第3話
銃と拳を以て、激突するは亡霊
放課後になった。
今日も名雪は部活があるということなので、名雪を除いた通称「美坂グループ」はゲームセンターへと直行していた。
「じゃあ、まずはあたしと北川くんでいいかしら?」
「俺は構わないぜ。相沢もいいか?」
「おう、しっかりと見学させてもらうわ」
ゲームセンターの一角を占拠するように設置されたバーニングPTの機器、コックピットブロックを模った操作端末が特徴的だ。
それに北川と香里が両端にそれぞれ乗り込む。
バーニングPTは完全閉鎖式のボックスの中、周囲を覆うモニタを見ながら操作を行う。
これは本物のパーソナルトルーパーを模してあり、かなり本格的な造りになっている。スロットルもあればペダルもある。細かなボタンも数多くあり、すべてにちゃんと意味があるのだ。
そこまで本格的な為に人気はかなりあり、そして慣れるのがかなり大変なことでも有名だ。
そしてこのゲームセンターにはそのコックピットブロックが4つある。
両脇にふたつずつが配置され、中央にはギャラリー用の巨大モニターが設置されていた。
パシュー
軽い空気圧の音と共に、コックピットブロックが閉口する。
もはや北川と香里の両者を見ることはできない。
そして1分ほどの間を置いて……中央のスクリーンに二機の
亡霊 が映し出された。
フィールドセット ――― 荒野
距離を置いて対峙する二機のゲシュペンスト。
両者共にカラーリングは基本の青のまま、中身のセッティングは完全に別物だった。
「さて、と。北川くん、特訓してきたみたいだけど……無駄だってこと教えてあげるわ」
コミュニケを通しての香里の言葉に、北川はにやりと笑みを浮かべた。
「今日は、分からないぜ…?」
バシュ、バシュ…!
言い切ると同時に北川のゲシュペンストがスプリットミサイルを発射、標的へと迫る!
「そんなもの…!」
ゴゥ、とバーニアを吹かして一気に距離を詰める香里機。
疾走しながら追加で装備させたプラズマカッターを抜き放ち、迫り来たスプリットミサイルを一刀の元に斬り捨てる!
ドォン!
爆発、モニタを黒煙が覆いつくす。
だが、両者ともセンサーは死んではいない。視界では捉えていなくとも、データは確実にその位置を指し示していた。
(いつもならここでマシンガンの追い撃ちが……ッ!?)
黒煙の中、香里機のセンサーが捉えたものは銃弾の雨ではなく……
「スプリットミサイル!? ……だけどッ」
虚を突かれたとはいえ、センサーは死んでいなかったのだ、対処など容易!
斬、
黒煙の中心で、光刃が走った。
プラズマカッターはスプリットミサイルを斬り落し、その刹那の間を置いて閃光と炎を撒き散らした。
だが香里機は既にその場から動いている。
バーニア点火、瞬間的に速度を上げ、一気に黒煙を突き破る!
モニター回復。そこに映った北川機を確認し、香里は左腕のプラズマステークをセット……
「貰ったわよ、ジェットマグナムッ!」
ゴゥ、と空気を裂いて疾走する青い雷光。
正面から一気に接近する!
ジェットマグナム。
左腕に装備されたプラズマステークを相手機体にぶち込み、内部へ侵攻。
高圧の電流を流し込む近接格闘用の武器だ。
ゲシュペンストMkUの特徴と言っても良いくらいの武器。その威力はお墨付きだ。
ボディにぶち込めばそれだけで相手機を一撃で機能停止に追い込むくらい造作ない。
だが、それを眼前に北川は……
にぃ、と。
笑みを浮かべた。
「ッ!?」
気付いた時にはすでに遅い。
北川のゲシュペンストがその右手に持っている武器、それはマシンガンなどではなく、
「貰ったぜ美坂ッ!」
一丁の、ショットガン!
パシュー
空気圧の音を伴って、ボックスが開いた。
「お疲れ、ふたりとも」
祐一が顔を出した北川と香里に声を掛けた。
「…はぁ、負けたわ」
うな垂れている香里と、それとは逆に、
「見たか、見たか相沢っ。俺勝ったぞ!」
浮かれている北川。
初めて香里に勝てたのだから分からないでもないが、ここまで喜ぶとはある意味驚きだ。
「それにしても北川、いい戦法だったな」
「だろ? セッティングもし直したし、結構いろいろと苦労したんだからな」
北川の戦法……いつもはマシンガンを用いるのだが、ショットガンに装備を変えていた。
牽制にマシンガンを使用していた従来の戦いを少し変化させ、牽制にはスプリットミサイルを用い、接近してきたところをショットガンで撃ち抜く。
簡単に言えばこの程度のことなのだが、実はなかなか考え込まれていた。
まず、スプリットミサイルを牽制に使ったことはかなりの意味がある。
香里の機体は近接戦闘のみを特化させた仕様になっているため、射撃武器であるマシンガンを持たせていない。だからスプリットミサイルをやり過ごすには躱すか、もしくは斬り落とすしかない。
どちらにせよ、香里機のすぐ傍で爆発が起こるのだから黒煙に巻き込まれモニタはまったく無意味になる。
そうなってしまえばセンサーに頼るしかなくなり相手の機体を見ることもできない。
これが北川の狙いだ。いつもはマシンガンも使っているのだから香里もそれを想定している。しかし実は持っているのはショットガン。それを香里に見られたら違う戦法を取ってくるに違いない。だから視界を潰すことで北川はそれを回避し、そして自分に有利な状況を作り出したのだ。
「マシンガンじゃ一気に戦闘不能に追い込めないからな。それでショットガンを選んだわけだけど、これがまた有効射程短くて…」
「それで香里のいつもの戦法を逆手に取ったってわけか」
なるほど、と呟く。
「でもそれってあたしだから通用したけど…相沢くんには通用しないんじゃないの?」
そう、これは近接戦闘しか行わない香里が相手だからこそ通用したのだ。
遠近両者を用いる祐一や、遠距離だけしか使わない相手に通用しないだろう。
「だろうなぁ。まぁ一応前のセッティングも残してあるから、そっちでやるわ。ってことで相沢」
「よし、やるか北川っ」
香里と入れ替わり、ボックスの中に入り込む。
軽い空気圧の音と共に閉口していくのを見ながら、自分の中で燃える闘争心を自覚した。
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