その日、なんとなく北川の家を訪ねた。

 

「よ」

「また唐突な……」

 

 そんなことを言いながら、飲み物まで出してくれる北川はかなりいいヤツだと思う。

 北川はベッドに腰掛けると、おもむろに口を開いた。

 

「で、今日はどうした?」

「なんとなく」

 

 あっそう、と気もなく返された。

 

「この暇人め」

「悪かったな」

 

 はぁ、とため息を吐いた北川はそのままベッドに横になった。

 しん、と部屋の中に沈黙が流れた。

 だけどその沈黙は不快でもない。

 ただ、手持ち無沙汰になるのだけが頂けなくて、周りを見回してみた。

 

「……あ」

「ん? なんだ相沢」

 

 声に反応したのか、北川が体を起こしながら言った。

 

「なんかあったか?」

「これ」

 

 言って、指差す。

 そこにあったのは、手入れの行き届いたアコースティックギター。

 

「弾いてくれないか?」

「まぁ、いいけど」

 

 北川がギターを手に取る。

 チューニングを慣れた手つきで行って、構える。

 何故か、すごく似合って見えた。

 

「曲はどうする?」

「できれば俺の知ってるやつで」

 

 了解、と短い返事。

 数秒の間を置いてから、北川が弦を弾いた。

 

 奏でられる旋律はやさしい。

 

 クラスのほとんどが知らないが、北川は実はうまい。

 趣味、と言い切るほどに好きなのも本当だ。

 そのことを知ったのは、初めてここを訪ねた時だった。

 

 部屋に満ちるやさしい音は、知っている曲だった。

 バラード調の、やさしくもかなしい曲。

 以前、この曲が好きなのだと北川に伝えたことがあった。

 そのことを覚えていて、北川は弾けるようにしてくれたのかもしれない。

 

 旋律は包み込むかのようにやさしく流れる。

 その旋律に合わせるように、そっと、紡いだ。

 

 旋律と、舞う唄声。

 やさしい音に乗せるように。

 かなしさを秘めた歌を口ずさんだ。

 

 名残を惜しむような響きをもって、演奏は終わった。

 同じように唄声も終わる。

 

――― ふぅ。やっぱうまいな、相沢」

「北川こそ」

 

 ふたりそろって、ははっ、と笑う。

 それからは他愛のない話をした。

 たまの休みに男ふたりなんて寂しいな、なんて言う北川と笑いあいながら、時間だけが過ぎていった。

 

「っと、もうこんな時間か」

「なんか用事でもあるのか?」

 

 まぁな、と返す。

 時計の針は15時を指していた。時間の余裕もそろそろ危うい。

 窓から外を見てみると青い空が広がっていた。

 雨が降らなくてよかった、と思う。

 

「じゃあな北川。燻ってないで出かけてみたらどうだ?」

「気が向いたらな。で、相沢。お前、これからなんの用があるんだ?」

 

 そんな北川の言葉に、にやり、と笑う。

 

「お前の言う、寂しくないこと、さ」

「あ、相沢っ」

 

 飛び掛かろうとしてきた北川を躱すように扉を開けた。

 扉ごしに聞こえる罵倒する声に苦笑しながらも取り敢えず歩くことにした。

 

 

 旋律はまだ残っている。

 きれいな、やさしい、そしてかなしい音。

 その音を忘れないように描きながら、待ち合わせの場所へと向かった。

 

 ――― きっと。

 音はまだ満ちている。

 

 

end.

 

 

 あとがき

 

 ゆっくりとしたテンポの小説が書きたいなぁ、などと考えていたら書けてました。

 言いたいこと、伝えたいことが何もない小説ですけど。

 北川がギターを弾ける、というのは勝手なイメージです。何故か、そんなイメージを持っています。

 同じように、祐一が歌がうまい、というのもイメージ。なんとなくそんな気が。

 中身的にはすごく短いんですが、内容は……これまた薄いです。

 ぼんやりと書いたものだから、中身に期待された方、すいませんでした。

 でもこんな風なのならいろいろ書けそうなので、これからも書くかもしれません。


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