人生最大の危機!?(中編)
>>水瀬家食卓
「名雪・・・」
半ば呆れながら声をかける。
「いい加減、その目覚ましを放せ」
商店街から帰ってきてから、と言うより買ってから一度も手放していない気がする。
「♪♪♪」
聞いちゃいねぇ・・・聞いちゃいねぇよ・・・。
「秋子さん・・・どうします?」
名雪をどうにかしてくれ・・・。
「そうですね・・・」
言って考えるような素振りを見せる、が・・・笑顔だよ。絶対に深く考えてない。
「あの・・・秋子さん・・・?」
「なんですか、祐一さん?」
・・・無駄か。
「いえ、なんでもないです」
う〜ん・・・秋子さんでダメなら・・・。
「真琴」
家に住み着いた(居候か)真琴に声をかける。理由は・・・言うまでもないか。
「なによぅ」
口に運ぼうとしていた肉まんを一旦離し、言葉を返してくる。・・・食い物を抑えることが出来るようになったか。よかったよかった。
「名雪をどうにかしてくれ」
「名雪を?」
「そう、名雪を」
「なんで?」
「いい加減、鬱陶しいから」
「自分でやりなさいよぅっ!」
「自分でやって無理だから言ってるんだよ!」
「なによぅ!」
「なんだよ!」
「ふううううううう!!」
「がるるるるるるる!!」
もはや野獣の喧嘩と化した二人をよそに、名雪と秋子さんは至ってマイペース。脳波ひとつ、微塵も乱れていない。ある意味超人だ。
「名雪・・・頼むからいい加減離せ」
「♪♪♪♪」
・・・いい加減むかついてきた。最終手段にでるか?でもコレは精神にショックを・・・・。
「名雪・・・」
「ねこ〜ねこ〜・・・」
・・・・・・ふっ・・・そうか、分かったよ。そんなにも精神ダメージを受けたいなら与えてやる!とくと味わえぇ!!
「名雪・・・」
意気込みとは違い、耳元でボソッと呟く。
「いい加減にしないと、秋子さんの例のジャム食わせるぞ・・・」
最終手段発動。
「!!!!」
ビクッと体を一瞬痙攣させると、脱兎のごとく走り去る。
ドタドタドタ、という急いで階段を上るような音が響く。バタッ!あ、こけた。
>>約1分後
「痛いよ・・・酷いよ祐一・・・」
泣きそうな顔をしながらも夕食を食べる名雪。
「痛いのは俺のせいじゃないだろ・・・」
勝手に名雪がこけただけだ。俺は何もしてない。俺は悪くない。・・・・多分。
「その前に言ったことだよ・・・」
「お前がすぐに反応しないからだ」
ハッキリと言ってやる。何度も言うが、俺は悪くない。・・・・多分。
「何を言ったのですか?祐一さん」
変わらぬ微笑みを浮かべた秋子さんが訊いてくる。
・・・当然だが、言えるわけがない。
「別にたいした事は言ってませんよ」
お願いだから追及しないでください・・・。
「そうですか」
微笑みを崩さずに、ただそれだけ言う。・・・助かった。
「祐一さん・・・」
「は、はい!」
「御代わりまだありますから、たくさん食べてくださいね」
「あ、はい。でも、今日はチョット・・・」
ジャムのコトを考えただけで食欲が失せた。恐るべし謎ジャム。侮りがたし謎ジャム。未知なり謎ジャム。奇怪なり謎ジャム。絶大なり謎ジャム。
「そうですか?」
その瞬間、あの秋子さんの表情が曇った気がした。・・・気のせいかもしれないが。だって今は笑顔。
「あれ?そう言えば真琴は?」
つい1分前くらいまではそこに座って肉まんをかじってたんだが・・・いない。頭隠して尻隠さず・・・ってのもない。ホンキでいない、な。
「真琴なら肉まんを買いに行きましたよ?」
「・・・さっき食べてませんでした?」
「足りないそうです」
そう言って、ふふっと微笑む。この人の怒った所を見たことがない気がする・・・。
「真琴も少しは遠慮しろよな・・・」
誰にも聞こえないくらいの小声で呟いた。秋子さんに苦労ばかりかけたくない。・・・まぁ、苦労とか思ってないだろうが。
とりあえず、ゆっくりと夕食をとり、そそくさと自室に退散した。理由は・・・名雪がうるさかったから。
>>自室
「はぁ・・・」
ベッドに腰掛け、溜息を深々と吐き出す。そりゃまぁ、この――
「財布の中身を見ちゃうとな・・・」
財布。お金を入れ、携帯するための物・・・のはず。だがしかし!
「空だっての」
祐一自身は燃え盛る四輪駆動車に乗ってる気分だった。
「金・・・かね・・・カネ・・・」
何かに取り憑かれたかのように、ポツ、ポツ、と呟く。遠くから見たらかなりヤバイ人に見えるかもしれない。見えるというか、ヤバイ。
「・・・・・・はぁ」
再び溜息。金がない。何に消えた?どうして消えた?・・・・・・あれだろう。
・・・・・・名雪。
アイツだ。アイツのせいだ。俺に奢らせるからだ。イチゴサンデーばかりに消えている。そうだ。名雪が悪い。俺は悪くない。俺に汚点はない。全て名雪が悪い。・・・・・・・・・多分。
「もう・・・奢らない・・・」
そう、名前も知らない、あまり輝いてもいない星に誓った祐一だった。
「そして制裁を・・・!」
誓ったと同時にそんな殺気に似た感情が生まれたのだった・・・。
「くくく・・・見ておれ名雪・・・!この世のものとは思えない最凶の美味を味あわせてやろう・・・!!」
かなり危険な状況になってきている。
それを知るのは祐一。・・・と、もう一名。
「あらあら、危ないですね・・・」
変わらぬ笑顔を浮かべる女性。最高に最凶の母君、水瀬秋子。
「どうしましょうか・・・?」
『祐一の部屋』と書かれたプレートの貼られたドアを前にして考え込む。
「そうですね・・・」
一人、あれやこれやと考えている・・・と思う。
「・・・・・・・なんかドアの向こうに誰かいるような・・・」
急に祐一視点に戻ったりする。
ドアの前・・・気配。誰かいる。名雪か?真琴?・・・秋子さんか?
答えは3番。でも知ってるわけはない。
「誰だ・・・?」
確かめてみるか・・・。
ドアノブに手を掛け・・・一気に開け放つ!
「・・・?」
誰もいない。最初から誰もいなかったかのようだ。
「あれ?気のせいだったか?」
ま、気にしてもしょうがないか。
そう言い聞かせることにした。むやみに詮索すると痛い目・・・で済むかわからないが、とにかく酷い目にあいそうだからやめておく。
「・・・危なかったですね・・・」
またもや秋子さん視点に戻ってみる。
「それにしても祐一さん・・・何を考えているのかしら?」
名雪が危ないわ。どうしましょう?
「・・・本人に聞いてみましょうか」
本人=祐一。いいのか、それで? 「いいんですよ」
コンコン――
「祐一さん?」
ドアをノックして、名前を呼びます。いると思うのですが・・・。
「秋子さん?開いてますよ」
ガチャッ
「おじゃましますね」
「そんな、別に普通に入ってくれてもいいですよ」
「あら?普通じゃありませんでしたか?」
「・・・まぁ、いいですけど」
自覚ないのね、秋子さん・・・。 ココからは祐一視点に戻ってみたりする。
「それで秋子さん、どうしたんですか?」
秋子さんが部屋までわざわざ来るなんて珍しい。二人分のコーヒーとなにかの入ったビン持参で。
「いえ、最近名雪とはどうかと思いまして・・・」
「名雪と?」
「えぇ」
名雪と・・・?名雪・・・。名雪ィ・・・?・・・・・・許すまじ。
「別に普通ですけど?」
ハッキリ言ったら死ぬ。この世界から抹消される。・・・そんな気がする。
「そうですか・・・?」
「どうしたんですか秋子さん?急にそんなこと・・・」
かなり謎だ。
「・・・実はさっき偶々お話しを聞いてしまって・・・」
「話し?」
「はい。祐一さんが一人、誓っていたのを・・・」
・・・・!! 聞かれた!?あのコトを!!?
「あ、秋子さん・・・それは・・・・・・」
誤魔化さなければ、誤魔化さなければ、誤魔化さなければ・・・死ぬ。
新聞には『川底から謎の変死体発見!死因は毒物!!』とか載るんじゃないだろうか?しかも毒物は今までに発見されていない新型のはずだ。犯人もわからず迷宮入りか・・・?
「祐一さん、どうしました?」
・・・はっ!?自分の世界に閉じこもるところだった・・・。危ない危ない・・・って、今が一番危ないんじゃ!!?
「あの話しは冗談ですよ。そんなコトするわけないじゃないですか」
「そんなコト、って何ですか?私は話の内容まで言ってないと思いますけど」
・・・しまった!つい先読みしてしまった!!
「そんなに警戒してるということは、あれは本気だったんですね・・・?」
「そ、その・・・あの・・・えっと・・・。あ、あははーっ。そんなことあるわけないじゃないですかーっ」
「口調が倉田さんになってますよ?」
・・・ヤバし。ヤバイぞ・・・ヤバイぞ・・・どうすんだ・・・・・・?
「・・・それは別として。祐一さん、コーヒーを煎れたのですがどうですか?」
「・・・・・・え?」
「だからコーヒーですよ」
こーひぃ?あ、コーヒー・・・。・・・・・・助かったのか?助かったんだ。助かったはずだ。助かったんならイイなぁ。
「じゃあいただきます」
「そうですか?それじゃあ砂糖を・・・」
ポチャン
ビンの中から固形の立方体の形をした砂糖の固まりを取り出し、それがコーヒーの中に入れられる。・・・すこしオレンジ色をしていたと思うのは気のせいか?
「はい、祐一さん」
「ありがとうございます」
秋子さんから湯気の立つコーヒーを受け取り、そして飲む。
「!!!!!!」
違う。コーヒーじゃない。味が違う。根本から違う。絶対に違う。味音痴な奴が飲んでも異変に気付くはずだ。この味はこのあじはコノアジハ・・・・!!!?
『謎ジャム』
何故だ?普通のコーヒーのはずだ。香りもコーヒーのソレだった。なら・・・!?あれか!?『砂糖』そう砂糖。微妙にオレンジ色の気がしたが、あれは目の錯覚でもなんでもなかったのか!?あれは謎ジャムを固形化したものだったのか!!?
「あ、秋子さん・・・。その砂糖もどきは一体・・・」
「これですか?私用の甘くないジャムを固めてみたものですが・・・合わなかったですか?」
・・・合うかよ。あうとすれば、あの世のじーさん、ばーさんに逢いそうだ。永遠の世界に旅立つぞ。
「それでは祐一さん。私の用事はこれだけですので行きますね?」
「は、はい・・・」
開放されるのね・・・。良かったぁ・・・。
「あ、祐一さん」
「は、はい!?」
な、なんだ今度は!!?
「名雪をいじめたりしないで下さいね」
「・・・・・・はい」
「ふふっ。それでは・・・」
そう言って部屋を出て行く秋子さん。
『名雪をいじめたりしないで下さいね』・・・出来るかよ。秋子さんの恨みを買ったら生きていけない。本気で永遠の世界に・・・。
・・・・・・考えるの止めとこ・・・。これ以上考えたらダメだ。
「はぁ・・・」
今日何度目かの溜息。死期は近いかもしれない。
コンコン・・・
「ん?また秋子さんかな・・・?」
まだ何かあるのか・・・?
「祐一・・・?ちょっとイイ・・・?」
秋子さんじゃないのか。えっと・・・名雪?
「どうした名雪?入ってこいよ」
ガチャ
「祐一・・・」
「ん?一体どうした。まだ名雪が寝てないなんて珍しいな。明日槍でも降るか?」
「う〜。酷いよ祐一・・・」
「冗談だ。それで、用件は何だ?」
このまま路線を脱線し続けて終わりそうだからな・・・。
「えっと・・・あのね・・・」
「なんだよ、早く言えって」
「その・・・今日はゴメンね・・・」
・・・はぁ?
「どうした名雪・・・急に謝って・・・なにか"よからぬコト"でも考えてるのか?」
「酷いよ・・・何も考えてないよ・・・」
あ、落ち込んだ。なんだ?一体・・・。
「・・・で、なんで謝るんだ?」
「その・・・無理に付き合ってもらちゃって・・・その・・・」
「なんだ、そんなことか。イイって、気にしてない」
何のことかと思えば、それだけか。あ〜あ、もっと面白いことかと思ったのに。
「本当?祐一・・・」
「あぁ、本当だって」
「よかったよ〜」
一気に顔がふにゃける。いつもの名雪・・・というより、スリーパーモード。
「・・・名雪」
「なんだお〜」
「そこで寝るなよ」
「わかってるお〜」
すでに最終奥義『だお〜』発動か。こうなったら寝るまで続く。いや、寝ても続く。完全に起きるまで継続的に発動・・・。手がつけられん。
「おやすみだお〜」
『だお〜』か・・・。
「あぁ、おやすみ・・・」
夜の挨拶を普通に交わし、名雪は部屋に戻った。
「・・・さて、明日も学校なわけだし、もう寝るか」
決定したら、即行動に移すべし。というわけで寝る。
ベッドに横になる。するとたちまち睡魔が襲ってきた。頭の中に『だお〜だお〜』という声が響く。・・・眠い。
「だおだお五月蝿いよ・・・」
そう言いながらも、俺はまどろみの中に落ちていった・・・。
明日の朝に起きるであろう事件に気付くはずもなく・・・。―――たんまり出た宿題のことにも気付くことなく・・・。
To Be Continued
‐あとがき‐
どもです。
いやはや、やっと『人生最大の危機!?』の続きですね。
『後編』じゃなくなったのは・・・気にするな。些細なことだ。
今回の内容としては・・・まだ名雪に事件は起きてません。だから人生最大の危機は次です。
そして今回最も危険なモノは・・・『謎ジャム砂糖』ですな。
『謎ジャム砂糖』・・・それは『謎ジャム』を粉状にし、立方体に固めたもの。それだけ。・・・それが危険なんだが。
秋子さん曰く「私の手にかかればそれくらい朝飯前です」とのこと。一体何者なのか、謎は深まる。
さてさて、次回『人生最大の危機!?』一体どうなることやら!!
というより、いつ書くのか!!・・・分かりません。
というわけで、気長にお待ちくださいィ〜。
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