そこには静寂が満ちていた。
普段はそれ以上ない、と思わせるほどの歓声が乱れるこの場所も、今は呼吸の音ですら聞こえないほどに音を失っていた。
インフェリア闘技場。
この静寂――人がいないわけではない。いや、むしろいつもより多いくらいだ。
だが、誰一人として言葉を発することの出来るような状態じゃなかった。
闘技場の中心で、ふたりの者が対峙している。
その内のひとりはすでに傷だらけだ。方膝をつきながらも剣を杖にして倒れまいとしていた。
もうひとりは傷が浅い。が、油断も隙もまったく見せずに相手を見据えたまま微動だにしない。
「くそ…、こんなところで負けるわけにはいかねぇんだ…!!」
方膝をついていた剣士が、その剣を持つ手に力を込める。
そしてリッド・ハーシェルゆっくりと立ち上がる。勝敗を、決すために――!
ABILITY TEST
− 時空剣士 その名は −
リッド達は王都インフェリアに立ち寄り、そこの闘技場にやってきていた。
腕を試すこと、そして自分の腕に磨きを掛けるにはもってこいの場所であるこの闘技場に訪れることは珍しくなかった。
実際にリッドはすでに王国一とまで認められ、そのリッドを目標にしている人も少なくはないだろう。
「ねぇリッド、世界一決定戦に出てみたら?」
ファラが唐突に言った。
上を目指すのは当然のことだ。その言葉も意外ではないだろう。
「世界一か? そうだな、やってみるか…」
そう言い、決断の後は即行動。リッドは受付に向かった。
※
数分の待ち時間の後、とうとうリッドの出番となった。
「じゃあ、行ってくるぜ」
ゲートの前に立ち、仲間たちにそう言う。
「リッドぉ、がんばるよ〜」
「無様な姿はさらすなよ」
「がんばってね、リッド」
仲間たちの応援の言葉を受け、それを力へと変えるように胸に抱く。
「あぁ、まかせとけ」
一言だけの返答をし、リッドはゲートをくぐった。
この先にあるのは、世界一を決めるための戦いだけだ。
※
――リッドは順調に勝ち進んでいった。
そこいらの相手では敵にならない、そんな感じさえ受ける。
一回戦、二回戦、そしてこの第三回戦、すぐにでも決着がつくだろう。
「魔神剣・双牙ッ!」
リッドの剣より放たれた二筋の衝撃波が大地を抉りながら相手に迫る!
回避を試みるが、あまりの速さに反応しきれずに直撃した!
その直撃は、リッドの勝利を揺ぎ無いものにするのに十分だった。
この一撃を受けた相手はその場で昏倒し、同時にリッドは世界一の称号を――得れなかった。
「見せてもらったよ、君の戦い」
「っ!?」
唐突に声を掛けられた。
驚き、瞬時にそこを飛び退きつつ声のした方向を見据えると、そこには――純白の鎧を身に纏った青年が立っていた。
いつの間にこの中に入ってきたのか、気配も何も感じさせなかった。
――只者ではない。リッドは瞬時にそれを察した。
「僕の名はクレス。クレス・アルベイン。僕のアルベイン流剣術と君の剣術、どちらが上か腕試しをしないかい?」
突拍子のない話だった。
いきなり乱入してきたかと思えば、自分と腕試しをしろ、と言う。
だが、リッドはそこで断るようなキャラではなかった。
「いいぜ、やってやろうじゃねぇか」
ひとこと、ひとことだけの返答だけで十分だ。
剣を抜き、腰を落とすようにして構える。
「よろしくたのむよ」
対するクレスも嬉しそうに剣を抜き、地面擦れ擦れに切っ先がくるように構える。
初弾のきっかけは、リッドが作った!
「魔神剣ッ!」
衝撃波が生まれ、クレスへと襲い掛かる!
だが、それは最初から予想されていたかのようにあっさりと避けられてしまった。
「甘いッ、魔神剣はこう使うんだ!」
回避行動からそのまま攻撃行動に転換させる。
戦闘前の穏和な声とは違う。すでにその雰囲気は戦士≠ニなっていた。
クレスが魔神剣を放った! その威力はリッドと引けをとらない。地面を抉りながら迫る衝撃波を前に、
「へッ、なにが違うってんだ!」
左に飛ぶことで避ける。
ドゴンッ!
「――!?」
が、何かがリッドの体を弾き飛ばした。
今避けた魔神剣とは違う。
直撃したのは――第二波だ。クレスはリッドの回避する行動すらも読んでいたのだ。いや、正確にはそうなるように誘導した。
クレスがはじめに放った魔神剣は、クレスから見て左――リッドから見て右に少し弧を描くように走ったのだ。
それを見たリッドは咄嗟に左が安全だと判断し、その方向に飛ぶ。――そこを突いた。
「く…ッ、やるじゃねぇか…!」
体中に走る痛みを気力で押さえつけて、剣を構える。
間合いに入らなければ、戦うことも出来ない!
そう判断し、一気に斬りかかる。
速い!
リッドは一瞬でクレスとの間合いを詰めた。
そして、そのままの勢いで斬撃を繰り出した!
ギィン…!
が、それすらもクレスの剣に受け止められてしまった。
「まだまだ、踏み込みが甘いよ…!」
「くっ!」
ギン、ギイン、ガギン、ギン、ギン――――
鋼と鋼がぶつかり合い火花を散らし、その音が響き渡る。
リッドの執拗な攻め。休むことなく斬撃を繰り出す。
しかし、薙ぎ、突き、払い…そのほとんどが受け止められ、流されていた。
そしてとうとう、攻めに出たはずのリッドはいつのまにか攻められる側の立場になっていた。
押されながらも数回、隙をついて攻撃を仕掛けていた。…が、そのダメージ差は歴然。
攻撃し続けているクレスと、隙をついての攻撃を数回しただけのリッドではさすがに差がある。
リッドは、あまり持ちそうにない。
「ぐゥ…」
そして、とうとうリッドは方膝をついた。剣を杖にして、倒れないようにするのが精一杯だった。
周りは静まり返っている。そう…、まるでこの空間にリッドとクレス、この二人しか存在していないかのように。
「くそ…、こんなところで負けるわけにはいかねぇんだ…!!」
言って見上げた先に仲間たちの姿が映った。
− リッド −
声が…
− 大丈夫、まだ終わりじゃないよ −
声が聞こえた気がした。
(そうだ…。まだ終わりじゃない…)
ぐっ、と剣を握る手に力が篭った。
ここで負けているようでは、世界は救えない。グランドフォールを止めることはできない。大切な人達を守ることも――。
そんな思いがリッドを奮い立たせる。絶対に負けるわけにはいかない≠ニ。
ゆっくりと立ち上がり、そして目の前に立つクレスを見据えた。
(何かが違う、な…)
クレスは何かを感じ取っていた。
さっきまでとは何かが明らかに違う。迷いの吹っ切れたような、意思の強い瞳をしていた。
今油断をしたら、その瞬間に終わる。
クレスがリッドの動きを見極めようと集中する。
対するリッドは剣を下段に下げ――
「魔神剣・双牙ッ!!」
叫ぶと同時に鋭く振り上げた!
発生する二筋の衝撃波、その両者が常人では避けられないほどの速さでクレスに迫る。
「これくらい…!」
が、クレスは常人とはかけ離れていた。
動きを見極め、それを横に跳んで避ける。
――が、再びリッドへと目を向けたとき、そこに衝撃が走った。
リッドの姿が消えていた 。(どこだ!?)
そう思ったときにはすでに遅い!
「くらえェ! 空破絶掌撃ッ!!」
声はクレスの背後から発せられた。
一瞬の、魔神剣・双牙によりクレスの視界から外れたその一瞬にリッドは背後に回りこんでいたのだ!
「くっ!」
クレスは驚きながらも防御しようとするが、強すぎる剣圧に弾き飛ばされてしまった。
リッドは、今しかないと攻める!
クレスも体制を立て直しながらこれを受けていく。
――前とは違う!
リッドは攻め続けていた。隙がない。想いの強さが、そのまま剣の強さになったかのように。
クレスにも、確実にダメージが蓄積されていく。
「「鳳凰天駆ッ!」」
二人が同時に飛び上がり、そして激突!
力はほぼ互角。周りを力と力がぶつかり合って生まれた余波が駆け抜ける。
はじめは圧倒的なクレスの強さに一言も発せずにいた観客たちも、今では大声を張り上げて二人の応援をしていた。全ての者がこの戦いに魅入っていた。
二人は着地すると同時に走り出す。
そして、クレスが先に攻撃に移った。
「空間翔転移ッ!」
ヴンッ、という音を残してクレスの姿が溶けた。いや、その場から消え去った。
チキ…ッ
リッドが動きを止め、剣を構えなおす。
気を抜けない。もし、ここで気を抜いたらその瞬間に真っ二つだ。
(……後ろ!)
背面に奇妙な空気の流れを感じ、反射的に横に飛ぶ。
その判断は正しかった。
リッドが元いた所の上空にクレスが現れ、その地点を斬り裂いたのだ!
避けていなかったら確実にやられていた。
――だが、クレスの攻撃はまだ終わっていない。空気の流れが変わる。一定ではない。不規則に変わり続けていく!
「次元斬ッ!!」
クレスが飛び上がり、青白い空間が広がった。
空気の流れも何も感じない。さっきとはまったく別の次元≠セ。
そこをクレスは斬り裂いた!
次元斬――読んで字の如し。次元を斬る≠サんな技を受けひとたまりもあるはずがない。
だが、リッドは寸でのところでヒッティングポイントをずらしていたのだ。
それにより、今のは決定打にはなっていない。
だが大きく弾き飛ばされ、ダメージは多かった。
「け…かはっ」
口から血塊が零れる。そのまま崩れ落ちかけたが、何とか踏みとどまった。
口元の血を手の甲で拭い、クレスを見据える。
クレスも、リッドと同じように
苦しそうな顔をしながら血を拭っていた 。さっき、ついさっき次元斬によって弾かれたとき、リッドは不安定な体勢ながらも渾身の力を込めて魔神剣を放っていたのだ。
至近距離で受けた魔神剣の衝撃がクレスにも多大なダメージを与えていた。
二人とも限界は近い。次の一撃ですべてが決まる、それは確かだった。
((次の一撃で終わらせる…ッ!!))
クレスが最後の力を振り絞って自らの剣に全てを託す。
リッドも握る手に力を込め、そうしながらも自分たちの目的を思い出す。――そう、負けるわけにはいかない!
「アルベイン流、最終奥義!! 冥・空・斬・翔・剣ッ!!!」
クレスの剣が、蒼い光を纏った!
絶大な力が空気を揺るがし、うなりをあげる!
そして、それに共鳴するかのように、リッドの剣が金色の光を放つ!
「俺たちは、こんな所で止まるわけにはいかねぇんだッ!! 極・光・剣ッ!!!」
蒼い光と、金色の光が正面から激突した!
蒼と金が混ざり、全ての力がそこに注がれていく。
だんだんと膨れ上がる光。
お互いがお互いを打ち消しあうかのように相乗して膨れ上がっていく!
光は留まることなく膨れ上がり、最後には闘技場を完全に包み込んでしまった。
その中心で、ふたつの影が、交差した――――――――
光がおさまる。ふたりは互いに背を向け、剣を構えたまま動かない。
「どっちが勝ったの…?」
ファラが呟く。その瞬間、動きが生まれた。
一方が倒れた。そしてもう一方は立っている。剣を高く掲げ、勝利を示していた!
『勝者――――リッド・ハーシェル!!!』
歓声が巻き起こった。今までよりもさらに大きく。
「リッドの勝ち〜〜♪」
「やるじゃないか…」
「よかった…、リッド…」
メルディもキールもファラも…。全員がリッドの勝利に喜んでいた。
「へへ、やったぜ…」
リッドも安心して腰をおろしていた。多大な傷のせいもあって、あまり動きたい気分でもない。
――そこに声をかけられた。
「僕の負けだ。…君にならこれを渡せそうだね」
言いながら、クレスがリッドに一本の剣を手渡した。
「これは…?」
急なことにリッドは狼狽していた。その渡された剣は、今の戦いでクレスが使っていた剣だったのだ。
「エターナル・ソード。時の力を秘めた魔剣さ。これからの旅に役立ててくれないか?」
「でも…いいのか?」
至極当然の疑問だ。自分の剣を、しかもどう見ても特殊なこの剣を渡せるものなのだろうか?
(いや…)
「――あぁ、ありがたく受け取っておくぜ」
リッドは、そう言った。
ここまで戦った相手だから、だからなんとなく分かる。
クレスが受け取って欲しい、と言ったのだ。ここで受け取らないほうが戦った身として失礼だ。
「君と戦えてよかったよ。それじゃ」
クレスがリッドとは逆のゲートへと向かい、背中越しに言った。
「俺も、戦えてよかったぜ」
リッドも自分の剣を収めると、今受け取った剣を片手にそこから出た。そこには、
「おつかれさま、リッド」
「世界一だな♪」
「よくやったよ」
仲間たちが笑顔で迎えてくれていた。リッドの表情にも自然と笑顔が浮かぶ。
世界を守るために、いや…大切な人たちの笑顔を失わせないために、リッドはこれからも戦い続けるだろう。
そう…、笑顔を、守るために。
END...
あとがき
完・全・修・正ッ!
修正というより改造と言ったほうがいいかもしれないです。ファイルサイズも結構増えたし。
にしても、これ書いたときは文章表現ヘタだったんだねぇ…。直して行くうちに恥ずかしくなりましたよ。
でもまぁ、かなり直したから取り敢えずは納得かな?
えーと、内容は読めば分かるようにリッドvsクレスです。
エターニアのあの一戦ですね。
くわしい説明なんていらないと思うんで、とくには言いませんが…
何と言うか、感想もらえたら嬉しいです。
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