第10話

俺は、俺に出来る事があるのなら

 

 

 

 ビィ―――

 

 けたたましい警告音が響いた。

 タウゼントフェスラーの操縦室、そこにいたキョウスケはすぐさまその警告音の正体を確かめた。

「飛行物体接近警報……街を襲っていた奴らと同じタイプか」

 そこまで呟き、手元のスイッチを入れる。

「聞こえるかエクセレン」

 そのスイッチは別室への通信機を起動させるもの。起動させると同時に呼んだ名前に、その本人が反応した。

『はぁい?』

「客だ。派手に迎えてやるぞ」

『わお! そうとなれば準備しないとねぇ。女の子はいろいろと準備に時間が掛かるのよん?』

「なるべく手短に済ませろ」

 素っ気無く答え、キョウスケは通信機のスイッチを切った。

 いつまでも話しているわけにもいかない。今は急いで愛機の元へ行き、発進準備をする必要があるのだ。

――― 敵の狙いが何であるか……ハッキリすればいいのだがな」

 言って、踵を返した。

 

 

 

――― んー、というわけで、ちょっと御暇するわね」

「いや全然わけわかんないんだけど」

 わお、なんて驚いてエクセレンは目の前のふたりに視線を移した。

「簡単に言っちゃえば、敵が来たのよ」

 その言葉に、息を呑む音が聞こえた。

「……敵、って」

 ふたりの内のひとり――― 香里が顔を恐怖の色に染めながら呟いた。

「またあいつ等なのか……?」

 もうひとりの――― 北川もその顔色は優れない。

 それもそうだ。あんな戦場の中心にいきなり放り込まれたのだ。敵、という言葉に過剰に反応してもおかしくはない。

 むしろそれが自然な反応だ。あれだけの恐怖を味わったのだ。立ち直る事がすぐに出来るはずがない。

 出来るとすれば、それはもう人ではないだろう。

「敵が何かまでは知らないんだけどねぇ。ま、お仕事だから行くしかないでしょ」

 エクセレンの口調は軽く、今から戦闘が起きるのだということを疑わせるほどだった。

 戦争を、割り切っている。

 そんなことを思った。同時に目の前のエクセレンに、微かな畏怖を覚える。

 

 この人は、自分達とは違うのだ――― と。

 

「安心なさいな。この輸送機には指一本、触れさせないわよ」

「ぇ、」

 そんな戸惑いに近い声を上げた時には、エクセレンは扉を開けていた。

 そのまま扉の外へと出て、一度だけ振り向く。

「ユウのところに行ってあげたら?」

 それだけ残して、エクセレンは愛機の元へと駆け出した。

 

 

 

――― よし。ハッチを開けてくれ」

 コックピットのシートに座り込み、機体を起動させたキョウスケは言った。

 その声に応えるようにハッチが段々と開いていく。

 ――― その先は空だ。

 真っ青の空間。地面のない場所。陸戦用のアルトアイゼンでどう戦うか――― それを考えていてコミュニケが開いた。

『キョウスケ、こっちも準備できたわよ』

 自機の後ろには、まるで長槍のような銃を携えたヴァイスリッターが待機していた。既に起動も済んでいるようだ。

「エクセレン。相手の目的がハッキリしない。戦闘を仕掛けてきたならば応戦するが、そうでなければそのまま無視するぞ」

『りょーかいっ』

 その言葉を聞いてから右手をスロットルレバーにかける。

 機体が前傾姿勢をとり、背部スラスタが展開する。あとはスロットルを押し込むのみ。

 軽い振動がコックピットに伝わってくる。

 この先の空間は既に戦場だ。気を引き締め、全神経を集中させろ。

 スロットルレバーを握り締める。

 恐怖はない。今はこの状況を抜けることを考えるだけだ。

 

「アサルト1……出るぞ!」

 

 

 

「っ、今の振動は……!」

 輸送機の揺れが伝わってきた。恐らく、この揺れは砲撃を受けたためだろう、と何となく予想がついた。

「なんで敵に襲われたりしてるんだよ……っ」

 なんで、と考えても答えは出ない。

 今確かなのは襲われているという現実のみ。

 ――― きっと、あのふたりは出撃したのだろう。

 輸送機なのだし、きっとPT乗りに違いない。

 

 ガァン、という衝撃。

 

「っくしょ……!」

 苛立つ。

 こんな状況にあって俺は動くことも出来ないのか。

 また……なにもせずに終わるつもりか。

 あの街の光景を――― 不条理な「死」を受け入れろと言うのか。

 あのアカい学校を、また再現すると言うのか。

 

「俺は――― また守れないのかよ……!」

 

 ふざけんな、と心で叫んで立ち上がる。

 その頭にちらつくのは赤い光景。

 燃える、光景。

 そんな――― 不条理な「死」のイメージ。

 

 あの時の俺には力がなかった。

 今の俺に力があるなんて言い切れない。

 

 ――― だけど。

「俺は、」

 ――― それでも。

「俺に出来る事があるのなら、」

 それはif。

 僅かな希望に縋って、ただ藻掻くだけ。

 

――― 止まってなんて、いられるかよ……!」

 

 駆け出す。部屋を飛び出し、通路を駆けて。

 目指すはあの昏いPTパーソナルトルーパー

 俺に皆を守る力がないとしても。

 俺はアイツを動かす力があるんだから。

 守れないなんて、決め付けられない。

 少しでも出来る事があるのなら、それだけを我武者羅にやり抜いてやるだけだ―――

 

「相沢!?」

「っ、北川!? それに香里も…っ」

 通路を走り、曲がろうとした角でバッタリと出くわした。

 なんでふたりがここにいる、という疑問は訊く前に答えられた。

「……あなたが心配だったから、ついて来たのよ」

 香里の言葉。

 その言葉に感謝を覚え、そしてそれを上回る決意をもたらした。

 

――― 悪いけど今はふたりの会話に付き合ってられない」

 

「相沢……?」

 その言葉に、何を感じ取ったか。

 北川は一瞬だけ驚いた顔をして、そして言った。

「お前、まさか」

「……わりぃな」

 その横を通り抜ける。

 その瞬間北川が俺だけに聞こえるような声で、

 

「絶対に帰って来いよ」

 

 一言、呟いた。

 

 

 

 

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