人生最大の危機!? (前編)

 

「なぁ名雪…」

 朝の清々しい空気。今は冬でかなり寒いが、清々しいことに変わりは無い。そんな中、流れる景色を眺めながら声をかけた。

「もう少し…早く…起きれないか…?」

 景色が流れているのは、乗り物に乗っている訳でも、歩いている訳でもなかったりする…。走ってんだよな…(泣)

「がんばるよ」

 返ってきた答えは、そりゃもう何というか…気楽なような口調で、決して焦っているとも思えない。このあたりは秋子さんそのものだ。

 たった今走っている理由は簡単。『遅刻しそう』なんだよ。相変わらず朝弱いんだよな、名雪は…。

「よし、このまま行けば…」

 学校が視界に入り、希望が見えたところに魔の響きが…。

キーンコーンカーンコーン……

「予鈴だよっ!」

「くっ、うぉぉぉおおおおぉおお!!!」

 神速と言えるほどの速さで走る。世界新なんて目じゃないぜ…。

 昇降口までなだれ込むと同時に電光石火で靴を履き替え、またもや猛然とダッシュ! 最終コーナーを周って、今…。

「ゴールっ!!!」

 教室に飛び込むと同時に言い放つ。クラスの数人がこちらに不信な目を向けたが…気にしないでおくことにした。

「間に合ったね。祐一」

「な、なんとかな…」

 ヤ、ヤバイ…。呼吸が…整わない…。身体の各箇所がレッドランプを示しているに違いない。

「おはよ名雪、相沢くん」

「おはよう香里」

 く…。なんで名雪は疲れてないんだ…。 陸上部ってだけじゃないぞコレは…。

「今日は随分とお疲れね」

「そう思うなら…変わってくれ…」

「イヤよ」

 即答ですか…。

「そんな事より、席つかないと先生くるわよ?」

「あぁ…」

 覇気のない声で答えた。とにかく休みたい。

>>SHR後

「おい相沢、今日はどうしたんだ?」

 みなまで聞くな親友…。

「いつものことだ、気にするな」

「でもお前…。確実に衰弱してるぞ…」

「……マジか?」

「あぁ」

 俺は死ぬのか…? 偉大なる野望も果たせずに朽ち果てるのか…?

「なによ、野望って?」

 ……人の心が読めるのか…?

「読めるも何も、自分で喋ってるんでしょ」

「…はい?」

 く、口に出てたとは何たる不覚…。

「それで? 野望って何なの?」

 あくまで聞き出すつもりか。ならばいいだろう。教えてやろう! 我が偉大なる野望を!!

「…生体実験だ」

「生体実験?」

 ふふ…。驚いたか。

「秋子さんのあの"ジャム"を食べさせ、その身体の細胞組織の変化を調べる」

 名雪と香里の表情が変わった。なにかを恐れ、小刻みに震えている。

「相沢くん…」

 何かを決心したのか、香里がゆっくりと立ち上がる。

「世界のためにも…消えてもらうわ…」

「…どうする気だ?」

 気丈にも言葉を返す。

「コンクリートで固めて伊勢湾に沈める」

 目が据わってる…。本気だ。マジで殺られる…。

「すいません、ウソです。冗談です。決してそんなことは致しません」

 意志が弱いな、俺…。

「ジャムってなんのことだ?」

 北川…帰れなくなるぞ…それを聞いたら…。

「知りたいか?」

「あぁ、かなり」

 新たな被害者となるか…。ふ、それも一興だな…。

「今度、家に来いよ。そのときに教えてやるよ」

「ん? 分かった。そうさせてもらう」

「北川くん…」

 名雪が心配そうな表情で声をかける。全てを知っているだけある。これ以上の被害を出したくないのかもしれない…。

「やめておけ名雪。北川は自分の意志で決めたんだ」

「でも…」

「名雪が食うことになるぞ、このままじゃ…」

「北川くん、がんばってね」

 友を売ったな…。

「?? …で、いつ行けばいいんだ?」

 一瞬不信に思ったな北川…。そこで止めておけばいいものを…。

「うむ…、決まり次第に連絡いたす。しばし待たれよ」

「御意」

 なぜか会話がかみ合うな…さすがだ親友…。

「いつまでやってるつもり? もう授業はじまるわよ」

「おっと、そうだったな」

 そう言って会話は終了。長い長い授業の始まりだ。

>>授業中

「今日はどうするかな…」

 そう、ポツリと呟いた。相変わらず部活には所属していない。放課後は自由だ。

「祐一」

 名雪が小声で話し掛けてきた。

「なんだ? 昼は奢らないぞ」

「そうじゃないよ。帰りに商店街行こうよ」

「イヤだ」

「酷いよ祐一…」

 名雪がチョット落ち込む。

「たまには奢ってよ」

「絶対にイヤだ」

「う〜〜〜…」

 多少剥れながら言う。

「いちごサンデー…」

「やっぱりそれか…」

 またか? また財布が空にならなくてはいけないのか?

「はぁ…分かった分かった…」

「……え?」

 驚いたように目を見開く。

「なんだ? いらないんならいいぞ」

「ううん、嬉しいよ。じゃあ帰りに商店街だね」

「あぁ、分かった」

 そう言い終えると、俺はまどろみの中へと落ちていった…。

>>放課後

「祐一っ♪」

 満面の笑みを浮かべ、名雪が寄ってくる。

「どうした名雪?」

「商店街行くよ」

「…誰が?」

「祐一が」

「…誰と?」

「わたしと」

「…どうして?」

「約束したから」

「…誰が?」

「祐一が」

「…誰と?」

「わたしと」

「…どうして?」

「約束したから」

「…誰が?」

「………あなた達…つっこむ人いないの?」

 香里…ジャストタイミング。

「香里に期待してたんだ」

「北川くんじゃなくて?」

「アイツはすでにボケキャラだ」

「そう…」

 納得するか、そこで…。いや、北川は確実につっこみからボケになったということか…。

「それはそうと、商店街行くんじゃなかったの?」

「ん? あ、あぁ…」

「じゃあ行くよ祐一っ!」

 強引に腕を取り、引っ張っていく。つーか待て!

「名雪、部活は?」

「休みだよっ」

 ちっ…。

「名雪、また明日」

「うんっ! 香里、また明日」

 勝手に別れを告げて俺を連れて行くなぁ〜〜!

>>商店街

「さて帰るか」

「まだ来たところだよ〜」

 歩き出したところを名雪が引き止める。帰りたい…。

「いちごサンデー…」

「…一杯だけだからな」

 くだらない話を互いにしながら、いつもの店に入る。

「にしても、本当にイチゴ好きだよな…」

「おいしいよっ」

 そう言う名雪の目の前にはいつも通り、いちごサンデーが置かれていた。

「祐一も食べる?」

「いや、いい」

「おいしいのに…」

 残念といった感じで言うと、また食べ始めた。

(幸せそうに食べるよな…)

 ふっ、と笑みが零れた。

「? どうしたの?」

「幸せそうだな」

「イチゴを食べてると幸せに感じるんだよ」

 冗談じゃなくて本気だな、あの表情だと。本気で幸せそうだし。

「それも人の金だしな」

「うんっ」

 …罪悪感とかないのか? まぁ、いいけどさ。

「ゆっくり食えよ? 時間はあるんだからな」

 って聞いちゃいねぇ…。食うことに必死だよ…。

十数分後…

「おいしかったね♪」

「俺は食ってねぇよ」

 あのあと結局追加注文されて俺の財布はまた軽くなっていた…。

「じゃあ帰るか?」

「うんっ♪ …あれ?」

 何かを見つけたのか、名雪の視線が一点に定まる。

「どうした? なんかあんのか?」

「あれ…」

「ん?」

 見るとそこには『お買い得?』と書かれた札を貼られたネコの目覚まし時計があった。つーかなんで疑問形? 聞かれても困るだろが。

「…まさか名雪…」

「買ってくるね♪」

「やっぱりか…」

 ネコで、さらに目覚まし。これ以上に名雪の興味を引く物なんて簡単にあったもんじゃない。

「そういやいくらなんだ? コレ…」

「えっと…300円」

「安すぎだろ…」

「じゃあ買ってくるね♪」

 不思議に思えよ名雪…。300円だぞ? 理由としては、不良品かなんかだろうが。

「買ってきたよ〜♪」

 とき既に遅し。安さに気を取られて不良品を掴まされたな…。

「ちゃんと動くのか?」

「うん! ほら」

カチカチカチ…………

 たしかに…規則正しく時を刻んでいる。

「??」

 なんで300円なんだ?

「まぁいいや。帰るか名雪」

「うんっ」

 ネコの目覚ましを大事に抱えた名雪とともに家へと向かった。

 これから起こる事態に気付くことなく……。

 

あとがき

 初めてのKanon小説。書いててネタが尽きない。もう、いっくらでも書く自信あるよ! ってことで今回はここで一旦止めようと。

 一応前編ってことになるかな、コレ。北川はどうなるのか…それは誰にもわかりません。鍵は秋子さんが握っているでしょうが。

 タイトルの『人生最大の危機!?』はほとんど後編です。やっぱ楽しみは後に取っておかないと、ねぇ?

 さて、名雪の身になにが起きるのか? 北川の運命は!? って感じの後編をお楽しみに〜♪

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