終 章

 

 

 

 瑞佳は走る。走って走って走り続ける。

「浩平! こ…こう…へいっ!」

 呼吸いきもままならず、声がかすれ、酸欠で視界がぼやける。

 それでも瑞佳は浩平の名を叫び続けた。

「こうへ…い…」

 髪の毛も、服も乱れて、それでも必死の形相で走り、叫び続ける女の子を街の人通りは好奇と、そしてわずかな憐憫の目を向ける。

 しかし、瑞佳にとってはそんなのはどうでも良かった。ただただ走り、走り、走る。

 体全体が悲鳴を上げ、足の筋肉が軋みを上げ、少しずつ破壊されていく。

 それでも、走ることを止めない。

 そしてそのまま走り続け、商店街の陽光降り注ぐ道を抜けて、唐突に限界が来た。

「あっ…」

 足がかくん、と折れて、上半身は慣性に逆らえず前のめりに倒れる。

 頭をしたたかに打ち付けて思わず涙目になったが、気にせず立ち上がろうとする。

 しかし、限界まで酷使された足は言うことを聞かず、瑞佳は再び地面にくずおれた。

「こう…へい…」

 涙が出てくる。

「う…ぅ、浩平…」

 否定したかった。こんなのは冗談うそだと。

 いつものような他愛のない冗談だと。

 それでも、理性では解っている。浩平は行ってしまったんだと。

 わたしを置いて行ってしまったんだと。

「こんなの…うそだよ…」

 それでも、否定したかった。

 約束したのに…、約束したのに…どこにも行かないって。約束してくれたのにっ…

 今までだって、ずっと一緒に居てくれてたのにっ!

 でも、今は…

「うそだよ…」

 アスファルトに涙が落ち、そして否定する根拠など何一つとしてないことを悟ったとき、

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!」

 

 昼下がりの商店街に、少女の慟哭が響き渡った。

 そのあまりの悲壮さに通りがかる誰もが、慰める術を知らず、

 彼女はひとりの青年が駆け寄ってくるまでの間、ずっと泣き叫び続けた。

 

 

 

  


感想送信用フォーム> 気軽にどうぞ。
おなまえ    めーる   ほむぺ 
メッセージ
 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送