第49話 過 去 を 知 る者
「祐一…どうして、ここに…?」
夏杞は混乱していた。眠っていた祐一がここに居るということ。それも、堕天使として。
「相沢夏杞か…。お前に用はない。いま俺が用があるのはこの悪魔だからな」
だからさっさと失せろ、と付け加えて、堕天使と化した祐一は悪魔の青年、ヴェルフェゴールと向かい合った。
動けない夏杞はエネルギーが枯渇しかけているためか、膝から崩れ、腕を支えにしながら苦しげに息を吐く。
「その【黒ノ風】…お前、あの堕天使、か?」
「ふん、一応覚えていたようだな。あぁ、
なり はこんなのだが、お前の思っている通りだ」不適に笑みを浮かべ、祐一は右手にエネルギーを収束させた。
「―――俺には、お前と殺り合う理由がないんだがな」
「お前になくても、俺にはあるのさ。あの時のこと、俺は忘れちゃいない…!」
「あれは―――」
「今更御託はどうでもいいッ!」
ドン、と祐一の足裏で爆発が生じた。
数メートルの距離を祐一が一瞬でゼロにする。
肉薄した祐一は【黒ノ風】を纏った右手をヴェルへと突き出した。
だが、祐一のその能力を知っているヴェルは捌こうとせずに、ソレを右手に旋回するようにして躱すと、そのままの勢いに、反撃とばかりに隙だらけの背中に拳を叩き込む。
しかしそれは祐一にも予想できていたこと。
すかさず右にステップを踏み、回避すると、今度は逆にヴェルの突き出された腕を掴む。
そのままその腕を引き寄せ、空いていた逆の拳を腹にぶち込む!
「かは…っ」
胃液が逆流しかけるのを堪えて、地面を蹴りサマーソルトで祐一の下顎を狙う。
祐一は寸でのところでソレを回避したが、掴んでいた手は離してしまい、ヴェルとの間合いが一瞬で開くことになった。
「く、ぅ…っ。あの時のことは、仕方がなかったと、言っただろう…!?」
「仕方がなかった!? アイツが死んだのはお前のせいだろうがッ!! それに―――――」
痛みが抜け切れていないヴェルへと、再び祐一が疾駆する。
「御託は今更いらないと言ったッ!!」
両手にエネルギーを収束、それを【黒ノ風】と成すと、祐一は左右を連続的に放った。
触れれば消滅させられる。よって避けるしかない。
だがこんな狭い廊下ではそれは至難の業。
だからこそヴェルは、
「くそっ!」
能力を発動させた!
空間が軋みを上げる。
普段聞き慣れない音が廊下に響き、その音と共に黒ノ風が消え去った。
これがヴェルフェゴールの能力、祐一が言った【
鳴動する血 】の力。
空間を削り取る。
それがその能力の力。
黒ノ風が物理的に全てのものを消去するのに対し、この能力は空間という目に見て分からないものを削り取ってしまう。
黒ノ風はそこに存在するものを消し去るだけで、それは破壊することと大差はない。
だが、この能力は、完全に無≠ヨとする。
空間を削り取れば、その削り取られた空間には
何も無くなる 。当然無となった空間を、世界がそのまま放置するわけがない。
世界は矛盾を正そうとする。
よって削り取られた空間は、すぐに塞がれてしまう。
だが塞がれるまでの僅かな時間、そこは確かに無がある。
無の空間には何も存在できない。
つまりそこを通過しようとすれば、その無の空間に入った瞬間に、その向かいの存在している空間へと抜けるのだ。
これはワープと変わらない。
無の空間を、一瞬で通過する。
だからこそ超高速の移動が可能なのだ。
しかしそんな能力にも制約はある。
空間を削り取ることが出来るのは、その空間に何もない時に限られる。
つまり削り取ろうとした空間内に何か物体が存在していては発動しないのだ。
だから風などを一緒に削り取ることは出来ても、ナイフなどを削り取ることはできない。
何も無い、外などの開放的な空間ならばその能力は真価を発揮できるが、物の多い室内などでは使い勝手の悪い能力なのだ。
今居る廊下は、ギリギリ使える、といった具合だ。
【黒ノ風】を消された祐一は咄嗟に脚を止め、後ろへと身を投げることで距離をとった。
空間を削り取られているため、間合いは視認しているよりも狭い。
それもその削り取られ無≠ニなっている範囲がどの程度か分からないために下手に攻め込むことが出来ないのだ。
「…本当に、殺る気か?」
今まで其処まで鋭くならなかった眼光を、初めて鋭くさせて。
悪魔ヴェルフェゴールが殺気を解き放った。
「…」
びりびりと空気が震えるほどの圧力を持った殺気を前に祐一は何も答えず、ただ左手を前に、右手は後ろへ引き絞った。
それが答え。
意味を汲み取ったヴェルは、夏杞に投げたものと同じナイフを抜き、両手に合わせて6本を構えた。
腕を目の前でクロスするように構え、一呼吸の間をおいて全てを投擲する!
空気を切り裂いて飛来するナイフを前に、祐一は己のエネルギーを高めた。
ナイフ―――物質ならば消し去るのみ!
両手に漆黒という言葉が浮かぶ風を生み出し、迎え撃つ!
―――が。
そのナイフは祐一の予想外の動きをとった。
「【
鳴動 】」そんな呟きを聞き逃していたら、さらに事態は悪化していたに違いない。
飛来していたナイフは、その目の前に空間を削り取られたことによって一瞬で距離を詰め、目の前にまで至っていた。
「ッ!」
呟きに反応して能力を奔らせる。
よって何とかナイフを消し去ることが出来たが、その瞬間に隙がうまれた。
反応するより更に速い。
一瞬の間に距離を詰め、襟首を掴み、地面へと叩きつけられる!
「が…っ!?」
叩きつけると同時に全体重を乗せた肘を叩き込まれたため、呼吸が儘ならない。
だがそんな祐一に追い討ちをかけるように振り上げられたナイフが目に映った。
「―――こ、のォ…ッ」
ヴェルを振りほどくため咄嗟に圧倒的圧力をもった風を放ち吹き飛ばすと、素早く起き上がり再び間合いを取る。
呼吸を整えながらも視線は鋭く絡み合ったまま。
その視線だけで相手を殺せそうなほどの殺気を撒き散らしながら対峙するふたりの間、空気が比喩でなく凍結する。
ふと、ヴェルが右手を目の前に掲げ、そのまま袈裟を斬るように振りぬいた。
ゴゥと音を立てて湧き上がった黒の奔流が右手に収束し――――
「バイス――――」
闇よりもなお昏い大剣がその右手に握られた。
殺気がさらに加速する。
その殺気と、剣が発する圧力に押され、背筋が凍る。
圧倒的恐怖。
「堕天使―――お前には俺を倒すことはできない。さっさと消えろ、さもなくば――――」
殺気はさながら氷の矢。
心の臓を貫き、すべてを凍りつかせる。命を奪うのはその殺気。刃をもった殺気は否応なしにすべてを切り裂く。
身体の奥底から響く恐怖と、必死に命じている逃げろ≠ニいう命令を強引に押さえつけ、なおも目の前の悪魔と対峙する。
もはや勝敗など見ずとも知れる。
だが引くことは許されず。
天を堕ちた存在に有るのは復讐という名の―――過去を引く刃のみ。
両の手に【黒ノ風】を生み出し、それを加速させる。
漆黒の風は渦を巻き、堕天の者を包み込む。
まるで蛇の如く。
這え摺る蛇は黒。すべてを消し去る殺気の具現。
だがしかし、それでもヤツには及ぶまい。
――――ドンッ!
溢れる恐怖を押え込んで、目の前の悪魔へと地面を蹴る。
「ぁぁぁああああああああぁああああああぁぁああああああッ!!!」
堕天使が漆黒の風を奔らせ、同時に悪魔も昏い大剣を空気を裂くようにして振り抜く。
びりびりと空間を震わす程の殺気の中、
堕天使と悪魔は最後の激突を果たした!
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