Panic Party  第二十回  テロリスト





聞き込み開始50分後。

 特に何も手掛かりが得られず、聞き込みを半ば諦めかけたそのときに以外にあっさりと手掛かりはやってきてくれた。

「お、折原に里村さんじゃないか。どうしたんだこんな所で」

 通りの向こうから走ってきたのは我がクラスメートにして情報通の住井護だった。よほど急いでいるのか、額の汗を拭うこともせず、肩で息をしている。

「住井…」

「はぁはぁ、ん、どうした折原」

「俺は今まで、これほどまでにお前の登場をありがたく思ったことはない…」

「は?」

 怪訝そうな顔をする住井と俺の間に茜が割って入る。

「実はですね…」

 事情をかくかくしかじかと説明する茜。

「長森さんが…行方不明…か」

 いまいち覇気のない声で反芻する住井。確かにクラスメイトが行方不明になったと聞いても実感がわかないだろう。というよりも、何か他の事が気にかかっている様子だ。

「何か知らないか?」

「うーん、そんなこと言われてもなぁ。俺もここんところ別件で忙しかったし…」

「とにかく何でもいいんだ。少しでも情報が欲しい」

「そうだなぁ…関係ないだろうけど、八百屋のオバハンが言ってたんだが、最近商店街に変な人がいるらしい」
 
『変な人?』

 ハモって問い返す俺と茜。ちなみに柚木は完全に蚊帳の外だ。

「あぁ、特徴を聞いたところ、ちょうど今学校を占拠してる奴らと同じような格好をしてるらしいんだ」

 七瀬が言っていたやつらか。いや、ちょっと待て、

「占拠されてるってどう言うことだ?」

 七瀬は学校の入り口が張られているとだけ言ってたが。

「言葉通りだよ。俺の情報によると、今俺らの学校は妙な黒服の男達に占領されてる。これは確認してないが、銃で武装しているという情報もある」

「そんな…」

 言葉も出ない俺と茜。柚木は場違いにも「なになに? どうしたの?」などと笑顔で訊いてくる。

「ちょっと待て、それは…」

「あぁ、かなりまずい状況だな。幸い中に居た教師の機転で今日から夏休みという連絡が生徒間に回ったが、それがなけりゃ今ごろとんでもないパニックになってただろうな。ひょっとしたら死者も出たかもしれん」

 なるほど。だからあんな連絡が回っていたというわけか。

「警察はどうしたんだ?」

「動いてない…というよりも動けないんだろうな。人質がいるせいで」

 俺はひとつの考えが頭をかすめて過ぎた。

「人質が居るのか?」

 ひょっとしたら、そこに長森も居るんじゃないだろうか。

「あぁ。脱出した職員からの情報によると、この占拠には予告があったらしい。まだ先生方も集まりきってない早朝に、例の黒服の男がひとり職員室に乗り込んできてな、驚いてる先生方に小銃を付きつけながら言ったそうだ」

『今から三十分後に我々『AION』の同士がこの学校を占拠する。今日行われる終業式を中止し、速やかにここから出ていけ。三十分後にまだ学校の関係者が残っている場合は問答無用で射殺する。繰り返す…』

「…てなことがあったらしい。占領予告とは、テロリストにしては良心的だな」

「なぁ、一応聞いておくけど、それってマジか?」

 まるで冗談みたいな話だった。

 テロリストが俺達の学校を占拠。口で言うのは簡単だが普通は起こることじゃない。俺もテロリストなんてテレビか物語の中だけの話だと思っていた。

「大マジだ」

 そう言う住井の顔は微塵も笑っていなかった。いつものように冗談を言うときの顔ではない。

「さっき言ってた、えーと、なんだっけ。アイオーン、だったか。それは何だ?」

「まぁ、話からしてそのテロリストか何かの集団の名前だろうな。一体どう言う意味だろうな」

 考える住井の前に茜が一歩出た。

「『AION』。アイオーンとはギリシャ神話に出てくる神の名前です。時を刻み続ける永劫の神であり、物語を記録し続ける絶対中立の立場を誇示していると言われています。全ての創造の源泉である『カオス』より生まれた最初の神のひとりで…」

「ちょっと茜。なんでそんなこと知ってるの?」

 茜は話の途中で問いかける柚木に「趣味です」と小さく答えた。

「まぁ、それはいいとして、さっきひとりを除いて全員脱出したって言ったな。それって…」

「さっき、中に居た教師が機転を利かせて休みにしたって言っただろ。その先生が他の先生の説得にも応じず、最後まで生徒と連絡を取りつづけたらしい。早くしないと生徒が来てしまうってな。結局逃げ遅れちまったよ」

「その先生は?」

「分からん。人質になっている以上殺されはしないだろうがな。それと、脱出した先生の中に髭はいなかったらしい」

「そうか…」

 髭…、茂男先生はいつもかなり早く学校に来ているそうだ。

 日直になったときの長森から聞いた所によると、茂男先生は頼まれてもいないのに朝早くから学校を回り、施設の安全確認をし、それが終ると職員室に戻って一息ついて、チャイムが鳴ってから教室に向かうという日課を繰り返しているそうだ。

 今日もその通りに行動していたとすると、テロリストの脅しがあったときには間違いなく校内に居たはずだ。そして脱出した教師の中に茂男先生は居なかった。

「人質はひとり。ということは長森は学校の中には居ないんだな」

「多分な。脱出した先生の中にも今日学校で生徒を目撃したひとは居なかった。今回のことに巻き込まれている可能性は低いと思う」

「そうか。他に何か情報は?」

「…一応これで全部だ。じゃあ俺はそろそろ行くぞ。割と急いでるんでな」

「ああ、引き止めて悪かったな」

「それじゃな」

 言って再び駆け出す住井。すぐにその背中も見えなくなった。

「なぁ、どう思う。茜」

「浩平はどう思いますか」

 質問に答えず、逆に茜は問いかけてきた。

「不謹慎だけど、正直ホッとしたよ。事件に長森が関わってなくてホントに良かった」

「そうですね」

 茜もどこか安心した様子で息を吐いた。

 俺も絶対に長森が関わってると思っていたからな、とりあえず一安心だ。

「でもさ…」

 柚木がポツリと呟いた。

「さっきあの人が言ってたよね。テロリストと同じ格好のひとが最近商店街に居たって。長森さんが昨日商店街で行方不明になったってことはひょっとしたらまずいんじゃない?」

 あ、

「あ」

 俺と茜ははっとした。

 確かに柚木の言う通りだ。長森が商店街で行方不明になったということは、事件と関わっている可能性がかなり高いじゃないか。

「茜っ!」

「ええ、とにかく集合場所に向かいましょう。みんなと合流しないと」

 俺と茜は頷いて、濡れるのも構わず走り始めた。

「あ、ちょ、待ってよーーーーーっ!」

 その後ろを遅れて柚木が追いかけ始めた。





「長森…」

 嫌な予感は収まるどころか、なおさら強くなっていた。










  


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