「ねぇ、祐一。」
「ん？」
「来週、何があるか知ってる？」


名雪が祐一に話しかける。
ちなみに来週はクリスマスがある。つまりは、名雪の誕生日があるのだが。


「来週？　何かあったっけか？」


そんな祐一の言葉に落ち込む名雪。そこには哀しみすらも見て取れるような落胆ぶりだった。

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名雪BirthdaySS
Ｃｈｒｉｓｔｍａｓ　Ｅｖｅ

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「（はぁ……祐一、私の誕生日忘れてるのかなぁ……）」


授業中、名雪は珍しいことに眠ることなく悩んでいた。
まぁ、恋人であるはずの祐一があんな態度じゃ眠るにも眠れないだろうが。


「（う〜、わからないよ〜）」


授業そっちのけに悩み続けたら、昼まで起きていた。
周りどころか講師すらも驚いていたが。


「おい、名雪……」


祐一がどうしたのか聞こうとしたとき……


「（北川君！）」
「（応！）相沢、飯食いに行こうぜ」
「ん？　あぁ、いいぞ？」


そして祐一は北川に無理矢理引きずられていくように教室を後にしていった。
実際引きずられていたが。


「（ナイスよ、北川君。）……で、今日は何かあったの？」
「え？　分かるの？」
「バカね。何年親友やってると思ってるのよ。それくらい分かるわよ。」


と言うよりは、名雪が寝ていないだけで何かがあった、と考えるの妥当だと思う。


「さ、話してみなさい？」
「うん……」









「おい、北川。もういいって。」


その言葉に北川は足を止める。


「まぁ、相沢ならこれくらい気づくと思ったけどな……」
「二人には気を使わせたな……スマン。」
「気にすんなって。で、これからどうするんだ？」


北川の指す事の意味は未だよく分からない。
だが、祐一の方は意味が分かったようだった。


「そこは俺の役目だ。二人は俺の言ったとおり動いてくれればいいさ。」
「わかった。そんじゃ、学食にでも行くか？」
「まだ残ってるのか？」
「さぁ？」









「（ん〜……相沢君も罪作りよねぇ……）」


名雪の相談を受けた香里が最初に思ったことはそれだった。


「ねぇ、香里〜、どう思う〜？」
「心配すること無いんじゃないの？　相手は“あの”相沢君よ？　何考えてるか分からないじゃない。」
「……うん、そうなんだけど……」


それでもまだ名雪はふさぎ込んだまま。
香里は名雪の頭にポンポンと手を置いて。


「はいはい。大丈夫よ。あたしが保証して挙げるから。」
「……うん。ありがと、香里。」
「（ごめんね、名雪。後、もう少しの辛抱だから……）」


そう、香里もまた、祐一の協力者だった。









時は流れて12月23日の夜１１時。今日は名雪の誕生日。いや、もうすぐ『昨日』になる。
だが、祐一は水瀬家に未だに戻っておらず、名雪は下手すると泣き出しそうな顔でベッドに寝転んでいた。


「うぅ、祐一〜どこいっちゃったの〜？」


眠りもしないで、彼女がそう言うのも無理はない。
祐一はまるで名雪の誕生日を意に介さない様な素振りだったのだから。


「祐一、私のこと嫌いになっちゃったのかなぁ……？」


そんなときだった。水瀬家の電話が鳴り響いたのは……


「名雪〜、美坂さんからよ〜」
「香里？　うん、わかったよ〜！」


すぐにベッドから飛び降り、階段を駆け下りる名雪。


「は〜い。」
『あ、名雪？　ちょっと来てほしいところがあるんだけど……』
「え、今から？」
『えぇ。』


思わず名雪は秋子に目線を送る。


『了承』


声には出してないが、確実にそう言っているように感じた。


「うん、わかったよ。で、どこに行けばいいの？」
『大丈夫よ。』


ピンポ〜ン


『もう迎えに来たから。』


ドアをあけた外には携帯電話で電話をかけていた香里が立っていた。


「さ、行くわよ？　早くしないと誕生日終わっちゃうじゃない。」
「え？」
「それに、相沢君が待ってるわよ？」


その一言で名雪の活動スピードは三倍化した。……赤くはなっていない。
すぐに外用に着替えてくる。


「早く行くよ！」
「……その速さ、普段でも出しなさいよね。」


もっともな事だが、名雪がそんなことを気にするとは思えない。


「それで、祐一はどこ？」
「そうね、早く行かないと相沢君の苦労が水の泡になってしまうわね。」


香里は名雪を手招きして外へと連れ出す。


「それじゃ、北川君。頼むわね。」
「おう。お姫様二人の護衛はこの俺が勤めさせてもらうぜ。」
「似合わないわよ？」


ほっとけ、と言って北川は二人を先導していく。
その先には……


「……公園？」


三人が公園の入り口に着いたとき、香里と北川は止まった。


「こっから先は、水瀬だけが通れる場所だな。」
「そういうこと。相沢君もこの先に居るわよ。」


二人に促され、一歩公園へと踏み出す名雪。
不安げな顔だったが、祐一が居る。その一言が名雪を前に進ませていた。


「祐一……どこ？」


名雪は前に進む。
公園の地面を歩くごとに積もった雪がサクサク、と音を鳴らしていく。


「あ……」


そして、彼女は見つけた。


「よう、遅かったな。」


木の下で、無数の雪ウサギの群れの中に片膝を立てて座っている、祐一の姿を。


「祐一……」
「泣きそうな顔すんなよ。ギリギリ、間に合っただろ？」


名雪は気づいていた。
素っ気ない態度も、
誕生日のことを忘れたようなふりをしたのも。
このプレゼントを、ギリギリまで悟られないようにしていたことを。


「祐一ぃ……」


名雪は祐一に抱きついていた。
いつの間にか目から涙を流しながら……


「泣くな……って、無理だよな。今まで騙し続けてきたんだから。」
「ちがう、よっ。嬉し涙、だよっ。嬉しいん…だよっ。」


名雪の声は途切れ途切れになりながらも、祐一への感謝の言葉を言った。
それを聞きながら、祐一はゆっくり、ゆっくりと名雪の髪をなでていく。


「誕生日、おめでとう。名雪。」


ピピピピピピ……


「そして、メリークリスマス。」


時計のアラームが鳴り響き、２３日が２４日、クリスマスイブへと変わった。


「ほら、見ろよ。」
「え……？」


ハラハラと、白い雪が降ってくる。
暗い空、淡い街灯、それらと相成って幻想的だった。


「ホワイトクリスマスだな。」
「うん。」


二人はしばらくの間抱き合ったまま空を見ていた……









「あ〜あ、こんな時間に出たら妹になんていわれるかわかんねぇな。」
「あら、妹いるの？」
「ん。まぁ、親はほとんどいねぇから二人暮らしだけどな。」


公園の入り口で香里と北川は話し込んでいた。


「どんな子？」
「ん？　意地っ張り……かな？」
「ふ〜ん……今度会わせてくれない？」
「あぁ、いいぞ。」


北川は普通に言っているが、ある意味で凄いことを言っているような気がする。


「じゃあ、あたしは帰るわ。」
「送っていくぞ。」
「ありがと。」


そういって二人は公園の前から立ち去ろうとする。


「「あ、その前に……」」


香里と北川が公園の方に向き直る。


「「二人とも！　早く帰りなさいよ（帰れよ）！　風邪引くぞ（わよ）！」」


そういってから、立ち去ったのだった。
余談だが、祐一と名雪はその声が聞こえず、後日に見事に風邪を引いたという。

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あとがき

初めての、記念SS、名雪なり（五・七・五）

ども、鳳龍です。

結構難産だったこの作品、いかがだったでしょう？

自分としてはまぁ、うまくいったんではないだろうか、と思ってます。久方ぶりに。

まぁ、それでもまだまだだと思っている部分も多数ありますが。

それはそれとして、これからも誕生日ラッシュは続きますね。

一月六日の真琴、同七日のあゆ、同二十九日の舞、二月一日の栞。

とりあえず、真琴を完成させないと。といったところですね。あゆも。

修羅場は続きます……


現在は課外のまっただ中なのでどうしようもありませんが、それが過ぎればほぼフリーなので、一気に更新……できたらいいですね。


でわでわっ！




初出：１２／２３
鳳龍

Ｂａｃｋ