松茸バトル2002 ―夏―

 

 

『朝〜、朝だお〜』

『朝ご飯食べて学校行くお〜』

「………」

 目覚ましに起こされた俺はいつものようにカーテンを開ける。

 そしてとりあえず着替えようと…

「っておい!」

 今目覚ましおかしくなかったか?

 俺は目覚ましをひっ掴んで再びスイッチを入れる。

『麻〜、麻だよ〜』

『麻ご飯食べて学校行くよ〜』

『麻…』

 カチッ

「ふうっ。そろそろ新しい目覚ましがほしいところだな」

 冷や汗をぬぐいながらとりあえずさわやかさを演出してみる。

 何だよ麻ご飯って…ここ最近の猛暑で目覚ましまで壊れたか?

「だめだよ祐一、この目覚ましがいいんだから」

 いつの間にやら名雪がいた。

「お前…いつの間に」

「おはよう、祐一」

 聞いちゃいねえ…

「だめだよ祐一、朝はおはようございますだよ」

「ああ、おはよう」

 俺は少々投げやりに答えた。

「ところで名雪、今日はどうしてこんなに早く起きたんだ?」

「ちょっと人と約束したから」

「こんなに朝早くか?」

「うん、あっ、もう行かなくちゃ」

 そう言ってあわただしく部屋から出ていった。

「お、おいっ、名雪!」

 静止の言葉も空しく、名雪は行ってしまった。

 

俺がキッチンに入ったとき秋子さんは既に朝食の準備をしていた。

「おはようございます」

 俺は秋子さんと目が合うといつも通り朝の挨拶をした。

「おはようございます、祐一さん、パンとコーヒーでいい?」

 いつものように秋子さんがが俺にに訊いてくる。

 もしここで「いえ、まぐろ丼が食べたいです」などと言ったら秋子さんはどんな反応をするだろうか。などと下らないことを考える。

 でも俺はもう分別をわきまえた大人なのでそんなことは訊かない。

「ええ、それでお願いします」

 俺がそう言うと、秋子さんは頬に手を当て、

「別にまぐろ丼でもいいわよ」

「人の心を読まないで下さい」

「冗談よ」

 秋子さんははふふっと笑って言った。

 読まれたほうは冗談ではないのだが…

「そう言えば名雪はどうしました?」

 俺はふと思った疑問を口にした。

「名雪なら朝食を取って出かけたわよ」

 何処に…?

 その疑問を口にするよりも早く、パンとコーヒーが出てきた。

 俺はとりあえず思考を打ち切り、いつも通りバターを取ろうと手を伸ばす。

 が、その手は空を切った。

「?」

 見上げると秋子さんがバターの箱を手に取っていた。

「たまにはジャムなんてどう?」

 笑顔で言う。

 確かに最近バターばかりというのにも飽きていたところだ。たまにはジャムもいいかもしれない。

「イチゴジャム以外にどんな種類のがありました?」

 何気なく聞くと、

「主に甘くないジャムなどが…」

「甘いジャムがいいです」

「でも祐一さん、甘いものは好きじゃないって…」

「今日は甘いジャムが食べたいです」

「砂糖を入れれば…」

「自然に甘いジャムが食べたいです」

 秋子さんは少し涙目になって、

「うぐぅ、祐一君いじわるだよ」

「凄まじくキャラが違います」

「冗談よ」

 またふふっと笑う。

 こう言う笑い方をされたんじゃあこれ以上はきつく言えない。

 当然秋子さんもそれは十分分かっての行動だろう。

 ある意味、秋子さんって確信犯だよな…

「何か思いました?」

「イイエ、何も思っていません」

 結局俺はトーストにバターをぬった。

 

 家にいてもすることが無いので散歩でもしようかと外に出る。すると見知った顔がいた。

「あっ、祐一さんおはようございます」

「…おはようございます」

 何でこんな場所に?

「ところで祐一さん、いまお暇ですか?」

 見知った顔の少女――佐祐理さんは笑顔で訊いてきた。

 本編ならここら辺で選択肢が出るんだろうなぁ、などと思いつつ俺は答える。

「超忙しいです!(キッパリ)」

 一瞬佐祐理さんのこめかみの辺りがぴぴくっと引きつったような気がしたが、またすぐに笑顔に戻って。

「あははーっ。嘘はいけませんよ、祐一さん」

「どうして嘘だと分かるんだ?」

 後学のためとりあえず訊いてみる。

「どこからか天の声が聞こえたんですよーっ。『早くっ! 早く話を進めるんだ!』って」

 天の声?

「というわけで早く行きましょう。みんなも待ってますよっ」

 そう言って佐祐理さんは走り出した。

 はっ、速!

 もうあんなところまで…じゃなくて早く追わなければ。

 俺は深いため息一つして走り出した。

 

 はぁ…はぁ…はぁ………

「着きましたよ、祐一さん」

 はぁ…はぁ…はぁ………

「どうしました? 顔色が良くないみたいですけど」

「はぁ…はぁ…、ど…どうして…佐祐理さんは疲れてないんだ?」

「佐祐理はこれでも運動は得意ですから」

 限度があるだろ…

 俺は落ち着くまでしばらく肩で息をした。

「で、ここはどこなんだ?」

 夢中で走っていたから覚えていない。

 改めて辺りを見回すと見渡す限り、木ばかり生えている。さらに大量のセミの声。

「山?」

「ええ、そのとおりです」

「で、山で一体何をするつもりなんだ?」

「あ、それはですね…」

「祐一、遅いわよぅ!」

 後ろから怒声。振り向くと…

「やっぱりお前か…」

 真琴だった。

 いやそれだけじゃない。

「はははっ…みんなおそろいで…」

 そこにいたのはKanonのメインキャラ全員とプラスαだった。

 当然名雪もいた。

 なるほど約束ってこれか…、などと俺が考えていると…

「ちょっと待て! 相沢!」

 北川が怒りの抗議を挙げる。

「どうした? 」

「どうして俺達がプラスαなんだ」

 後ろの方で斎藤と久瀬もうんうんと頷いている。

「自覚している時点で既にお前らはプラスα確定だ」

「うっ!」

「分かったら所定の位置に移動しろ」

「………」

 3人は黙って所定の位置(メインキャラの後ろ)に移動した。

『覚えてろよー!』

 メインキャラのはるか後方からなにやら月並みなセリフが聞こえてくる。

「それで、佐祐理さん。これから何をするつもりなんだ?」

 俺はそれをあえて無視した。

『お前は、よくがんばったよ。北川』

 何やら互いを慰め合うような声まで聞こえてくる。

 無視無視。

「ええ、これからこのメンバーで…」

 佐祐理さんが周りをぐるっと見回す。

「松茸狩りをしませんか?」

「………はい?」

「だから松茸狩りですよ。食べたくありませんか?」

「いや、そりゃあ食べたいけど…」

「あっ、ひょっとして松茸が何か分からないんですか? それなら教えて差し上げましょう。真菌類の一種で、大きく目立つ子実体を形成するものとして担子菌類というものが有ります。これがいわゆるキノコですね。そして松茸とはこの担子菌類の中でも高価な…」

「いや、そう言う問題じゃなくて…今って夏だよな? 夏に松茸なんて取れたか?」

 佐祐理さんは辺りを見回して。

「ええ、確かに一見夏には見えますね」

 一見?

「それじゃあ、秋にしましょう」

 彼女は片足を支点にくるりと一回転して指をピシッと鳴らす。

 その瞬間完全に夏だった景色が一瞬にして秋へと転じる。

「すごいですねどうやったんですか」

 なるべく冷静になっていったつもりだったが完全にセリフが棒読みだった。

 彼女はその質問に事も無げに答えた。

「今話題のコンピューターグラフィックスというやつですね」

 CG?

「じゃあ今の景色は立体映像なのか?」

 それにしては少々肌寒いような…

「あははーっ。違いますよ」

「それじゃあ…」

「今までのがCGです」

 ふらっ

 今度こそ立ちくらみがした。

 地面に倒れこみそうになるのをすんでのところで抑える。

「み…みんなは知ってたのか?」

 俺は朦朧とする意識をかろうじて留め、今までほったらかしだったみんなに聞いてみた。

 あゆ、名雪、香織、栞、真琴、美汐、舞、北川が順に答える。

「うぐぅ…」

 それは肯定なのか? 否定なのか?

「祐一以外はみんな気付いてたと思うよ」

 うっ、そうなのか。

「呆れるわね」

 ………。

「祐一さん、今まで本当に気づかなかったんですか?」

 うっ、悪かったな…。

「じょーしきよ、じょーしき」

 真琴に常識を説かれる日が来ようとは…。

「そもそも気温の違いで気づくと思うのですが…」

 今まで暑いと思っていたのは俺が単純だからということか…。

「はちみつクマさん」

 ………。

「大丈夫だ、相沢。オレも知らなかった」

 北川が言うと慰めになってない。

 ………結論。

 俺はアホか? いや、むしろ回りの状況がおかしいのか…

 それでも、何故か非常に悔しい。

 それはともかく今は夏ではなく秋らしい。

「え、えーと。それで何の話だったっけ?」

 混乱してきた。

「だから、松茸ですよ。これから松茸狩りをするという話です。食べたくないですか?」

 あぁ、そうだった…まつたけ…松茸かぁ。

「いや、そりゃあ食べたいけど…」

「それじゃあ決まりですね。これからルール説明をします」

 ルール?

「みんなで松茸を探すだけじゃないのか?」

「それじゃあつまらないじゃないですか。今回は『松茸争奪戦』です。人チーム数人に分かれて、各チームで一体何本ゲットできるかを競ってもらいます。タイムアップは陽が沈むまで。細かいルールとしては…」

 佐祐理さんは次のように語った。

 妨害あり、相手の松茸を奪うのもあり、武器の使用可、シイタケなどの外道は本数に含まない、この条件の元でいくつの松茸を採れるかの勝負。

 とんでもねールールだ。特に妨害、強奪、武器の使用可という辺りが。

 間違いなくこのゲームは始まってすぐにバイオレンスな殺人ゲームに変貌することだろう。

 はっきり言ってやりたくない。

「ちなみに優勝者には…」

 おっ? 何か景品があるのか?

「願いをひとつ叶えて差し上げます」

 は?

 さすがに俺はあっけにとられる。

「どうやって?」

「それは…企業秘密です」

 らしい。

「何でも?」

「願いを増やせとか以外なら何でもです」

 らしい。

「それで、祐一さんはどのチームに入るんですか?」

 チーム入るって…まだ分かれてすらいないんじゃないか?

 そう思いつつ振り返ると…

 もう既にきっちりと全員が分かれていた。

「げ、現金な…」

 願い事叶えますの時点で目の色変わってたもんなぁ。みんな。

 舞にいたっては先程まであんまり乗り気ではなかったのに…

「私は松茸を狩る者だから…」

 などとやる気抜群だ。

「これって、棄権したらだめか?」

 隣にいた佐祐理さんに訊いてみる。

「強制参加です」

「もし途中で逃げ出したら?」

「刺客を差し向けます」

 これはいよいよキナ臭くなってきたな。

 おまけに逃げるのも不可能だ。

 何故、たかが松茸に…?

 いやいや考えていても仕方ないな。

 俺も本気でやらないと確実に殺られる。

 どのチームに入ろう? 一応考えてみるか。

 

 あゆ・なゆきチーム

 即効で却下。

 居眠りコンビに足を引っ張られているうちにtime upだ。

 

 かおり・しおりチーム

 香織の戦闘力には侮れないものがあるが…

 今回は広フィールドの戦いだ。病弱な栞を抱えていては迅速に行動できないだろう。

 仕方がないが却下。

 

 まこと・みしおチーム

 美汐の状況判断能力は役に立つだろうが、いるだけで騒音公害の真琴と一緒ではその能力も発揮できまい。

 足を引っ張られるのがオチだ。

 したがって却下。

 

 北川・久瀬・斎藤チーム

 却下。

 

 後残るのは…舞と佐祐理さんか。

 おっ! これは期待できるかも。

 

 まい・さゆりチーム

 舞の戦闘力は言うまでもなくピカイチだ。

 佐祐理さんも何だかんだ言って運動は得意らしい。

 さっきのフルマラソンでも実証済みだ。

 

 なんだ、一番いいじゃないか。

「佐祐理さんのチームに入るよ」

「はぇ、そうですか、祐一さんなら大歓迎です。いいよね舞?」

「はちみつクマさん」

「よし! それならいっちょ優勝してやろうぜ!」

『おー!』

 3人の結束の声が上がった。

 

 俺達はチームごとに分かれ、互いに背を向け円形に並んだ。

「いいですか、皆さん。佐祐理の合図で一斉にゲームスタートです」

 もうすぐ始まるのか…

(佐祐理さん)

 俺は舞と佐祐理さんにだけ聞こえる声で話した。

(何ですか?)

(始まったらどうする? まず最初に誰かを叩くか?)

(それはだめです)

(どうして?)

 俺は小声で訊き返す。舞も少し怪訝そうな顔をしている。

 序盤に誰かを叩いておいたほうが後々楽になると思うのだが…

(戦術の鉄則としてまず強いものから叩くのは常識です。佐祐理達のチームは恐らくみんなから目の敵にされているでしょう。開始と同時に全員から集中攻撃を受けるはずです)

(あっ! そうか。確かに…。それじゃあどうする)

(始まったらすぐに目の前の林の中に飛び込んで、全力で逃げましょう。攻撃や松茸集めはそれからです)

(分かった。舞もいいな?)

(はちみつクマさん)

「それではいきますよ!」

「よ〜い、スタート!」

 ダッ!

 開始と同時に俺達は目の前の林の中に飛び込んだ。

『あっ』

 みんなは一瞬虚を突かれ、その後ちりじりに散開していった。

 

 

 北川・久瀬・斎藤チーム

「チッ、相沢のやつ読んでやがった!」

 北川が悪態をつきながら小石を蹴っ飛ばした。

 北川はスタートの直前に香織が祐一のチーム以外の全チームに目配せをしていたので、ピーンときて祐一のチームを攻撃しようとしたのだが。

 それも読まれており、あっさりと逃げられてしまった。

「まあまあ、済んだことよりもこれからのことだよ」

 斎藤が北川をなだめる。

「確かに正論だ。さて、これからのことだけど、僕達のチームは相沢君のチームと同じく人数が一人多い。つまり戦闘では圧倒的に有利だということになる。地道に松茸を探すより奇襲をかけて相手のチームから松茸を奪うほうが勝算は高い」

 久瀬が頭をフル回転して有利な戦略をはじき出す。

『おお〜』

 そんな久瀬にその他二人は感心するばかりだ。

「よし、行ける、今回ばかりは脇役脱出だ! 久瀬! 斎藤! セリフが欲しいか! CGが欲しいか! 出番が欲しいか!」

『おー!』

 北川に遅れて二人も負けじと声を張り上げる。

「それじゃあ早速行くぞ! もうプラスαなんて言わせない! 打倒相沢!」

『おー!』

 3人は今、結束した。

 

 

 かおり・しおりチーム

『おー!』

 某チームが大声を張り上げているころ、それを影から覗いている二人組みがいた。

「馬鹿ね。栞もあんな奴らと関わっちゃだめよ」

 香里と栞だ。

「それにしても…やるわね相沢君達。まさかあれを読んでるなんて…」

「それよりもお姉ちゃん。これからどうするんですか?」

「そうね…私達のチームは戦闘能力も割と高くないし…栞を抱えて松茸を探し回るってのも不利だし…」

「…ごめんなさい」

「…いいのよ、それよりも今は様子を見るしかないわね…栞、どうすれば良いと思う?」

 栞はしばらく考えて…

「とりあえず誰かのチームにくっついて行って、そのチームと別のチームが戦って勝ったほうに奇襲をかけるというのはどうでしょう? そうすれば相手も油断しているし、もし勝てれば2チーム分の松茸を手に入れることができます」

「なるほど…、良い案ね、それでいきましょう」

 今後の方針が決まった二人は馬鹿やってる北川チームから離れて行った。

 

 

 まこと・みしおチーム

「さすがにやるわね、祐一」

「ええ、まさかあれが読まれているとは思いませんでした」

「まぁ、そうじゃないと張り合いがないけどね…」

「それよりも真琴、これからどうするんです?」

 真琴は腕をぐるんぐるんと回して前方にビシッと正拳突きを決めて…

「そんなの決まってるじゃない、相手チームを倒して倒して倒しまくって松茸ゲットよ!」

「自分達では探さないのですか?」

「そんなみみっちぃことやってらんないわよ! まあ、いざとなったらこれもあるしね…」

 そう言うと真琴は懐から黒い何かを取り出した。

 美汐はそれを見て、真琴が別の名前で呼ばれたことがあることを思い出した。

 殺村凶子、と。

 

 

 あゆ、なゆきチーム

 ごそごそごそごそ………

「どう、あゆちゃん。あった〜?」

「こっちにはないよ。名雪さんは〜?」

「こっちにも〜」

 あゆと名雪は地道に松茸を探していた。

「そう言えば香里がさっき意味ありげに目配せをしてたけどどうゆう意味かなぁ? あゆちゃん、分かる?」

「う〜ん、なんだろう?」

 ごそごそごそごそ………

「見つからないね〜」

「そうだね〜」

 ごそごそごそごそ………

 どこまでも平和な二人であった。

 

 

まい・さゆり・祐一チーム

「ふう、大丈夫だったか? 二人とも」

「佐祐理は大丈夫ですよ〜、舞は?」

「大丈夫…」

「それにしても佐祐理さんやるなぁ。大当たりだったじゃないか」

「ええ、スタートの寸前に香里さんが意味ありげに目配せをしていたからピーンときたんです」

「そうなのか? 全然気が付かなかった」

「祐一は鈍感…」

 舞がボソッと言った。

「悪かったなぁ鈍感で…、というか舞も気づいてたのか」

 舞は当然とばかりに頷いた。

「まぁ、そんなことはいいとして…これからどうするんだ?」

「そうですねぇ…ここは地道に松茸を集めていったほうが良いと思います。奇襲が失敗した以上、相手を倒しても松茸があまり手に入らない前半戦ではどのチームも佐祐理達を襲いにくいと思いますから」

「なるほど、それじゃあ探してみるか…。確か松茸って痩せたアカマツ林に生えるんだよな?」

「ええ、その通りです」

「はちみつクマさん」

「それじゃあ手分けして探すか? 相手もまさか自分から戦力を分断するとは思わないだろうし…」

「そうですね…。アカマツならこの辺にたくさん生えていますしこの辺りを拠点にして探しましょう」

(こくん)

 舞も頷いた。

「それじゃあ、なにかあったら大声で助けを呼ぶ、それで良いか?」

「ええ、それではまた合いましょう」

「祐一、気をつけて…」

「ああ、またな」

 俺達は一旦別れた。

 

 

 北川・久瀬・斎藤チーム

「相沢ァ、相沢はいねがー!」

 まるでなまはげのような声を出して歩くは北川率いるプラスαチームだ。

「うっさい! そこ!」

 これは、これは失礼。以後気をつけます。

「分かれば良いんだよ、ちくしょう!」

 相当気が立ってるなぁ、こいつら…

「どうだ? 相沢はいたか?」

 もはや北川のターゲットは相沢祐一ただ一人のようだ。

「しっ、静かに」

 斎藤が北川を制す。

(どうした?)

 久瀬が小声で訊き返した。

(水瀬さん達がいる)

「どう。あゆちゃん? 見つかった〜?」

「うぐぅ、全然だめだよ、一本も見つからないよ。名雪さんは〜」

「こっちも〜」

 ごそごそごそごそ………

 名雪達は相変わらず地道に探し続けていた。

(なぁ?)

(何だ?)

(ほっとかないか?)

(そうだね…)

 3人は慈愛の眼差しで名雪達を見つめた後、音もなく去って行った。

「うぐぅ〜、見つからないよ〜」

 秋の山に情けない声が木霊した。

 

 

 まこと・みしおチーム

「誰もいないわねぇ」

「こうも山が広いとエンカウント率も低そうですしね…」

「えん…かうんと?」

「いいえ、何でもありません」

 そんな会話をしつつ歩き回っているのは真琴と美汐の二人組みだ。

「やはり戦略を立てたほうが良かったのでは?」

「うっ、そうかも…」

 ガサッ

『!』

 二人とも飛びのいて臨戦体制に入る。

 ガサッガサッ!

 何かが飛び出して来た。

「みゃー」

 それは一匹の猫だった。

「なんだ…猫ですか」

 美汐がほっと胸を撫で下ろしていると…

「ピロ!」

 真琴が猫を抱きかかえた。

「御知り合いですか?」

「うん、猫のピロ、真琴の友達」

「へぇ…ピロさん始めまして」

「みゃー」

「ええ、こちらこそ」

「それにしてもどうしてこんなところに?」

「みゃー」

「ああ、そうですか」

 何故か会話が成り立っている。

「何て言ってるの?」

「ええ、『真琴を追ってきた』と言っています」

「ふーん、そうなんだ、ありがとう、ぴろ」

「みゃー」

「ふふっ『どういたしまして』ですって」

 ガサッ、ガサッ

『!』

 また音、続いて声。

「以外に見つからないものだなあ。もうかれこれ一時間が立つってのにまだ一本きりとは…」

 相沢祐一だ。

 距離は真琴達からまだ遠い、しかも祐一は真琴達に気付いていないようだ。

(美汐…)

(ええ、分かってます。奇襲、ですね)

(よし、行って。ピロ)

 真琴はピロを祐一に向けて放した。

 

 

 まい・さゆり・祐一チーム(祐一)

 見つからない。

 あれだけ探したのに一本きりとは…。

 まぁ、見つからないモンは仕方がない。さて、そろそろ約束の時間だな。戻らないと…

「みゃー」

『!』

 何かの塊がいきなり突進してくる。

 猫だ。

「みゃーみゃー」

「くっ、何だこいつ!」

 猫は足にしがみついてくる。

「って、お前ピロじゃないか! どうしてこんなところに…」

「祐一! 覚悟」

『!』

(ごっ)

 鈍い音が脳内に響く。

 後頭部に一撃を食らったらしい。

 力が抜けて膝を着く。

「ぐっ、ちくしょう!」

 俺は気力を振り絞ってすぐさま立ち上がると、次の一撃を食らう前に全速力で前に向かって走った。

(ぶおん)

 拳が空を切る音が聞こえた。

「あっ、逃がさないわよ!」

 声の主はそう言うと俺を追って駆け出した。

(真琴…か?)

 いや、襲った主が誰かなんて関係ない。とりあえず今は逃げることに集中しないと。

「待ちなさいよー!」

 俺が全力で走っているため、声は次第に遠ざかっていった。

 走っているうちに待ち合わせの場所が見えてきた。佐祐理さんと舞の姿もある。

「あっ、祐一さん、どうでした?」

「話は後だ!」

 俺はそう言うと二人の手を引っ張って木の幹に隠れる。

「どうしたんですか? いきなり」  

「祐一、痛い」

「ああ、すまん」

 俺は掴んでいた手を放した。

「緊急事態だ、多分真琴に…だと思うが奇襲を受けた。ヤツはもうすぐここに来る。いつでも戦えるようにしておいてくれ」

「分かりました」

(こくん)

「祐一! 逃げるなんて男らしく…、あれ?」

 真琴は俺を見失ってくれたらしい。好都合だ。このまま行ってくれれば良いが…。

 真琴はきょろきょろと辺りを見回している。その時―――

「真琴! あそこです!」

 天野がまっすぐに俺達のいる木の幹を指差した。

 すぐさま真琴は懐に手を入れ、何か黒いものを取り出す。

 じゃきっ、と音がした。

「まずい! 散れ!」

 俺は叫んで別の木の幹に移動する。舞と佐祐理さんもすぐさま俺の意を解し、移動した。

 その瞬間、ぱんっと気の抜けるような音がした。

 打ち出された黒い何かはすさまじい勢いで回転し、飛来しながら、俺達が先程いた木の幹に突き刺さった。

「あいつ、何であんなモンもってやがる」

 見たところ弾はゴムスタン弾だったようだが、あんなものをまともに食らえばただじゃ済まない。

 真琴は冷静に手首を俺のいる木の幹に向けて…

 ぱんっぱんっぱんっ!

 3連射した。無論ただのハンドガンでこんな芸当ができるはずがない。

「チッ、バリーVerかよ!」

 俺は知らない人は全然知らない謎の単語を口にした。だが、あれだけ景気よく乱射してくるのだからマジで弾も無限かも知れない。

 木の幹を盾にしていればとりあえずは安全かも知れないが、それではこちらも攻撃できない。絶対的に不利だ。

 佐祐理さんと舞も似たような状況らしい、幹を盾にして動けないでいる。

 と、舞がこちらを向いて何かの合図をした。

 なんだ?

 俺が怪訝に思っていると、舞は木の幹を飛び出して真琴の正面に立った。

 すぐに俺はその意を解し、木の幹伝いに気付かれないように移動した。

「舞! 危ないよ! 戻って!」

 佐祐理さんは必死に声をあげる。

「大丈夫」

 舞は呟いてゆっくりと真琴に向かってゆっくりと歩いていった。

「うっ、来ないで、撃つわよ!」

 それでも舞は歩みを止めない。

「くっ!」

 ぱんっぱんっぱんっ!

 真琴が発砲した。だが目を背けながら打った弾は舞にかすりもしない。

 撃った瞬間は歩みを止めた舞も再び歩き出した。まっすぐに、真琴に向かって…

 ぱんっ!

 真琴がもう一発発砲した。

 今度は狙いすまされた正確な射撃。

 だが…

 ガッ!

 鈍い音とともにゴムスタン弾が舞の傍にぽとりと落ちる。

 舞が飛来する弾を剣で叩き落したのだ。

「う、うそ…」

 ぱんっぱんっぱんっ!

 続けて3発発砲。

 だがそれも一発はかわされ、二発は切り払われて舞には当たらない。

「この!」

 再び撃とうとして…

「真琴! 危ない!」

 天野が叫んだ。

「え?」

 どんっ!

 真琴の体が地に崩れ、そのまま気を失う。

 横から俺が食らわせた体当てによって…

「まだ、戦うか?」

 俺は叢中で聞いているであろう天野に向かって問い掛けた。

「いいえ、降参です。もう戦う気はありません」

 そう言って手を挙げながら出てきた。

「それにしても、すごいですね…。あんな短時間の間に引き付け役と攻撃役に分かれるなんて…」

「まぁ、付き合いもそれなりに長いしな」

 俺は舞の方を見ながら曖昧に答えた。

 さすがに『毎日夜遅くまで校舎で魔物と戦って培われたチームワーク』などとは言えなかった。

「ところで松茸はないのか?」

「ええ、真琴が『そんなのちまちまと探してられないわよぅ』などと言って見つけた人に襲い掛かろうとしていたんですけど相沢さんが始めての獲物だったようですし…」

「うーん、そうか…残念。あっ、そう言えば佐祐理さんと舞はどのくらい見つけたんだ」

「え〜と…あはは〜っ。2本しか見つけられませんでした〜」

 幹の陰から出てきた佐祐理さんが苦笑いして答えた。

「ま、舞は?」

「4本」

 す…すげぇ。何だかんだ言って佐祐理さんも俺よりたくさん手に入れてるし…もしかして俺ってお荷物か?

「祐一は何本?」

「うっ、1本だ…」

「………」

 舞はどこか遠くの空を見た。

「なぁ、舞。その『やっぱだめだなコイツは』的リアクションはやめてくれ。だいたい…」

「祐一!」

 舞がいきなりはっとして俺の名前を呼ぶ。

(ゴッ!)

 本日2度目の衝撃…思わず意識が遠ざかる。

 間の前が真っ白に染まる。

 そうか…木の上にいたのか…気づ…かなかった…な。

 そんなことを考えながら、俺の意識は闇へと沈んでいった。

 

  

 あゆ・なゆきチーム

「うぐぅ、まだ一本も見つからないよぅ」

 がさごそがそごそ………

 まだ探していた。

「名雪さんはどう?」

「すー」

「名雪さん?」

 あゆが名雪の方を振り返る。

「すー」

 寝てた。木の幹を背もたれにして気持ち良さそうに眠っている。

「ちょっと、名雪さん、起きてっ」

「うぅん」

「名雪さん、名雪さん!」

 ゆさゆさゆさ………

 あゆは名雪の肩を揺する。

「うぅん、全長5キロのイチゴサンデーだおー」

「名雪さん、名雪さん!」

 ゆさゆさゆさ………

「あっという間に食べ終わったおー」

「名雪さん! 帰って来てっ!」

「うぅん、敵だおー、敵だおー、近くにいるおー」

 そう言うと名雪はいきなり立ち上がり、目を閉じたまま走り出した。

「あっ、名雪さん! ちょっと待ってよっ!」

 あゆも慌ててその後を追った。

 

 

 まい・さゆり・祐一チーム

「祐一!」

 舞が倒れこんだ祐一に向かって走ろうとするが、今祐一を殴り倒した人物のせいでそれもできない。

「どいて」

 舞が多少怒気を含んだ声で相手に命令する。

「大丈夫ですよ、先輩。相沢君は気絶しただけですから」

 そう言って祐一を殴り倒した人物―――御坂香里は舞の方に歩み寄る。

 そして、両者は対峙した。

 いつのまにか真琴と美汐がいなくなっていることに気付いたのは誰もいなかった。

 

前半 END

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送