Panic Party 第四回 鬼対鬼?
先手必勝を狙って柏木千鶴はアルクェイド・ブリュンスタッドへと駆けた。腕に鬼の力を込めて、一気にその喉笛を貫こうとする。
だが、その寸前、千鶴の視界から相手が消え失せた。
「えっ!?」
驚くのと身を翻すのがほぼ同時。真後ろから繰り出された一撃、ありえない速さで繰り出された必殺の爪を千鶴はかろうじて避けた。
「ふぅん、なかなかやるじゃない」
白い女は面白そうに言った。思わず千鶴は一歩後ずさる。
冗談じゃなかった。
本能が告げている。
相手は、自分以上の、化け物だと。
「貴女は…何者ですか…?」
いくらこのゲームがイメージ力に影響されるとは言っても、実際の戦闘能力とイメージ力に差がある場合、力がどうしてもイメージに影響されるため、どこか方向性を失った、漠然とした力になるはずだった。
しかし、この相手の力は漠然としているどころか完全に明確なものである。これはつまり相手が現実世界においてもこのくらいか、これに近い力を持っているという証拠だった。
「わたし? わたしはアルクェイド…長いからアルクェイドでいいや。一応これでも真祖…つまり吸血鬼よ」
『きゅうけつき』
その言葉を頭で反芻する千鶴。
何をバカなことを、と思ったが、自分も鬼の血を引いていることを思い出し、首を振る千鶴。確かに吸血鬼が居たとしても全然不思議ではないのかもしれない。
「そう言うあなたこそ何者? あなたからはどちらかというとわたし達に近いにおいがする。少なくとも普通の人間じゃないんでしょう?」
相も変わらず、嬉しそうに言葉を紡ぐアルクェイド。その姿はどこか高貴なイメージを千鶴に抱かせた。
「そうですね。わたしは、いえ、わたし達は日本の伝承で言う『鬼』の血を引いています。彼らの言葉で言うのなら、エルクゥと言うらしいですけど」
アルクェイドはふぅんと鼻を鳴らした。
「じゃあ、お互い人間じゃないってことか。ねぇ、無駄話は止めにしてそろそろ殺し合わない?」
「ええ、そうですね。そうしましょうか」
まるで『暑いから喫茶店にでも入らない?』という言葉と同じようなトーンで会話が成されている。
だれかが聞いたら気にも留めずに、しかし数瞬後にその意味を理解して青くなるような、そんな会話。
両者は同時に跳ねた。とても普通の人間には跳躍できない距離、その高みで両者は交錯する。
爪と爪とがぶつかり合い、きぃんと甲高い音が響く。両者とも垂直方向のベクトルを全く殺さずに爪をふるい、そのまま三合、四合、五合…目で血がぱっと舞った。
着地と同時に膝を付いたのは千鶴の方だった。その肩口からは鮮血が噴き出している。
「くっ…」
千鶴はすぐに立ち上がろうとして、再び膝を付いた。思っていたよりも傷が深い。このまま闘ってもすぐに倒れてしまうだろう。
「あれ、もう終わりなの? つまんないの〜」
あくまで余裕の笑みを絶やさないアルクェイド。千鶴は肩を押さえながらアルクェイドを睨む。
「まだ、です」
千鶴は立ち上がった。
エルクゥは地上最強の生物だと言われている。例え、この血を忌み嫌っているとしても、勝てないにしても、千鶴には少しだけ意地があった。
そして彼女は鬼と化した。
千鶴の肩から噴き出していた血がぴたりと止まり、その瞳に朱がさす。さらに、体が一回り大きくなった。
アルクェイドがその変化に目を剥く前に、千鶴はアルクェイドを後ろからがっしりと掴んでいた。アルクェイドがそれに気付いたときにはその体は既に宙に舞っていた。
千鶴がアルクェイドを掴んだまま蹴り飛ばしたのだ。
アルクェイドが何とか空中で体制を整えた瞬間に、いつの間に移動したのか、真下から蹴り上げる。
飛んでいくアルクェイドの落下点に先回りして真上に蹴り飛ばした千鶴はその場で跳躍した。
蹴り上げの初速度が重力加速度によってゼロになるその瞬間、アルクェイドに追いついた千鶴は握った両腕をその体に叩きつけた。
アルクェイドは猛烈な勢いで地面に叩きつけられ、冗談でもなんでもなくバウンドした。石でできた闘場が砕かれ、石砂がぱらぱらと舞う。
遅れて千鶴は着地した。
ダウン時のカウントが始まる。
1、2、3…
千鶴はギョッとする。アルクェイドは立ち上がった。服に付いた砂埃を手で払っている。
「あいたたぁぁ」
まるでつまずいてコケたときのノリだ。ほとんどダメージがあるように見えない。
そのアルクェイドは千鶴を睨む。
「今度は私から…だね」
ちなみに最後の『…だね』は千鶴の喉笛を掴みながら言っている。
千鶴にはその動きが全く見えなかった。恐らくは手加減していたのだろう。先程の千鶴の攻撃も敢えて食らっていたのだ。
そのまま持ち上げて首を絞められる千鶴。
「ほらほら、早くギブアップしないと苦しいよ」
笑顔のアルクェイド。
ぎりぎりぎり。
ちょっと絞め方に恨みが篭っているようだ。やっぱりちょっとは痛かったのかもしれない。
ぎりぎりぎり。
とりあえず限界だった。
このままでは冗談抜きに死ぬ…とまでは行かないだろうが、死ぬほどの苦痛を味わう羽目になってしまう。
(ごめん、耕一さん。ちょっと、勝てないみたい)
千鶴は喋れないため、手でギブアップを告げた。
途端に首を押さえていた手が緩む。
「ッグ…はぁ…はぁ…はぁ…」
必死に酸素を求めた。
「大丈夫?」
アルクェイドが手を差し出してくる。やはり顔は笑顔だ。これだけ見れば、とても吸血鬼には見えない。彼女が人を襲って血を吸っている情景は千鶴には想像できなかった。
「何とか…だいじょうぶ…です」
息も絶え絶えに呟く千鶴。
「そう、それならいいんだけど。あっ、そろそろ向こうも決着ついたかな。あれ、調子悪いのかな、志貴」
地面に倒れていて、カウントを取られている志貴を見て言うアルクェイド。それを見て千鶴は気が付いた。この人はタッグマッチにも関わらず、敢えて耕一と志貴の戦いに干渉しないように戦っていたのだ。
恐らくは彼女自身がが蹴り飛ばされる位置ですら計算されていたに違いない。どう言う理由でそんな闘い方をしたのかは知らないが、やはりこちらは完全に遊ばれていたようだ。
ちなみにアルクェイドがこんな闘い方をした理由は『志貴の邪魔をするとこっちまで殺されてしまうから』というものだったが、当然そんなこと千鶴には知りようもなかった。
「え〜と、連れの人。耕一だっけ? あの人にも鬼の血が混じってるんだよね」
「ええ、柏木家の人間は皆そうです」
「そう」
アルクェイドはそれ以上何も言わなかったが、千鶴には『ご愁傷様』と呟いたように聞こえた。
カウントぎりぎりで、志貴がゆっくりと体を起こした。
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