月姫
第三ノ夜 月の異常者
待ち合わせには少し早い時間に俺は一人待ち合わせ場所、公園に来ている。
「あいつはまだ来ていないか……」
まあ、俺が早い時間に来てしまったのだから仕方が無い、時間まで待つとしよう。そう思いベンチに腰掛けると、隣に誰かが座った気がした。隣を見るが、誰も居ない。まあ、行方不明者が多発している今こんな時間こんな公園に人が来るわけが無い。
――――――カチャ
俺は『魔眼殺し』を外してもう一度隣を見ると、少し驚いた。
「ゆ、弓塚?」
そう、俺の隣に座っていたのは『弓塚さつき』俺が殺したクラスメートだった。
黄理にも聞いた事があったが俺の眼は本来『ありえざるモノを視る』ためのモノらしいそれが何の因果か死を見る『直死の魔眼』に成ってしまったが『ありえざるモノを視る』というのはまだ残っていたらしい。
弓塚は少し驚いた表情をしていたが、少し微笑んで何も無かったかのように月を仰ぎだした。その表情を見ていると自然に俺も頬が緩んでしまった。
ああ、気が付かなかった……。今日はこんなにも月が綺麗だったのか。
――――――コツ、コツ、コツ……。
誰かの足音、俺は眼鏡をかけて足音の方向を見た。
「すまないな、邪魔をしたか?」
俺が待っていた内の一人『レスク・ルナ・アルテミス』が身に付けていたのは周りの闇に溶け込みそうな漆黒のズボンとワイシャツその色と合わせたグローブの上に闇よりも暗く深く思わせるロングコートを纏い、紫煙を立たせた煙草を口に咥えて歩いてきた。
煙草の火がやっとそこに何かが居ると感じさせてくれる。
「いや、いいさ」
レスクの足音がしてから弓塚の気配が無かったのでそう答えた。
「それに、お前に聞きたい事があったんだ」
それは、共同戦線を張るものとして背中をこいつに預けられるかどうか見極める為の質問。
「先輩やアルクェイドはお前の事を知っている様だが、俺はお前の事を名前位しか知らない。しかも、お前は俺の事を知っているみたいだしな、お前は一体何者だ?」
「ふう、何で昨日聞かれなかったか不思議だったんだがな」
レスク紫煙を吐き出しながら少しずつ語りだした。
自分が真祖だという事、アルクェイドに殺されかけた事。
それが切っ掛けとなって教会に協力するようになった事。
先輩の今の名前を付けたという事、戦闘において戦闘術を教え込んだ事など。
「まあ、こんなものかな?」
レスクは携帯灰皿に煙草を捨てると話を区切った。
「やっほ〜。志貴、レスク」
レスクの話が終わると同時にアルクェイドが公園に来た。ちなみに十分ほどの遅刻である。
「いや〜、テレビで面白いのやってたから見入っちゃった」
「それってあの映画か?」
レクスはアルクェイドが遅れた事に何も触れずに世間話等をし始めた。……これが本当に人外の吸血種なんだろうか?と、苦笑してしまう。
「ほら、二人とも早くしろよ行くんだろ?」
二人は振り返りアルクェイドは駆け足で、レスクは歩いて俺の後を追いかけてきた。
「それでまずは何処を探すんだ?」
公園から出て来たものの何処を重点的に探すかなどは聞いてはいなかった。
「公園には怪しい奴はいなかったから。工場地帯、街中、路地裏、学校そしてまた公園を探してみる」
「それじゃあ、最初は工場地帯だね」
アルクェイドはこれから買い物に行くかのように足取り軽く先頭を行く。しかし、反対に俺の足取りは工場地帯が近づくにつれ重くなるばかりだった。
「すまないな。けど、敵がいる可能性のある所は調べたほうがいいんでな」
レスクは俺の心の中を読んだかの様に言って来た。……少し気に入らない。
しかし、工場地帯には何も無かった。と言うよりは誰もいなかった。
「つまらないわよ〜志貴」
いや、俺に言われても。
「居ないにこした事は無いんだよ。居てもらわなくてはならない理由なんてこっちには無いんだから」
「しかし、奴には出てもらわないと俺の気が治まらない」
俺は奴に殺されかけた、それを思うと今でもどす黒い物が俺の中を駆け回る。
「奴はそう簡単には出て来れないだろう。志貴とやりあった傷はけして浅くは無いだろう?」
「ああ、左腕が半分以上無いし、所々にナイフで切ったり突いたりした傷がある」
「なら、傷が治るまで何処かに隠れているだろう。それまではこうやって隠れられる場所を虱潰しにしていくしかないさ」
うん、解っている。解ってはいるが気持ちは少し焦っていく。早くしなければ『遠野志貴が目覚める』俺が『七夜志貴』が体の主導権を握れるのは残り少ない時間だけだ。
「あれ?」
俺とレスクの会話を遮ったのはアルクェイドの言葉だった。
「アルクェイド、どうしたんだ?」
「さっきすれ違ったヤツ、なんか人間っぽく無かった」
それを効いた俺達は後ろの竹刀袋の様な物を持った女の後を付ける事にした。
途中から気付いた、こいつは付けられている事を知っている。しかし俺達を誘い込むように路地裏までやってきた。
そして、ヤツは振り返る……。
――――――ザシュ!!――――――
振り返った瞬間、アルクェイドの爪が女の脇腹を薙ぎ吹き飛ばす。
「あれ?自分から誘ってきたし、もう少し出来るヤツかと思ってんだけどなぁ……?」
アルクェイドがつまらなそうにヤツを見下げていた。
まあ、いくら死徒でも今のを喰らえば内臓がやられて動けないし、意識のある者ならショックで脳が死ぬって事もある。ヤツの腹から流れ出た血液の死海に沈んでいるのを見届けると俺とアルクェイドはその場を後にしようとした。
「……下手な芝居はよせ。もう傷口も塞がっているくせに」
レスクの言葉に俺とアルクェイドが驚きながら振り返ると、ヤツはふら付きながらも立っていた。
「くっ、分かっていたの……」
ヤツは悔しそうにレスクを睨んだ。
「アルクに腹を抉られる時に咄嗟に後ろに飛んでいた、あの不意打ちに反応できるヤツはそうは居ない。それに少々浅かったと言っても、出血があの短時間で止まるなんて思えない。まだある、吹き飛ばされた時に筋肉が緊張していたとしてもあれだけ派手に吹き飛べば手に持っているものは落とすだろう」
それを聞くとヤツは苦い顔をした。たぶん後ろに飛んだのや、あの竹刀袋を落とさなかったのは自分でも気付かない内にやっていたのだろう。
「志貴、アルクやるか?」
レスクは俺達のどちらかがやるか聞いてきたが、俺達の目の前に居るのは前に俺を襲った奴じゃないし翡翠との約束もある。アルクェイドはさっきので興醒めしたのか戦う気がもうほぼゼロだ。
「いや、あんたの実力が見たい」
志貴は俺の実力が見たいと言ってきた。まあ、久しぶりに戦うのも悪くない。
「わかった、少し下がってろ」
志貴とアルクを下がらせておいてヤツに注意を向ける。
「俺の名はレスク……レスク・ルナ・アルテミス」
ヤツは最初は訝しげにしていたが、俺の言わんとした事が解ったのか名乗った。
「私の名は陣内。陣内美咲」
俺と陣内はお互いの間合いを計りながら……。
「「勝負!!」」
そう言うと俺はコートの両ポケット入れておいた『グロック19』と言う小型のハンドガンを両手に持ちヤツに向けて乱射する。陣内は最初驚いたものの直に我に帰り竹刀袋の様な物から真剣を取り出してある時は避け、ある時は刀で受け流し。合計24発の銃弾を一発も受ける事は無かった。
「おいおい、大丈夫なのか? 人が居ないって言ってもこれだけの轟音を出したら誰かが気付くだろ」
志貴は今の轟音に耳を塞ぎながら言う。
「ああ、大丈夫よ。レスクがちゃんとここの通りに空想具現化で空気の壁を作って外に音が漏れないようにしあるから」
そんな会話を背中で聞きながら『グロック19』を地面に落とすと今度は腰のあたりから『ウズィSMG』を取り出し、陣内に向けて撃ち続ける。今度はマシンガンなのでそう簡単には避けられない、が。
「あああああああーーー!!」
陣内が吼え、マシンガンの弾を全て刀で弾き飛ばす。お前はどこかのアニメキャラかよ。
『ウズィSMG』の使い切ったカートリッジと共に銃を地面に落とす。
今度は右の懐から『スミス&ウェッソン M29』通称『44マグナム』を取り出し高速の『シャドウショット』をする。まあ『シャドウショット』とは要するにワンホールショットなのだが、ただのワンホールショットではない。
弾と弾との間が数cmほどしかないショット。まさに、弾が弾の影の様になった撃ち方である。この撃ち方なら一つ弾いた瞬間次の弾が体に到達する。
それに気付いているのかいないのか、陣内は刺突で2発の銃弾を潰してしまった。
「なるほど……。破壊者か」
レスクの銃弾が打ち出され、ホンの数秒で裏路地の壁が瓦礫と化したのを見て俺は納得した。
「……レスク〜!!遊ぶな〜、さっさと済ませろ〜」
アルクェイドの鬱陶しげな声がレスクを呼ぶ。どうもレスクにはまだ何かあるらしい。
アルクの急かす声が聞こえてきた。ふう、もう少しやっていたかったんだがな。
俺は『44マグナム』をしまって、掌から剣を取り出す。俺の剣『断罪のパニッシャー』は俺の体内に埋まっている。聖典の多くは使い手から殆ど離す事なく持ち歩いているもので、持ちにくい物などはそれぞれが特殊な持ち運び方法を持っている。しかし例外なのが第七位のシエル、あれはロア対策の為に改造しすぎてしまい持ち運びが困難になってしまったものだ……、と言っても本人があまり気にしていないのでその辺は放っておく。
陣内は俺が剣を出すのを見て少々驚いていたが、向こうも理解しているのだろうこちらも、そして自分も常識が通じる者ではないと言う事を……。陣内は一度刀を鞘に仕舞うし腰を落とすと、抜刀の構えを取る。俺も剣を下段に構える。
さっきまでの激しい戦いが嘘だったかの様に静かな戦い、お互いがお互いのスキ狙う激しい白鳥の様な戦い。
――――カランッ
さっきの銃撃で俺が作った瓦礫が崩れたのだろう、乾いた音がした。
それが合図となって俺達は動き出す。陣内は刀を鞘走らせることにより、脅威的な剣速を出す抜刀術での横薙ぎ、それに対して俺は下段からの切り上げで受ける。と、同時に。
「追の太刀 逆波ッ」 「ツヴァイッ」
陣内の素早い切り上げ、俺の切り落としが又もぶつかる。
「極の太刀 閃ッ」 「ドライッ」
二人は口裏を合わせた様なタイミングで同時に刺突を出し、剣先がぶつかる。
「フィーアッ」
しかし、陣内には四撃目が無かった。俺は向こうの力を利用し押してきたところを逆に引いて相手の体制を崩すした所を片方の足を軸にして回転し、その遠心力を利用しながら剣の頭で延髄を砕く。
嫌な音がしながら陣内が倒れる。どうやらすんだ様だ。
「レスク、何で使わなかったのよ?」
アルクェイドがレスクに問い掛けている、まだ何かあるのかあいつには。
「仕方ないだろ? 相手は人間だぞ」
レスクは戦いの最中に落とした銃の回収をしながら言った。
「な、なにッ!! 馬鹿な、そんな事……」
ありえなかった、ヤツが人間だと? 尋常じゃない動きはまだ良いとしよう。しかし、アルクェイドにやられた時の傷の回復力はどう説明する?
「理解に苦しんでいるようだから説明するぞ。
『高機能遺伝子障害・月齢肉体精神依存症』通称『ルナティック』それは、月の満ち欠けによって肉体や精神に異常を生じる病気だ。
この病気は大抵が幼児期に発見される。しかし、幼児にはこの病気は辛すぎるんだ。大半は満月が近づくにつれて放心状態になったり、体が動かなくなったりする。
しかし、ごく一部で体が出来てきてから発見される者がいる。そうなると厄介だ、そいつらは幼児の者と異なり性格が凶暴化したり、肉体の基礎運動能力が爆発的に上がるという症状がある。
ある学者……いや、魔術師の説によるとそれは、真祖になり損ねた人間がなる病気らしい、真祖は人間から進化した新人類と予想した魔術師がいてな。しかし、今人間が殆どなのは何故か? それは、真祖にとって酷く都合が悪かったからだ。爆発的な身体能力とある種魔法とも言える特殊能力である空想具現化を得ると同時に吸血衝動という厄介なモノも手に入れてしまった。しかも、真祖が血を吸ってしまうと吸血衝動を押えていた力が一気に解放され魔王になってしまう。魔王になってしまった者は止められはしない、自分の欲望の赴くままに血を吸い続ける。そんな事をし続ければ、人間は居なくなり、死徒もいずれは血が吸えなくなり途絶えてしまう……、後は真祖だけが残ってしまう。が、そんな事はしてはならない。やはりこの進化はすべきではなかったと、人間は真祖になる事を止めるが、急に止めろと言われてもDNAのなかには真祖になりかけていた遺伝子は残っているからたまにこの遺伝子障害が出てくる。とその魔術師は言っていたな。ああ、もう一つ。人間でありながら志貴の様に特殊な能力を持っている者、それが真祖の遺伝子をもっているとも言っていた。遺伝子が長い時を経て色々な形に変化したとも言われている」
俺は、あまりの事でただ呆然と聞くしかなかった。
「ほら、陣内も回復してきた」
レスクにそう言われ見てみると確かに動こうとしている陣内の姿が見て取れる。
レスクは、止めを刺すつもりなのか陣内に近づき頭に手を置いた。
「我汝に干渉する……。我汝の記憶、汝の遺伝子障害を破壊する」
レスクがそう言うと、何かが起こった。はたから見たら何も起こってはいないのだろうが、そこに何かが起こったのだ、そう感じた。
「あれが、破壊者の力よ。モノを破壊する、ヤツは触れる事が出来れば神でさえ破壊するわ」
モノを破壊する『破壊者レスク・ルナ・アルテミス』か、敵で出てきたらと思うとぞっとするな。
あれから後処理はレスクがやるからと言って俺とアルクェイドはお互いの家に帰らせてもらった。
さて、明日からも日常と非日常が続くのか……。
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・あとがき
やっと第三ノ夜書き終わりました〜(泣
この頃CGが忙しかったものですからぜんぜん書けませんでした(またも言い訳
それにしても、長い戦闘って難しい!!しかも今回新しく出てきたキーワード『高機能遺伝子障害・月齢肉体精神依存症』通称『ルナティック』の説明文が長くて読むのに苦労したぞこの野郎!!とか言ってる読者様、ごもっともでございます。もう少し簡潔にまとめたかったのですがなにぶん書きたい事が多く過ぎて……。申し訳ございません。
それからまだ作り立てではありますが自分たちも『華鈴燈』というサークルを作りました。HPも有りますのでよければ見てやって下さい。
最後に、乱筆乱文をお許しください
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