第13話
北米、ATXチーム
――― あつい。
全てが、目に映る全てのモノが燃えている。
草も、木も、家も、ビルも――― 人でさえも。
生きることを禁忌とするかのように、ただ業火を撒き散らす世界。
自分はどこまでも無力だった。
何も出来ない。
力と成り得るモノを操りながらも、自分が出来たのは既に手遅れだった。
もっと早くに動けていたなら。
もっと早くに気付けていたなら。
そんな後悔ばかりが責め立てる。分かっている。過ぎ去ったことは戻りはしない。
先を見ろ。
後ろばかりを見ていてはいけない。
分かっている。
そんなことは分かりきっているというのに。
それを認めてしまうことを恐れている自分がいる。
燃える世界にあって、力を持っていながら守ることの出来なかった自分を。
彼女を救えなかった自分を。
「 助 け て …… 祐 一 …… 」
そんな、声を。
聞こえていたはずなどない。それは確かに幻聴だ。
だけど――― 聞こえる。
そんな呪詛にも近い、自身を責め立てる声が。
全ての絶望の始まりが。
守れなかった自分自身への戒めが。
だから、一言だけ。
彼女の名を呟いて目を覚まそう。
目を覚ませばやることだらけ。そんな闇をも忘れてしまうほどに自分は大変な状況に陥っているのだから。
だから、さぁ目を覚まそう。
なぁ、名雪―――― 。
「ぅ、ん……?」
目を開けると映ったのはごちゃごちゃした天井だった。
コードやチューブ、意味も分からない電子機器。それらをぼんやりと眺めてから自分の置かれている状況を思い出した。
「――― 取り敢えず」
起きよう、と立ち上がって伸びをする。
まだ輸送機の中で、今どこにいるのかも分からない。
だから操縦室にいるであろうキョウスケに事の次第を訊こうと、扉を開けた。
「っと、え?」
「起きていたのか」
扉を開けたそこにはキョウスケが立っていた。祐一は予想もしていなかったために暫し硬直し、
「……何か用ですか?」
何とか復活してそんなことを言った。
「いや、そろそろ着く頃だからな。知らせておこうと思っただけだ」
「着く?」
「最初に言っただろう。北米のラングレー基地だ」
それを聞いて、あぁと思い出す。
もともとこの輸送機はその北米ラングレー基地へと向かっていたのだ。
祐一たちを拾ったのはたまたまで、もとよりそれが目的だったわけではない。
正体不明の未確認機があったがために自分たちの基地へと運び、調査するという追加の目的が出来たに過ぎないのだ。
「北川たちは?」
「既に降りる準備を始めている。尤も、荷物はないと思うが」
そうか、と頷いてから祐一は顔を上げ、分かりました、と返した。
「それとユウイチにはあの機体を格納庫に移すのを手伝ってもらいたい。頼めるか?」
「え、あぁはい。一応命を預けた機体だから、やりますよ」
「そうか。なら頼む」
ガゥン、と音を立てて後部ハッチが開いた。
ラングレー基地に到着した輸送機から機体を下ろす作業が始まる。
数々の声が上がり、整備の人たちであろうと思える姿が彼方此方に見え、機械音が不協和音を奏でていた。
そんなことを祐一はコックピットの中で見ていた。
「すげぇ」
正直な感想が漏れた。
輸送機から機体を下ろし、さらに格納庫まで歩かせて、指定された位置に立たせる。
そんな作業を終えてから周りを見回して、そこにあった数々のものに驚く。
まず、PTが多い。
キョウスケのアルトアイゼンやエクセレンのヴァイスリッターは既に見知っているが、他には知らない機体が多い。
何かの雑誌か、それとも映像で見たのか覚えていないが、なんとなく見覚えのある機体も多い。
ゲシュペンストも従来の青い機体だけでなく、白い機体まであったのが印象的だった。
いや、それよりもインパクトの強いものがあった。
どんなPTをも凌駕する巨体。
PTのようなリアルロボットとは一線を画する存在感を圧倒的に与える、そのスーパーロボット。
名前を――― 、
「グルンガスト弐式、かぁ」
ディスプレイに表示された機体情報を見て呟く。
基本的に自分は素早く動き回れるものを好むが、それでも自身の奥底にあるスーパーロボットへの憧れは隠せない。
あの巨体で敵を蹴散らす姿は、さぞ圧巻だろう。
『ユウイチ』
「……ん?」
コミュニケからキョウスケの声が聞こえた。
『降りて来い』
簡潔な用件のみの通信だった。
その簡潔すぎる内容に半ば唖然として、それでも降りるしかないと判断してコックピットハッチを開けた。
「何ですかキョウスケさん」
「紹介しようと思ったんだが……」
見てみろ、と視線で示された先にあった光景は息を呑むほどの――― 戦闘だった。
「あれ、は」
知らず声が漏れていた。
それほどまでに衝撃的だったわけではない。だが、それでも何か。
何か惹き付けて離さないものを祐一は感じ取っていた。
「ヒュッケバインMk−U……乗っているのはブルックリン・ラックフィールド少尉だ」
そんなキョウスケの説明も祐一の耳には届いていなかった。
いや、届いてはいた。ただ、頭がそれを聞こうとしていない。
魅了されたのはその機体ではなかった。
機体を操る操者――― その寸分の狂いなく敵を認識する動きに、魅了された。
どうしてあんな動きが出来るのだろうか。
その模擬戦の様子を眺めながら祐一は呆然と呟いていた。呟きは本当に小さく、周りの喧騒のせいもあって誰の耳にも届かない。
ただ、その戦闘の眺め続ける。
あの機体――― ヒュッケバインMk−Uの動きは理解できない、それでも何故か理解できてしまう、そんな動きをしていた。
相手にしている三機のゲシュペンストは追い詰めるかのように陣形を組んでいた。
一機が注意を引き、一機が体勢を崩させ、一機が仕留める。基本でありながら、それ故に最も効果的な戦術。
――― しかし。
その中心にいるヒュッケバインMk−Uには焦りというものが見られなかった。
正面、引き付ける役のゲシュペンストがマシンガンをばら撒く。――― フィールドにより防御。
左方、体勢を崩させる為に連続で放たれたスプリットミサイル。――― 右手のライフルを発射、爆破。
後方、止めとばかりに間合いを詰め、ジェットマグナムを放つ。――― 振り向くこともなく後方へとチャクラムを射出。
そんな流れるような動作をやってのけたヒュッケバインMk−Uにダメージは何もなく、逆にゲシュペンスト三体は一瞬で全機着弾していた。
ペイント弾だったのだろう。青のボディを真紅に染め上げられたゲシュペンストは情けなく映った。
だが、それでも祐一の意識はヒュッケバインMk−Uへと向いていた。
正直な感想はまず、凄い、という一言。どこがどう凄かった、じゃない。どこもかもが凄かった。
あれは違う。
キョウスケやエクセレンの様に数多くの戦場を越えての直感が齎した動きではない。
もっと根本から、相手を認識するその方法が違っている。
見ているんじゃない。感じているんだ。
そんなことを思った。そして祐一はその感覚を――― 知っていた。
「よし、模擬戦終了だ。ブリット、戻って来い」
『了解です、キョウスケ中尉』
キョウスケが通信機でヒュッケバインMk−Uの操者であるブリットへと告げていた。
「……キョウスケさん」
「ん?」
「あの人が――― 」
「そうだ。アイツが俺達ATXチームの、もうひとりのメンバーだ」
その声を聞きながら、祐一は違うことを思っていた。
キョウスケさんと、俺達は何かが違う。
そんな、直感に近い確信を。
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