Panic Party 第二回 遠野さん家の事情
VLSによって作られた空間の中、遠野志貴は自問した。
どうして俺はこんなところに居るんだ?
そもそも今日は遠野の屋敷のみんなで遊びに出かける予定だったのだ。
一時期よりは大分ましになったものの、未だに外の世界に慣れていない翡翠のことを思って秋葉に進言し、やっとのことで実現したはずの行楽計画。
一匹の猫が招いた交通事故(?)で入院していた病院をようやく退院してようやくひと段落、落ち着ける平和な時期がやってきて、今日はその素晴らしき日々の一ピースに刻まれるであろう日になるはずだった。
今朝目が覚めて、嬉しさ半分不安半分の翡翠に微笑ましいものを感じながら朝の挨拶をして、着替えを用意してもらって、着替えてから窓を空けて、すごく良い天気、行楽日和であるのを確認したところまではうまく行っていたと思う。
ふと、視界の隅に白いものが横切ったような気がしたその瞬間。後頭部にすさまじい衝撃を感じたと思ったら、いつの間にか変な会場に居た。
「やっほー! 志貴、こんな所で会えるなんて奇遇だねー」
志貴はぬけぬけといつか聞いたようなせりふを吐く真祖の姫君の手を引っつかんで会場を出た。
「ちょっと志貴、痛いって」
「アルクェイド! 一体どう言うことなんだ!」
同時に言う彼女と志貴。
彼女、アルクェイド・ブリュンスタッドは特に悪びれた様子も無く、一枚の紙切れを取り出した。志貴はそれを見て、
「招待状?」
「うん、何か来てくれって、強い人の方が宣伝になるとか訳の分からないことを言ってたけど面白そうだから来てみたの」
志貴は額を押さえて、
「ちょっと待ってくれアルクェイド。お前が招待されたことと俺が拉致されることと何の関係があるんだ」
「関係大有りよ。ここを見て」
志貴は招待状の一部分、タイプされた他の部分とは違って、明らかに手書きで女の子っぽい字で書かれたところを読んでみる。
『あははーっ、当日は必ず二人で参加してくださいね。誰を誘っても構いませんが、出来るだけ強い人がいいです』
紙切れから目を外して盛大な溜息を吐く志貴。
「つまりだ、お前は何をするのかもよく分からないイベントに招待されて、ただ『面白そうだから』という理由で参加を決めて、パートナーが必要だったから俺を拉致したわけだ」
「そう、そういうこと。よく分かったわね、志貴」
にこにこと笑っているアルクェイドにもう一度溜息を吐く志貴。
「先輩でも誘ってやってくれ。俺は今日忙しいんだ。何せ今日はみんなで出かけるんだから」
「えー。嫌よシエルとなんて。それに今から戻ったってムダだと思うよ」
「どうしてだ?」
問う志貴にアルクェイドは空を指差して、
「だって、もうお昼よ」
ちょうど真上を差すアルクェイドの指の先にはさんさんと輝く太陽があった。
「………」
髪を薄朱くして怒る秋葉と、心底悲しそうなのを無表情で必死に隠そうとする翡翠と、何故か嬉しそうな琥珀の顔を思い浮かべる遠野志貴。
「なぁ、アルクェイド。ちょっと耳貸してくれ」
怒りで震えそうな声を努めて押し殺し、志貴はできるだけ優しい声を絞り出した。
「なになに? 内緒話?」
アルクェイドも嬉しそうに耳を貸す。
志貴は大きく息を吸い込んで、
「このばか女ーーーーーーーー!!」
VLSによって作られた空間の中、遠野志貴は再び自問した。
どうして俺はこんなところに居るんだ?
そんなの決まっている。
アルクェイドのせいだ。
「もうどうでもいいけどな…」
いつもいつも振り回されてばかりいるせいか、こう言う理不尽なことに対してはすっかり耐性がついてしまっている。
とにかくこの場はひたすら暴れまくって憂さ晴らしをさせてもらおう。日頃たまったストレスを解消できるめったに無い機会ではある。そんなことを考える志貴であった。
「ちょっと志貴〜、すごいよこれ」
アルクェイドは子供のようにはしゃいでいる。ヴァーチャルなのがそんなに珍しいのか、先程から自分や志貴の体をぺたぺた触ったりくるくる回ったりと全く落ち着きが無い。対戦相手もどこか呆れているようでもある。
『タッグマッチ』
目の前に突然そんな文字が大きく表示された。反射的に身を硬くする志貴とアルクェイドと対戦相手。
『Ready?』
そう表示されるとともに志貴はナイフを取り出した。戦闘に対する気配に敏感過ぎる自分に少し呆れながらも志貴は戦うことになる相手を見た。二人の男女。女は自分より少し年上のようだ。男は、自分と同じぐらいだろうか。少し上かもしれない。
立ち位置的に自分は男の方と戦うことになりそうだった。確か、名前は柏木耕一と言っただろうか。そいつと目が会った瞬間、頭が一気に白熱した。
『違う』
頭のどこかでそう聞こえた。
アレは、自分とは違うモノだ。
ナイフを持つ手に力を込める。頭も心臓も爆発しそうなくらい灼熱している。やけに喉が乾いた。
隣のアルクェイドを見る。彼女はどこか楽しそうだ。やはり、本能的に戦いを好む種なのかもしれない。
『違う』
また聞こえた。
そう、彼女もまた自分とは違う。
ここに居る人間は自分だけだ。
あたまが…いたい。
気を抜けば、今にも襲い掛かってしまいそう。
ばらばらに…して…しまいそう。
頭を殴った。
ナイフを握り締めた手で思いっきり。
それであっさりと自分が戻ってきてくれた。
全く、最近平和だからって血を求めるなんてどうかしている。
心臓を静めるため大きく息を吸って吐いた。それと同時に表示される『Fight!!』の文字。
戦闘の準備なんて出来るはずも無かった…
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