月姫

第ニノ夜 陽光の日常

 

 

 ――――――目が覚めた。

 いつもと同じ朝。しかし、いつもと違う朝。

 そう思うのは何故だろう?空はこんなに蒼く澄み渡り日が高く気持ちがいい朝なのに……。

 はて?日が高い?確か昨日が日曜だったから今日は月曜日……、日が高い?

 まさかとは思うが時計で確認してみる。

「九時……?あれ?学校は……」

 いや待て、頭が混乱してきたぞ。こういう時こそ冷静にならなくてはいけない。まずは整理してみよう。

 昨日は二日ぶりに目が覚めて今日からの夜について話し合ったはずだ。それが日曜日。

 て、事はやっぱり今日は学校だよ!?遅刻?いや、学校なら翡翠が起こしに来てくれるはずだ。いや、なくても来てくれる。今日は来なかったよな?うん、来なかった。来なかったと思う。

 

 ――――――コンコン、ガチャ

「志貴様お目覚めでしょうか?」

 ああ、翡翠が来てくれた。なんだ、時計がずれていただけか。

「おはよう翡翠、制服はそこに置いておいてくれる?」

 そう言うと、翡翠は少し困った顔をする。

「志貴様、今日はお休みください。昨日の今日ですし、もう九時を回っております」

 あ、やっぱり時計は間違ってなかったんだ……。

 まあ、確かに昨日の今日だし、この時間まで休んだんだ今日はよしとするか。

「そうだね、今日は休ませてもらうよ。それで、悪いんだけど一時間後に風呂に入れるようにしてもらいんだけどいいかな?」

「はい、解りました一時間後ですね。用意が出来ましたら呼びに参ります」

 翡翠は一礼をしてから部屋を出て行った。

 さてっと、確かに二日寝ているだけあって体が鈍ってるな。まずこの体を何とかしないとな。

 という事で、翡翠が来るまでの一時間体を動かす事にした。

 ――――――腹筋×10・腕立て×10・背筋×10をセットで一時間で出来るだけやってみた。

 

 ――――――しばらくして”コンコン”とノックがした。

「志貴様、ご用意が出来……ました。が、何をしているのですか?」

 翡翠は部屋に入ってきた。と言うか俺を見て、怪訝……と言うより少し怒っている様な顔をした。

「何って……。軽く体を動かしていたんだけど」

 それを言った瞬間翡翠の表情がさっきより険しくなった。

「志貴様、確かに二日ほど体を動かしていないので軽く体を動かした方がいいと姉さんも言っていましたが。全身汗だくになる程の運動は軽くとは言えません」

 ああ、さっきの表情は責めていたのか。

「う〜ん、自分では軽く流していたつもりだったんだけだな。解ったよ、今日は激しい運動はしないよ」

 それでも翡翠はまだ信用できないのか表情は変わらない。はあ、翡翠のこの表情って苦手なんだよな。

「そうだ、お風呂の準備できたんだよね。入ってくるよ」

 今は翡翠の機嫌が直ってくれるのを待つしかないかな?

 

「はあ、にしてもさっきの翡翠には参ったな」

 俺は浴槽につかりながらさっきの翡翠を思い出した。

 その度、どうしてもため息が出てしまう……。

「ああくそ!! やめやめ」

 考えを振り払うように一度顔を洗い、勢いよく浴槽から出た。

 

 ふう、サッパリした。今は……十一時かまだ昼まで一時間もあるのか。暇つぶしに書庫の本でもあさりに行くか。

 そう思ったら行動は早いに越したことはない、早速書庫に行こう。

 そうして歩いていると親父……槙久の部屋でなにか音がした。

「翡翠……いるのかな?」

 う〜ん、やはりあのままだとまずいよなぁ、と思いつつ部屋に入ってみた。

 が、翡翠どころか誰もいない。

「あ、あれ?誰もいないのか〜?」

 

 し〜ん

 

 誰も居ないらしい……。

 まあ、それならそれでいいか。槙久の部屋って殆ど見た事無かったからな。

 よし、そうと決まったら早速家捜しだ!!

 

 ――――――10分後――――――

 

「う〜ん、何か無いかな?」

 

 ――――――更に20分後――――――

 

「おお、この棚動くぞ!?」

 

「か、隠し部屋かよ!?」

 

 ――――――更に30分後――――――

 

「こ、これは!? うっし、貰っておこう」

 

 ――――――終了――――――

 

 ふう、作者の手抜きもここまで来ると突っ込む気力も萎えるな。

「志貴さ〜んお昼ご飯が出来ましたよ〜」

 下の階から琥珀さんが呼ぶ声が聞こえてきた。そう言えば腹が減っているな。

「わかりました、今行きます」

 俺は返事をしてから琥珀さん達が待つ食堂へ向かった。と、階段の所で琥珀さんが待っていてくれた。

「志貴さん、翡翠ちゃんから大体は聞きました。たしかに軽い運動は必要ですが、汗だくになるまでなんてしないでくださいね」

 琥珀さんは、いいですか? 念を入れてくる。

「うん、解ったよ。翡翠にも言われたし……、翡翠ってまだ怒ってます?」

「いえ、私がなだめておきましたよ」

 そう言われてホッとする反面、琥珀さんには適わないという事を改めて思い知らされる。

 

 その後はこれと言った事は無くお昼が過ぎていった。

 

「琥珀さん、散歩に言ってきていいかな?暇で暇で体が固まってしまいそうだ」

 琥珀さんはう〜んと、唸ってから数秒でOKを出してくれた。が、まだ激しい運動などは禁物なので歩くだけにしてくれとの事だった。

 まあ、自分もそんな遠くまで行くつもりは無いので別に気にすることは無かった。

 

「で、やっぱりココに来るしかないのか」

 昼間の街は賑っていて俺に気づいている人は殆ど居ないだろう。

 ……俺はふと、自分の眼鏡を外す。

 

 強烈までな死のイメージ。人の行列が線と点の行列に、ビルや道が線と点の道に……。

 

  

 そう、この世界は何時だって壊れかけだ。

 誰もが罅割れた世界をそうと知らず駆け抜けていく。

 時に躓きながら駆けて行く。

 そして……、俺はこの世界を何時だって殺す事が出来る。

 ポケットに忍ばせている短刀で罅を切り、穴を拡げてやればいいのだから……。

 勿論、あの時の様ではなく、むしろ世界を壊す事に近いか。

 なのに……。何故人は歩いて行けるのだろう?

 まあ、答えは簡単だ。

 ただ単に世界の罅や穴が視えていないのだけだ。

 なら、俺はどうなのだろう?

 俺には罅も穴も視えているのにココに居る。

 ただ、人に流されているだけなのだろうか?

 いや、これも答えは簡単だ……。

 俺の大切な人がこの世界に居る。

 その温もりを護りたいから……。

 共に歩んでいきたいから……。

 だからきっと……。

 こんなにも世界が壊れやすいのを知っているけれど歩いている。

 こんなにも世界が壊れやすいのを知っているから歩き続けている。

 この……不完全の世界を一歩ずつ……。

 

 さて、眼鏡をはめて歩き出す、夜まではまだまだ時間があるのだから……。

 

 夕方になり、いつもの通学路を学校へ向かってゆっくり歩いていた。

「あっ!兄さん?」

 前から秋葉がやってくる。赤い夕日を背にした格好がとても絵になる。

「どうしたんですかこんな所で?体を休めていなくていいんですか?」

「ああ、少しは体を動かしたほうが治りは早いんだよ。だから散歩がてら秋葉を迎えに来たんだ」

「え?そ、そうなんですか!?」

「ん?冗談だよ」

 俺は悪戯っぽい笑顔を浮かべて秋葉をからかった、その事に秋葉も気付いたのか少し微笑みながら俺を追いかけてくる。

 ちょっとした追いかけっこが終わると俺達は朱く染まった道路を並んで帰った。家に帰る間の道、俺達に言葉は無かった、が。言葉なんて必要無かったのかも知れない、ただ隣を歩いて居るだけで心が落ち着いた、だからこの時間を大切にしたかった……。

 

「お帰りなさい、秋葉様。志貴さんと御一緒だったんですね」

 帰りを迎えてくれたのは珍しく琥珀さんだった。

「ええ、帰り道で偶然会って」

「いや、秋葉を迎えに行ったんだよ」

 それを聞いた秋葉は顔を紅くして、琥珀さんは驚きながらも笑顔を浮かべている。

「いや〜、志貴さんと秋葉様がラブラブだったとは、もう今夜は……」

 秋葉はその先を言わせまいと琥珀さんの襟首を掴んで引きずって自分の部屋に戻ってしまった。

「秋葉様〜。着物のそこを引っ張ると脱げてしまうのですが……」

 琥珀さんはそう言いながらも着物が脱げないように裾を押えて、首も絞まらない様に後ろ向きに歩いている。

「琥珀さん器用だよな〜」

 俺は二人を見ていたら自然にそんな言葉が出てきてしまった事に苦笑する。

「……ラブラブ」(ポソリ)

 

 ビクッ!!

 

 俺は何故か悪戯が見付った子供の様に恐る恐る後ろを振り返って見る。

「ひ、翡翠?」

 翡翠は何時もの様に一礼をしてから。

「夕食までまだ少々掛かります。それまではごゆるりとお過ごしください」

 そう言って翡翠はどこかへ行ってしまった。

 今日は翡翠を怒らせてばかりだな〜(でも、今のは俺が悪いのか?)

 まあ、秋葉が琥珀さんを連れて行っちゃったから夕飯は大分後になるだろうし、今度こそ書庫に行って本でも読んでいよう。

 

 書庫でちょうど『万人の殺戮者』を読み終えた頃に翡翠が夕食が出来たと知らせに来てくれた。

「ありがとう、翡翠」

「い、いえ。秋葉様も待っておられます参りましょう」

 少し顔を赤らめている翡翠を見ていると少し心配になってきた。

「翡翠……、風邪?顔が赤いよ」

「こ、これは……。だ、大丈夫です、ご心配いりません」

「? なら、いいんだけど」

 

 ……俺は、夕飯の席で絶句していた。何時もの美味そうな夕飯の中に何か違う物がある。

「これは……、翡翠が作ったのか?」

「はい……、姉さんに手伝ってもらったのですが……」

 何故だ、何故コーンスープが紫色なんだ!? ん? ちょっと待て、色が今度は朱色になってきたぞ!?

「志貴さん翡翠ちゃんが一生懸命作ったですからちゃんと食べてくださいね☆」

「まあ、人の努力を無にする兄さんではないですよね」

 鬼(妹)と悪魔(割烹着の)が苦笑を浮かべながらある意味で興味津々でこちらを見てくる。

 ……ええい!! 食べればいいんだろう食べれば!! 俺も漢だ翡翠が一生懸命作ってくれたモノを下げさせる訳にはいかない!!

 

 

 まあ、結局あの後倒れて休んでいる(意地で完食はした)

「志貴さんお疲れ様です。はい、お薬」

「ありがとう琥珀さん、それ飲んだら行くよ」

「だ、大丈夫ですか?まだ時間はあるんですからもう少しゆっくりしていた方がいいと思いますよ」

「うん、それもそうなんだけど少し歩いて消化を早めようと思ってね」

 琥珀さんは苦笑しながら承諾してくれた。さて、秋葉と翡翠にも言って来るか。

 

 

 ――――コンコン

「はい、兄さんですか?」

「ああ、よく解ったな」

 ただノックしただけで誰か分かってしまうというのは本当にすごい。

「いえ、ただ琥珀や翡翠とのノック音が違っていたものですから」

「いや、違いが分かるだけでもすごいよ」

 たぶん俺にはわからない。

「いえ、伊達に十七年間ここに住んでいませんから、兄さんと違って」

 う……、最後のは微妙に嫌味が入ってたな。

「兄さん、話があるなら入ったらどうですか?」

「いや、これから外に行くって事を言って置きたかったかったから来ただけだ」

 そう言ったにもかかわらず秋葉は部屋の外に出てきた。

「そう、ですか。では、行ってらっしゃい兄さん」

「ああ、行ってくるよ秋葉」

 そう言って秋葉の頭を優しくなでてから背を向け階段を下りていった。

 

 

 ――――コンコン

「はい、ただいま」

 翡翠は扉を開けて俺の顔を見ると赤面してしまった。

「志貴様、先ほどは申し訳ありませんでした」

 翡翠が深々頭を下げるものだからこちらもどう反応していいか分からなくなり少々慌てるも、頭を上げさせる。

「別に気にしてないから、翡翠もそんなに落ち込まないで」

 そう言って翡翠が安心できる様に少し微笑んでみせる。

「はい、ありがとうございます。それはそうと何か話があったのではないですか?」

「ああ、これから夜の見回りに行くからその事を伝えようと思ってね」

「分かりました。しかし、約束は守ってくださいね志貴様」

 ん? 約束なんてしたかな? そう思っていたのが顔に出たのか翡翠は悲しそうに怒った顔をしていた。 ああ、朝の『今日は激しい運動はしない』って約束か。

「ああ、分かったよ。今日は激しい運動はしないから、安心して良いよ翡翠。じゃあ、行って来ます」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 

to be next

 

 

 

・あとがき

 どうも、おまたせしました雷牙です。もうすぐ夏休みも終わりをつげますねぇ。

 唐突ですがこの小説の中の世界観について書いて置きたいと思います。

 

 主人公は七夜志貴(遠野志貴)で、メルブラと歌月十夜が終わった後だと考えておいてください、と言う事は志貴は今や高校三年生です(いいのか受験生!?)まあ、誰エンドって訳でもないので誰とも恋仲にはなっていません。しかし、あえて言うなら、太陽。(シエル・グッドエンド)ですね。

 

 さてここでこの小説のもう一人の主人公レスク・ルナ・アルテミスについて説明しましょう。

 

 レスク・ルナ・アルテミス/『魔道元帥ゼルレッチ』の後継ぎみたいなもの、アルクェイド・ブリュンスタッドの暴走(魔王化)から千年城で生き延びた真祖である。しかし、大きな深手を負って千年城の秘宝を荒らしに来た『王冠 メレム・ソロモン』によって教会に拘束されるも元々教会と、真祖の連絡係だったため協力の約束をして埋葬機関第6位に属している。シエルにとってはCIELと言う名の名付親、戦闘では師匠的存在。しかし本人は遠距離戦より近距離戦を好む、シエルの身体つきや力が弱い(あくまで埋葬機関の中で)ので遠距離戦を教え込む。シエルのには自分で付けた名前なんだから『弓』ではなくシエルと呼べ、と言われている。

『ルナ・アルテミス』は教会から付けられた名では無く、偶々教会に協力していた『月飲み グランスルグ・ブラックモア』に付けられたものである。『レスク』は『魔道元帥ゼルレッチ』に付けられた名である。

 最初は『干渉者レスク』として相手に『干渉』する能力を持っていて教会との取引などの場によく連れて来られていた。しかし埋葬機関に入ってから『月飲み グランスルグ・ブラックモア』から貰った片刃の直刀『パニッシャー』(モノに対して絶対の破壊の力を持つ剣)と『干渉』の力を使う事で相手の精神に干渉し破壊するなどが出来る。

 首には教会の黒い首輪の様なモノが巻かれていて裏切ろうものならナルバレックによって即死である。

 

 とまあ、こんな設定があるのですよ。次回本人の口から少し語られるとは思います。では、また次回に〜

 

 最後に乱筆乱文をお許しください


感想送信用フォーム>
おなまえ    めーる   ほむぺ 
メッセージ
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送