Panic Party  第三十回  その能力チカラ

 

 

 

 それに気がついたのは転校してから、しばらく後のことだった。

 あのときのあたしは回りのみんなに対して『乙女』を演じるのに、そしてそうあろうとするのに必死で周りのことばかり見ていたけれど、周りの人は『あたし』を見ていなかった。

 彼らが、彼女らが見ていたのはあたしという個人でなく『人気者の女子転校生』だったり演じられた『乙女』だった。

 それも当然と言えば当然なのだろうと思う。だって、あたしはそのときそうゆうふう、、、、、、に見られたいと望んでいたのだから。

 今考えてみると、とても下らないことだと思う。あたしは『乙女』であろうとして、みんなはあたしではない『乙女』を見ていた。それにあたしは全然気が付かなくて…

 

 見とめたくはない。見とめたくはないけど、それを気が付かせてくれたのは、やはりあいつなのだろう。

 

 

 

 

 

「そんなの、分かるわけないじゃない」

 

 

 

 

 

 そしてそんな日々を送る中、気が付いたことがもうひとつだけあった。

 それは、注意しなければ分からないほど小さくて希薄なものだったけど、少しずつ、だけど確実にそれは大きくなっていった。

 それは他のひとが持ち得ない、他の人とは異なった能力チカラ。日常生活を送る上では、たぶん役には立たないけれど、きっといつかは使うことになるであろう能力。

 

 今思ってみると、それは大切なひとを守るために神様が下さったんだろうか。

 

 神様?

 

 全く確証はないのに、自分の言葉に少しだけ引っ掛かりを覚えた。たぶんその言葉は誤り、本当はもっと小さくて、悲しくて、でも強い…

 よく分からないけれど、少なくとも、今その時は来てしまった。

 

 だから、使うよ? この力を…

 

 大切な友達を守るために、

 

 大切なことを気が付かせてくれたあいつを守るために。

 

 

 

 

 

 あたしはそう言って折原の前に出た。

 別に何かの考えがあってこうしたわけじゃない。折原が撃たれる、そう思った瞬間にあたしは自らの足で踏み出していた。

 どこかで見たことがあるような気がしないでもないその黒服のテロリストは突然割って入ったあたしに目を向けた。

 すごく、嫌な目だと思った。今までにも少なからずこういう目をした人を見たことはあるけれど、その誰もがロクでもないやつだった。

 そのテロリストは唇をにぃっと吊り上げて、

「な、七瀬ぇ!」

 真後ろで折原の上げた声があたしの耳に届いたすこし後に、

 

 あたしに向けて発砲した。

 

 

 

 

 

 この学校に乗り込むと決めたときから、始めていた【制御アシスト】はすでに完了している。

 あたしは、あたしに向かって飛んでくる弾丸にさえ、勝るスピードで右手を振るって、人差し指と中指の間にそれを挟みこんだ。

 同時に指と弾丸とが接触しているその位置に【増幅ブースト】を作用させる。

 その結果、弾丸の速度は、二本の指に挟み込まれることによって発生した、弾丸の進行方向とは逆の摩擦力が増幅され、その結果生み出された強力な加速度によって速度は打ち消され、

 

 ぽとりと、

 弾丸は指の間から零れ落ちて、あたしの手の平に納まった。

 

「なっ…」

 

 誰かの驚愕の声。そんなものは耳にも留めず、あたしは踏みこんで、右足を跳ね上げる。

 次は【増幅ブースト】を使うまでもない。【制御アシスト】によって威力を高められたあたしの蹴足は、テロリストの持つ銃を蹴り上げ、天井に叩きつけた。

 銃は天井にぶつかり、派手な音を立てて使いものにならなくなった。

 あたしはテロリストの胸倉をつかんで、続きを言う。

「テロリストの気持ちなんて、分かりたくもないわ」

 テロリストは手足を空中でばたばたさせ、「はひ…」と声を挙げた。

「それに、あんたが何を考えていても、あたしは全く興味が無いのよ。あたしが今知りたいのはただひとつだけ」

 胸倉をつかむ手の力を込める。

「答えなさい。瑞佳は…どこ?」

「ぐ、ごぼ、お、下ろし…」

 更に力を込める。

「………」

 テロリストは黙ってしまった。なかなかに強情なやつだ。

「………」

 あれ? ひょっとしてこのひと…落ちた?

 やばっ、

「お、折原、ごめん。気絶させちゃった」

 呆然としていた折原ははっとして、あたしの方を向いて、溜息をついて、何やらおなかの辺りをさすってから言った。

「気にするな、それよりも」

 続いてテロリストの方を見て、

「そろそろ下ろしてやれ」

 微妙に呆れ口調で呟いた。

「あっ」

 気が付いてテロリストの方を向くと、そいつは顔を真紫に染めてぐったりしていた。

 まだ人殺しにはなりたくないので手を放す。

 テロリストは地面にどさりと落ちて沈黙した。

「南、哀れなやつ…。にしても七瀬、お前は何者だ? いくらなんでも銃弾を素手で掴むなんて反則だぞ」

 反則だとかそういう問題じゃないような気もしたけど気にしないでおく。

「あたしは普通の女子高生よ。乙女志望の」

「乙女志望とひとに公言できる段階で十分普通じゃないとは思うが…。で? 一体どんなトリックを使ったんだ?」

 この場合、トリックと言う言葉はあまり的確ではないと思う。

「あー、あたしね。ここに転校してから、変な能力が使えるようになってね」

 変な能力、の辺りに川名先輩がぴくっと反応した、ような気がした。

「別に大した事じゃないんだけどね。ちょーっと力が強くなるだけだし」

 さっきから手の中でもてあそんでいた弾を地面にひょいと放る。

「ちょっとという問題か…?」

 微妙に変形していて、から、からと転がっていく弾と凹んだ机を交互に見比べながら折原は言った。

「まぁ、そんなことはいいじゃない。それよりも、これからどうするの?」

「…南は気絶しちまったしなぁ。不用意にここから出たらハチの巣にされそうだし、とにかく、長森の場所が知りたいんだが、何か手は…」

 考えこむ折原。あたしは元から頭脳労働は苦手なので、考えないでおく。と、茜があっと声を挙げた。

「浩平。あのモニター、使えませんか?」

 モニター。職員室に運び込まれたそれには校内の映像が映っている。進入者を監視するためにテロリストが運び込んだものだ。

「どれどれ? んー、黒服ばっかだな」

 モニターには少なくとも瑞佳の姿は写っていなかった。黒服のテロリストが校内を徘徊する映像が見えるのみ。

「やっぱり、黒服を避けながら地道に探してくしかないのかねぇ、かなり危険だぞ」

 折原は天井を仰いで言った。

 確かに。あたしが少しくらいぶちのめしたとしても、数が数だ。見つかればすぐに囲まれてしまう。

 

「その必要はないよ」

 

 突然の声。そのどこかで聞いたような声に目を向けてみると、

 

 そこにはあたし達の担任教師、茂男先生が立っていた。

 

 

 

 

 ※【増幅ブースト

 七瀬留美の特殊技能。

 術者の体のある点と、何かの物体とが速さをもってぶつかった瞬間にのみ使用可能で、ぶつかった際に力点から生じるベクトルを増幅するという能力。

 増幅幅は術者の任意で決定できる。

 【増幅】と【制御】の発動を常に同時に行わなければならないので、一度の使用に結構体力を消費する。

 

 

 【制御アシスト

 七瀬留美の第二能力。

 【増幅】との併用と、単独での使用の二種類があり、前者は特に意識しなくても発動することができる。

 前者の場合【増幅】の大きさに対応した肉体の強靭さをその発動部分に与えるというもの。これが使わないと、力の反作用によって術者も相手と同等のダメージを受けてしまう。

 後者は、全体的に身体能力を向上させるというもの。反射神経、動体視力、体の強靭さ、など全てが向上するが、使用してから効果を及ぼすまでの時間が長く、その間は継続して使い続けなければならず、効果を及ぼすまでは【増幅】も使えない。

 

 

 

  


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