A biessing in disguise <後編>
リッドはどちらかというと脳からの命令よりも脊髄の反射で行動しているような人間である。
好きな物は好きだし。嫌いな物は嫌いだと、容赦ないほどはっきり言う。
時には、核心を突いたことを言ったり、周りへの気配りもするが、基本的には脊髄反射。
つまりは『気分しだい』だ。
単細胞ともいえなくもない。
そんなリッドは夕御飯を食べたら、非常に眠くなった。
確かに、御飯前のキールのうろたえぶりにはひどく興味がわいたがそれはソレ。
人間の三大欲には勝てず「ま、明日でいっか」の一言で済ました。
故に、
「ぐーぐー」←熟睡
「くぃー…くぃー…」←熟睡
リッドは寝ていた。クイッキーも一緒にだ。
きっと二人にはどこか通じるところがあったのだろう、気持ちよさそうに一緒に寝ている。
明日の朝まで起きる気配はなさそう、である。
おそらくリッドは、明日になるころには今日のことをすべてを忘れているにちがいない。
一方で、少女達、いや女性陣。メルディとファラはつつましやかに燃える焚き火の前で話をしていた。
こうして、同姓同士で話をしているとよく異性の話がでるものである。
特にファラはキールのことがあったため、いつも以上にノリノリだった。
メルディはキールのことをどう思っているのか、ファラは気になって仕方がない。
ああ、とっても気になる。…なら。
ファラは結論付ける。気になるなら、聞けばいい。
「メルディには、好きな人っている?」
雰囲気など気にしないで、ずばりストレート。さすがファラ。ステキです。
だがそんなことに気にした様子も無いメルディは「ん〜」と口に手をあてた。
そういうしぐさはなかなか可愛らしいものがあった。
メルディは少し考えた後に答える。
「メルディ、好きな人いるよ〜」
「えっ!? だっ、だれだれ?」
(うわぁ、いたんだぁ。キールかな? だといいなぁ、あ、リッドだったらどうしよう…)
何気に混乱しながらも思わず身を乗り出すファラ。
変わらない調子でメルディは、のほほんと言う。
「リッド、キール、ファラ。みんな好き。友達だよぉ〜」
「あ、うん。そうだね。」
――そうくるか。
ファラには少し期待はずれで残念だった。個人的にはキールが好きとか言って欲しかったのだが…。
一応、メルディがキールを好きである可能性が無いわけではない。
(少しでも可能性があるなら、キールのために私ががんばらなきゃ!!)
ファラは燃えに燃えていた。エネルギー全開といったところか。
皮肉なことにファラが燃えれば燃えるだけキールにとっては不幸なだけではあるのだが。
そういうところに党の本人が気づくはずも無い。
そして、なにより残念なことに彼女を止めるものはここにはいない。
ファラは問題無しと見て無鉄砲な作戦を実行する。
「あっ、そうだぁ」
ポン! と手を打ちながらファラが、ついさっき思い出したという感じで言う。
「そういえば、メルディ。キールがあっちの小高い丘まで来てくれって言ってたアルヨ」
何故にアルヨ?
台詞が棒読みだし、語尾が中国風でかなり怪しさ爆発だった。
しかし、さすがはメルディ。そんなところにも全く気づいていない。
「キール? はいな。行ってくるよ〜」
ファラ指差した方向へとメルディは走って行った。
良くいえば純粋。悪くいえば単純なメルディだった。
少しして、がさがさと茂みを掻き分ける音が止み、静けさの中に規則的な寝息の音が聞こえだす。
一仕事終え、ふぅとファラは息をついた。
(とりあえずはうまくいったから、あとは…キールにがんばってもらわなくっちゃ!!)
…うまくいったのか? あれで。
両手をぐっと握りガッツポーズをするファラの前で細々とたき火が揺れる。
その後には寝息をたてて眠るリッドとクィッキ〜が残り。
そして、もうすでに被害者となっているキールは今頃、先ほどの丘で落ち込んでいることだろう。
この後どうなるか。それはまさにキールのがんばり次第である。まる。
*
止まない風がふわりと、枯れ草や木の葉を宙へと誘う。
小高い丘。風通しのいいその場所に、すっと立ちながら僕は己の不幸を呪った。
厳密に言えば、僕にも少し原因があるのだがほとんどは目に見えない何かのいたずらだろう。
目に見えない何かのいたずら。神の見えざる手。
不幸にも調整機能があるとはマルクスもびっくりするだろう。
不幸にも、何故こんな所にいなければならなくなったのか、思い出したくも、ない。
あの後、ファラをとめるのにものすごく疲れた。
『じゃあ、さっそくメルディに言おー!』とか言って森に入ろうとするのを必死に止めて。
途中ちょっと泣きそうになりながらも必死に説得して、そして、その結末は。
『じゃあ、メルディにキールのこと好きかそれとなく聞いてみるから、ここで待ってて♪』
『…わかった』
実際には、すごく嫌だったのだが、仕方なかった。
『うん、大丈夫だよ、いけるいける♪』
『はぁ……。ところでファラはここへ何しに来たんだ。何の用もなしに僕を探していたのではないのだろう?』
『…あっ、御飯だって呼びに来たの忘れてたぁ。キール、御飯だよ』
『言うのが遅い…』
もちろん僕は素直に呆れた。
そして、今――
ファラのせいで半ばというか完全に強引にここで待っているはめになった。
もちろん僕が逆らえるはずも無い。ここにいるしかないのだ。
「はぁ…」と額を抑えると、自然と肩がおちた。
もう一度、自らの不運を嘆きたい気分だったが、そんな時間はおそらく無いだろう。
僕の予想が正しければファラはメルディをここに呼ぶにちがいない。
いや、それは僕が、その、メルディに好かれている自信があるからではなくて、ファラの性格から推測した物だ。
おそらくメルディがどういっても『まあ、大丈夫だよね』とかいうんじゃないだろうか?
それも、単刀直入に『好きな人は誰?』とか聞いたりするんだろうな。
そういう感じに予測していくと、僕の心は前より一段と重みが増した。
ファラの行動を予想すれば予想するほど気分が滅入ってくる。
いっそのこと、この場から逃げ出してしまいたかったが、きっとあとが大変だろうなぁ。
「はぁ…」
よくよく考えてみれば、僕なんかのことをメルディが好きなはずないよなぁ。
どう考えたって、リッドのほうが愛想がいいし、剣が使えて、男らしく、頼もしい。
僕はというと、少し、頭がいい。それだけのような気がする。
なにより、いままでメルディのこと悪く言ってきたし、セレスティアのことも信じてやれなかったしなぁ。
……こうやって考えてみると、嫌われていたって、おかしく、ない。
無理だ。
そう、結論付ける。
メルディには悪いけれど、軽くあしらってとっとと帰ってしまおう。
でも、そう思うと、少し心が痛んだ。
がさ――がさがさっ
「!!」
突然した音に、杖を持つ手がこわばったが、おそらくメルディだろうと考えた。
案の定、くるりと後ろを向くとメルディが出てきた。
よほど急いできたらしく、息はとぎれ、とぎれで頭には葉っぱが数枚ついていた。
「はぁ…はぁっ…」と乱れる息を整え、あがる肩をほんの少し鎮めてからメルディは言う。
いつもと変わらない、穢れをしらない、こえ。
「キール〜。何かようか〜?」
――どくん。
その声を聞いて、少し心が揺らぐ。やはり無下に追い返すのは少し罪悪感があるが、しかたがない。
明日、また謝っておこう。
「ああ、実はだな――」
小高い丘。風通しのいい場所。吹き抜ける風の中、ファラの、言った言葉が頭の中を、かけぬける。
――…そっかぁ、やっぱりキールはメルディが好きだったんだねっ――
山彦のようリフレインする、言葉。メルディのことが、好きであろう僕。
思いだされるように繰り返される言葉。
「? キール? どしたか〜?」
『恋』
むず痒いような、照れくさい思い。
胸の奥が締め付けられるようで、目の前の少女を抱きしめたいという欲望。
メルディが好きだということ。
誰かを好きになるということ。
なんとなく、分ったような気がしたら、急に目の前にメルディがいる事実を思い出して真っ赤になった。
耳元で…心臓の鼓動が聞こえる。体がまるで熱を持ったかのように熱い。
メルディに触りたい、抱きしめたい、いやいや、そんなことはできない、ああ、今はとにかく何か話さなければ。
だけど、意思に反して体は固まったまますこしとして動こうとしてくれない。
そうしていると、先ほどから動かない僕を不思議に思ったのかメルディが近づいてきた。
口を開き、何かを話そうとするが声だけが出ない。
いや、そもそも僕は何を話そうとしたんだろう、なにを、ナニを、何を?
混乱しているうちにすぐそばまで寄ったメルディが、僕の変化に気づいたらしく、驚いて。
「バイバ! キール顔赤いよ〜。風邪か?」
「違う」と言おうとしたけれど声は出ず、ひたりと冷たいメルディの手が僕の額に当てられる。
…ん? 僕の額? 僕、の?
前を見ると、ほんの鼻先にメルディの顔があった。
……うぁ。
それだけで顔は再び灼熱し、思考回路は完全にパニックに陥ってしまう。
暫くして、気がついてみれば、メルディの肩に手をおいた状態だった。
「キール?」
ああ、えっと。何してますか? 僕。
メルディが不思議そうな目で僕を見つめている。当の本人にも自分が何がしたいのかさっぱりだった。
目の前にあるのは、メルディの、紫の瞳、吸い込まれそうな。
ああ、頭の中が、真っ白で、まともに考えることができない。
突如として吹いた一陣の風
風にさらさらなびく紫色の髪
いっそ神々しいほどに幻想的で美しいその光景――
――どくん、と、激しい心臓の鼓動。
自分は何がいいたいのか、あるはずだから、考えて、言おう。メルディに。
――木葉が擦れささやく音、そして、視界の端に映る
やけにゆっくりに思えるときの中で、僕は口をひらく。
「メルデ――」
――輝く光。急激なエネルギーの収束。全てを焼く灼熱の光線。
――敵。
「危ない!!」
とっさ叫び、メルディを押し倒す。ざわりと草のざわめく音。
ザッ、乾いた音を立てて草の上に転がり込む。
「バイバ!!」
ズオッ、と、さっきまで僕たちのいた場所を白色の光線が通り過ぎる、間一髪だ。
…くそっ、どうしてここで邪魔が入るんだ!
――……いや、違う。今はそれよりも。
急いで立ち上がり、敵に向かい、杖を構え。光線の飛んできた方向をじっと見やる。
メルディに向かって叫ぶ。
「メルディ、モンスターだ!! 戦闘準備!!」
「キール……メルディ戦えないよ〜」
返ってくる少し怯えた声に、思わず声が荒くなる。
「――ッ。どうしてだ!?」
「め、メルディがクレーメルケージ。かばんの中だよぉ〜」
逡巡し、
「…分かった。僕に任せてくれ」
そう言うと、メルディを自分の後ろにやって。ぎゅっと、強く杖を握り締める。
今は自分しか戦えないんだ。やるしか…他に道は、ないんだ…。
草の茂みから現れたのは、自分の身長ほどの固い殻に覆われた3匹の異形の生物。
長く伸びた首の上の頭の目が光り、腹部についている牙が2本あるのはかなり不気味だ。
ん? このモンスターは以前見たことがあった。
――ヘビースネークかっ!!
もうすでに何度か戦ったことがある。動きは遅いものの牙の下から出されるレーザーはかなり威力がある。
それに敵の動きは遅くとも、レーザー自体は早く、あたれば相当なダメージを受けてしまう。
ということは、先手必勝。
素早く敵に向けてある杖で空中に六芒星の魔方陣を描く。
目に見えない圧迫。自分の周りに昌霊の力が集まるのを感じ、大きく息を吸い呪文を紡ぐ。
「イラプション!!」
腕につけられたクレーメルが淡く輝き、同時にヘビースネークの下の地面が灼熱する。
――ずおっ。
地面から勢い良く炎がふきでて、へービースネークを熱く焦がしていく。
「…やったか!?」
ずいぶんあっけないなとは思いつつも、ゴウゴウと音をたてて燃える炎を見て勝利を確信する。
ふぅ、と少し息を吐き後ろを向くと、まず目に入るメルディの驚いた顔。
――キール。危ない!!」
メルディの声。それが危ないと。
「くっ!?」
しまった、と思い。急いで後ろを振り返り再び敵のほうを見る、目の前に迫り来る一乗の光線。
――ッ!
ズウゥン。ゴッ。ザザザザザ―――ッ。
光線の衝撃によって後ろに吹き飛び地面に激突し、擦る。
幸いにも、とっさに右腕でガードしたためそれほどダメージは無かったけれども、やはり痛い。
…くそっ、僕としたことがここがセレスティアだと言うことを失念しているなんて…。
「…らしく、ない。な」
晶霊術というものは、周囲の晶霊の力を集め、それによって超自然的な現象を起こす、一種の魔法。
それはけして、自分の中の力を引き出すわけではない。周りの晶霊の力だ。
だから常に均一の力が得られるわけではない。
しかもここはセレスティアで、氷・土・雷の大晶霊が司っているのだから必然的に火の魔法は弱くなる。
だから、イラプションの威力が下がり一撃で仕留められなかったのだろう。仕留めるにはならどうすればいいか。
――簡単だ。
火・水・風の力は弱まってしまうのなら、そうじゃない、加護を受けた晶霊術を使えばいいだけだ。
僕はすぐさま起き上がり杖で六芒星を描き――
「ロックブレイク!!」
――ずどん!!
地面が跳ね、飛び出した巨大な岩がヘビースネークにおしかかる。
ズゴゴゴゴと衝撃が地面に伝わり、ヘビースネークを飲み込んだまま、岩は地面へと還った。
もうすでに、敵の、ヘビースネークの姿は見えない。
今度こそ倒しただろう。ようやく敵がいなくなったことに安心し、ほっと息をつく。
ああ、そういえばメルディは無事だろうか――
「きゃあああっ!!」
闇を切り裂くメルディの悲鳴。全身が凍りつくように冷える。敵は…まだいたのだ。
くそっ…、また油断してしまった。完全に安全になるまで気を抜かないのは当たり前だろうにっ!
自分に悪態をつきつつ慌てて後ろを向く。
広がる光景に、焦りよりもまず、ふがない自分と敵への怒りが身を熱くした。
「メルディっ!!」
冷静な怒り。許せないという思い。だが…ここで駆け出してはいけない。
メルディを取り囲む形で浮かぶフライングソール。
一体一体はあまり強くないものの、これはあまりにも数が多い。少なくとも十匹はいる。
こまめに倒していたのでは間に合わない。
「――ッ!」
メルディの方に向かって走り出したくなる気持ちを、必死で抑える。
僕が行ったところで、何の役にも立たない、僕自身はリッドのように強くはないから、でも、それでも、
――助けたい、メルディを、助けなければ…いけない。
思いが心を通じて全身を支配する。この先の僕の行動はひとつ、メルディを助ける、ただそれだけ。
そのために、僕がフライングソールを倒すためには、晶霊術しかない。
しかし、敵は浮いている、先ほどのような地の晶霊術は効かない。
他の晶霊術は、威力が下がってしまう。それでは倒せないか――いや、ひとつ、方法がある。
簡単だ、晶霊術の威力を上げてしまえばいいだけだ。しかし、メルディに当たらずに、なおかつ威力を上げて…。
かなり難しいが、できるできないじゃない、やらなければ――ならないんだ。
さぁ、覚悟は決まった。
風が、僕を中心にふわりと螺旋を描く。時が止まったように遅く、遅く感じた。
自分の中から感情が、とめどなくあふれ出てくる。
それは、怒りであり、悲しみであり、愛しさであり、苦しさであり、憎しみでもあった。
そんな思いに支配されているのに、不思議なくらい頭が良く冴えた。目を見開き杖を掲げる。
「――。コンセントレート」
口から耳へと、風のように流れる言葉。静寂の中でさ迷う呪文の旋律。
地面に走る黄金色の光の筋の中心に僕は立ち、杖で光の先を導く。
――我は招く、静寂にして雄大。自由奔放たる風の司、大晶霊シルフに希う――
ひゅう、と、キールを中心にして風が踊り狂う。草が舞い、ざわめく。
空には子供、いや大昌霊であるシルフの姿があった。それは具現化された風の象徴。
天と地には幾筋もの黄金色の光が六芒星を描く。
濃厚な蜜を持ったすさまじい力が大気に流れではじめる。
――鮮烈なる緑の災禍。命の始め、何者より速きその魔の法を我が身に宿し――
自然と頭に流れて、僕の声とは思えないほどの威厳をもった言葉が口から溢れ出る。
呪文と旋律。この世の物を縛る音階。戦い守るための力のひとつだ。
もはや僕の五感は途絶え何も聞こえず、何も見ることができない。
それでも、魔の圧力だけは感じた。密度の増した空気が僕を押しつぶさんばかりに圧迫する。
苦しいけれど、負けるわけにはいかない。
自分の体を動かすのは、使命感にして義務感。自分の持てる全ての力を持って守りたいと確かに思ったのだから。
――脆弱たるこの身を不足と思うことなく、切り裂きの風の法をここに表せ――
魔の力は、本来精神の力。心の強さ、強い意思。つまりは何かを思うその気持ち。
場に魔の力が満ち、膨大な量の風の昌霊がここに集い、自然の法を捻じ曲げ、風を生む。
足元に描かれた巨大な六芒星が天に向けて光を放つ。
髪が逆立ち、絶対的な力がみなぎるのを感じる。
――我が名は、キール=ツァイベル。風の大晶霊、シルフと契約を結びし者――
各地から集まった、風の晶霊たちが、空気中に飽和して、
――パァァン!!
乾いた音とともに、五感が戻り、視界が開けた。
時が、止まったかのように、だけどゆっくりと、周りが動いている。
完全な集中状態、トランスの時に起こる、超高速の脳の運動によって、こう見えているのだと僕は知っている。
地面から立ち上るきらきらとした光の粒子。渦を巻いて倒れる草。
目の前にいる敵と、メルディ。
まだ、終わってはいない。
…呪文を紡ぐ、
――天空の風よ、降り来たりて龍とならん――
僕の腕で、クレーメルケージが、ひときわ淡く輝いた。
――…サイクロン!!」
――ごぅ
呪文を紡ぎ終わるのと同時に、吹き飛ばさんばかりの風が全身を襲った。
それ以外何も聞こえなくなるほどの風、見えざる真空の刃。
草を、木を、そして土までも巻き上げてフライングソールを切り裂いていく。
大嵐。破壊の風。全てを土へと還す絶対の力。
その力が憎き敵を、フライングソールを完膚なきまでに打ち砕いていった。
――いったい。
どれほどの時がたったか――いや、一瞬かも知れない。けれど、もっと長かったかもしれない。
だが、時間とともに確実に風は凪いでいった。
天空と地面の六芒星は消え、フライングソールどもにいたっては跡形も無い。
先ほどの大技の余韻が残る中。はっと僕は思い至って駆け出す。
…メルディは無事だっただろうか――
さっきの魔法ではメルディに被害が及ばないようにしたはずだが、あの大技だ制御し切れていたかどうか…。
もしも、もしも…失敗していたら――
跡形も残らなかったフライングソールを思い返して青ざめる。
もしそうだったら、ぼくがメルディを殺したことにぃ! あああっ!
だが、結局はそれも杞憂に終った。
ふわふわと舞う草の中で、メルディはうつぶせになって倒れていた。
「メルディ!?」
近寄って抱きかかえる。
伝わってくる鼓動と、人らしい体温。
ああ、無事だ――すこし、衣服が破れているけど、大怪我とかはしていない。
よかっ――…ん?
なにやら様子がおかしい。
恐る恐る、できるだけ、そ―っと、声をかけてみる。
「…メルディ?」
………………………く〜。
「め、メルディ?」
「…く〜…く〜…」
メルディはとても幸せそうだった。
そう、それはとても幸せそうに…眠っていた。
このやろぉ、と思わず殴って起こしそうになったが、寸前で躊躇し、
「ふぅ…。」
と息をつくと、メルディを両手に抱えて立ち上がった。
おそらく、助かったことによる安心感で眠くなってしまったのだろう。
しかたない。…寝かしておいてやろう。
…きっと。
メルディのこと、今、好きかといわれたらおそらく「そうだ」と僕は言う。
だが…それ以前に大切な仲間でそして、大切なたびの途中でもある。
きっと、いま、僕の思いを伝えても、心に迷いを生む結果にしかならないだろうから…。
世界を救うまで、その時までこいつを守っていこう。自分なりに…精一杯。
そして、全てが終ったその時にはきっと―――。
突如として吹いた一陣の風。穏やかで優しい、風。
それはふわりと、僕らを包み込んでいる。
暗闇に、明るみがました。もうすぐ―――長かった夜が明けようとしているのだろう。
ふと、でかい荷物へと視線を移す。幸せそうな寝顔。これはこれで…いいかもしれない。
僕は清清しい微笑を浮かべると、キャンプしていた場所へと帰えろうと足を進めようとしたら、突然。
――ぎゅ
と、メルディが首に手をからませてきた。
うわわ。
すぐ近くに、メルディの顔が、目が、唇がぁ…――
…………ぐっ。
僕は――きっと真っ赤になりながら――それでもまた、一歩。一歩。足を進めた。
第二次あとがき
うぃ。獰猛。霧月でございます。
A biessing in disguise いかがでしたっしょうか?
コンセプトは「真っ赤で不幸なキール」です。
実際にはただ単に、魔法の戦闘シーンが書きたかったからだったりしますけど…。
ん、まぁ、すこしでも、心に響くもんがあったなら、これ幸いです。
ついでに感想(の名を借りた苦情)を m-nono@mud.biglobe.ne.jp まで送転していただければコレ又幸いです。
…ああ、座談会が、したいなぁ(ぼそ
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