目覚めは最悪。
 いつ眠ったのか、そんなことはまったく記憶にはない。
 ただ目覚めは最悪――いや、まだ目覚めてもいないのかもしれない。
 目覚めていないとすれば、これは夢ということになる。ならば何の夢なのだというのか。
 よくワカラナイ。
 よくワカラナイが、この夢は間違いなく、いつかの記憶だ。
 記憶として呼び起こせないほどに深い、深い位置に格納されたデータ。そのデータは断片しか残っていないほどに古く、そしてまた、傷だらけであった。
 その記憶を呼び起こしてはいけない。
 警鐘が鳴る。
 その警鐘を無視してデータに手を伸ばし―――


 目が覚めた。
 全身汗だく、目覚めの気分は最悪のふた文字。
 浩司は気だるい身体を引きずって寝床から這い出ると、思いっきり伸びをした。
 朝の空気は冷たく、混濁していた意識を引っ張り起こしてくれる。カーテンを開ければ朝日も部屋の中に零れることだろう。
「気持ちわる……」
 全身汗だくなのは、どうしようもなく不快だった。
 時計を見ればいつも起きる時間よりもかなり早い。朝の弱い浩司にしてみれば奇跡とも言える時間だ。シャワーを浴びるくらいなら問題はないだろう。
 などと考えたときに、頭に鋭い痛みが走った。
「っ……」
 痛みは一瞬。
 その痛みは、浩司に昨夜の記憶を呼び起こさせるには十分すぎた。

 半分の月が覗く、誰も通らない路地。
 跋扈する、見たこともないなにか。
 月光を弾く、鋭いエッジ。
 そして、少女。
 
 考えてみればまるで夢のようで、他人に聞かせれば頭の異常だとバカにされそうな出来事だった。
 考えれば考えるほどに、夢だったのではないかと疑ってしまう。それほどまでに現実離れした怪異。
 そのまま夢だと意識が確定できれば、どれだけ楽だったのか分からない。
 だがそれは無理な話だった。
 浩司は他者の非現実が現実で、非現実は現実としてこの世に存在しているのだと認識していた。
 だから夢だとは言えない。

 ―――非現実が、現実になるから。

 少女の言葉を思い出す。
 非現実が現実になるなど、もはや今更としか言えない。
 あれほどまでに現実から乖離した出来事を目の前で見せられて、それでも目を逸らせられるほど現実に生きてはいない。
 ハッと浩司は哂った。
 どうせアレコレ考えたとしても意味はないのだ。
 怪異はもはや過ぎたものであり、時間が逆行するわけでもない。
 つまりすでに無関係。怪異は一時の非日常として解決したに過ぎないのだ。
 だから今から始まるのは平凡な日常。
 学校に行って、つまらない授業を受ける。そんな、誰も彼も同じ日常を謳歌するだけ。


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