目が覚めた。
ゆっくりと体を起こして周りを見回してみると、自分の知らない場所だということが分かった。
「あれ……?」
ぼんやりとした思考のまま考える。
どうして自分がこんな場所にいるのか――と少し思考した時、ずきり、と頭が痛んだ。
同時に襲った眩暈をやりすごし、深く深呼吸をすることで痛みも止める。
「はぁ……」
ため息。痛みのせいで思考はクリアになっていた。昨日の記憶も瞬時に思い出す。
「そっか、あの時倒れて……」
倒れて、どうなった。
あの時、最後に見たのは凪の姿。きっと凪は悪霊を退治しただろう。それから倒れているふたりを介抱してくれたのか。
「目が覚めたかい?」
「え?」
掛けられた声に振り向くと、そこには白衣を着た若い男の人が立っていた。
後ろ手でドアを閉め、手近の椅子を引き寄せて座った。
「あの、ここは」
「ここは診療所だよ。君の倒れていた場所から一番近い、ね」
白衣の男性は浩司の額に手を当てながら答えた。その慣れた仕草からも医者だということは確信できた。
「昨日の晩、ちょうど買い物の帰りのことだ。いつもの道を車で走っていたら、君たちが倒れていたってわけだ」
「君たち……?」
その言葉に男性は浩司の横手を顎でしゃくった。
つられるように見れば、そこには氷が眠っていた。苦しそうな素振りはない。寝顔は実に穏やかだ。
「ちょっと酷めの過労だね。休んでいればそのうち目を覚ますよ」
「そうですか」
安堵する。
これも全て凪のおかげだ。彼女がいなければ、恐らく二度と目が覚めない状態になっていたかもしれない。
「そうだ、凪は」
「凪? あぁ、君たちを介抱してた子か。あの子なら家に帰らせたよ。もう陽も落ちてたし、最近は物騒だからね」
「分かりました。……あの、ところで今何時ですか?」
そう浩司が訊くと、男性は腕時計を見て、
「午後七時を過ぎた辺りかな」
一日近く眠っていたのだということを告げた。
「どうする? 帰るかい?」
車で送るけど、と続ける。
浩司はまだ体が本調子でないこともあって、その好意を受け取ることにした。
「お願いします」
言う浩司の中に、ひとつの決心があった。
今までにないくらいに強い誓い。
「……絶対に」
自宅へと向かう車の中、浩司は小さく、そして力強く呟いた。
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