魔刃剣聞録 〜序幕〜

 

 

刀はいい。

刃の煌めき、柄に施された装飾、丹誠込めて作り上げられたと思われる鍔、そして…。

でも、稀にとても醜い刀とも出会うことがある。刃は乱雑、柄ひもは千切れ、油で刀身が曇っている。

思わず叩き折ろうとする衝動に駆られる程だが、ここで折ってしまっては面白くない。

その醜悪なものの中から光るものを見つけだして、再利用してやるのが人の常だろ?

刀は人間そのものだ。

どんな醜い人間でも、美点の一つは必ずある、そういうことだ。

どんな美しい刀でも、なまくらでは意味がない、そういうことだ。

兎に角、俺は刀が好きだ。

バテレンの言葉では「まにあ」とか「ふぇち」とか言うらしいが、俺にはよくわからない。

俺の名は「山祇 蕉刹やまつみ しょうせつ」、調伏師だ。

調伏師って言うのは、人様に害を成す魑魅魍魎どもを懲らしめる仕事だ。

コイツらは怨念の塊でな、慟哭・怨嗟・悔恨・憤怒などが渦巻くトコロに現れるワケだ。

不思議とそういったトコロは金持ちの家が多くてな、俺みたいな腕利きに依頼が来るって言うワケさ。

んでもって、魑魅魍魎どもが人様に害を働こうとするなら、それに見合った媒介が必要なんだ。

そう! ここで刀が出てくるってワケだ。そもそも相手を殺す道具だし、連中がとり憑くには絶好のモノだよな。

そして連中を調伏したあとに、仕上げだってカコつけて、刀をチョロまかすって寸法さ。

報酬は前金だから問題はない。魑魅魍魎がとり憑く刀ってのは名剣が多いのが嬉しいねぇ、全く。

「キシャーーーーーーッ!!」

おっと、今も仕事中だったんだよな。今回は結構手強い。

この蛇みたいな妖怪、なかなかの力を持ってやがる。うかうかしてられないな。

「せ…先生、お願いします……」

依頼主のジジイがガタガタ震えながらいいやがる。当たり前だ、俺はそのためにいるんだからな。

「………下がってろ」

ジジイがウザかった俺は一言言い放った。俺は表向きは「寡黙な凄腕の侍」らしい。

俺は余計なことは喋らないタチだしな、刀以外のことは。そう取られても仕方のないことだろう。

でも、知らない間に俺の絵姿が出回ってるってのはどういう了見だ?

町を歩くごとに女共がチラチラこっちを見やがる。不愉快極まりない。肖像費を寄こせってんだ。

「せ、先生!」

チッ、五月蠅い。こうして俺が牽制してやってるから、まだ喰われてないっていうのに…。

屋敷の中だから、あまり大きな動きは出来ない。だから、力も充分に発揮出来ない。

早く出て行け! そうしないと刀をチョロまか…もとい、本気を出せないじゃねぇか!

「シャーーーーーッ!!」

クソッ、きやがった! 俺は身を翻してジジイの前に出てかばう。一応依頼人だしな。

ガキンッ!

ヤツの牙と、俺の愛刀「虎徹」がぶつかり合う。

クソッ、やっぱり力負けするか…。

「……ここに居ては命の補償は出来ない。早く出ていけ…」

「そっ、それが、腰が抜けて…」

…とことん使えないジジイだ。仕方ない、少々荒っぽい手段だが…。

「……目を瞑っていろ」

ジジイは素直に目を瞑った。よしよし、じっとしてろよ。

俺は渾身の力で斬り上げるような形でヤツを薙ぎ払い、その隙にジジイの乗った畳の縁に手をかける。

そして一気に持ち上げたあと、そのまま外へ蹴り飛ばした! …ざまあみろ、クソジジイ。

「キシャーーーーーーッ!!」

おっと、またきやがった。今度はジジイはいないしな、普通に避ける。

そして避けざまに刃をヤツの牙からすり抜けさし、胴体をまっぷたつにしてやった!

大蛇の開きだ。全然美味そうじゃねぇけどな。

でも相手は妖怪、もちろんコレくらいじゃ死ぬ訳がねぇ。トドメが必要なワケさ。

そこで俺は懐から符を取り出す。五行の調伏理論を知らない奴でも、弱った相手に貼るだけで

勝手に調伏してくれる、便利なシロモノさ。ほい、ペタっとな。

「ーーーーーーーーーーーーッ!!」

おぉ、おぉ、苦しんでやがる。しかしなかなか滅しないな。やはり上級の妖怪だったか。

そういうときはもう一枚、ペタっとな。

おっ!? ヤツの身体が崩れてきやがった。効いてる効いてる、楽しいねぇ。

…さて、そろそろ刀を拝める時がきたな。あんだけの大妖なら、その媒介の刀も凄かろう。

…………

…………

…………

…………

おい…、これは…。

西洋の剣じゃねぇか!!

ふざけるんじゃねぇ! あのクソジジイ、どこか「素晴らしい刀」だ!

野郎、刻んですりつぶしてブタのエサにしてくれる!

手始めにこんな剣ぶち折ってやる!

バキッ!

「はぁ、はぁ、はぁ…」

あ〜、むかつく。ツマんねぇ仕事引き受けちまったぜ…。

ゾクッ…

「!?」

突如、俺の背中に悪寒が走る。この気配は人外の者だ。ヤツめ、調伏しきれなかったか?

…いや、さっきまでのヤツとは気配がまるで違う。更に格が上だ。

『長かった…』

俺のぶち折った剣が言った。いや、剣から現れた妖怪が言葉を発したんだ。

人語を解する妖怪はかなり格が上だと聞いたことがある。と言うことは…、だ…。

『あまりにも長い間…、待ち続けた……』

ソレは男だった。輪郭がだんだんハッキリしてきて、ついには人の形をとりやがった。

ソイツは恐ろしくキレイな顔立ちをしていて、俺は思わずみとれそうになった。

……言っておくが、俺にそのヶは無い。

『今度こそ…、今度こそは負けぬ! そうだ! 貴奴が我らに勝てたのは雷霆を持っていたからにすぎぬ!』

…何を言ってやがる。俺は無視か? …段々むかついてきたぞ。

『笑うがいい、嘲るがいい! 貴様らが侮れば侮るほど、我々の勝利は近…』

ゲシッ

俺は思わず蹴った。ああ蹴ったさ。人が機嫌の悪いときに出てきて勝手にベラベラ喋りやがって。

おお、なんだ? そのツラは? 文句でもあるってのか? ああん?

『貴様…、何者だ?』

「…それはこっちの台詞だ」

全くそのとうりだ、と自分に賛同しつつ、奴を睨み返す。

『…人間などに名乗る名前は持ち合わせていない』

プッツン

…本当にキレた時ってのは本当に音が聞こえるもんだな、自分でもビックリだぜ。

更に気付いた時には刀を奴の喉元に突きつけてたからな、自分でもオドロキだぜ。

『これは一体なんの真似だ?』

「わかんねぇのか? 胴と首がオサラバして、そのあと犬に喰わされたいのか?」

おっと、ちょっとだけ地が出ちまった。実際に言葉に出すと、俺の台詞って怖いねぇ。

…何黙ってるんだよ。気持ち悪ぃな、コイツ。

『良い剣だな』

…お? 今なんて言った? “良い剣”?

「…わ、わかるのか? この良さが!?」

『ああ、刃から鍔もとにかけての曲線と、使い込まれているにも関わらずあまり曇ってないのが良い』

…コイツの言っていることは的を得ている。素晴らしい観察眼だ!

「長かった…」

『おい……』

「あまりにも長い間…、待ち続けた……」

『…私の真似か?』

「俺の人生24年間…、一度もこういった奴には巡り会わなかった…。それが今日…」

俺の……頬に暖かいものが伝ったよ。それくらい嬉しかったんだ。

俺の周りには「収集家」はいても「専門家」がいなかった。

巷で腕のいい刀職人って奴に会っても、この俺の「虎徹」を“駄作”と言いやがった!

確かにこの「虎徹」は切れ味は悪い。でも、その独特の反りによって生み出される柔軟性と耐久性は

通常の刀とは比べものにならないのだ! 調伏師なんてやってると普通の刀じゃ何本あっても足りゃしねぇ!

何度「虎徹」に命を救われてきたか…。コレは俺の一番のお気に入りであり、俺の人生そのものだ!

『と、兎に角! 私はもう一度、貴奴と戦わなければならぬ! さらばだ! 愚昧なる人の子…』

「気に入った! 俺らいいダチになれそうだ!」

もう心は天にも昇るような勢いだ! 初めて「他の奴と語り合いたい!」って思った!

だから、思わずコイツの腕を掴んで引っ張ったんだ。そしたら、

『くっ!? 何をする!?』

そういっていきなり妖術で吹っ飛ばそうとしやがった。俺はとっさに懐から符を出した。

さっきのとは違う、自分の身を守るための防御用の符だ。

しかしコイツの術は強力で、その符すらも突き破って俺に襲いかかってきた。

俺は部屋の外に吹っ飛ばされた。符が威力を抑えたお陰でなんとか受け身がとれた。

見れば、さっきのジジイが居る。

俺に蹴り倒されたまま、気絶したみたいだな、本当にいい気味だぜ。

符のお陰で俺はかすり傷しか負わなかった。庭石にぶつかってれば骨折は否めなかったろうに、俺は運がいい。

? なんだアイツ? 鳩が豆鉄砲喰らったような顔しやがって。

『まさか…、これほどまでに力が落ちていようとは……』

…ああさいですか。今のは本当の実力じゃないと仰りたいワケで、へいへい。

『おい、そこの人間』

「…俺には山祇蕉刹ってれっきとした名前がある」

『ならば蕉刹よ』

なんだよ一体…。刀については語り合いたいけど、殺されるようなことはまっぴら御免だぜ。

『私は休養する必要がある。故にそなたの身体、借り受けるぞ』

…何を言ってやがる? “身体を借りる”だと?

『じっとしていろ…』

どんどん近づく奴の顔…ってヤメロ! 俺にそのヶは無ぇっつってんだろ!

男と接吻なんて嫌だ! 死んでも嫌だ! でも身体が動かねぇ! 畜生!

「っーーーーーー……」

ん? 感触が無ぇ。俺はおそるおそる目を開ける。

「…誰もいねぇ」

なんだ? 俺は白昼夢でも見たってのか? だとしたら気持ち悪ぃな…。

『ははは、白昼夢とは面白い事を考えるな』

…奴の声だ。クソッ、どこに隠れてやがる!?

『私は隠れてなどいないさ』

はぁ…、今日は全くついてねぇ…。早いトコ宿に戻って1杯引っかけたいぜ…。

『お前は肝臓が弱っているみたいだな。酒は控えたほうがよいぞ?』

あ〜、小姑みたいにグダグダうるせぇ奴だな! 俺の勝手だ!

『小姑のようとは…、心外だな』

ん…? さっきから俺の考えてる事を…。……ま、ましゃか、

『そう、そのましゃかだ。私はお前の中にいる』

……………………

『どうした?』

笑えねぇ……、笑えねぇよ、全く…………。

調伏師がとり憑かれたなんて…おマンマ食いさげだぜ。

『そうか、でも私が回復するまでここに居させてもらうぞ?』

へっ…、一体いつになるんだか……。

『そうだな…、軽く50年くらいか』

「ごっ、50年!?」

『どうした? 50年などあっという間であろう?』

…ダメだ、時間感覚がまるで違う。俺は一生コイツに憑かれて生活するのか…。

『そういえば私はまだ名乗っていなかったな』

…てめぇが突っぱねたんだろうが。

『まあそう言うな。私は“ルシファー”。同胞からは「大帝サルタン」と呼ばれている』

「るしは? 猿胆?」

『違う! ルシファーだ!』

…んなもんどっちでもいい。

『なんだと!?』

「もう面倒くさいから、お前は“るし”な」

『なっ!? ………………この私が…人間などに愛称で呼ばれるとは……』

へっ、いい気味だ。ざまあみろ、この時代錯誤のイカレポンチが。

『…それは私に聞こえるとわかっていてやっているのか?』

当たり前だ。 ………………ん? これは…ひょっとして……、

「俺の考えてること、全部わかるのか?」

『私が覗こうとすればな。 蕉刹、お前にプライバシーはないぞ?』

……なんてこった! 俺のあんなことやそんなことまでコイツに筒抜けなのかよ……!!

『ほぅほぅなるほど。お前は過去に肥溜「だーーーーっ! やめろーーーーっ!!」

『ハハハハハ、面白い奴だな』

俺は全然面白くない……。あのときの事だけは……思い出したくない……。

『何はともあれ、これから50年間共に過ごすわけだ。互いに親睦を深めて損はあるまい?』

「ハァ……」

俺は溜息を一つ、全く、四六時中こんな奴と一緒なんて、頭がイタイ。

本当に俺はツイてない。…………いや、憑いてるのか。

『くだらんな』

「うっさい!」

 

閉幕

 

 

 

 

作者後記

は〜、全くくだらん物語ナリ。

時代背景:桃山から江戸にかけてと思いねぇ。

山祇蕉刹:別に「小説が山積み」なワケじゃないけどね(笑)

ジジイ:蕉刹に依頼をしたヒト。この時代なら、あの剣はご禁制の品なんだろうなぁ。

ルシファー:詰まるトコロの悪魔王サタン。なんで剣の中にいたかはまだ謎。ふしぎふしぎ…。

蛇の妖怪:剣の守護者。実はイイモノだって事は、剣の中身がルシファーって時点でわかるかな?

調伏師:お掃除屋さん。宮中のお抱えから、悪徳業者までピンキリ居る。蕉刹はフリーの調伏師。

ふ…、またつまらんモノを書いてしまった……(何

どうも、ツルにん初のオリジナル小説です。

「序幕」だから多分続きがあるんでしょうなぁ。誰が書くんだ?(オマエだ

もっとキレイに書きたいんですけどねぇ…、どうも私の前には「文才」って言う壁が立ちはだかっているような…。

最近納得のいくものが書けないんですよねぇ…。ウデが落ちたのか…それとも私も目が肥えたのか…。

まあ、自分の作品に満足したらそれで終わりって言いますからねぇ、気長に頑張りましょ!

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