Panic Party 第七回 インターみしおん





「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 千堂和樹を初めとする会場の観客全員が息を呑んでモニターを見守る中、会場に悲鳴が響く。まぁ、自分がばらばらにされれば誰だってそのくらいのリアクションはするだろうが…

 その悲鳴の主、柏木耕一は頭からヘッドギアを頭からむしり取ると、卵のような筐体から出て、どこぞへと走り去ってしまった。

「あぁっ、耕一さんっ!」

 千鶴も慌ててそれを追って消えて行った。

 勝った方はと言うと、

「ぶぅいなのだーっ!」

 などと叫び、やたらとテンションが高い方と、

「………」

 見るからに憔悴していて、やたらテンションが低い方と真っ二つに分かれている。

『これより十分間の休憩を取ります』

 などとアナウンスが流れて、アルクェイドは志貴に肩を貸して、会場の奥に引っ込んで行った。

 和樹はそれを見送ってからひとこと。

「すげぇな。なぁ、瑞希」

「………」

 気絶してる。 

「なぁ、大志よ」

「何だね? マイブラザー?」

 全く普通である大志の様子を見て、和樹はうんざりと言う。

「少しリアル過ぎるんじゃないか? これ絶対R十八指定だぞ」

「このくらいリアルでなくてはな。まぁ、初戦はレディには少々刺激が強すぎたようだが」

「だな。ちょっと俺、外の空気を吸ってくるよ。場所取っといてくれ」

「分かった。なるべく早く帰って来るんだぞ」

 和樹は分かったよと言って立ち上がった。そして、未だに熱気冷めやらぬ会場を後にし、外に出る。

「あぁ、ヤバかったな、あれ」

 深呼吸してから呟く和樹。鬼のばらばら死体なんてあまり見たいものではなかった。

 和樹はしばらくそこで気分転換をし、そろそろ戻るかと思ったところで変な声を耳にした。うぐぅとかなんとか。

 振り返ると、一組の男女が何やら言い争っていた。

「祐一君のばかぁ!」

「そんな事言ったって仕方ないだろ。突然のことだったんだよ」

 女の子の罵倒に、祐一と呼ばれた少年が言い訳をしている。

「俺だってショックだったんだよ! せっかく佐祐理さんが特別にくれた参加券なのに」

「一緒に参加しようって言ってくれたのは祐一くんなのに、券を盗まれるなんてどうかしてるよっ!」

 女の子は顔を真っ赤にしてぷんすかと怒っている。

「あぁ、悪かったって。今度たい焼きでも奢ってやるから機嫌直せ」

「…何個?」

 途端に手の平を返す女の子。意外に現金なのかもしれない。

「どれだけでも好きなだけ奢ってやる」

 女の子は顔をぱっと明るくして、

「ありがとう祐一君っ! 大好きだよっ!」

 祐一に抱きついた。

「うわっ、止めろあゆ!」

 祐一があゆと呼ばれた女の子を引き剥がそうとしていると、ひとりの女の子が彼らに近付いて行って声をかけた。

「楽しそうですね。相沢さん」

 祐一はぎょっとして、

「ど、どうしてこんなところに居るんだよ、天野」

「倉田さんに招待されたんですよ。参加はしませんけど」

 天野と呼ばれた女の子はそう言って、こほんと堰払いした。未だにあゆは祐一に抱きついている。

 祐一はあゆを無理やり引き剥がして、

「それなら一緒に観戦するか、俺達は参加する予定だったんだが、ちょっと券を無くしちまってな」

「うぐぅ、祐一君のばか」

 あゆが再びほっぺを膨らませて怒る。天野はそれを見ないようにして、

「そうですね、じゃあ行きましょう」

 祐一とともに会場に入って行った。

「うぐぅーっ、待ってよ祐一くーんっ!」

 あゆも慌てて会場に入って行った。

 その様子を一部始終見ていた和樹は、はふぅと嘆息して、

「…いいもの見せてもらった」

 満足気に会場に戻って行った。










 一方こちらは即席の選手控え室。

「大丈夫? 志貴」

 ぐったりしている志貴にアルクェイドは問いかける。

「あまり大丈夫じゃない」

 ぐったりしながらぐったりと答える志貴。

「ぐったり」

 おまけにアルクェイドにまで効果音を入れられる始末。

「あのなぁ、どうしてこんな大衆向けのゲームに人間じゃないヤツが参加してるんだよ」

 全員鬼じゃないかと続ける志貴。

「あぁ、殺人鬼と吸血鬼も鬼かぁ」

 ぽんと手を叩くアルクェイド。

 志貴はどこまでも陽気な吸血鬼を見てうんざりと溜息を吐く。

「次の相手は大丈夫なのか」

「それならたぶん大丈夫そうだよ。さっき佐祐理に聞いたんだけど、次の相手は普通の高校生のコンビだって」

 志貴は先程『お疲れ様でしたぁ〜』とか言ってお茶を差し入れてくれた女の子の顔を思い出した。

「佐祐理さんかぁ。ちょっと可愛かったよな」

「ちょっと、聞いてるの、志貴」

「あぁ、ちゃんと聞いてるよ。でも『普通の』っていうのが微妙に引っかかるな」

「そう? 多分平気だよ」

 別段根拠も何も無く、アルクェイドは笑顔で言った。

 アルクェイドが言うと確かにそんな気がしてくるから不思議だ、などと思いながら志貴は立ち上がった。

「まぁ、どんなヤツが来ても、アルクェイドの空想具現化で一発か」

 そんな風に結論付ける志貴。

「残念だけど、それは無理よ」

 しかし、その結論は使用者本人に否定されてしまった。

「どうして?」

「だって、空想具現化は自然…と言うか世界そのものと感覚を直結して行う技だもの。VLSの世界はこの世界とは隔離されているからその中では空想具現化は使えないわ」

「まぢ?」

「大マジよ。ついでに言うと、わたし自身もあまり力を使えないから」

「重ねてまぢ?」

「重ねて大マジよ」

 再びがっくりと肩を落とす志貴。時計を見ると、もうあまり時間が無かった。

「ふぅ、そろそろ時間だろ。行くぞ」

「うん。がんばろうね、志貴」

 控え室をとぼとぼと出る志貴に続いてアルクェイドもそこを後にした。

 ふたりは知らない。

 先程話題に出ていた『普通の高校生』が参加券を盗まれて言い争っていたことを…



  


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