リリスの一日
「これでよし、っと」
金髪をひとつに束ね、おさげ髪にした少女、リリスが呟いた。
彼女の前には一枚の紙が張ってある。一番上には「今日の予定」と銘打ってあった。
彼女の日課として、朝起きたら一日の予定を立てる、というものがある。
締まりのある生活を送るため、と彼女は考えている。
「じゃあ朝ご飯の支度でもしようかしら」
リリスが台所に向かうと、そこにはいちはやく起きていたトーマスがコップ1杯の水を
飲み干していたところだった。
「おはよう、おじいちゃん。今日は早いのね」
「おお、リリス、おはよう。いや、年寄りになると朝が早くなっての」
トーマスが少し自嘲的に笑う。それにつられてリリスも笑った。
「おじいちゃん、朝ご飯何がいい?」
「そうさのぉ・・・、何かサッパリしたものがいいんじゃが・・・」
「サッパリしたものねぇ・・・貝とハーブのリゾットなんかどうかしら?」
「ほっほ、リリスに任せるわい」
「じゃあそれに決まりね」
リリスは腕まくりをして、台所に立った。
トントントン・・・・・・・・・
心地よい包丁の音が台所の中に響く。さあお米に火を通そうか、と思ったその時、誰かが家のドアをノックしているのに気が付いた。
「リリスちゃ〜ん?いる〜?」
(あの声は・・・・・・!)
リリスはエプロンで手を拭きながら玄関に向かい、扉を開けた。
「やっぱりマギーおばさんだ、おはようございます」
「おはよう、リリスちゃん。」
リリスが目線を下げると、桶の中にいっぱいのトゲトゲ・・・、毬栗が入っていた。
「これは?」
「昨日主人が山で採ってきたんだけどねぇ、うちじゃ食べきれないからおすそわけ」
「ありがとうございます、こんなに沢山♪」
リリスはうれしそうに毬栗をつまんだ。
「・・・やっぱり毬ははずしたほうが良かったかねぇ?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。ホント、ありがとうございます!」
「そうかい?喜んでくれてよかったよ。それじゃあね」
リリスは会釈をした後、桶を抱えて台所に引き返した。
「今日の晩御飯は栗ご飯ね♪」
「完成〜!」
いい香りのするリゾットが食卓に並べられる。彼女の料理の腕前はプロ並であろう。
「お兄ちゃ〜ん!おじいちゃ〜ん!ごはんできたよ〜!って言っても多分・・・」
そこにきたのはトーマスだけであった。
「スタンならまだ寝とるぞい」
「やっぱり・・・・・・」
リリスは二段ベッドの上で寝ているスタンのところへ行き、
「お兄ちゃん!起きて!」
と、大きな声で起こそうとした、が・・・。
「ZZZZZZZ・・・・・・」
スタンは相変わらず眠り続けている。
「全く、もう秋なんだから、そんなにお腹出して寝てたら風邪ひくよ!?」
それでもスタンは起きようとしない。次にリリスがした作戦とは、
「お兄ちゃん・・・、お・き・て・・・」
耳元で出来る限りの色っぽい声を出してみた。しかしそれでも効果は無い。
「もぉ〜!・・・そうだ♪」
リリスは何を思いついたか台所へ向かい、毬栗を一つつまんで持ってきた。
「うふふふふ♪」
リリスはその毬栗で、スタンの腕をチクチク、足をチクチク、首筋をチクチク・・・。
流石のスタンも表情を歪めている。そしてリリスは最後に、30cmほどの高さから、スタンのお腹の上に毬栗を落とした。
「痛てぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
「うふふ♪やっと起きた♪」
リリスは屈託の無い笑顔でスタンを見ている。
「おい!リリス!こりゃあ無いだろ!?いくら・・・」
リリスが言葉を遮るように、近くにあった目覚まし時計をわしづかみし、スタンの前に突き出した。その表情は笑顔のままである。
「何時に見える?」
「し、7時50分・・・」
「私と、起きるって約束した時間は?」
「し、7時・・・」
「何か言うことは?」
「・・・・・・ごめんなさい」
「よろしい」
リリスは胸を張って、答えた。
「じゃあ早く顔を洗って!着替えて!朝ご飯にしましょ!?
折角のリゾットが冷めちゃうじゃない!」
3人が食卓につき、食事を始めたのはそれから5分後のことだった。
スタンは鎧ではなく簡単な作業着を着ている。髪を直す時間が無かったのか、腰まで届く長い髪はぼさぼさである。
「お兄ちゃん、今日はいつも通り羊の世話?」
「ああ、そうだな。そのつもりだけど」
「じゃあ、お弁当はいつものところに持っていけばいいわね?」
「ああ、頼むよ」
食べ終えたスタンは、流しに食器を持っていった。
これをしないで、リリスになんべん怒られたことか・・・。
「じゃあ行ってくるよ」
「ちょっとお兄ちゃん!?髪くらいとかしていったら?」
「いいじゃないか、誰が気にするわけでもないし」
「私が気にするの!」
スタンは「わかったわかった」と言って、部屋に戻っていった。
「わしは散歩でもしてくるかのぉ」
食器を下げつつ、トーマスが言った。
「お昼までには帰ってくるんでしょ?」
食器を洗いながら、リリスはたずねた。
「いや、たまには外食しようかと思うんじゃが。
スタンといっしょに弁当でも食べなさい。たまにはええじゃろ」
「・・・でも、お弁当作るのって私なのよねぇ」
その時、部屋の中からスタンが現れ、玄関へ向かっていった。
「じゃあいってきま〜す」
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
「じゃあ、わしも行くかのぉ」
そう言うと、トーマスも玄関へ向かい、外へ出て行った。
「おじいちゃん!いってらっしゃい!」
リリスが一人となると、心持ち落ち着いた様子で椅子に腰掛けた。
そして、手元の新聞を取り、記事に目を通す。
「なになに・・・?『ノイシュタット闘技場の二強、マイティ・コングマンとミスター・トンガリ頭の対決が久々に実現!今からチケットはプレミアがつき、ダフ屋まで横行する始末・・・!』・・・ミスター・トンガリ頭って変な名前ねぇ」
「あんたの兄貴だよ」と言うツッコミは置いといて、リリスは掃除を始めた。
台所、居間、と掃除を終え、自分たちの部屋を掃除する。
「お兄ちゃんの剣って結構幅取るのよね。こんなに何本も必要な物なのかしら・・・?」
そこには何本もの剣が立てかけられていた。柄のあたりがボロボロのものもある。
「こんなボロボロの剣で何を・・・・・・!」
リリスが何気なく剣を抜くと、そこには隅々まで手入れされた綺麗な刀身が現れた。
毎日丹念に手入れしなければ、ここまで綺麗にはならない。
「お兄ちゃん・・・、やっぱり又旅に出たいのかな・・・・・・・・・?」
リリスの胸に寂しさが去来する。「家族3人で仲良く暮らしたい」それがリリスの唯一の望みであった。
どことなく沈んだ中、お弁当を作り始めた。兄と一緒に食べるため2人分である。
水筒にお茶を詰め、いつもスタンがいる場所へ向かった。
羊たちが密集している。その背中の上には金髪の背の高い青年が寝そべっていた。
「お兄ちゃ〜ん!!」
その声に驚いたのか、羊たちはあたりに散らばった。
当然、その上で寝ていたスタンは地面に落下することとなる。
「あらら・・・お兄ちゃん、大丈夫?」
「あ・・・ああ、多分」
まだ寝ぼけているのか、何故落ちたかについてはわかっていないようだ。
「はい、お弁当!」
「おっ!サンキュー!」
スタンは包みを開けようとするが、リリスは依然とそこに立っていた。
「ん?どうしたんだ?帰らないのか?」
「えへへ〜〜」
リリスは後ろに隠していた包みを出した。
「今日は私もここでお弁当だよ♪」
「ふ〜ん・・・・・・・・・」
二人は仲良く並んで、お弁当を食べ始めた。中身はサンドイッチで、それぞれ卵とトマト、ハムが挟まっている。
「なぁ、リリス・・・・・・」
「ん?なぁに?」
「サンドイッチなら、バスケットに入れたほうが良かったんじゃないか?
わざわざ二つの箱に分けなくても」
「あっ・・・・・・・・・・・・(汗)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「きょ、今日は天気がいいねぇ?」
「ちょっと曇ってるけどな」
「うぅ・・・、お兄ちゃんのイジワル・・・。いいもん、私は一人で強く生きてくもん」
「おいおい、子供じゃないんだからスネるなよ」
「どうせ私は子供ですよ〜だ!もういい!帰る!」
そういうと、リリスは自分の包みを持って足早に帰っていった。
「・・・怒らせちゃったかな?」
スタンは頭を掻きながら妹の後姿を目で追っていた。
「あとで謝ろう・・・・・・ 」
「おいスカタン!可愛いリリスちゃんと二人でお弁当か?」
突然皮肉ったらしく話し掛けてきたこの青年は、名をバッカスと言う。
スタンとは、会うたびに文句の言い合いになる、いわゆる悪友である。
「うるさいなぁ、バカッス。ちょっとあっちいっててくれよ」
「俺はバッカスだって何べんもいってるだろ!」
「俺だってスカタンなんて名前じゃない!」
と、まあいつもこんな風に喧嘩が始まるのである。
これは本編とは何の関係も無いので割愛させていただこう。
「はぁ〜あ、折角剣のこと聞こうと思ったのに・・・」
リリスはうなだれてベッドに顔を沈める。
「あ、そうだ、今朝干したお布団取り込まなきゃ」
いつ干したかというと、朝起きたら真っ先に布団を干すのが彼女の日課でもある。
「あ、シーツも替えなきゃ。お兄ちゃんのは特にね!」
スタンの布団は、彼が一番最後に起きるため、リリスも干してる暇が無い。
リリスが2段ベッドの上によじ登ると、そこには、
「あら?ポテちゃんとグルメ・・・・・・」
そこにはウサギのポテちゃんとブルードラゴンのグルメが仲良くお昼寝中だった。
2匹とも、寄り添い静かな寝息を立てている。
「ふふっ、起こすのも可哀想だからそっとしとこう・・・・・・」
時刻は3時を過ぎた。エルロン家の家事全般を取り仕切る彼女の、遅い自由時間である。
リリスはハーブティーをいれ、自分で焼いたクッキーをテーブルの上に出す。
戸棚から雑誌を取り出し読みふける。雑誌のタイトルは、
「週刊格闘技」
・・・・・・彼女の強さの秘密はこのあたりにあるのか?
「『コングマンはもう古い!今最も強いのは“ミスター・トンガリ頭”だ!彼は剣士だが、
格闘の技術にも優れ・・・・・・』だから、ミスター・トンガリ頭って誰よ!?」
だからあんたの兄貴だって・・・というベタなツッコミは、またしても置いておこう。
そんな時間はあっという間に過ぎ、夕飯の支度をする時間となる。
「栗ごっはん〜、栗ごっはん〜♪」
鼻歌交じりに栗の皮を剥きはじめる。・・・これって重労働なんです。いやマジで。
そんな重労働を事もなげにやり終えた後、おかずを作り出す。
流石に栗ご飯だけじゃ夕飯になりませんからね。
そんなこんなで遂に夕飯が出来上がった。後は食べるだけなのだが・・・・・・。
「遅いなぁ、お兄ちゃん・・・・・・」
トーマスはご飯が出来上がる頃合を見計らって帰ってきたが、
スタンは依然と姿を見せない。
「どうしたのかなぁ・・・・・・・・・・・・」
「何、心配せずともすぐ帰ってくるじゃろ」
その予想は大当たりであった。
その言葉を発した次の瞬間、扉が勢いよく開いてスタンが姿を表したのだった。
「遅〜い!!」
「はぁ、はぁ、ごめん・・・・・・」
「? なんで息切らしてるの?」
リリスの指摘どおり、スタンは肩で息をするほどに呼吸が荒かった。
「リリス、これプレゼントだ」
スタンはひとつの包みを取り出した。綺麗にラッピングされた、小さな箱である。
「あれ?今日なんか特別な日だったっけ?誕生日でもないし、クリスマスでも無いし・・・」
「いや・・・さっきさ、その・・・怒ってたろ?だからその・・・・・・お詫びってことで」
「やだ、お兄ちゃん、そんなの気にしてないのに・・・」
「ん?そうか?じゃあこれは要らないか」
スタンはいたずらっぽく笑いながら、また自分のサックに収めようとした。
「いる!いるってば!もぉ〜、お兄ちゃんのイジワル!」
リリスはまたしてもむくれている。
こういった所が、プレイヤーにも17歳と思われない要因だろうか?
「・・・開けていい?」
「どうぞ」
リリスがゆっくりと包みを広げる。そこには箱に入った、ひとつのリボンがあった。
「綺麗・・・・・・」
「いや、ノイシュタットの港にさ、カルバレイスの行商人が来てて。
綺麗な布地があったから、それでリボンでも、と思ったんだよ」
「お兄ちゃん大好き!!」
リリスはいきなりスタンに抱きついた。
しかし、彼女の胸からいつもこの不安が離れない。
(また、いつか旅に出ちゃうのかな・・・・・・?)
彼女は知らない。巷で噂の剣豪“ミスター・トンガリ頭”が兄で、
コングマンとの対決の為に剣の手入れをしていることを。
そして、彼女の望む平穏は暫く破られることはない。そう・・・暫くは。
Fin
作者後記
どもどもこんにちは、ツルにんです。
こんなほのぼの系は初めて書きました。いやぁ、勝手が違いますね。
まあ、文句・苦情等、いろいろあるとは思いますが、どうか多めに見てやってください。
それにしても・・・最近Dから離れてたから、口調がかなり違うかも。違ったらすいません。
でも、出来る限り記憶を探ったんで、どうかこの私に御慈非を・・・!!
そういえば、リリスは今回スパークしませんでしたね。電撃娘なのに・・・。
スタンを起こすとき、「雷神拳!」ってのも考えましたけど、
その展開はどっかで見たことあるし(笑)
まあ本来戦闘キャラじゃないですし、あくまでバグですからねぇ・・・・・・。
Pでは普通に格闘してましたが。マニアリリス強すぎ〜〜〜!!
それでは小説この辺でお開き。また次回のお楽しみ♪ありがとうございましたぁ〜!
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