Panic Party 第六回 OUT OF MANKIND


 


 耕一、鬼はその勢いを全く殺すことなく、志貴を蹴り飛ばした。

 その弾丸のような一撃を受け、志貴の体は吹っ飛ばされて地面を転がった。

 その一撃、それだけで志貴の意識はトンでいた。

 ルールに従い、カウントが始まる。





 1、2、3…





 遠野志貴は目覚めない。





 4、5、6…





 ぐったりと体を横たえている。





 7、8…





 そして、現実世界で見守る誰もが決着を確信したその瞬間。





 9…





 テンのカウントだけを残して、志貴は立ち上がっていた。それと同時にナイフを左手に持ち替えている。

「ひとつ、おまえに訊きたい事がある」

 志貴は鬼に問い掛ける。

「おまえ、人間か?」

 それに鬼は何を今更、と言うような顔をして、

「チガウ、俺ハ、鬼ダ」

 そう答えた。

 志貴はそうか、と呟いて、ナイフを…七つ夜と刻まれた短刀を構える。





「なら、おまえは死ね」





 呟いて、志貴が地を蹴る。

 両者の距離はおよそ八メートル。志貴はその距離を二歩でゼロにした。

 そして、予想外の速さに鬼が戸惑うその瞬間―――

 志貴は鬼の腕に走る線をナイフで通していた。

 まるで、その鋼のような腕がバターに変わってしまったかのよう。何の困難も無く、ナイフはそれを切り落としていた。

 切り落とされたそれが地面に落ち、切り落とされたことに今気付いたとでも言うかのように、その滑らかな切断面を噴き出す血が覆い隠した。

「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」

 鬼が叫び、残された右腕をめちゃくちゃに振るう。

 それらは全て一撃必殺。錯乱しているとは言え、人の身でそれを受ければ命は無い。

 志貴は姿勢を低くし、まるで蜘蛛のような動きでそれらの全てを躱わし、ナイフで弾き、再び鬼へと肉薄する。

 ナイフが煌いた。










 鬼はその痛みで我を忘れていた。

 驚愕と、混乱と、そして恐怖が心の内を支配していた。

 コワイ…

 鬼が、地上最強の生物であるエルクゥが、初めて自覚するその感情。そして、心の全てがそれに塗りつぶされるその直前、そいつと目が会った。

 寒気がした。

 その瞳から生み出される死のイメージ。そして、あと一瞬後にはこの命を刈り取ってしまうであろう白刃の切っ先。その全てを嫌悪した。

 その全てを…

 地上最強の生物と呼ばれるエルクゥの力、その全てを総動員してそれを回避した。

 チ、と舌打ち。志貴は独特の動きで鬼との距離を取った。

(なんだコイツは)

 鬼はそう思う。

 自分の命を炎と例えるなら、それは今激しく燃え上がっていることだろう。

 それも当然だ。命を賭けた闘いなら、その命は熱く熱く燃え上がるはずなのだから。だからこそ、散り際の命は美しい。

(なのにコイツは…)

 炎など微塵も見えない。ただその瞳がツメタク輝くだけ。あおいあおい、どこか冷たい月を連想させるその瞳。

 恐らくコイツは『闘い』などしていないのだろう。ただ『殺す』だけ。今の自分もコイツにとっては『殺す対象』にしか過ぎないのかもしれない。

 皮肉なものだと思う。狩猟の一族であるはずのエルクゥが今は逆に狩られようとしている。





『なんて、無様…』





 それはどちらの口から出た言葉か。

 志貴は…七夜志貴は、ナイフをくるん、と回転させナイフの柄を上にすると、指の間にナイフを挟んだ。

 鬼と志貴の視線が交錯する。その一瞬後、

 志貴は腕を振り上げた。





 ――――――――極死




 
 志貴が告げる。

 振りかぶった腕が真横に動き、志貴は独楽のようにくるりと回転した。ナイフは既に放たれている。

 すさまじい勢いで鬼へと迫るナイフ。それと同時に鬼は上下さかさまに、背中をこちらに向けたまま肉薄する志貴の姿を視認した。

 思考は一瞬。

 飛来するナイフは十分に弾けると判断した。しかしそれでは致命的に隙を作ってしまうことになる。

 故に、鬼は志貴に向かってナイフを弾き返した。

 弾き返されたナイフはくるくると回転し、元の速度よりも速く志貴に向かって飛んだ。

 それにひるんだ瞬間、この爪でヤツの首を刈る―――

 鬼がそう思考した瞬間―――事は全て終わっていた。

 志貴は怯むどころかそのままナイフを空中で掴み、一瞬で逆手に持ち替えた。

 鬼が驚愕したその瞬間、志貴の左手がありえない速さで閃き、鬼の体中に走る線を通していた。

 その数ざっと十六つ。先程の腕と合わせて十七つ。

 ぐちゃりと躯の破片が地面に落ちる。

 ばらばらになった鬼の体と、血まみれになったナイフをぬぐう志貴という光景は、どこかユーモアを感じさせた。

 本来なら人と鬼とが対峙した場合、ばらばらにされるのは人の方だろうから…



  


感想送信用フォーム> 気軽にどうぞ。
おなまえ    めーる   ほむぺ 
メッセージ
 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送