Panic Party 第九回 コード・スクエア!!
志貴は思考した。
志貴から見て前方右方向やや遠めには今にも志貴に向かって巨大な投剣…黒鍵を投げようとしているシエルがいる。右方向やや近めには志貴に向かって全力で走る有彦。そして、先程まで傍にいたアルクェイドは既にシエルに向かって駆け出している。
この状況、志貴にとっては誤算と言えば誤算だった。有彦がこの世界においてどれほどの力を有しているのかは分からないが、少なくともこの一瞬において遠野志貴は一対二で闘わなければならない状態にある。
まずは先制攻撃で志貴を倒し、アルクェイドを二人掛かりで押さえるつもりのなのだろう。恐らくは力の落ちているアルクェイドを倒す程度の武装はしてきているに違いない。
(どうする?)
既に放たれた黒鍵は矢のようなスピードで志貴に向かって一直線に飛んでいる。ナイフでは弾けない。しかし、それを回避し、有彦を迎撃するのは十分に間に合う。
そう冷静に分析し、志貴は黒鍵を回避する。唸りを上げて飛び去っていく黒鍵とアルクェイドに蹴り飛ばされ、同じく飛んでいくシエルを視野の両端にとらえ、正面に向き直った志貴は―――
「なっ!?」
ド肝を抜かれた。
その原因は、予想よりふた回り程は(接近しているため)大きく見える有彦とか、その彼が持っている…というか担いでいる大きな銃剣のような武器にあった。
志貴にとって見覚えのありすぎるそのフォルム。その武器の外見と『第七聖典』という言葉を一致させるのと、
「いくぜ、ななこっ!」
有彦が裂帛の叫びを上げるのが同時、
「コォォォォォォォォド!」
明確に死の予感を感じ取った志貴は、無理な姿勢のまま大きく横に跳んでいた。
「スクエアッ!!」
荒れ狂う暴風が集約されたような鋭さ。その切っ先は先程まで志貴がいた場所を貫き通した。
志貴は受身も取れずに頭から石の闘場に突っ込んだ。視界がホワイトアウトし、すぐに立ちあがることはできそうに無い。
「有彦…おまえ」
呆然とその武器を見上げる志貴。
転生批判の弾劾が刻み込まれた、門外不出の聖典にして外典。第七の位を冠する概念武装、第七聖典。
「驚いたか? 遠野」
じゃこん、という音。銃剣の切っ先の剣が新しいものに代わる。いまさっき射撃された剣は落ちて、そのまま、パラパラと本のページになって散っていった。
「ああ、十分驚いたよ」
もうホント、あまりのデタラメさに、頭が狂いそうになるほど。
だいたい、第七聖典は遠野志貴にとって曰くがありすぎる。できればあまり目にしたくない代物なのだ。
アレは痛い。もうとんでもなく痛い。以前アレで左肩を吹き飛ばされたときにはあまりの痛さに何がなんだかよく分からなくなったくらいだ。
いや、そんなことも今ではどうでもいい。
(俺は一体何をしているんだ?)
そもそも今日自分はみんなで楽しくお出かけする予定ではなかったか。それが、どうしてこんな所で有彦なんぞと殺し合いなんぞをしなければならないのか。
しかも無事に遠野家に帰還したところで秋葉からの理不尽な責め苦にあうのは確実だ。
どうしてこんなことに? 一体自分は何をした?
わからない。ぜんぜんわからない。
「ちょっと…アタマきた」
呟いてゆらりと立ち上がる志貴。
「と、遠野?」
志貴の表情から何か並々ならぬものでも感じ取ったか、有彦がたじろぐ。
「さっさと優勝でも何でもして、俺は帰る」
志貴の右手が閃き、先程の衝撃で閉じてしまっていたナイフの刃がパチンと飛び出す。
ゆっくりと、ナイフを手に、志貴は有彦へとにじり寄る。それに対応して後ずさる有彦。手にしている第七聖典からも、そこはかとなく怯えのような感情が伝わってくる。
「ちょ、ちょっと、落ち着け遠野」
「俺は落ち着いてる」
完全に血走った目で言う志貴。
「それって絶対落ち着いてないヤツのセリフだって」
汗ジト流しながら一歩ずつ後退する有彦。そのまま志貴に背を向けて駆け出した。
『しかし回り込まれてしまった』←ウインドウメッセージ
「うそんっ!?」
愕然とする有彦。目の前には志貴の姿。
「ふっふっふ、私怨もたっぷりあることだし、キミにはここで死んでもらうよ、有彦クン」
「お前キャラ変わってるって。って本気か、マジか? ちょ、ちょっとそのナイフはかなり痛そ…」
ぷすっ
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!」
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