夜空の月 〜不完境界〜 

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 とても冷えた夜、私と黒桐は大きな仕事がようやく片付いてコーヒーで一息入れているところだ。

「ふう、やっと終わりましたね」

「ああ、流石に疲れたよ。黒桐明日は来なくていいよ」

「ありがとうございます。そうですね疲れてますしね」

 と、その時電話が鳴った。私はなんとなく眼鏡を掛けてから電話に出る。

「はい、伽藍の堂です」

『遠野と言いますが蒼崎さんに代わっていただけますか?』

 口調はしっかりしているけど、まだ少女の声ね。

「私が蒼崎ですけど?」

「そうですか、なら話は早そうですね『魔術師蒼崎橙子さん』」

 その言葉を聞いて今私が眼鏡を掛けているのは無意味だと思い外す。

「で、話と言うのは何だ?生憎私は疲れていてね、話は短めにしてくれよ」

 受話器の向こうで戸惑っている事がわかるが、無視をする。

『解りました。話は最小限にしましょう。あなたに仕事を依頼したいのです』

 仕事?魔術師としての私にか?

『詳しくは近日遠野シキと言うものがそちらに行くのでよろしくお願いします』

 そう言うと遠野秋葉は電話を切ってしまった。

「ふう、黒桐すまないが頼まれ事を引き受けてくれるか?」

「え? 嫌な予感がしますが何ですか、頼まれ事って」

「遠野シキと言う人物について調べて欲しい」

「シキ、ですか?」

「ああ、何の因果か知らないがな」

 黒桐は深い、疲れ切った溜め息を一つ付いた、枯れてるな黒桐。

「分かりましたよ、これも何かの縁でしょう」

 黒桐はそう言ってさっきとは打って変わって子供っぽい笑顔を浮かべた。まあ、本人がやる気になってくれたのなら問題無いので放って置く事にしよう。

「じゃあ、明日の午前中には頼むぞ」

 そう言いながら私は自室に戻る。

「あ、明日ですか!?」

 黒桐の素っ頓狂な声を背中で聞きながら少し笑いを漏らす。

 

 

 ―――次の日の朝

 

「ふう、これぐらいだな」

 僕は橙子さんに頼まれた遠野シキと言う人について調べていたが少ししか分からなかった。と、もうこんな時間かぁ、そろそろ橙子さんの事務所に行かないと……、結局一睡も出来なかったな。

 

 

「おはようございます」

 僕は眠たいのを我慢しながら事務所に来た。

「眠そうだね幹也」

 そう言ったのは藍色の着物に朱色のジャンパーを羽織っている両儀式だ。

「あれ? 式大学はどうしたんだい?」

「式には私が用があったんだ」

 即座に橙子さんが答えてくれた。

「橙子さん、またあっちの方の用事ですか?」

 橙子さんと式は奇妙な関係で時々橙子さんが式に物騒な頼み事をしてくる。

「いや、違うよ黒桐。今日は普通の用事だ」

 橙子さんが言い返してくるがそっちの方が不自然のような気がする。式と橙子さんが普通じゃない会話をしている方が普通に思えてしまうのは何でだろう。

「トウコここ少しおかしいんじゃないか?」

「ん?ああ、ここは黒桐がやった所だな」

 え? 僕は自分の眼と耳を疑った。式が昨日僕と橙子さんが描いた図面を見ながら意見を出していた。

 僕はまさかと思いつつ聞いてみる。

「式、もう一度聞くけど……。大学はどうしたんだ?」

 式は図面から顔を上げて。

「辞めたよ、つまらなかったから」

「つまらなかったって……、式」

「そう責めるように言うなよ幹也。お前よりは長続きしたんだから」

 う、それを言われると……。まあそうか、辞めたのか。じゃあもしかして。

「お前の想像しているとおり、式はこれからココで働く事になった」

 橙子さんに予想通りの事を言われ僕は頭を抱えた、寝不足で重い頭が余計に重くなってきた。

「黒桐、倒れるのは用事を済ませてからにしてくれよ」

 くっ、鬼だ(どっちかと言うと魔女だけど)僕は頭を抱えながら鞄からファイルを取り出した。

「遠野志貴の事をまとめた物です。見て置いてください、僕はソファーで寝ていますから」

 そう言ってソファーに横になる、と向かい側のソファーに式が座った。まあ、別段気にする事でも無いので、僕は意識を静めていった。

 

 

「ほお、黒桐にしては珍しく、あまり詳しく調べられてないじゃないか」

 橙子は何が可笑しいのか少しニヤ付く。いくら幹也でも一晩で、しかもろくに寝ていなければ調べ物も少しおろそかになるだろう。

 しかし……、やる事が無くなってしまった。トウコは幹也から受け取った資料を睨みつけているし、幹也は寝てしまっている。

 しばらく幹也の寝顔を堪能してから私はこの場を出る事にした。

 

 

 僕はブラインドの隙間から射す太陽の光で覚醒した。時計を見ると、どうやら二時間近くは眠れたらしい。周りを見渡してみると橙子さんが一人で煙草を吹かしていた。

「あの、橙子さん……」

「式なら10分程前に出て行ったよ」

 ……何故言おうとした事が解ったのだろう? まあ、そんな事を考えていても仕方ないので式を追う事にしよう。

 

 

 

「う〜ん、座りっぱなしで体が痛いな」

 俺と琥珀さんは三咲町がある県から三県離れた所に来ている。

「それよりも志貴さん、頭は大丈夫ですか?」

 ……琥珀さん、その言い方微妙に傷つきます。

「ええ、今は見えていませんし。大丈夫ですよ」

 俺の眼は今朝になってみると普段どおり眼鏡を掛けると線が見えなくなっていた。先輩に相談しようとも思ったけど蒼崎さんの事がばれると一悶着ありそうなので辞めておいた。まあ、どんなタイミングで視える様になるか分からないので一応伽藍の堂へ向かうことにした。

「それにしても人が多いですね、はぐれない様にしないといけませんね……。て琥珀さん!?」

 俺が振り返った先には今までそこに居た琥珀さんの姿が無かった。もしかしてはぐれた? 周りを見渡しても琥珀さんらしき人は居ない。はあ、この歳で迷子か……。

 直死とはまた違う理由で頭痛がしてきた頭を抱えながら俺は琥珀さんを探し始めた。

 

 

 

 ふう、何処に行ったのかなあのお姫様は? もう家に帰ってしまったのかな? そう思いながらも僕は人込みの中を歩いていた。

「あれっ、シキ?」

 誰かとすれ違った瞬間、僕はなんとなく式と似た雰囲気を感じた。

「……はい?」

 しかし、振り返ったのは一人の青年だった。

  

 

 

to be next

 

 

 

・あとがき

 どうも、結構長い事お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。さて、今回は短いですが次回からが読み所ですよ!! やっと月姫と空の境界のコラボレーション計画が発動します。それにしても、この小説の一話だけで約2000人ほどの人が来てくれのはとても驚きです。まだまだこれからも精進していきますのでよろしくお願いします。

 それからまだ作り立てではありますが自分たちも『華鈴燈』というサークルを作りました。HPも有りますのでよければ見てやって下さい。

最後に、乱筆乱文をお許しください


感想送信用フォーム>気軽にどうぞ。と言うか、お願いしますマジで。
おなまえ    めーる   ほむぺ 
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