Kanon

― 光の外で ―

前編

 

 

「北川君、今日転校生が来るらしいわよ」

 HRが始まる前、美坂がいきなり話しかけてきた。

 チャイムが完全に鳴り終わってから駆け込んできたのにまだ余裕がありそうだ。

「ふ〜ん、こんな時期に珍しい。どんなやつか知ってるのか?」

「それが、名雪がいつも話していたユウイチ君らしいのよ」

 それには多少驚いた。

 そのユウイチ君とやらの話はクラスメートの―水瀬名雪―がいつも話していたからだ。

「らしいって……香里さっき祐一と喋ってたよ……ちゃんと名前も聞いてたし」

 水瀬が会話に割り込んでくる。

「分からないわよ、相沢君の名前を借りて潜入したテロリストかも」

 相沢……。ユウイチ君とやらの苗字だろうか?

「そんなわけないよ〜」

「そういえば、その相沢君とやらはどこのクラスに入るんだ?」

 このままだと話がだんだんヤバい方向に進んで行ってしまいそうなので、俺は強引に話題を振った。

「あ、それは――

「あー、全員席に着けー」

 美坂が答える前に担任の石橋が入ってきた。

 それを見て、立っていた生徒がバタバタと自分の席に戻っていく。

「今日は転校生を紹介する」

 このクラスだったのか……。

 石橋の言葉に教室がざわめく。

「ちなみに、男だ」

 一瞬で教室のざわめきがおさまる。

 やはりみんな(男子)はかわいい女子を期待していたのだろう。

「相沢祐一君だ」

 名前を呼ばれて一人の生徒が教室に入ってきた。

 こいつが相沢か……。

「…祐一〜」

 水瀬は嬉しそうに手を振っている。

「………」 

 美坂は沈黙していた。

「あー、じゃあ、自己紹介して」

 石橋に促されて相沢が自己紹介をする。

「…相沢祐一です。よろしくお願いします」

 何の面白みも無い無難な挨拶だった。

「あー、君はそこのあいてる席に座って」

 そこは水瀬の隣の席だった。ついでに言うと俺の前でもある。

「祐一っ、同じクラスだよ」

 相沢が席に着くと、水瀬が嬉しそうに相沢に話しかけた。

「びっくりね…」

 美坂も話しに加わった。

「よかったね」

 嬉しそうに話し掛ける水瀬に相沢は複雑な表情を返した。

 

 キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴り響く。

 今日は始業式なのでもう帰れる。

 辺りを見回すとほとんどの生徒は帰る準備をしていた。

 相沢たち三人はなにやら話した後、美坂だけが教室を出た。どうやら部活に行くらしい。

 相沢は水瀬に昇降口まで案内してもらうようだ。

「行こうっ、祐一」

 水瀬が先に席を立ち、歩き出す。

 相沢はもう帰るらしいので挨拶ぐらいはしておいた方がいいかもしれないな。

 俺と同じ意図なのか斎藤が相沢に話しかけていた。

 俺もとりあえず相沢に声をかけ、廊下の外まで見送った。

 午後からは暇だったのでオレは商店街のCDショップに向かった。

 商店街はたくさんの生徒で賑わっていた。

 俺はとりあえず気に入ったCDを何枚か購入し、店を出た。

 店を出てしばらく歩いていると相沢がいた。女の子となにやら話し込んでいる。

 しばらく見ていると相沢と女の子は互いに指を重ね、指切りをした。

 何かの約束だろうか?

「じゃあ、また絶対に会おうねっ!」

 女の子がここまで聞こえるぐらいの大きな声で言って、そのまま走り出した。

 と、女の子は振り返りぴょこぴょこ跳ねながら相沢に手を振っていた。

「…って、何時にどこで会うんだっ!」

 相沢がいきなり叫ぶ。

「大丈夫っ!」

 女の子も負けないくらいの大きな声で叫ぶ。

「二度あることは三度あるんだよっ!」

 その言葉を最後に、また女の子は走り出した。

 心なしかオレには女の子が夕焼けに霞んでいるように見えた。 

 相沢はしばらく女の子の立ち去った方向を見つめ、また歩き出した。

 どうやら家に帰るらしい。

 俺もそろそろ帰るか……。

 俺はひとり帰路に着いた。

  

 今日は来るのが早すぎたな。

 まだ予鈴まで10分もある。

 オレはとりあえず、することも無いので自分の席でぼーっとしていた。

 キーンコーンカーンコーン

 本鈴が鳴り響く。

 バタバタと席に戻る生徒に混じって、おなじみの三人も教室に入ってきた。

「あー、全員席につけ」

 石橋も入ってくる。

 そして朝のHRが始まった。

「間に合ったね」

 前の席で水瀬が相沢に話しかけている。

「…そうだな」

 相沢はいくらか気の無い返事を返した。

 今回は間に合ったようだが、こいつらはいつか絶対遅刻するような気がする。

 

「祐一、今日から授業だね」

 HRも終わり、授業の準備をしていると水瀬が相沢に話しかけていた。

 うーむ、すぐ前の席だし、そろそろ話に加わらないと気まずくなるだろうか?

 でも、何か話しかけずらい雰囲気なんだよなぁ。二人だけの世界って言うか……。

「俺、教科書とかまだ貰ってないぞ」

「わたしの見せてあげるよ」

「…それは遠慮しておく」

「でも、ないと困るよ?」

 よし、今だ!

「教科書だったら、オレの見せてやるぞ」

 タイミングを見計らい、話に割り込む。だが少々唐突過ぎたかもしれない。

「…誰?」

 相沢が真顔で返してきた。

「昨日、挨拶したぞ」

 覚えていないのだろうか?

「…そうだったか?」

 覚えていないらしい。

「北川君だよ」

 水瀬がすかさずフォロー(?)を入れる。

「ああ…」

 それを聞いてようやく思い出したらしい。

「覚えたって言ってたのに…」

「俺は12時間で人の顔を忘れる特技があるんだ」

 自慢気に言う。

「迷惑な特技だな…」

「まったくだ」

 本人に同意される。

 ……こいつ、変な奴だな。

「まぁ、いいけど…。それで、教科書見るんだろ?」

「俺はありがたいが、お前はいいのか?」

「いいもなにも、後ろの席だからな」

「…そうなのか?」

 気づいていなかったのか……。というかそもそも今俺は自分の席で相沢と話している。

 もちろん相沢のすぐ後ろの席だ。

「どうして真後ろの席に今まで気づかないんだ…」

「俺は後ろは見ないようにしているんだ」

「変な奴だな…」

 心底そう思う。

「悪かったな」

「大体だな、普通は突然の転校生って言ったら美少女と相場は決まってるんだぞ」

 高校生にもなって野郎が転校なんて……。それだけでも犯罪だ。

「悪かったな」

 先程と同じ台詞を繰り返す。

「まぁ、いいけどな。…変な奴だから授業中退屈せずに済みそうだしな」

 キーンコーンカーンコーン

 その時チャイムが鳴り響く。

 それと同時に先生が入ってくる。

 時間ぴったりとは……なんと律儀な先生だろうか。

「とりあえず、よろしくな」

 オレはそれだけ言って話を打ち切る。

「ああ」

 相沢も返事をして授業の準備を始めた。

 

 退屈な授業が始まった。

 まだ冬休みの気分なせいかどうにもやる気が起こらない。

 それは相沢も同じらしく、授業も聞かないでくるくるとシャーペンを回している。

 今日は土曜日で授業も4時間だから多少ましなんだが……。

 ちなみに水瀬は完全に熟睡していた。

 

「急用ができた!」

 4時間目の終了のチャイムと同時に相沢が走り出す。

「おい、まだHRが残ってるぞ!」

 俺は当然呼び止める。

「すぐに戻るっ」

 相沢はそれだけ言って教室から出て行ってしまった。

 そして相沢が戻ってくることは無かった。

 相沢を待っている水瀬を置いてオレは教室を出た。

 

「!?」

 商店街を歩いていると不意に後ろに気配を感じた。

 あわてて真横に跳び『それ』を回避する。

 ズガシャアァァァァァ!

 『それ』は足でもつまづいたのか、こけて砂埃を巻き上げながら地面を3メートルくらい滑走していった。

「うぐぅ。また転んじゃったよ」

 『それ』は日本語を話した。前半部分は全く意味不明だが……。

 というか人間だ。しかも女の子だ。

 女の子は服の裾をぱんぱん払って立ち上がった。

 そしてこっちを見る。

「誰?」

 訊いてきた。

「誰?と訊かれても困るが……、オレは北川潤という。歳は17歳、ちなみに恋人募集中だ」

 そこまで言って思い出した。こいつは昨日相沢と一緒に話をしていた女の子だ。

「北川……君だね。ボクと同じ歳なんだ」

「嘘だな」

 言い切ってやる。

「うぐぅ。嘘じゃないもん」

「いいや、嘘だ」

 どう見ても高校生には見えない。

「うぐぅ」

「まぁ、百歩譲って同い年だとしよう。それはいいが何をしていたんだ?新開発の服の耐久度実験か?」

 一体その服は何で出来ているんだろうか?あれだけ派手にこけて傷一つ付いていない。実験は成功のようだ。

「違うよ!つまづいたんだよ!」

 冗談を言ったつもりだったが余計に険悪な雰囲気にしてしまったらしい。

「冗談だ。ところで、さっきは何で急いでいたんだ?」

「実は……。追われているんだよ」

 返ってきた答えは俺の予想の範疇を大幅に上回っていた。

「誰に?」

「たい焼き屋さん」

 たい焼き屋?

「何で?」

「それは言えないよ。巻き込みたくないからね」

 どうやら言えないらしい。だが、たい焼き屋に追われる原因なんてあるのだろうか?

 しばらく思案を巡らしてみる。

 たい焼き屋。

 おやじ。

 屋台。

 滑走。

 うぐぅ。

「食い逃げか?」

 何故この結論に達したのか我ながら不思議だが。一応訊いてみる。

「……う」

 本当に当たりらしい。そのまま女の子は黙ってしまった。

「知ってるか?たい焼きはお金を払って食べるから旨いんだぞ」

 諭すように言ってみる。

「払わなくてもおいしいよ。うぐうぐ。うん、おいしい」

 食っていた。

 だめだ。罪悪感なんて微塵も感じていないらしい。

「食べる?」

 たい焼きを一つ差し出してきた。

「賄賂か?」

 俺にもプライドがある。たかがたい焼き一つで黙秘など出来るはずもない。

「違うよ!」

 どうやら誠意で言っているらしい。それなら断る必要などあるわけが無い。

「頂こう…………あ!やっぱり遠慮しておく!」

 俺は気づいてしまった。

「え!?どうして?」

「きゅ、急用があったんだ!それじゃあな!」

 一方的に言ってダッシュで逃げる。

 そして物陰に隠れて女の子の方を見た。

 女の子はたい焼き屋のおやじに肩をがしっと掴まれ、連行されていくところだった。

 あ、危なかった。

 あそこで食っていたらオレもおやじに強制連行されていただろう。

 女の子は可哀想だがある意味自業自得だな。

 ……………

 そういえば彼女の名前を訊いていなかったな。

 まぁ、いいか。

「北川君!助けて〜!」

 聞こえない!何も聞こえないぞ俺は!

 オレは女の子の冥福を祈りながら帰路に着いた。

 

 

 

とりあえずあとがき

 ど〜も。おそらく作者だと思われる人物のたなひろです。

 今回はKanonに挑戦してみました。

 これはギャグではありません!シリアスです!………たぶん。

 これからきっとシリアスになっていくに違いない!

 と言うわけで(何が?)後編はそんなにお待たせせずにお届けできるよう前向きに善処しますが……どうなるかは分かりません(おい

 何せ今、友人から借りたルイージマンションにハマっちゃって……。

 ルイージ……。いいキャラですな……。

 おっと、話がそれてきた。この辺で終わりにしといたほうが賢明だな。

 それでは皆さん!後編もお楽しみに!

 

 追伸  感想・意見などはこちらに<world-twenty-one@ezweb.ne.jp>

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