白と、赤。
手にはナイフと、赤く、赤く染まった手。
足下。
人。
人が倒れていた。
雪に、人から出た赤がじわりじわりと染み込んでいく。
『誰デモイイ・・・、ズタズタニ殺シテシマエ』
声が震えた、体が震えた、心が震えた。
怖い、泣きたい、逃げたいと。
心が―――――――――叫んだ――
「いやアァッッ――――――――――ッ!!」
震える身体を抱くと、べたりと血がついた。
零れる涙は、色もなく、雪に染み込んでいく。
「名雪っ」
目の前にお母さんが来た。
「いやッ――、イヤ、いヤァッ――――――ッ!!」
私は自分の思いに、ただ叫んだ。
そうしていないと、心が――壊れてしまいそうだった。
「名雪・・・」
身体が包まれる、目が、合った。
「あっ、あアッ―――・・・、わたシ・・・私ィ―――――ッ」
「名雪、忘れなさい・・・。それが、あなたのため・・・」
全てを、今日この日にあった事を・・・。
「あなたが大人になる時まで――・・・――忘れなさい―――」
そのぬくもりが、身に染みて、暖かかったことを今でも覚えている。
そのまま私は眠りについた、今、このときまで全てを忘れて――
そして、今。
私は――全てを思い出した。
「私・・・人をっ・・・殺したっ・・・、して・・・しまったんだよぉ――――ッ!!」
後悔の言葉、耐え切れない自責の念。
言葉が進むほどに悲しく叫び、そして涙が混じる。
驚きは、ない。
あるといえばあるが――、なんとなく、そんな、感じはした。
――そうか・・・」
いまだ続く闇の中で、俺はその話の全てを心に留めていた。
8歳の少女が背負った、命の重みは、あまりに大きすぎた。
それは――今も変わらない。
だから、目の前の少女は恐れている。
汚れた自分を見られることを、極度に恐れている。
名雪は、勇気を振り絞って、このことを話した。
それはけして、生半可な勇気ではないことは、俺でも分かるから――
今度は、俺が、思いを示す。
「名雪・・・」
「だっ、ダメッ――」手を伸ばす俺に言う。
「名雪・・・」
名雪の身体を抱きとめる。
その身体は思っていたよりもずっと華奢で、可憐だった。
「駄目・・・駄目だよ・・・祐一まで・・・汚れちゃう・・・」
「名雪・・・」
前よりも、ずっと、ずっと強く抱く。名雪から力が抜ける。
「名雪が苦しんで、泣いている姿を――俺は見たくない」
目をすぅと開ける。
闇の中に見える、名雪の顔。泣いて泣いて、もう目は赤い。
「おまえが辛くて、立てなかったら、俺が支えてやる・・・」
「楽しかったら一緒に笑って、泣いたら慰めて、怒ったら・・・一緒に怒ってやると言っただろ」
「・・・ゆう・・・いち。最後の・・・少しおかしいよ」
「別にそうでも無い」
「そう・・・かな?」
「ああ、そうだ。おまえの重さ・・・痛みも、俺がなんとかしてやる」
「・・・うん」
名雪の顔に、ほんのりと笑みが浮かんだ。
ぎゅっと、名雪のほうから抱き返してくる。
「礼なら、いらないぞ・・・俺は、お前のこと誰よりも好きだからな――」
名雪から、暖かさが伝わってくる。俺にも、自然に笑みが浮かんだ。
頭に手をやって髪を撫でながら言う。
「だから、オレハ――」
ざわざわざわ、窓に風が当たる――。外は夜、そして闇。
*
闇は全てを覆い隠す。
喜びや悲しみ、獣や人の存在さえも功名に隠してしまう。
ここは、水瀬家。
闇の中にまぎれて見える一つの影は、本来あるべき者のそれではない。
今、この家に招かざるものが忍び込んでいた。
その動きは音一つ立てず、風のように速く滑らかに。
ただ、人を殺すというたった一つの目的のためだけに存在していた。
目標は、水瀬名雪。
理由はわからないが、上から『処分しろ』との命令が出た。
もっとも、理由なんて――どうでもいいのだが。
リビングには誰もいなかった。明かりもついていない。
そもそも、一階には人の気配すらない、となると、二階に居ることになる。
階段は廊下にあったな。
階段さえも、音もなく駆け上がる。
二階には部屋がいくつもあった。――といっても数えられるほどなのだが。
普通のものならば何も見えないような闇なのだが、それも別になれたものだった。
「俺は・・・」
『名雪の部屋』
そう、プレートのある部屋から言葉が漏れる。
侵入者は腰にあるポーチから、携帯していた睡眠ガスを部屋へと流し込んだ。
無色無臭のそれは、プロでも気づくのは難しい。
――5分待つ。
再び、中の様子を耳で感じ取る。
「――悲しいときには、俺が――」
侵入者は戸惑った、睡眠ガスは効いていないのか?
――違う。
侵入者は、迷うことなく部屋のドアを開け放った。
光の無い、闇の満ちた部屋。
その部屋の中央に置いてある一つの目覚し時計。
「――は、ずっとここにいる――」
そこから漏れてくる声。
ぎり。
歯が、擦れ合う音がした。
――場所は変わって、水瀬家台所。
そこにもある、二つの影。
だけどそれは、この家に住まう者の、いつもと変わらぬ影だ。
「・・・あんなところに抜け穴があったんだな」ひそ
「うん・・・、他にもいろいろあると思うよ」ひそ
「そうか、じゃあ今度もう少し調べてみよう」ひそ
「――ダメ」
間髪いれずに、名雪の進入禁止命令が下された。
当然か。抜け穴のひとつは名雪のクローゼットの下にあったのだから。
「・・・ところで、本当に忍び込んだやつがいるのか?」ひそ
「うん、たぶんとしか・・・いえないけど」ひそ
風が吹く音に混じって聞こえた、戸の開く音。
俺には聞こえなかったが、名雪が聞こえたと言うなら、俺には信じるしかない。
「・・・で、これからどうするんだ」ひそ
「あ・・・・・・」考えてなかったらしい。
幸い、ずっと明かりをつけずに部屋にいたため、闇に目は慣れている。
だがそのせいか、ある一つのものが視界に入る。
――気になる。
「名雪・・・、なんでけろぴーを持ってきてるんだ?」ひそ
名雪が「何言ってるの?」と言わんばかりに不思議そうな顔をする。
その右手にぐたりとぶら下がるカエルのぬいぐるみ『けろぴー』。
暗殺者に命を狙われる俺達。
――すげぇ馬鹿で奇妙な光景だ、と思う。
「けろぴーは、私の武器なんだよ」ひそ
「・・・・・・はぁ?」ひそ
ぬいぐるみ(カエル)が、武器。
「・・・ま・ぢ・か?」ひそ
けろぴーを片手に数多の敵をなぎ倒していく名雪。
思いっきり脱力してしまうような光景だ、負けたらプライドはズタズタだろう。
冗談だな。
俺は無条件にそう決め込んだ。
「私道場で結構強かったんだよ〜」ひそ
視線が自然と武器であるそれにいく。
『実は冗談説』はその一生に幕を閉じた。短い・・・命だった。
だっ、だがっ。嘘をついているという可能性が無きにしも非ず――。
俺はじっと、名雪の目を見る。綺麗に澄んだ偽りの無い目だ。
俺はじっと、けろぴーの目を見る。死んだ魚のように、光の宿らない目だ。
びしっ。俺は指を指した。
「けろぴーは嘘をついているっ」ひそ
「嘘じゃないよ・・・」ひそ
「いや、その証拠に目に意思が感じられない」ひそ
「けろぴーは生き物じゃないよ・・・」ひそ
「・・・で、どうするんだ?」
「あ、今、話そらさなかった?」
「今はそれどころじゃないだろ」
「うーっ。とりあえず、そとにでよ」
名雪はだいぶ落ち着いてきていた。その顔はいつもと変わらないほどに・・・。
それは、一瞬のものかもしれない。
それは、本当は見せ掛けだけのものなのかもしれない。
でも、その度に守ってやれば、いつか。名雪自身で決着をつけられるはずだ。
それまでは――。
「名雪。先に行け」
「・・・うん」
台所を出てリビング、周りには何も音はしなかった。
ただ一つ、自分の心臓の音が聞こえる。
動く。
闇。
「――祐一っ」
ひやりと、俺の首筋に、金属の何かが当てられた。
「――動くな、水瀬名雪」
その言葉も、まるで金属の刃。
「――動くと、こいつを殺す」
びくりと、名雪の動きは止まる。
だけどその顔だけは、泣きそうに歪みだす。
『殺す』、その言葉に込められた言霊の禍々しさは、やはり常人のもつそれではない。
「ゆ、祐一をっ――離して・・・」
「貴様が死ねば、こいつは開放してやろう。もともと、目標はおまえだからな」
抑揚も、感情の欠片すらなく、淡々と紡がれる言葉。
それには、確かに、一つの命がかかっているというのに――
なんで、そう、平然と・・・――
怒りが、とめどなく巻き起こる。
「わぅ、わかった・・・からっ・・・ゆういちをっ・・・はなし――
「――ふざけるなああああっっっっ!!」
がた、と。窓さえも震えるほどの怒り。口からほとばしる。
首につけられた刃物が、より押し付けられる。
死が、怖くないか?
――怖いに決まっている。
だが、その恐怖よりも、怒りが優った。
「ゆういちっ・・・ダメッ」
「――名雪ッ」
びくりと、闇の中に見えるその顔に伝う涙が、またひとつ床へと落ちた。
「俺は、おまえに約束したよなっ。いつだって、おまえのそばにいるって――」
「――黙れ、さもないと――」
「だったら、馬鹿な命令は――聞くなよ・・・名雪、生きろ――」
「だめっ、祐一っ・・・私、私・・・」
「――ちっ。こいつはもう邪魔だ」
名雪は息が止まった気がした。
――祐一。
呼んだはずの声は出たのか。分からない。何もかもが、消える気がした。
とんっ。
どさっ。
俺の後ろにいた奴がもたれかかってきた、手から力が抜ける。
カラーン。
ナイフが床に、落ちた。
「・・・あれ?」どうしたんだ。
「何とか間に合いましたね」
名雪と似た、落ち着いた声。だけど、名雪とは違う声。
「・・・秋子さん!?」
「・・・お母さん!?」
「はい?」
闇の中で、秋子さんは不思議そうな顔をしていた。
かちり。
その音とともに、電灯に光が灯る。
闇の時間が、終った。
「「ええっ!?」」
俺達は二人同時に驚いていた。
というのも、秋子さんの発言が異常なほどに信じられなかったからだ。
『ちょっと、とある暗殺組織をつぶしてきました』
それを、にこやかな笑顔で言われれば、誰でも驚く。
「・・・どうやってやってやったんですか?」
「それは、ジャ・・・企業秘密です」
「ジャ・・・?」ム。ですか?
恐ろしすぎて、とても聞くことなどできなかった。
「・・・お母さん」
「・・・名雪」
秋子さんは、名雪をじっと見つめて、ふっと笑う。
「強く・・・なったわね」
「うん・・・心配かけて、ごめんね」
そういうと、気絶している暗殺者を背負って玄関へ向かう。
「・・・名雪」
「・・・お母さん?」
秋子さんは悲しそうな、笑顔を向けた。
「ねぎ・・・忘れたから買ってきますね」
・・・・・・。
「「は?」」
二人の声は見事にはもった。
「今日は海鮮鍋にしましょう」
「いや、さっきの微妙にシリアスな顔は?」
「はい?」
「いや・・・、なんでもないです」
「じゃ、いってきますね」
ばたり。玄関のドアが閉まる音がした。
無言のまま、見詰め合う俺と名雪。そして、どちらからともなく――
「あはは・・・」「ははは・・・」
笑いあった。
――心から。二人で。いつまでも。
*
その日の夜は、俺のリクエストどおり『鍋物』だった。
秋子さんの作る料理はうまい、この海鮮鍋も例外ではなかった。
その絶妙な塩加減は、まさにプロの技と言えよう。
「おいしいよ〜」
名雪が、嬉しそうに鍋をつつく。その顔は笑顔に満ちている。
また、その姿を見る秋子さんの顔も、嬉しそうに微笑んでいた。
「おいしいよ〜」
鍋をつつきながら笑う名雪を見ると、私も自然と笑みが浮かんだ。
もう、名雪は大丈夫だろう。
祐一さんが支えてくれたから、今もこうして名雪には笑顔が浮かんでいる。
もし、祐一さんがいなかったら、あのこは壊れてしまったかもしれないから。
祐一さんには、感謝しなければならない。
そう思うのと同時に、何故あの子が、このことを思い出したのかが分かった。
私の、あのときの言葉のせいだったのだろう。
あの時――壊れそうな名雪に私は言った。
『名雪、忘れなさい・・・。それが、あなたのため・・・』
『あなたが大人になる時まで――』
『あなたを支えてくれる人が現れるそのときまで――忘れなさい―――全てを――』
あのこが、このことを思い出したのはジャムだけのせいではない。
『祐一なら私を支えてくれる』と、無意識に思ったからだろう。
そこまで思って、何か忘れていることに気づく。
何か、名雪に言い忘れていたような――・・・そうだわ・・・。
「名雪・・・」
全てを――過去を終らせるためには、このことを話さなくては――
「名雪・・・」
白菜を口に運ぼうとしたら、お母さんに呼ばれた。
「少し・・・言い忘れていたのですけど・・・」
なんだろうか、と思う。お母さんの口調は少し・・・重かった。
「8歳の誕生日のこと・・・覚えてますね?」
8歳の誕生日。
そう、人を殺してしまったあの夜のこと。
忘れられる・・・はずが無い。
「うん・・・」
「その時のことなんですけど・・・」
怖かった。
足下に倒れている人が、雪が真っ赤に染まっていく、その光景は――
「実は、その時の人、死んでなかったんですよ」
どぐっ。
お母さんが何を言ったのか、理解するのに、少し時間がかかった。
「実は、その時の人、死んでなかったんですよ」
どぐっ。
俺はテーブルに頭をぶつけてしまった。しかも、おもいっきり。
ひりひりと痛むおでこをさすりながら顔を上げる。
「・・・秋子さん」
「はい?」
「それ言えば万事解決だったんじゃないですか?」
実際にそうなのだろう。今気づきましたって感じに表情が変わった。
「そういえばそうですね」
「そういえば・・・って・・・」
今まで気がつかなかったのか?
「・・・ひくっ・・・うくっ・・・」
泣き声。
名雪が泣いていた。
「ゆぅいち・・・私・・・わたし・・・よかった・・・」
それは自分の罪がないと分かったからじゃない。
ただ、自分が傷つけてしまった人が、殺したと思っていた人が生きていることが嬉しいのだ。
それは、名雪がもっている優しさだからこそ思えることだ。
俺は、隣で泣いている名雪の髪を撫でた。
「・・・ゆういち・・・?」
不思議そうに見てくる名雪を見て、微笑む。
「名雪。おまえは誰よりも優しいから・・・だから、俺は――
―――――ずっと一緒にいるって、決めたんだよ――」
軽く、その頬に口付ける。
名雪は、赤くなって、照れたようにうつむいた。
そして、また明日から。
いつもどおりの。
いままでと変わらないようで、少しづつ変わっていく――
――幸せな日常が訪れる。
END♪
あとがきぃ
あはは、どーも、読んでくれてありがとうございます。作者の霧月です。
いやぁ〜。今回長いですねぇ〜。しかも後半超むちゃくちゃな内容ですねぇ。
まぁ、全後編だから仕方ないかなぁ〜とか、思う。
でも『詰まったらその小説は没』って感じの私には、ちょっと今回やばかったです。
先に前編だけ渡すんじゃなかった・・・とか、途中で思っちゃったり〜。
・・・まぁ、それは無責任なんで、意地で仕上げました。ええ、意地で。
さてさて、どうだろうか、今回の小説は?
・・・自分じゃよくわからない・・お願いです。感想ください。意見でも、苦情でもいいです。
それでは、また〜。
m-nono@mud.biglobe.ne.jp
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