Panic Party  第三十八回  強襲

 

 

 

「ふぅ、ようやく着いたか…」

 何故か水瀬家の場所を知っていた栞に案内してもらって、ようやく帰ることができそうだった。

 携帯で時間を確認すると時刻は十一時半。もう辺りは見覚えのある風景になってきているので、何とか昼には間に合いそうだ。

 栞と雑談しながら通りを歩く。

「浩平さんは秋子さんのところに厄介になってるんですか?」

「あぁ、まぁ今日からだけどな」

 栞はへぇ、と感心して。

「秋子さんに迷惑をかけちゃ駄目ですよ。凄くいい人なんですから」

 そんなことは言われなくても重々承知している。

「にしても、栞が秋子さんのことを知ってるとはな…」

 意外と言えば意外だった。

「前にお世話になったんですよ。秋子さんというよりも祐一さんに…ですけど」

 そう言って、栞は少し顔を伏せた。

「祐一って、相沢祐一か?」

 栞は意外そうな顔をした。

「祐一さんを知ってるんですか?」

「あぁ、クラスは違ったが同じ学校に通ってたんだよ。今年の始めに転校しちまったけどな」

「…そうだったんですか。あ、見えてきましたよ」

 栞の言う通り、水瀬家が見えてくる。

「わたしもちょっと寄っていきますね。秋子さんに挨拶もしたいですし」

「ああ」

 にしても、結局商店街には行けなかったな。

 まぁ、後でもう一度出かけるか。

 

 

 

 栞は挨拶だけにしておこうと思っていたらしいが、秋子さんに誘われ、結局昼を食べていくことになった。

 住井と柚木はまだ帰っていなくて、長森を始めとするみんなも商店街に出かけたらしく昼食は俺と栞と秋子さん、あと真琴の四人で食べることになった。

 正直、かなり美味かった。由起子さんも料理は相当できる方だが、やはり秋子さんは格が違った。調理師免許を持っている人でもなかなかここまで美味しくは作れまい。

 そんなこんなで楽しく昼は過ぎ、用事があるという栞に便乗して俺は商店街に出かけることにした。栞の用事も商店街の近くにあるらしくて、ついでに案内をしてもらおうと言うつもりだった。

  

「あー、そこのお二人さん。ちょっといいかい?」

 そして、玄関を出たとき、妙な男に話しかけられた。

 紳士服スーツを着ているサラリーマン風の男だ。

 いや、どこが妙と訊かれてもどこもおかしな所はない。

 何かのセールスマンなんだろうと言ってしまえばそれまでなんだが…

「なんですか?」

 栞が訊き返す。

「別に、大した用じゃないんだが、この家に水瀬秋子って人、いるかな?」

「…何の用ですか?」

 栞が答える前に、彼女の前にかぶさって言葉を遮る。

「だから、大した用じゃないんだよ。悪いんだけど通してくれないかな」

「用件を伺います」

 黙って通してやるにはこの男は得体が知れなさ過ぎた。

「まいったな…」

 男は額を押さえて呟いた。

「それじゃあ、秋子さんには僕が来たって事だけ伝えてもらえるかな」

「…それなら構いませんけど、あなたは?」

「ああ、すまない。僕は柳川と言う者だ。別に怪しい者じゃないよ」

 確かに怪しい者じゃない。あくまで外見は。

「それじゃあ、よろしく頼むよ。折原浩平君?」

 男はそのまま去って行った。

 栞が俺の顔を不思議そうに見る。

「浩平さん、あのひとと知り合いなんですか?」

「いや、全く知らん」

 栞はさらに不思議そうにする。

「どうして名前を知ってたんでしょうね?」

 俺は「さぁな」と答えて、歩き出した。

 栞も怪訝そうにしながらも俺の後に続いた。

 

 

 

「それじゃあ浩平さん。また」

 栞は病院に用があるとかで、俺を商店街に案内した後別れることになった。

「あぁ、それじゃあな」

 なんとなしに栞の後姿を見えなくなるまで見送って、

「さて、どうするか」

 呟いてみる。そう言えば取りたてて商店街に用もなかったような気がする。

「ま、いいか」

 適当にぶらぶらと歩くことにしよう。

 歩いていればそのうち長森達にも会うかも知れない。

 そんなことを考えながら歩き始める。

 

 風が吹いた。

 

 夏に吹くにしては少しだけ強く、やけに冷たい風。

 その一陣の風が顔をひゅおっと撫でて、何となく後ろを振り返ったときそれは起こった。

「え……………?」

 まずおかしいと思ったのは音。突然に今まで賑わっていた商店街の音と言う音が全く存在しなくなってしまったのだ。

 まるでこの周囲一帯が無音円錐域コーン・オブ・サイレンスにでもなってしまったような、そんな感じ。

 そして、通りには何時の間にか誰も居なくなっていた。

 そう、文字通り誰も。

 俺を除く人間の姿が一瞬にしてなくなっていた。

「どういう…ことだ」

 まるで、異世界に迷い込んだようなこの風景。

 その世界では人は何らかの原因で滅びていて、残ったのは彼らが築いた建造物のみ、ただ周囲には荒涼とした風が吹きぬける。

 そんな世界を思い描いてしまうほどのひどい、いや酷い風景。

 そして、何よりもこの景色は想像させる。永遠の世界を。

 こんなのはあんまりだった。だから俺は言う。

「何のつもりだ?」

 それは、対象が存在するときにしか言えない台詞だ。そして、対象はいま、確かに存在する。

「気に入らなかったかい? これでも結構苦労したんだけどな」

 その声には聞き覚えがあった。『死んだはずじゃなかったのか?』という無粋な質問はしない。

 彼が死んだのではなく永遠の世界に行ったということ俺しか知らない事実だから。

 そして、思いのほか早く、そいつは帰ってきた、ということらしい。

「久しぶりだね。折原君。元気だったかい?」

 そいつは、氷上シュンは、いつものように、、、、、、、微笑って言った。

 

 

 

  


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