第17話

変化した日常

 

 

「もらいっ!」

 嬉々と上げられた声と、響く銃声。

 左手に構えたバーストレールガンから放たれた弾丸は吸い込まれるようにゲシュペンストの胴体を貫いた。

 その様子に満足気に歓喜を示し、それでもなお、祐一は次の標的めがけて機体を走らせた。

「ユウイチ、先行しすぎだ!」

「ターゲットを堕としてんだから、問題ないだろ……、っと!」

 さらにトリガ。後続しているキョウスケとエクセレンをも引き離しての単独戦闘。

 もとより機動性で上回るのだから、引き離すこと自体は簡単だった。

 そうなれば独断場。誰よりも早く、敵を撃破する。

「へへっ、大したことないな」

 さらに一機を屠って、満足気に祐一は言った。

 

 ――― あれから、すでに一週間が経った。

 基地でのシミュレータを通して分かった、祐一が持つ念動力の素質。

 その素質の有無と、さらにはPTの操縦、戦闘。

 それらを行って元の生活に戻れるはずがなかった。

 基地で言われたのは、ずっと監視の目がつく日常か、軍への協力か、という二択だった。

 

「そこ、っと!」

 振り向きながらバーストレールガンを連射。高速で放たれた弾丸は後ろから迫っていた一体を穿ち抜く。

 さらにその勢いのまま反転、背後に爆発を聞きながら前方へ機体を左右へ蛇行させながら走らせる。

 レーダーに目を通す。

 上空から、数機の機影が迫っていた。

 

 すぐに二択の答えを出せたわけではない。

 北川や香里とも相談した。

 その結果が――― 軍への協力、といったものだった。

 

 テスラドライブを起動させて飛び上がると同時に、右椀部に内蔵されたガトリングを連射。

 それを威嚇に使いながら距離を一気に詰める。

 反撃を試みようとしたガーリオンは、反撃するよりも早く、斬り捨てられた。

「おっせぇ――― っぜ!」

 一瞬だけドライブを停止、急落下を始める機体に全身のアポジモーターで制動を取ると同時に方向転換。後ろへ回り込むことをイメージしつつ、瞬間でドライブをフル稼働させる。

 真下を通り、後ろへ回りこまれたもう一機のガーリオンは反応するよりも早く腰から肩へと斜めに断ち切られ、爆発する。

 

 監視のついた日常は日常ではない、というのが見解だった。

 それに、祐一は正直、知りたかったのだ。自分の知らない、自分自身を。

 そして――― 無意識に、あの街に戻ることを避けていた。

 北川と香里はそのことをぼんやりと感じていたが、何も言いはしなかった。

 

 爆発を煙幕に立て続けに銃声が轟く。

 電磁誘導で放たれた高初速弾頭は最後の一機を事もなく貫いた。

 空に炎の華が咲いた。

 その炎に黒のボディを染め上げながら、祐一の機体――― アインザムガイストはゆっくりと地上に降り立つ。

「いよっしゃぁ!」

 その中で祐一は歓喜の声を上げた。

 

 

 軍への協力を選択してからは、日々がこんな感じだった。

 訓練、と言う名のシミュレータ演習。

 PTの機構についての講義。他にも基本的なことはいろいろと習うこととなった。

 それは何故か北川と香里も受けた。

 だが実際にシミュレータを行ったのは祐一だけだった。

 実際祐一はシミュレータの中で北川や香里に会った事がない。

 

 今回も例に違わずシミュレータ演習を行っていた。

 内容はターゲットの撃破というオーソドックスなものであった。そのターゲットとして選択されたのがゲシュペンストとガーリオンだった。

 ゲシュペンストによる地上戦。ガーリオンによる空中戦を想定したものだろう。

 祐一にとってすれば、それは慣れないもののはずだ。

 実戦を経験したのは二度のみであるのだから、その考えは間違いではない。ただ、それが実戦であれば、の話である。

 

「ユウイチ、何度言ったら分かる」

 演習を終え、休んでいた祐一にキョウスケが声を掛けた。その声には微かな苛立ちか、呆れが混じっていた。

 祐一はキョウスケの言葉に顔を上げた。

「先行しすぎ、って言うアレ?」

「そうだ」

 祐一の確認の言葉に、簡潔にキョウスケは返した。

 ――― この一週間の間で、祐一はキョウスケたちに対する口調を変えていた。堅苦しい、というのもあったのかもしれないが、一番大きな要因はエクセレンの注文だった。曰く、堅苦しいのはダメなのよねー、とのことだ。

「単独での戦闘はリスクが大きすぎる。そうするしかない状況ならまだしも、他を引き離してまで行う必要はないはずだ」

「まぁ、そうだけど」

「それにお前は楽しんでいる節が大きすぎだ。ゲームではないんだぞ」

 そんな、軍人にしてみれば当然の言葉に、祐一は。

 

「?」

 

 心底、意外そうな顔をした。

 

「なんで?」

――― なに?」

「え、だって、ゲームじゃん」

 本当に、意外そうな声。

 他の意図があるわけでもない。純粋に、祐一はあれをゲームだと思っている。

 如何にあれが本物に限りなく近づけた戦闘シミュレータだとしても、どこまでも本物に近いものだとしても。

 それは、現実の世界ではないのだから。

 現実の世界ではなく、アレは仮想の世界だ。

 何があっても、自分に危害が及ぶことなどないのだ。ゲームという認識になるのも頷ける。

 それに第一、祐一は軍人ではないのだから。

 

 それが分かったキョウスケは何も追求はしなかった。

 確かに祐一は軍人ではなく、シミュレータはゲームと大差ないのかもしれない。

 そういった認識は許せるものではないが、それは現実の戦場に出たものに対してだ。祐一のように、戦場に出ないものにまで感じる必要はない。

 だからキョウスケは、

「分かった。だが、次からは止めてくれ。集団戦闘というものも意識してみろ」

 諦めの感を含んで、言った。

 そのキョウスケに祐一は笑顔で応える。

 

「おうっ」

 

 

 

 

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