Stainless Snow

 

 

 朝。

冬の朝。

いつまでも居たくなる暖かさを伝える布団。

私は、カーテンから漏れる光を浴びて、意外とすんなり目が覚めた。

それでもまだ半分寝ぼけ気味の目を擦りつつ布団から出る。

だけど、同時にもうなれたはずの寒さが身体に襲い掛かってきた。

「今日は一段と寒いわね・・・」

そう言うと目にかかる前髪をかきあげ、んんっと伸びをする。

ぐううっと全身に力が満ちていくのがわかった。

カシャァッ。

勢いよくカーテンを開け放つと光が部屋中に広がった。

どこまでも続くような青く晴れた空が広がる世界。今日も、いい天気。

「どこかに遊びに行くには申し分ない天気だわ」

――もっとも、どこかに遊びに行く約束をしているわけじゃないんだけどね。

そんなことを思いながら、ドアを開ける、と、

「おはよう、お姉ちゃん」

「・・・心臓に悪い登場の仕方ね」

ドアのすぐ前には妹である栞の姿があった。

驚いた。

何せいるはずの無い栞がいたのだ、本来ならば病院で検査しているは――

――って、栞」

「はい?」

ものすごく不思議そうな顔をして聞き返す栞。

「病院にいたんじゃなかったの?」

「いましたよ」

「じゃあ何でここにいるのよ」

「抜け出して来ました」

「なっ―――」おもわず息が止まる。

だけど栞はにこりと笑って言った。

「冗談です」

「・・・その冗談は笑えないからやめなさい」

はあっ、とおもわず私は重いため息をついてしまった。

「本当は検査が終ったからお姉ちゃんに会いに来たんです」

「・・・だからドアの前で待ってたの?」

「そうですー」

嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑いながら答える栞。

「なら・・・なんで部屋に入って私を起こさなかったの?そっちのほうが早いのに」

「・・・・・・」

栞は笑顔をそのままに固まった。

気のせいか、その笑顔も少しこわばったように見える。

「気づかなかったのね」呆れる。

――解凍。

「えと、えとっ。起こしてしまうのは悪いと思ったんですっ」

焦ったように言う。雪のように白い肌は赤く染まっていた。

「ふーん」

「あっ、なんかその言い方気になりますー」

「気のせいよ」

「怪しいですー」

むぅーと膨れる栞。

それは幼い子供のような仕草だ。それを見てつい私は笑ってしまった。

きょとんとした栞もそれにつられて笑いだした。

「あははは・・・」

「あはは・・・」

久しぶりだった。

こんなに嬉しい気持ちになったのは、心のそこからそう思ったのは本当に久しぶりだった。

朝の光。

家族のいる家。

たった一人の妹。

それは間違うことも無い、私の幸せの風景。

例えそれが、――ほんの一時のことだとしても、ね。

ひとしきり笑ったところで思い出す。

「そういえば、何か用があるの?」

栞は生まれたときから体が弱かった。

そして、ここのところも体の様子が芳しくないはずだ。

それなのに、病院に許可をもらってまで家に帰ってきたのだから何か用があるのだろう。

特別に・・・大切な・・・なにかが――

「今日は・・・いい天気です」

遠くに目をやって、嬉しそうに栞が言う。

「今日はとてもいい天気です」

それはそれは、とても嬉しそうに栞が言う。

確かに。

今日はとてもいい天気だ、雲は少しあるが快晴といってもいい。

それに、久しぶりに栞と会えた。

こんな日は、

「たまには栞とどこかに行くのも悪くないわね」

まるで、独り言のように呟く。

だが、そんなことを気にすることなく。栞はえへへと笑った。

「嬉しいですー」

心からの笑みだと思った。

こういうのが見れるなら、今日一日、いや、一年中だってかまわない気がした。

「まぁ、天気もいいしね」

「これも、私の日ごろの行いがいいからでしょうか?」

その言葉を聞いて、私はわざとらしくため息をつく。

「・・・今日は大雪ね。一歩も外に出れないわ」

「何でそういうことになるんですかっ」

「日ごろの行いのせいよ」

「むー。もし雪が降ったらお姉ちゃんのせいですっ」

「肝に銘じておくわ」

くすくすと笑いながら、私は洗面台のあるほうへと歩いていく。

「それで・・・今日はどこに行きたいの。何処でも付き合ってあげるわよ」

「アイスクリームが食べたいです」

足を止める。

「それは・・・できれば勘弁して欲しいわね」

「冗談です」

くすりと笑って「ホントは食べたいんですけどね」と言う。

だが、こっちとしてはたまったものではない。

真冬にアイスクリームを食べることは、ある意味拷問に近い。

それは見ているだけどもおなじである。

もっとも――。

栞が今でもアイスクリームが食べたいと思いたくなるのは不思議ではない。

それほど、栞の未来は普通の人に比べて不安定なのだ。

――生まれついた、病弱な体のせいで。

「じつは、まだどこに行きたいかは決まってないんです」

「なら・・・私が用意する間に決めておくといいわ」

そう言って、洗面所に行く足を進めようとしたが・・・

まだ・・・少し、頭が冴えない。夢の中にいるような虚ろな感じが残る。

・・・このさい、シャワーを浴びるのも悪くないわね。

考え直して、シャワーを浴びることにし、風呂場へと足を進めた。

妹とすれ違う、

「お姉ちゃん・・・」

「・・・?何」

「あ、えっと。なんでもない・・・です」

ほんのりと頬を染めたまま栞はうつむいた。

でも、それも少しのことだ。顔を上げると笑って言う。

「できるだけ早くしてくださいね」

「・・・わかったわ」

すれ違いざまに聞こえた声が、ほんのすこし曇ってる気がして。心にすこし、靄ができた。

それはシャワーを浴びても、まだ――心に残ったまま――

 

 

 外は、思った通り寒かった。

家の中でも寒かったから、外がより寒いのは至極当然のことといえよう。

だが、この寒さはすこし辛い。

コートを羽織っていても、すこし肌寒いような気がする。

「栞、寒くない?」

「大丈夫です」

そうは思えない。

栞は普通の服の上に、私があげたストールを羽織っているだけだ。

でも、確かに栞は寒さに震えているようには見えなかった。

「冬でもアイスクリームを食べられるほどだからね」

「・・・貶してないですか?」

「気のせいよ」

風が吹いた。

ストールがはたはたと揺れる。

冷たい風に当たったせいか、栞の顔はすこし赤い。

「それで、行きたいところは決まった?」

「公園に行きたいです」

「公園って、あの公園のこと?」

「そうですっ」

栞がその公園に向かってすこし走ると、くるりと私のほうを向いた。

指をさしたその先にある、人気のない噴水のある公園。

ストールが宙に舞う。

「私、お姉ちゃんの絵が描きたいです」

そういって、何処からかスケッチブックと鉛筆を取り出す。

「・・・そのスケッチブックは何処から出したの?」

「ポケットからですけど?」

不思議そうに、首をかしげながら栞は言う。

ポケット。

きっと、スカートにあるポケットだろう。

見る。

ポケット。

それ以上のでかさのスケッチブック。

・・・・・・。

――絶対に無理だ。

けれど、栞はかまわずにもう一度聞いてくる。

「私、お姉ちゃんの絵が描きたいです」

「・・・分かったわ」

諦めのような言葉が出ると同時に、栞の顔に笑顔が咲き誇る。

「嬉しいですー」

そう言って、公園の中へと入っていった。

私も、半ば仕方なしに、後を追った。

勢いよく飛び出す噴水。

本当に人気のない公園。

しかし、いつも人気がないとはいえこんなに人気のないことは久しぶりだった。

この公園は、いまや二人の貸しきり状態になっていた。

「お姉ちゃん、噴水のところに座ってくださいっ」

そういえば、あんなにはしゃいでいる栞も久しぶりだ。

それならば、多少変な絵でも、栞が楽しそうならいいか、と。

そう思いながら、噴水のふちに腰掛ける。

その反対側。

そこには栞がベンチに腰掛けていた。

スケッチブックを開く。

「お姉ちゃん。動いちゃダメですよ」

「はいはい」

おもわず、笑みが零れた。

公園で、姉妹で、二人で、一緒に――。

普通に訪れるはずの光景が、私たちのは特別だった。

ささやかな幸せだけれど、最高の幸せ。

そんな一時が、なによりも嬉しかった。

 

 時はどんどん流れていく。

栞が一生懸命絵を描いている間も。

その間に交わした他愛のないおしゃべりをしている間だって、だ。

昼頃に家を出てはずなのに、もう既に日がくれ始めて。

時間がたつにつれ、少しづつ雲が出てきていた。

そして、雲が夕焼けに染まりそうになるころ。

よし、と栞が小さく頷いた。

「できまし――」

ふらっ。

立とうとした栞が、突然前に倒れた。

わたしはとっさに立ち上がって受け止める。

抱きしめた栞の体。

――熱い。

燃え尽きてしまいそうなくらいに――熱い。

「栞っ!!」

「なん・・・ですか・・・?」

息が荒い。

雪のように白い肌もほのかに赤く染まっている。

それは、夕焼けや寒さのせいではないだろう。

熱がある、しかもこんなになるまで、

「何でだまってたのっ」

笑う。

「私・・・お姉ちゃんと・・・一緒に・・・」

栞から力が抜けた。

「――っ!?」

全身が沸騰しそうなほどの感情が溢れ出す。

自分の着ているコートを栞にかけ、ベンチに寝かせると、急いで公衆電話に駆け込んだ。

救急車を呼んで、栞のもとへともどってくる。

その間も、自分に対する苛立ちで自分を殴りたくなった。

――どうしてもっと早く気づかなかったの・・・

――どうして、わたしは・・・

――どうして、どうして・・・

何もすることができない。

苦しんでいる妹に、なに、ひとつ。

悔しさが、体中からにじみ溢れた。

もし、栞が――

最悪の光景が頭に浮かぶ。

――嫌だ。

ぞっとするような恐怖が、全身に襲い掛かった。

吐き気さえした。

救急車を待つ時間。

それが、何よりも長く、遠く感じられた。

その間、

私はただ祈ることしかできなかった。

 

 

 救急車が来て、それに乗ってからの記憶はより虚ろなものとなった。

何か聞かれたような気がする。

何か言ったような気がする。

流れる外の風景。

ついた病院の名前。

栞の苦しそうな声。

どれも、覚えていない。

だけど夢のように緩やかに、そして急速に状況が移り変わっていった。

気がつけば、

白い壁の部屋。

清潔感のある四角くかたどられた病院の一室。

いまさらながら、そこは栞の入院していた病院だと気づいた。

私は座って待っている。

部屋にぽつんとある二つの椅子の一つで、ただ待つ。

それしか――できない。

無力。

まただ、

悔しい。

苦しい。

はぁ、と口から漏れる息はもう白くはなかった。

 病院に着いてからでも、だいぶ時間がたったと思う。

だけど、実際のところはよくわからない。

――夢のようだから。

時間の感覚なんて、もう完全に麻痺していた。

そして、私はただここにいるだけ。

それでも、それだけでも確実に時が流れて――

がちゃ。

突如として、その音は後ろにある扉から聞こえた。

「待たせてしまって、すまない」

栞を担当している医者が入ってきた、名前を・・・なんといったか。

ずいぶん前から知っているはずなのに、何故か思い出せなかった。

扉から入ってきた医者は、私の目の前に腰掛ける。

ああ、思い出した。

――そういえば酒井とという名前だった。

「栞は大丈夫なの、酒井先生」

「とりあえずは、大丈夫です」いつもより、暗い声。

ほぅ、と口から息が漏れでる。

体から力が抜けるほど安心した。

だけど、

「――ですが」

・・・言葉には続きがあった、

「2月の――そう、栞くんの誕生日までもたないかも知れない」

「え・・・」

思考がフリーズする。

なにが、もたない?

――愚問だ。

私は本当は分かっている、けれど、認めたくはない。

栞の、命が、16歳の、誕生日を、迎える前に――

ただ黙ったまま床を見ていると、酒井先生が言った。

「香里くん、私は一つ謝らなければならない・・・」

「なにを・・・?」

ふぅと、酒井先生は一息つく。

「今日、栞くんが検査を受けていたことを知っているね?」

「・・・ええ」

「私は検査の結果が出るまで病室でおとなしくしてなさいといったんだが・・・なぁ」

また、ため息、

「検査が終って、今回の病気がわかって、彼女に病室に言ってみたら。見事にもぬけの殻だった」

先生は椅子から立つと、私に向かって深く礼をして、

「すまない、結局何処にいるかわからずに、このような事態を招いてしまった」

「酒井先生のせいじゃ、ないわよ」

どうでもよかった。

理由なんて、どうでもよかった。

只今ある現実がなければいいと、それだけを思う。

言う。呟くように、独り言のように、ぽつりと

「治る・・・見込みはあるの?」

「はっきりいって現代の医学では――かなり難しい」

ドラマみたいだと、どこか遠くにある心で思った。

まるで、栞に訪れていることが、別世界にあるような気さえした。

「香里くん、妹に会ってきてはどうだ。そのほうが彼女も落ち着くだろう」

「・・・そう・・・するわ」

妹、栞に、

言わなければならないことがたくさんあった。

そして、部屋から出ようとした、その時に、

「ああ、そうだ――栞くんを・・・あまり怒らないでやってくれ、あと――」

すこし、間があいて、

「いや、やっぱりいい。それじゃあ、な」

私はばたりとドアを閉めた。

目の前に広がる病院の廊下も、やはり白く塗りつぶされていた。

所々、白い色が薄れて黒くなっているのはもう見慣れたものだった。

歩く。

 私は、これから妹にあわなければならない。

そうしなければいけないのだ、けれど――

いったい――どんな顔をして会えというんだろうか。

栞の病室に行くまで、それだけを考える。

笑って?――できない。

泣いて?――できない。

それとも、怒って?――できない。

私には、所詮、何もできないのだ。

 『栞くんの誕生日までもたないかも知れない』

この言葉を伝えることなんて、――できるはずがない。

――結局。栞の病室の前についても、答えは出なかった。

 

 主に病院の個室は、一人だけか、又はその他数人の形がとられることが多い。

栞の場合は前者のほうだった。

『美坂 栞』

確かにそう書かれたプレートの飾ってある個室が目の前にある。

すこし躊躇したが、はぁと息を出し、

コンコン。

ノックする。

返事はすぐに返ってきた。

「お姉ちゃん?」

「・・・入るわよ」

がらりと、スライド式のドアを開ける。

部屋の中は、以前来たときとそう変わっていなかった。

ただすこし、物の配置や、花の種類が変わったくらいだった。

窓の外、

「雪・・・降ってるのね」

「そうですね、雪降ってますね」

そして、にこりと笑う。

「私の日ごろの行いが悪かったんでしょうか?」

「そうかも・・・知れないわね」

違う、それは、きっと――

くるりと、今まで外のほうを見ていた視線を栞に向けた。

「栞」

「はい」

「言わなければいけないことと、聞かなければいけないことがあるわ」

「・・・はい」

あんなに晴れていた外に、雪が降り注ぐ。

晴れていた時。

聞かなければいけない、朝のこと。

「・・・栞、どうして嘘をついたの?」

「私・・・お姉ちゃんと・・・一緒に居たかったんです」

窓のほうを向いてしまったため、栞の表情はわからない。

「自分の体のことは、私が一番よく知っているから・・・なんとなく、そうしたかったんです」

「・・・そう」

「・・・お姉ちゃん」

栞が私のほうを向く。

笑顔になる。

「私は、後どれくらい生きられますか?」

「―――っ!?」

言葉と、笑顔のギャップにものすごく動揺する。

同時にすこし、納得する。

栞は、強いんだな――と。

「次の・・・誕生日ぐらいまでだそうよ・・・」

声が枯れる。

涙が溢れそうになった。

「お姉ちゃん・・・」

やっぱり笑顔で、

でも、心を抑えたような声で、

――ありがとう、と穏やかに――

――私は耐えられなかった。

現実から、この思いから、その笑顔から、どこでもいいから逃げたかった。

わたしは走った。

病室を出て、病院を出て、雪の降る夜へとでて――

商店街をぬける途中、目の端に映る言葉、聞こえる歌。

『メリークリスマス』

空には祝福の雪さえ舞っているのに。

私は、涙を堪えて走るしかなかった。

冬の夜の嘆く声は、誰にも聞かれる事はなく、ただ白から白へと吸い込まれていった。

 

 

 泣くのにも、走るのにも疲れたころにはだいぶ家のそばまできていた。

もう、ずいぶんと暗いことを改めて知る。

雪が降る。

頭上にどんどんと雪が積もっていく。

それは自分の悲しみのように、時間がたつほど増していく。

私は疲れて足を止めた。

公園だった。

人気のない、噴水のある公園だった。

ずいぶん暗くなって、見通しは悪くなっているけれどこの公園のどの場所にも栞との思い出があった。

雪の積もるベンチ。

とめどなく流れる噴水。

レンガの並木道。

どれも――笑顔だった。

私は、いつから栞の泣くところを見ていないのだろうか。

人よりも辛いはずなのに。

誰よりも悲しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうになるはずなのに。

「どうして・・・笑えるのよっ・・・」

涙が頬を伝って、雪と一緒に落ちる。

私は悲しいのに。

あの子が目の前からいなくなることが辛くて、堪えても泣いてしまうのに。

『お姉ちゃん』

そう言って、笑う。

その笑顔が、言葉が、何より苦しい。

泣いていいのに、死にたくないと泣いていいはずなのに、あの子は――

『お姉ちゃん』

「・・・どうして・・・よ」

嗚咽が、止まらない。

そして心に芽生える一つの思い。

天使のささやき。

悪魔の誘惑。

あの子がいなければ、きっと悲しくない、と。

名案に思えた。

苦しそうに息を吐く栞に、私は何もできない。

なら、私は――いても仕方がない。

いい、それでいい。

私は弱いから、栞の重みで潰れてしまうほど弱いから。

――私に妹なんていない。

穢れのない、白い雪が私に積もっていく。

ぱっぱっ。

払い落とす。

顔を上げて、わたしは闇の中を歩き出す。

歩いた後には闇が残った。

穢れのない雪。

照らす闇。

天使のささやき。

悪魔の誘惑。

誰もいない真っ暗な家に向かって、たった一人で私は進む――

 

 

 香里くんがこの場所を出てしばらくした後、私は一つ思い出した。

「そういえば、このスケッチブック渡してなかったな・・・」

そう言って、救急車で運び込まれたときのスケッチブックを手にとる。

しまったなと、思いながらすこし好奇心が芽生える。

「・・・何が描いてあるのかな?」

栞くんには悪いと思うが、すこしだけ見てしまおう。

後ろから見ていく。

白紙。

白紙。

白紙。

そして、

「ほぉ・・・」

思わず感心の声が出た。

おそらく、本当の彼女の絵を知るものならば『奇跡だ』とでも言っただろう。

それくらいに美しい絵だった。

昼時ののどかな公園。

背後には噴水。

視界にまばらに映る雪。

そして、

――天使のように微笑む少女。

「・・・これは香里くんか」

優しい笑みだった。

どれだけ、彼女がこの一瞬一瞬を大切に思っているかがよくわかった。

なんだか、盗み見た自分が許せない気持ちにさえなった。

それは、彼女達の幸せな一時を汚しているような気がしてしまったからだ。

日付は、12月24日。クリスマス。

今日・・・か。

と、そこまで思って考える。

絵のあちらこちらに散らされている雪。

今日は雪が降っていただろうか?

スケッチブックを置いて、窓へと向かう。

「・・・降ってるなぁ」

窓の外は一面の闇。

だけど、確かに見える。

病院の明かりに照らされて、淡く光る結晶たちが。

「・・・綺麗だな」

淡々と呟く彼の目には、その白さが焼きついてはなれなかった。

いつまでも、いつまでもきっと――心に残り続ける。

――穢れのない、純白の雪。

 

――END――

 

 

終ることのないあとがき

 どうもぉ、最近「なんだかなぁ」と思う機会が増えてきた霧月です。

今回、どないな感じだったでございませうか?

最近していない「見直し」もちゃんとしたので、間違いとかはないと思います。(多分

しかし今回気づいたんですが・・・

なんか時間軸がおかしいんですよねぇ、栞シナリオ・・・。

1月23日の時点で「去年のクリスマスに『誕生日までもたない』と言った」とありまして。

この場合去年のとり方は二つあるんですね。ホントに一年前と、ちょっと前ですが・・・。

去年の誕生日にこのストールをねだって買ってもらった。と誕生日前に栞が言ってます。

と言うことは、「ホントに一年前」説は心理学的にほぼありえませんねぇ。

とすると、約1ヶ月前の説のほうが信憑性高いんですが・・・。

栞、いよーに元気ですね。しかも、最近は調子がいいそうです。

どんな病気でしょうかね?

あ、そういえば入学式のとき倒れたとか言ってましたね。

はて、受験とかどうしたんでしょうかね?

きわめて謎。

しかしここはゲームですから「そーゆー病気なんです」で済むんですけどね。

ああ、今回あとがき長いですね。ここらへんで終わっておきます。

最後まで付き合っていただき真にありがとうございましたっ。

なお、m-nono@mud.biglobe.ne.jp まで感想をくれると嬉しいです。ではでは〜。

 

 

追記 Stainless Snow、和訳 穢れのない雪。

 

・・・この話、続くかも。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送