永久に巡る風

 

 

 風が吹く。

 風は草原に大きな波を起こしていく。

 見渡す限りの緑の大地。僕はそこに立っていた。

 その風は冷たく、また眠ってしまいそうなくらいに心地良くもあった。

 僕は広大なその大地に圧倒され、立ちすくんでいた。

 不思議な空間だった。強いて言うなら世界からその部分だけを切り取り、元の世界から遠く離れたところに置いた、そんな感じだった。

 不意に風が止み、それと呼応するように波打つ緑もおさまる。まるで凪のように……。

 先程とは打って変わって静寂が支配するその空間に……。

 呆然と立ち尽くす僕の目の前に……。

 その少女は立っていた。

 その少女は目が合うとニコッと僕に微笑みかけた。

「こっちにいらっしゃい」

 言われて僕はその少女のもとに駆け寄ろうと思った。

 でも、そんな僕の意思とは裏腹に、どうしても足が動いてくれなかった。

 それでも僕は懸命に足を動かした。

 でも僕と彼女の距離は一向に近づかなかった。

 そのうちに僕の視界は突如白く霞んでいき……何も見えなくなってしまった。

 

 目覚めは眩しく、そして重かった。

「って何じゃこりゃ〜〜〜〜!」

 俺の寝ている布団の上に大量に石を詰め込んだでっけぇバケツが置いてあった。しかもご丁寧にバケツの側面には『10t』と書かれている。

「あいつ……へんな漫画の見すぎだろ!てや!」

 怒りに任せ俺は手にしたバケツを窓から外に放り投げた。なんか下に人がいた気がするが……、「ぐおっ!」などという悲鳴が聞こえたような気もするが……気のせいだろうと勝手に決め、1階へ降りて行った。

「あっ。真二兄ちゃんオハヨウ」

 降りてきたところでばったり出くわした俺の弟、健二は俺ににこやかに挨拶をした。

 このやろう……。

「ぬぁにがオハヨウだ!何だあのバケツ!」

「ごめんなさい。いたずらをしたのはあやまります。もうせいしているのでなにとぞおゆるしを」

 謝ること自体は殊勝な心掛けだが、台詞が棒読みだ。

「まあ悪戯をしたことは許してやろう。俺の心はあの青空のように広いからな」

 窓から見える空を指さして言う。

「大体だなあ、書く言葉がだめすぎるんだ。もっと気の利いたことを書けんのか?」

 健二は一瞬きょとんとしてから

「それもそうだね。今度からは気を付けるよ」

「うむ、分かればよい」

 何か常人とはかけ離れた会話をしているような気がするのは俺だけだろうか。

「そういえば健二。お前は今日から冬休みだろ?うらやましい。」

「何言ってるんだよ。兄ちゃんだって今日から冬休みだろう?」

 俺はふぅとため息をつき、一呼吸置いてから

「それがだね健二君、高校には補充と言うものがあって日頃授業を真面目に受けていない人及び追試で合格点を取れなかった人は冬季休校のときに強制的に特別授業に参加させられ、今まで不足していた授業の分を『補充』しなければならないのだよ」

「つまり兄ちゃんは授業を真面目に受けていなかったか追試に失敗したかってことだね」

 わざわざ回りくどい言い方をして煙に巻こうとしたのだがこいつには通用しないらしい。大体の人は通用するのに……。

 ふと時計を見る。

 9時15分……。

 遅刻決定。

「いってらっしゃ〜い」

 健二の気の抜ける声を聞きながら俺は家を出た。

 家から学校までは徒歩で10分、急げば補充二時間目までには間に合う。などと考えながら見慣れた道をひたすらに全力疾走する。

 やがて学校が見えてきた。まだ通い始めて一年も経っていないのにもう見慣れてしまっているから不思議だ。

 走り続け、門を通ろうとした所で……

「信ちゃん」

 呼び止められた。

「なんだ橘か。こんなところで何をやってるんだ?っていうか信ちゃんはやめろ。」

 こいつの名前は橘留美。中学からの付き合いで、奇特なことに成績優秀なのに勉強するためといって自ら補充に参加している。

「あなたを待っていた……と言ったら喜んでくれる?」

「冗談言ってないで早く行くぞ!」

「ちょっと待ってよぅ」

 俺の後を橘がぱたぱたと付いて来る。今日からは仮にも冬休みだ。おそらくはこんな代わり映えのない日があと一ヶ月半ぐらい続くんだろうなぁ。

 俺はその時そう考えていた。

 だが代わり映えのないはずの日々は次の瞬間終わりを告げた。

「冗談じゃないよ」

 橘がいきなりそう言ったのだ。

「え!?」

 俺は驚き、振り返る。

「あなたを待っていたの」

 橘はなおも続ける。

「ずっと言えなかったけど、本当は私、あなたのこと―――

 

 風が吹く。

 風は草原に大きな波を起こしていく。

 見渡す限りの緑の大地。僕はそこに立っていた。

 その風は冷たく、また眠ってしまいそうなくらいに心地良くもあった。

 僕は広大なその大地に圧倒され、立ちすくんでいた。

 不思議な空間だった。強いて言うなら世界からその部分だけを切り取り、元の世界から遠く離れたところに置いた、そんな感じだった。

 不意に風が止み、それと呼応するように波打つ緑もおさまる。まるで凪のように……。

 先程とは打って変わって静寂が支配するその空間に……。

 呆然と立ち尽くす僕の目の前に……。

 その少女は立っていた。

 その少女は目が合うとニコッと僕に微笑みかけた。

「こっちにいらっしゃい」

 言われて僕はその少女のもとに駆け寄ろうと思った。

 でも、そんな僕の意思とは裏腹に、どうしても足が動いてくれなかった。

 それでも僕は懸命に足を動かした。

 二人の距離が縮まる。

 そして僕はようやく彼女の元にたどり着いた。

 僕は訊いた。

「どうして僕を呼んだの?」

 彼女は一瞬戸惑ってから……

「どうしても、あなたに伝えたいことがあったから……」

 そう答えた。

「伝えたいこと?」

 僕はオウム返しに訊き返す。

「うん」

 彼女は返事をする。

 そして彼女は言った。

「ずっと言えなかったけど、本当は私、あなたのこと―――

 風が吹く

 風は再び緑の草原に波を起こしてゆく。

「好きです」

 風はいつまでも穏やかで俺と彼女を包み込んでいる。

「この気持ち―――、受け取ってもらえますか?」

 不安げな彼女の表情。

 俺が答えを言わなければいつまでもここで待ち続けるのだろう。

 だが俺は彼女を……、いや、橘をずっと待たせることなんて出来なかった。

 だから俺は答えた。

「もちろんだ。俺もお前のことが好きだよ」

 

 人を好きになること。

 優しい気持ち。

 それはたくさんのひとたちを幸せにしながら永久(とわ)に巡り続けるのだろう。

 まるで―――

 やさしく頬を撫でてくれるあの風のように……。

 

 

※あとがき

 オリジナル小説の短編にみんなでチャレンジしよう。

 テーマは恋愛。

 などという馬鹿馬鹿しい約束をしてしまったので、公開していなかったオリジナルの小説を大幅に改造して本作に至りました。

 まぁ短いのでみなさん割とすらすら読めたのでは無いでしょうか?

 感想、苦情などはぜひぜひ下さい。

 それでは、この辺で失礼します。

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