Panic Party 第二十二回 捕獲、そして尋問。
「…そうなんだ」
茜がどこからか買ってきた縄で手首をしばって、男が目を覚ますまでの間に俺は先輩に事情を説明した。
「瑞佳ちゃん、無事だといいね。髭先生も…」
「そうだな…。それにしても先輩、お手柄だったよ。あのままじゃ絶対に逃げられてた」
「うん、ちょっと…かなり痛かったけどね」
先輩はそのときのことを思い出したのか、おでこをさすった。
「それにしても、こいつって一体なんなのかしら」
七瀬がつま先で男を小突きながら言った。
「私達を見て逃げたということは、何か後ろ暗いことがあるはずです」
と、茜。
「その辺のことも含めて、こいつが目を覚ませばはっきりするだろ。それはともかく、先輩はどうして商店街に? あまり出かけたくなるような天気じゃないけど」
「うん、ちょっと確かめたいことがあってね」
確かめたいこと?
気になったが、それを訊くよりも早く七瀬が声を挙げた。
「あ、気付いたわよ」
「う…ぐ」
男が縛られたまま身をよじる。
「ほら、しっかり立ちなさい。あんたには訊きたいことがあるのよ」
七瀬が男を立たせて頬を2、3回軽く叩いた。
「う、く…俺は」
「まずは現状から確認させてもらうわ。あんたは今両手首を縛られて、あたし達に取り囲まれている。ちなみにここは人気が全然ないから、鳴こうが叫ぼうがだれも来ないわよ」
「ど、どうして俺がこんな目に…」
「それは自分の胸にでも訊くと良いわ。どうしてあんた、いきなり逃げたりしたの?」
「べ、別に逃げたわけじゃない。ちょっと急用を思い出しただけだ」
七瀬は鼻で哂った。
「今時、小学生でももっと上手に言い訳するわよ」
「ほ、本当なんだ。信じてくれ」
『………』
そんな七瀬の取り調べ(?)を一同は沈黙と共に見守っていた。
(留美さん…怖いです)
茜が七瀬に聞こえないほどの声量で呟く。
『どっちが悪者か分からないの』
澪もいつもと違う七瀬の様子に驚いたせいか微妙に字が震えている。
(あのー、どうでもいいんだけど、最近私忘れ去られてない?)
(あ、まだ居たんですか? 詩子)
(茜…ちょっとそれは酷いんじゃないの?)
小声でそんな掛け合いが続く中、俺は…
「………」
男の顔をずっと見ていた。
「七瀬」
「ん、何? 折原」
「悪いが、ちょっと代わってくれないか?」
「別にいいけど…折原?」
七瀬は顔を覗き込んできた。
「どうしたんだ?」
「…何でもないわ。ちゃんとやるのよ」
「言われなくても」
七瀬と場所を交代し、俺は男の前に立った。
男は俺と目を合わせようとしない。
俺は溜息ひとつ吐いて、呟いた。
「長森瑞佳」
男がぴくりと反応する。分かり易すぎて面白いほどだった。
「知ってるな?」
「し、知らない」
どうでもいいが、答えるときはこちらを向いて欲しいと思う。少し腹が立ってきた。
「知ってるな?」
「知らないって言ってるだろ!?」
だからこっち向けって。
「そうか」
俺は男の肩に手を置いて素早くあることをした。
「ぐ、ぎぃやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
汚い悲鳴に俺は耳をふさいだ。肩を外してやっただけでこの体たらくとは、情けない。
後ろの方で息を呑む音が聞こえたが、努めて気に留めないようにする。
「もう一度だけ訊く、長森瑞佳を知っているな?」
「はは…はぅ、あう」
男は痛みでか地面に倒れこんでのた打ち回っている。そんなことをしたら余計痛いだろうに。
「さっさと答えろ」
「ししし、知ってます…知ってるから、知ってるからやめ…」
俺は男に手を貸して起こしてやった。
「ちゃんと答えればこれ以上は何もしない」
「分かった。分かった。話す、話すよ」
男はそう言って、まるで堰を切ったかのようにぺらぺらと話し始めた。
自分は黒服の男に金をもらって依頼を受けたこと、
依頼の内容は長森を誘拐するということ、
連日、黒い服とマスク、サングラスで顔を隠して長森を付け、行動ルートの下調べをしていたこと、
そして、長森がひとりになるのを見計らって薬をかがせて誘拐したこと、
すぐに黒服の連中にその身柄を引き渡したこと、
結局連中が何者かは分からないということ、
自分は学校の占拠とは無関係であること、
とにかく訊いてもいないことまで洗いざらい吐露した。
「最後の質問だ。今長森はどこに居る?」
「分からない。でも黒服の野郎が学校を占拠してるなら、女もそこに居るはずだ」
そろそろ落ち着いてきたのか、割とはっきりした口調で男は言った。
「な、もう全部話したからいいだろ? 縄解いてくれよ」
「そうだな」
答えて俺は再び男の後ろに回り込んだ。そして男の首筋を軽く叩く。
男はほっとした表情のまま地面に倒れ込んだ。そのままぴくりともしない。
「とりあえず寝てろ。風邪はひくなよ」
まだ雨は降り続いている。
「ふぅ…」
どうして黒服のテロリストは長森をさらうように依頼したのだろうか?
誰も居ない学校の占領、そして誘拐。
その目的がさっぱり見えてこない。
連中は、そして長森は今…
「学校か…、まずいな」
俺が呟くと同時に、一同が我に返ったように駆け寄ってきた。
それをどこか遠くの出来事のように眺めながら、俺は真夏の雨を少しだけ冷たく感じていた。
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