雪降り注ぐ春の街で

 

 

 時は4月。桜は咲き乱れ、暖かな風が頬を撫でる。…そんな季節。

 誰もがうたた寝をしてしまいたくなるような陽光。小鳥たちがさえずり合う。…そんな時期。

 そして、数々の不安と、希望に満ち溢れる。…そんな新年度の始まりの時。

 ――なのに…なのに……

「なんで雪が降ってるんだよっ!!」

 冬眠しているけろぴーが起きてしまうかも知れないほどの大声で俺は叫んでいた。

 ここ、水瀬家。そこのリビングにはふたりの姿があった。俺と、

「う〜…。頭に響くよ…」

 まるで二日酔いでもしているかのような言葉を放っている名雪。

 

 水瀬家は相変わらず平和だった。何も変わらない日々。そう、何も変わらなかった。

「雪もな」

 そう雪。もう一度書こう。今は4月。暦上、というより実質春の季節。この時期に雪は――まず降らない。名雪が目覚ましもなにも使わずに起きても降らないであろうに、それが降っている。

「酷いよ祐一…」

 少し落ち込んでいるようだ。まぁ、名雪のコトはどうでもいい。とにかく、

「なんで雪が降ってるんだ?」

 多少声を引きつらせながら俺。

「し、知らないよ…」

 多少引きながら名雪。

「じゃあ何で――」

「誰かが人為的に起こしているんでしょうか?」

「うわぁ!?」

 まさに不意打ち。急に後ろから掛けられた声に素っ頓狂な声を上げてしまった。

「どうしました?」

 振り返ってみれば穏かな微笑み。ここ水瀬家の当主、名雪の母親である秋子さんが立っていた。

「…い、いえ、急に声を掛けられて驚いただけです」

 気配も感じなかったから余計に、と言いかけたが止めておく。下手すれば地獄へまっしぐらになりそうだから。

「お母さん。誰かが起こしてるかも知れない、って本当?」

 意外に落ち着いて名雪が言う。…落ち着いて、と言っても、まだ少し頭が寝てるのかも知れない。

「普通なら降りませんからね」

「でも、異常気象ってこともあるんじゃ…」

「そうだよお母さん」

「………少し、コレを見てください」

 おもむろにテレビのリモコンを取ると、チャンネルを変える。一瞬画面がブラックアウトした後に現れたのはあるニュース番組の天気予報。

「…コレがどうしたんですか?」

「見てみればわかりますよ」

 秋子さんに言われ、改めて画面を見る。

 

 ―――明日の天気、晴れ。一日、暖かな日であるでしょう。降水確率10%

 

   ………ふむふむ。

 

 ―――明後日の天気、晴れ時々鯛焼。時々、鯛焼が降るかも知れませんが、穏かな一日になるでしょう。降水確率30%

 

   ……………………は!? 何か今、凄いことが書いてあったような…。

 

 ―――明後日の天気、晴れ時々曇り。時々、太陽が隠れるかもしれませんが、穏かな一日になるでしょう。降水確率30%

 

   ……気のせいか?………いや、違う。上の方は確かに『晴れ時々鯛焼』って…。

   …………気にするな。気にするな相沢祐一! こんなところで死にたいのか!? いいやゴメンだ!!

 

「…それで?」

 何も代わり映えのしない(?)週間予報。明日は晴れで、明後日は曇る(鯛焼)かもしれない。それがわかっただけだ。

「祐一さん、今日の天気を見てください」

 秋子さんに言われて、今日の欄に目を向ける。

 

 ―――今日の天気、晴れ。一日、晴天が続くでしょう。花見などをしてみてはいかがでしょうか?降水確率0%

 

「………は?」

「どうです?」

「どうです、って…気象庁は何やってるんですか?思いっきり雪降ってますよ」

「…気象庁に原因はありません。つまり、雪が降っているのはこの街だけだということです」

「………はぃ?」

 えーと、つまりー…

「この街の誰かが雪を降らしている、ってこと?」

「………名雪。なんでお前の方が考えるのが早いんだ?」

 屈辱だ。

「日頃の行いだよっ」

 侮辱だ。

「名雪もあまりイイ行いしてないだろ…」

「祐一よりはマシだと思うよ」

 侮蔑だ。

「なーゆーきぃー?」

「なに、祐一?」

「オレンジ色のジャム食わせてやろうか…?」

 秋子さんに聞こえないくらいの小声で、名雪に耳打ちする。

「!!!!」

 名雪は、ビクッ、と体を震わせると、ぎこちない動きをしながら、

「ね、ねぇ祐一。これからどうするの?」

「どうするって言われてもなぁ…」

 犯人の目星なんかつくわけないし。

「普通の人にはまず出来ないことですから、この街のなかでは数人に絞れると思いますよ」

 と秋子さん。

 この街で、普通の人には出来ないことをやってのける人………いるじゃんか。しかも俺の知り合いばっかり…。

「祐一?」

「……行くぞ名雪」

「え?う、うん」

 すこし不思議そうにしながらも、従ってついてくる。

「行ってらっしゃい、祐一さん」

「はい、それじゃあ行ってきます」

「お母さん、行ってきます」

「行ってらっしゃい、名雪」

 秋子さんに見送られ、俺と名雪は雪の降る春の街へ繰り出した。

 

◆◇◆

 

「いいか名雪。この雪は誰かが人為的に降らしているものだ」

「分かってるよ」

「…まぁ、そんなことはどうでもいい。問題は、誰がこの雪を降らせているか、ということだ」

「そうだね」

 外に出て、目的地も決めずに歩き出した俺と名雪は、とりあえずこの雪のことについて考え出した。

 俺は知っている。この雪を降らせたのが自分の知り合いの中にいるということを。

「そこでだ、今から俺は犯人を突き止めようと思う」

「え? 祐一が??」

 かなり驚いた表情をしている。…そんなに意外か?

「だって祐一、わざわざ面倒なことはしないと思ってたから…」

「心外な。………って! 人の心を読むな!!」

「読めるからしょうがないよっ」

 俺にプライバシーはないのか?

「大丈夫だよっ。意識しないと読めないから」

「…なら読むな」

「癖だからしょうがないよっ」

 ひでぇ。

「………本題に入るぞ」

 

 この事件、雪が人為的に降らされているというモノだが、犯人の可能性があるのは全て俺の知りあいだ。

   

  1、月宮 あゆ … 鯛焼き星人うぐぅ。主食は鯛焼き。口癖は、うぐぅ。食い逃げの常習犯で、××料理人。

  2、美坂 栞  … 異次元使い。四次元ポケットを持つ。難病に打ち勝ち、現在もバニラアイス命。

  3、沢渡 真琴 … 人外生物あぅー。肉まんと漫画が趣味。ねこのピロを飼っている。

  4、川澄 舞  … 魔物ハンター。夜の学校で魔物を討っていた。今は大学に通っている。

  5、美坂 香里 … アイアンフィスト。クラスメートで、成績優秀。栞の姉で、名雪の親友。

  6、天野 美汐 … 呪い使い。後輩で、昔、妖弧を飼っていた。すこしおばさん。

  7、倉田佐祐理 … まじかるさゆりん。倉田財閥の令嬢。舞の親友で料理も得意。今は大学に在籍中。

 

 とまぁ、この7人。

 

「だからこの中に、今回の実行犯がいる可能性が高い。分かったか名雪?」

「くー…」

「寝るなっ!!」

「うにゅ…?…………………くー…」

 こ、コイツは…。

「よく立ったまま寝れるなぁ」

 …って、違う!

「おぉ! 寝ながら歩いてるぅ」

 …って、これも違う!

「………起こすか」

 いい加減バカらしくなってきた。

 さて、起こすはイイが、このスリーパー名雪をどうやって起こすか…。

 …周りを見回してみて、っと。………コレだな。

「名雪〜♪」

「うにゅ」

「コレでも喰らえっ」

 姿勢を落とし、地面から"あるモノ"を拾い上げると、それを思いっきり!

―――どしゃっ

 ぶつけてやる。

「うぅ…冷たいよ…」

 さすがの名雪も起きたようだ。

 …ちなみに説明ておくと、今ぶつけたのは"水"。…分かり辛いか、えっと、"雪"。大気中の水分が冷え、結晶化し降ってきたものだ。全ての雪の結晶は形が違い、まったく同じモノは出来ない。………なんて説明はどうでもいいとして、とにかく、今投げつけたのは冷た〜い雪球。言っておくが、俺は石を入れるなんて外道なまねはしないぞ。

「…で、分かったか?」

 一応確認はしておく。

「ううん、全然」

 俺は驚愕した。まさか名雪がここまで低血圧とは思わなかった。これではただの寝ぼすけではないかっ。

「祐一…酷いよ…」

 ………心が読める点は人とかけ離れて凄いか。

「それに分からないのは祐一の言ったことじゃなくて、誰が犯人なのかだよ…」

「……なぁ名雪。お前、今日はどうしたんだ?」

 やけに冴えてるじゃないか。

「だって祐一ががんばってるから…」

 な、名雪…。お前は…。

「イイヤツなんだな!」

「な、なに? 急に…」

「いやぁ、名雪がこんなにイイヤツだとは思わなかったよ」

「………」

 無言。無言だけど顔が赤い。ほほぅ、一応は嬉しいんだな?

「そ、それはそうと祐一。誰が犯人だと思うの?」

 …逸らしたな。まぁイイけど。

「そうだなぁ、………………………………………………分からん」

「祐一ぃ」

「わ、悪い。だから、そんな目で俺を見ないでくれ…」

「…全員考えてみようよ」

「そ、そうだな」

 

 

◆◇◆CASE.1 犯人:月宮あゆ◆◇◆

 

「うぐぅ」

 いきなり気の抜ける言葉を発するのは、鯛焼き星人うぐぅ。

「うぐぅ…。鯛焼き星人うぐぅじゃないよ…」

 実際うぐうぐ言ってるじゃないか。

「うぐぅ」

 ほらね。

「…いいんだよっ。口癖だからしょうがないよっ」

 さて、話を進めるか。

「ムシされた…?」

 気にするな。

 

  ≫商店街

「うぐぅ…。お腹空いた…」

 商店街を彷徨いながら呟く。

「うぐぅ…」

 かなりヤバイらしい。さっきからうぐうぐ言いまくっている。と言うより、顔色もすでに悪い。横をすれ違う人が皆、異質の目で見るくらい。

「…………あっ! この匂いは…!」

 食欲を誘ういい匂いが漂ってくる。この匂いにかなり、いや無茶苦茶敏感なあゆは、一目散に駆けていく。さっきまでの様子とは一変してかなり元気だ。

 砂埃を巻き上げながら急ブレーキ。狙い通り、鯛焼きの屋台の前で止まる。

「おじさんっ。鯛焼き10コ下さいっ!」

 …多いだろ。

「イイんだよ」

 まぁ、別にイイけど。

「はいよっ」

 威勢のイイ声と一緒に、紙袋が差し出される。

「ありがと、おじさんっ」

 紙袋を受け取ると、そう言って走り去る。…………って、食い逃げっ!?

 

  ≫商店街外れ

「鯛焼き〜鯛焼きぃ〜♪」

 紙袋の中から焼きたての鯛焼きをひとつ取り出すと、その顔が輝かしいほどの笑顔になる。…うれしそうだなぁ、おい。

「鯛焼きぃ〜〜♪♪」

 うわっ。罪の意識もないし。よく盗んだものをそんなに嬉しそうに食えるな…。

「うぐぅ…。盗んだんじゃないもん…。また今度お金払うつもりでいたんだもん…」

 わかった。わかったから、だからそんな悲しい顔しないでくれ…。マジで止めてくれ…。

「はぐはぐ…♪」

 立ち直りの早いヤツ…。

「うぐっ?」

 ん、どうした?

「鯛焼きの紙袋の中に…」

 中に?

「こんなカードが入ってたよ」

 カード? 読んでみ。

「えっと……

《嬢ちゃん。いつも俺なんかの鯛焼きを食ってくれて有難な。》」

 鯛焼き屋の親父さんか。

「《すまねぇが、今日限りで店を閉めることにしたんだ。春になると客足が滅法減っちまうからな。嬢ちゃんには悪いと思ってる。毎日、あんなに嬉しそうに来るのは嬢ちゃんだけだからな。でもな、仕方のないことなんだ。許してくれ。詫びと言っちゃなんだが、今までの金は半分にしてやる。だから、いつか払いに来てくれ。》
 ――だって…」

 そうか…春だからな…。

「…っ!!」

 わっ、おい! 待てって!!

「鯛焼き屋のおじさん…っ」

 

  ≫商店街

「うぐぅ…っ」

 すでに鯛焼き屋の屋台はなかった。いつもは美味しい、甘い香りを漂わせる、あゆのお気に入りの鯛焼き屋さんはそこにはもう…。

「うぐ…っ」

 『仕方のないことなんだ』蘇る言葉。

「………春にならなかったら、また食べられるの…? また、おじさんは帰ってくるの…?」

 自分自身への問いかけか。

「ボク…またおじさんの鯛焼き食べたいよ……。祐一くんと一緒に…食べたいよぉ…」

 零れる嗚咽。その瞳には涙までもが浮かぶ。

「…ボク、春になんかなって欲しくないよ…。春になったら、もう鯛焼き食べられないよ…。だから…だから………」

『ボクが雪を降らせるよ…っ』

 

◆◇◆想像終わり◆◇◆

 

 

「祐一…これはちょっと強引じゃないかな…?」

 うわぁ…かなり疑わしげな目で…。

「そんなことないぞ名雪。あゆは鯛焼きの為ならなんでもするヤツだからな」

「でも、どうやって雪を降らせるの?」

 おわっ、忘れてた。

「………………………………………………それはだな、アイツは奇跡を起こしたんだ」

「……………(¬_¬)」

「( ̄□ ̄; お、おい名雪…その顔は……なんだ?」

「祐一…頭、大丈夫?」

「――っ」

 名雪に言われると、無償に悔しい。

「起きないから、奇跡って言うんだよっ」

 俺は絶句した。まさか…まさか名雪が…。

「人の科白をパクるとはな…」

「一度言ってみたかったんだよっ」

 うあ…嬉しそうだよ…。俺なんか精神的ショックをうけて辛いのに…。

「それはそうと祐一、あゆちゃんの動機は分かったから、次も考えてみようよ」

「……あぁ、そうだな…」

 俺はいつか名雪に中から壊されそうだな…。

 

 

◆◇◆CASE.2 犯人:美坂栞 & 美坂香里◆◇◆

 

「お姉ちゃん♪ アイスが食べたいですっ♪♪」

「はいはい、ホントに好きね…」

「アイスを食べると幸せになるんですよっ♪」

 微笑ましいやり取りをしているのは異次元使いとアイアンフィストの姉妹。

「むぅ! そんなコト言う人、嫌いですっ」

「夜空のお星様になりたいのかしら…?」

 …すみません。

「…それはそうと、アイスはどこで食べるの?」

「えっと、商店街に美味しいアイスの屋台があって…」

「…ちょっと待って栞。アイスの屋台なんて聞いたことないわよ」

「でもあるんですよ」

 輝かしいほどの、期待に満ちた瞳。これを裏切れるような姉ではない。

「…わかったわ。それじゃ、行きましょうか」

「うんっ」

 

  ≫商店街

「それで? 一体どこにあるのよ?」

「すぐそこですよ。…あ、ほらっ」

 栞の指し示す先にはやけにカラフルな屋台。看板におっきく『アイスクリーム』と、やけに丸みのある字体で描いてある。

「…ホントにあったのね…」

 疑っていたのね…。

「当然でしょ。普通はアイスの屋台なんて信じないわよ」

「お姉ちゃん、酷いです…」

「大丈夫よ。実際にあったから」

「それは結果論です…」

「それで、栞は何にするの?」

 あ、逸らした。

「えっとですね〜…」

 うわっ。こっちも乗ってる。

「やっぱりバニラアイスにしますっ」

「バニラアイスね? わかったわ。今買って来てあげるから」

「ありがとう、お姉ちゃん」

 

  ≫公園

「ここで食べましょうか」

 そう言って、ベンチに腰掛ける。

「はい、栞」

「わぁ、ありがとうお姉ちゃん」

「どういたしまして。それより、早く食べないと溶けるわよ」

 だいぶ暖かくなってきたわけだしね。

「そうですね。それじゃあ、いただきますっ」

「いただきます」

   ………………………………

「おいしいわね。ここのアイス」

 うわー。確かに美味しそう…。

「羨ましい?」

 羨ましいよ…。

「……がう…」

「ん? どうしたの栞?」

「違う…っ」

 様子がおかしくないか?

「違いますっ!」

「し、栞…?」

「こんな味じゃないんですっ。ここのアイスは…ここのアイスは……っ。もっと…美味しかったはずですっ」

「………」

「………………あの日、雪の降ったあの日に食べたここのアイスは…もっと…もっと美味しかったのに…」

 嗚咽を漏らしながら、訴えるように言葉を搾り出す。

「栞…」

「………………わかりました。今の季節が悪いんです…。寒い冬でも、暑い夏でもない、春です」

「季節が…悪い…?」

「冬の寒い中で食べるアイス。夏の暑い日に食べる冷たいアイス…。これがいいんです…。でも…春は中途半端です」

「確かに、寒くも暑くもないわね…」

「春なんて…春なんて…嫌いですっ」

 嫌いって言ってもなぁ…。

「わかったわ」

 はい?

「わかったわ栞。私も協力するから、二人で――」

『雪を降らせましょう』

 

◆◇◆想像おわり◆◇◆

 

 

「これも強引…」

「うぐっ…」

 言われたよ…。しかも微妙にあゆの口癖入ったよ…。

「それにどうやって雪を降らせるの?」

「…………………………………………栞がポケットから雪雲を取り出した、とかは――」

「ダメだよ」

「( ̄□ ̄;」

「それに香里が栞ちゃんの為でも、街に雪を降らせてみんなを困らせたりしないよ」

「…なぁ名雪。周り見てみな」

 しっかりとな。

「あ…雪だるま…」

「かまくらもあるだろ?」

「うん…」

「つまりな、全員が全員嫌がってる訳じゃないんだな」

「うん…」

「だから香里も容疑者のひとりだ」

 言い切ってやる。

「祐一…。あまり言い過ぎると…香里室に連れ込まれるよ…? さっきアイアンフィストとか言ってたし」

「!!?( ̄□ ̄;;」

 香里室…。香里が部室だと言っていたあの謎の部屋。噂では、足を踏み入れたものは二度と出て来れないと言う…。

「さ、次、つぎっ!」

 聞かなかったことにしよう。

 

 

◆◇◆CASE.3 犯人:沢渡真琴&天野美汐◆◇◆

 

「あぅ〜肉まん〜〜…」

「意地汚いですよ、真琴」

 今度のふたりは人外生物あぅー、と、呪い使い。いつも通りの組み合わせだ。

「人外生物じゃないわよぅっ!」

「…………」

 すみません、許してください。お願いだからその藁人形しまって…。

「…これからどうします?」

「商店街行って肉まん食べたい」

「それでは、行きましょうか」

「うんっ」

 

  ≫商店街

「肉まんをふたつ」

 商店街につくと、すぐに肉まんを買いに行く。まぁ、目的だからな。

「真琴、どこで食べましょうか?」

「あぅ〜…ものみの丘…」

 ものみの丘か…。肉まん、冷めないか?

「ものみの丘ですか…。ふたつでは足りませんね」

 そう言うと、天野は歩いていき、

「肉まんをあとふたつ」

 

  ≫ものみの丘

「やっと着きましたね」

「うんっ」

 ものみの丘には、まだ雪が少しだけ残っていた。と言っても、一度は溶け、また固まった粗目雪だが。これを固めて投げると痛い。そして冷たい。雪合戦には不向きな雪だ。

「肉まんでも食べましょうか」

 そう言って、紙袋の中から肉まんを取り出し、頬張る。

「…少し冷えてしまいましたね」

「うん」

「でも…美味しいです」

「……………」

「真琴?」

 沈黙してるよ。俯いて…。それでも肉まんは食ってる。

「春が来て、ずっと春だったらいいのに…」

「真琴…」

「そう思ってたけど…」

 けど?

「肉まんがなくなるのは嫌だよぅ」

 に、肉まんか…。

「春になったら、肉まんは売れないからって…」

「お店の人が?」

「あう〜っ」

 まぁ、確かに冬場しか売ってるの見たことないな。

「肉まん食べられなかったら…嫌だよぅっ」

「………真琴」

「なに…美汐……」

「私の呪いの知識を応用して……」

『雪を降らせてみましょう』

 

◆◇◆想像おわり◆◇◆

 

 

「どうだっ、名雪!」

「………………………(¬_¬)」

「なんだよ、その顔は…」

「また食べ物…」

「二度あることは三度ある、ってな( ̄ー ̄)」

「( ̄□ ̄;」

 まいったか。

「ゆ、祐一…呪いは、本当なの?」

「さぁ?」

「ぇ?」

「いや、知らない。俺、天野のこと実はよく知らないんだよな」

「(¬_¬)」

「そんな軽蔑の瞳で見ないでくれ…」

 すっげぇ悲しいから。

「…えっと」

「あとは川澄先輩と倉田先輩だね」

「…あぁ」

 舞と佐祐理さん…か。

「どうしたの?」

「いや、別になんでもない」

 

 

◆◇◆CASE.4 犯人:川澄舞&倉田佐祐理◆◇◆

 

「舞ーっ。今日は何食べようかー」

 元気のいい声が響いている。彼女は、まじかるさゆりん。

「………」

 そして無言で隣を歩いているのが、魔物ハンター。いや、元魔物ハンターだな。

「あっ! すきやきにしよっか。祐一さんも誘って」

「はちみつくまさん」

 了承らしいっスよ、佐祐理さん。

「あははーっ。そうですねー」

「佐祐理、商店街…」

「あ、うん。そうだね」

 ふたりは歩みを商店街へ向けた。

 

  ≫商店街

「舞ーっ。お肉買ったよー」

 おぉ! こんなに大量に!

「三人分ですよ?」

 多くない?

「祐一さんがたくさん食べますからねー」

 羨ましいぞ。

「あははーっ」

 くぅ、俺も食いてぇ。

「あれ、舞? 何やってるの?」

 うわっ、ムシだよ。

「…うさぎさん」

「うさぎさん?」

 兎?

「あーっ、雪うさぎだねー」

「………(こくん)」

「もう雪もほとんどないけど、誰かが作ったのかなー?」

 上手いもんだなー。葉っぱの耳と、赤い実の瞳。雪で作る代表的なもののひとつだわな。

「かわいいねー」

「………(こくん)」

「舞は雪うさぎ作るの?」

「つくる……つくった……」

「舞?」

「ふっ…うぐ…うぅ……っ」

「ま、舞? どうしたの…?」

 泣いてるね、完璧に。

「…とにかく、もう帰ろう。ね?」

「……………(こくん)」

 

  ≫アパート

「舞…落ち着いた…?」

 あれからかなりの時間泣いていた。目の周りが真っ赤になるほどに…泣いていた。

「舞、何があったのかは聞かないけど…何か悩みとかがあったら、佐祐理に話してね」

「………(こくん)」

「本当に…大丈夫?」

「だい…じょうぶ…。佐祐理…ありがとう………」

「あははーっ。舞の為なら何でもするよーっ」

 …ある意味恐怖があるから止めてくれ。

「何か言いましたかーっ?」

 いえ、何も。

「佐祐理…」

「何?」

「ごはん」

 ――って、飯かぃ!?

「はいはいー。今すぐ出来ますからねーっ」

「祐一…呼べなかった…」

「残念だねー。でも、また今度呼べばいいよー」

「はちみつくまさん」

 

  ≫翌日

「舞ーっ。今日は何食べるー?」

「なんでもいい」

「う〜ん・・・それじゃあ、散らし寿司とかどう?」

「…かなり嫌いじゃない」

「あははーっ。じゃあ決定だねー」

「……うさぎさん」

 ウサギ?

「あー、まだ雪うさぎ残ってたんだー」

 まだ生き残ってたのか、なかなかしぶといな…。

――――ズビシッ

 …痛いぞ、かなり。

「そういうこと言うのは…ダメ」

「そうですよー。そんなこと言ってると、東京湾に沈められちゃいますよーっ」

 ………マジだ。マジの目だ。

 すみませんでした。

「でも舞ー。この雪ういぎさん、だいぶ溶けちゃってるよ」

「………」

「最近暖かいからねー。もう春かなー?」

「………」

「舞?」

「雪…」

「雪? 雪がどうしたの?」

「雪が降れば…うさぎさん助かる…」

「そうだねー」

 でも、もう春だよな。

「うぐ…ひう…」

「ま、舞…」

「うさぎさん…うさぎ…さん…」

「…分かったよ、舞」

 佐祐理さん?

「佐祐理が…舞のために」

『雪を降らせてあげるからね』

 

◆◇◆想像おわり◆◇◆

 

 

「…と言うのはダメか?」

「ダメ」

「( ̄□ ̄;」

 マジでか?

「もっと違う動機を考えられないの?」

「( ̄、 ̄;………………………ムリ」

「(‐_‐ ) やっぱりね…」

「…なんだよ、その『ダメだなコイツは』的リアクションは…」

「気にしちゃダメだよっ」

「気にするわっ」

「…祐一、全員の動機の想像は終わったけど、実際の犯人は誰なの?」

「さぁ?」

「…………商店街まで行こうよ」

「……そうだな」

 

  ≫商店街

「さて、どうする?」

「とりあえず、聞き込みだよっ」

「聞き込みか?」

「うんっ」

 まぁ、確かにそうしないと何も始まらないか。

「じゃあ、行くか」

 

◆◇◆

 

「親父さん。鯛焼き屋は休止しないのか?」

「おぉ! 嬢ちゃんといっしょにいた兄ちゃんじゃないか。店は止めたりしないぞ。一年中営業だ」

「…客来るのか?」

「当たり前だろぅ?」

 何故? 普通、春になると売ってないモノなんだけど…。

「祐一、ここは寒い気候だから、一年中やってるトコも多いんだよ」

「…それ、本当か?」

「本当だよっ」

「はっはっはっ。兄ちゃん達、面白いな。ほら、鯛焼きでも食っていきな」

 お?

「なーに、俺の奢りだ。遠慮せず食っていけ」

「親父…。アンタはイイ人だ…」

「そうか? そう言ってもらえると嬉しいねぇ!」

「親父…俺はアンタについて行くぞォーーー!!」

「ついて来い、少年!!」

「はぁ…相沢くん……なにやってるのよ…」

 あれ? なんか今、名雪とは違う声が聞こえたような…。

「あ、香里…」

「かおり…?」

「何? いたら悪い?」

 いや、そうじゃなくてだな。

「この雪を降らせてるのは香里じゃないのか?」

「…どうやって雪なんて人工的に降らすのよ…」

「いや、だから栞がポケットから雪雲を取り出して…」

「私がですか?」

 ………アンタもいたんかい。

「よぉ栞。相変わらずアイス食ってるのか?」

「はい。バニラアイスは美味しいですよ♪」

「アイスの屋台はやってるのか?」

「…? アイスの屋台なんてあるんですか?」

 ……………ぇ?

「祐一の嘘つき…」

「いや、俺はあると思ったんだ! 嘘とかそう言うのじゃなくてだな――」

「そんなことはいいけど、あなたたちは何をやってるのよ?」

 途中で止めないでくれ、香里…。

「えっと、聞き込みだよっ」

 名雪もバカ正直に言わなくてイイって。

「聞き込み? どうしてそんなことを…?」

 ほら、説明する羽目になった。

「この雪を降らせてるのが誰かと思ってな」

「そんなこと調べてたの?」

「この雪を降らせてる人のこと、何か知らない?」

「私は知らないわね…」

 香里からの情報はなし、か。

「私、知ってますよ?」

「………本当か栞? …それ、うそだろ?」

「そういうコトいう人、嫌いです…」

「いや、すまん。…で? 何を知ってるんだ?」

 少しでも情報は欲しいからな。

「私が聞いたのは、その雪を降らせてるのは3人だ、ってことです」

 結構マジメに凄い情報じゃないか。

「―――あ? さんにん?」

「はいっ♪」

「…………助かった。何か情報が入ったら連絡してくれ。行くぞ、名雪」

「え? うん」

 次の人に聞いて確認しなければ。

「それじゃあな、香里、栞」

「バイバイ香里、栞ちゃん」

「じゃあね」

「さよならぁー」

 

◆◇◆

 

「肉まん、まだ売ってるのか?」

「売ってちゃ悪いかい?」

「いや、そんなことは決してないぞ。どっちかと言うと嬉しいな」

「そうかい? 嬉しいこと言ってくれるねぇ」

 おばちゃん。でもあまり売れないと思うぞ。真琴はよく買いにくると思うが。

「もしかして、一年中営業か?」

「いやぁ、毎週の水曜日は休ませてもらってるよ」

「いや、そうじゃなくて、夏とかもやるのか訊いてるんだけど…」

「あぁ! そういうこと。やってるよ。お腹空いたら買いにおいで。おまけしてあげるからね」

「ホント? やった♪」

 嬉しそうだな、名雪…。

「お前、肉まんも好きだったか?」

「やっぱり影響されたかなぁ?」

「ふぅん…。あ、それはそうとおばちゃん、この雪を降らせてるヤツに心当たりはないか?」

「そうだねぇ…。あぁ! そう言えばこんな話を聞いたよ!」

「どんなだ?」

「たしかねぇ、3人組で、なにか大きな機械を持ってたらしいよ」

 機械…? またやけに大規模なコトしてるな。

「そうか…。ありがとう、参考になったよ」

「よかったねぇ。あ、今度来るときにはおまけするから来てちょうだいよ!」

「財布と相談してからならな!」

 

◆◇◆

 

「名雪、容疑者が一気に減ったな」

「そうだね」

「とりあえず、あゆは違う。鯛焼き売ってるんだしな」

 動機がなくなる。

「栞ちゃんと香里も違うよね。ふたりともあの場所にいたし、それにもともとムリだし」

 まぁ、確かに無理があったな。

「真琴もか。肉まんがある以上、アイツも違う。となると天野も外れるか」

 動機なし、か。

「と、なると…」

「川澄先輩と倉田先輩…?」

「――と、だれか分からないもうひとりか?」

「そう…なのかな、やっぱり」

「どうだろうな…。でも、大きな機械を持ってたらしいからな。多分、それが雪を作り出してるんだろ? そんなモンが簡単に手に入るモンじゃないからな。そうなるとやっぱり財力のある佐祐理さんか…」

「…あとはどこにいるか探すだけだね………」

「そうだな」

「でも、どうやって探すの? この街だけでも結構広いよ?」

「それなんだよなぁ」

 どうするか…。

「教えましょうか?」

「うわぁ!?」

 まさに不意打ち。…って、今日同じコトあったよな…。

「やっぱり秋子さん…」

 予想通りの展開だった。

「お母さん、知ってるの?」

「えぇ。聞いた話だと、高校の屋上から雪雲が作り出されているらしいですよ?」

「高校、ですか」

「はい」

 …高校の屋上なら、それなりの高さもあるし、スペースもある。好都合って訳か。

「ありがとうございます秋子さん。助かりました」

「いえ、気をつけてくださいね。もうすぐ日が落ちてきますから」

「うんっ。わかったよお母さん」

「それでは、私は夕食の買い物の途中なので…」

「あ、はい、それでは」

 

◆◇◆

 

「学校とは…予想外の場所だな」

「そうだね」

 俺たちは今走っている。目的地は学校。目的は、犯人の確認及び、雪の停止。

「もうちょっとで見えてくるぞ」

「うんっ」

 見えてきた学校。屋上からは…もうもうと、雪雲が作り出され、空へ吸い込まれていく。

「本気で誰かがやってるんだな…」

 ここまでやるとは…。呆れるのを通り越して凄いな。

「行こっ、祐一」

「そうだな」

 舞、佐祐理さん…。今、止めに行くからな…!

 

 靴がリノリウムを叩く。

 階段を上り、屋上へと向かっていく。その階段には大きなホースが置かれていて上りにくかったが、足元に注意しながら俺たちは上がっていった。

「もう、すぐだ…」

 そしてとうとう、屋上へと、俺たちは辿り着いた…。

 

「舞! 佐祐理さん! もうこんなコトは止めるんだ!!」

 屋上へ飛び出すのと同時に、俺は叫んでいた。

「川澄先輩っ、倉田先輩っ、もう止めてくださいっ!」

 名雪も叫ぶ。

「……………」

 しっかりと見据える。…確かに3つの人影。さらによく見てみる。…男のようだ。

「祐一…。川澄先輩も、倉田先輩もいないよ………」

 男。数は3つ。そう、3人とも男だ。

「あ? 舞は? 佐祐理さんは??」

「私たちの早とちりだったみたい…」

「そ、そうなのか…?」

 嬉しいような悲しいような…。ま、まぁ、舞と佐祐理さんが犯人じゃないのは嬉しいが。

「…で、だれだお前等?」

 逆光でよく見えん。

「ふふふっ。俺の顔を忘れたか相沢っ!!」

 いや、だから逆光で顔が見えん。………って、その声は!?

「き、北川か!?」

 なんでお前が!?

「僕のコトを忘れてもらっては困るな!」

「お前は…! 誰だ?」

 ズコッ! うわっ、こけた。なかなかのリアクションだなぁ。

「(元)生徒会長の久瀬だっ!」

「あー、そんなのもいたなぁ…」

「僕も忘れないで欲しいよっ!」

「…………誰?」

「誰だっけ…?」

「なんだ、名雪も分からないのか?」

「うん」

 あんなヤツ、いたか?

「酷いよっ! 僕は斎藤っ!!」

「斎藤…? 誰だ、それ」

「あっ! 斎藤くん!? ゴメンね〜。気づかなかったよ〜」

「いいよ…どうせ僕はそんなキャラだから…」

「まぁ、確かにイベントCGないしな」と久瀬。

「つーか立ち絵すらないし」と北川。

「その前に台詞もないもんな」と俺。

―――ズぅ〜〜〜ン………

「どうせ、どうせ僕は………」

 うわぁ、落ち込んだなぁ…。

「まぁ、今回台詞があるんだからよかったじゃないか」

「………そうだねっ!」

 お、なかなかイイ表情してるな。まぁ、大丈夫だろ。

 

「……それはそうと、なんで雪なんか降らせたんだ?」

 一番疑問だ。お前等に理由があるとは思えん。

「それはだな…」

「美坂のためっ!」と北川。

「倉田さんのためっ!」と久瀬。

「出番のためっ!」と斎藤。

 …バカだ。

「北川と久瀬、どういうわけだ?」

 香里と佐祐理さんのためってなんだ?

「香里が」 「倉田さんが」

「「雪が見たい、と言っていたんだ」」

 バカだ。バカだよお前等。そんなことしたってなんの意味ももたないのに…。

「まぁ、理由はわかった。とりあえず、そんな理由で大金を注ぎ込んでその機械を造ったんだな?」

「そうさっ。久瀬家の権力を駆使して工場を動かし、この『雪降らせ28号』を完成させたんだ!」

「ネーミングセンスねぇなぁ…」

 マジでバカだ。

「うるさいっ」

 この機械…。ホースで水を運んで、それを機械の中で雪雲に変えて空に放つ、って感じか。うん、確かにコレは凄い。スキー場とかで売れるかもな。

「とりあえず、もうやめないか?」

「なぜだ相沢?」

「もう春だからだ」

 当たり前だろが。

「香里から満足したという言葉を聞かない限り止めない」

「僕も倉田さんから聞くまでは…」

「僕はもう出番を貰ったから別にいいよ」

 諦めの悪いヤツ等(斎藤以外)め。

「しょうがないな…少し待ってろ」

 俺はおもむろに、携帯を取り出すと、ボタンをプッシュした。

 数回のコール音の後、相手の声が聞こえてきた。

 

『何? 相沢くん』

「香里か? すこし訊きたいことがあるんだけど」

『何よ、いきなり』

「悪いな。とりあえず答えてくれ」

『別にいいわよ。それで何?』

「あぁ、今日の雪には満足したか?」

『雪? もう嫌と言うほど見たわよ。そろそろ溶けてくれないと困るわね』

「そうか、分かった。ありがとな香里」

『用件はそれだけ? じゃあ切るわよ?』

「あぁ、じゃあな」

『それじゃね』

 

「…とまぁ、そういうわけだ。わかったか北川」

「………あぁ。俺はもう満足だっ」

 半分泣きそうな顔してるし。いやぁ〜喜んで貰えてないし、残念だったな北川♪

 それはそうと、

「…次は、っと」

 またもやプッシュ。

 これまた数回のコールの後、待ち望んだ相手の声が流れてくる。

 

『祐一さんですかー? どうしたんです?』

「あ、佐裕理さん。ひとつ訊きたいことがあるんだけど」

『なんですか?』

「えぇと、今降ってる雪ですけど――」

『あー、鬱陶しいですよねー』

『寒いし、冷たいですよー』

『こんなコトした人なんて佐祐理は知りません』

「…よっくわかった。ありがとな佐祐理さん」

『はえ〜? それだけですかー?』

「あ、あぁ、そうなんだ。悪いな、コレだけのために電話して」

『いえいえ。好きな時に電話してくださいねー』

「あぁ、ありがとう佐祐理さん」

『今度遊びに来てくださいねー。舞も待ってますからー。それではー』

 

「…久瀬、残念だったな」

「……………っ」

「なんだ、声も出ないか?」

「うわああああああああああああああ!!!!」

 おわっ!? 急に叫びだすなっ。

「こんな機械、今すぐにでも止めてやる!」

「そうそう♪」

 

 久瀬の絶叫を響かせながら、『雪降らせ28号』はその機能を停止した。

 もう、その機能が復活することはないだろう…。徹底的に破壊したからだ。

 これで街には春が戻るだろう。こんな機械は二度と造ってはいけない。季節を捻じ曲げてはダメだと思い知った。…恐るべし佐祐理さん。アンタはすげぇよ。

 久瀬はすでに廃人と化しかけている。ま、俺の知ったことではないが。

 …そして、破壊し終えてから俺は気付いた。いや、思い出した。ある人物の存在を。

「名雪…?」

「くー…」

 立ったまま穏やかに眠りこけていた。

 

◆◇◆

 

 街には春がやってきた。遅すぎる春。

 桜は咲き乱れ、小鳥がさえずりあう。

 時は4月。もうすぐ新しい生活が始まる。期待と不安が広がっていく。

 だけど、前を向いて歩いていくのだと思う。

 後ろを向けば…刺されそうだから。

 俺はあれから狙われつづけている。

 北川と、久瀬に。

 理由は携帯。香里と、佐祐理さんの番号を俺が知っていたことだ。(アイツ等は教えて貰っていないらしい)

 まぁ、油断しない限りは大丈夫だとは思うのだが…。自分から訊くということをしないのは何故だろうか? 所詮は北川と久瀬ということか。

 ちなみに斎藤は出番を貰った嬉しさから、今までより明るいキャラになった。うん、よかったよかった。

 とにかく、誰がどう見ても平和な(?)季節がやってきたのだ…。

「ぶぇぇぇっくしょぉぉぉぉぉぉぉいっっっ」

 傍迷惑な花粉とともに。

 

++END++

 

◆◇◆あとがき◆◇◆

 どーもー。競作を夜中に書き上げてナチュラルハイなAIRですー。

 いやー、長い長い。今までに書いた小説の中で一番長いよ。疲れたよ。

 でも書ききったからかなり満足だー。

 …さて、内容的な後書きを……。

 とりあえず、テーマが春だったんで、4月にセッティング。

 普通に春じゃつまらないので、雪を降らせてみる。

 んで、雪を降らせたのが誰かを突き止める推理系(?)に。

 全員の犯人説を考えるのが楽しかったなぁ…。

 とくにあゆと栞。ふたりのヤツが一番楽しかった。

 こーゆー、やけに無茶苦茶なのもいいね。

 これからも書いてくかー。

 

 …………もうネタがないな。

 じゃあ、感想待ってます。

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