ふたりの想い − Happy Happyまでもう少し? −
ちゅっごぉぉぉぉぉん!!
「待てェーーっ、こらァーーーッ!」
「待つくらいなら…逃げねぇよッ!」
「とにかく待てェーーーー!!」
ずどががががぁんッ!!
こんな騒動を巻き起こしているのは、当然の如くアーチェとチェスター。
前の件でお互いが反省し、謝ったこともあり、こんなことはもう起きないかと思われたが…やはり日常的になるとそれもかなわないらしい。
「だ・か・ら! アタシの
特性 クリームシチュー食べてったら!」今回の騒動の理由はソレらしい。
「なんで
赤い クリームシチューを食わなきゃいけねぇんだッ!?」アーチェはミントに料理を習って上達してはいるのだが、完璧とは決して言えない。
今まで安心して食べていたら――今日のコレだ。
「色なんて別にいーじゃん! とにかく食べてみてよっ!」
「ぜってぇ食わねェーーーッ!!」
「こんのぉ…! 天光満つる所に我は在り 黄泉の門開く所に汝在り!(超早口)」
怒りに身を任せ、詩のような言葉を紡いでいく。
「な!? お、おい! ま、待てっ!!」
その詠唱の示す魔術を悟り、焦りが表れる。
何度も喰らってはいるが、さすがに慣れるモノではない。
「――出でよ、神の雷! ……待つわけないじゃん! インデグニションッ!!」
詠唱を唱えながらでもチェスターの言葉を聞いていたのか、しっかりと答えてから、魔術を発動させた!
雷属性最強呪文−
INDIGNATION −憤慨を指すその言葉、それは…怒りの度合いが高ければ、高いほどに威力を増すのかもしれない。
今のコレは、いつもの数段上をいく威力だった。
ジェリィ系のモンスターなら一瞬で蒸発してしまうだろう。それほどの、だ。
「あ゛!? う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
そんな威力の上昇した魔術を受けて、黒焦げになりながら吹っ飛ぶチェスター。すでに見慣れた光景。
今日も良く飛んだ。
※
そして相も変わらず、食事時。
「イツツツ…」
そこには苦痛に表情を歪めたチェスターの姿があった。
「だ、大丈夫か、チェスター…?」
心配そうにクレスが声を掛ける。
さすがのチェスターとはいえ、いい加減ダメージが蓄積されてきているに違いない。はっきり言って、いつ倒れてもおかしくはない。…というより、一発で倒れないほうがおかしい。
「いや…マジヤベェかもしれねぇ…」
自己認識していたようだ。そうでなければ本当にヤバイ。
「チェスターさん。今日はどうしてこんなことになったのですか?」
ミントが尋ねる。
騒いでいるのは知っていながら理由は知らなかったらしい。習慣となったためにいちいち気をつかわない。というか、つかうのも疲れるということだ。
――起こりうる恐怖の一つだ。
「あぁ…、そこの
バカ がオレに料理を食えってな…。それを拒否しただけだ」
バカ を強調する。その言葉が指すのは――「なによッ、いつもバカバカって…!」
反論した、アーチェに他ならない。
「バカはバカだろッ!?」
反論に対する反論。…両者とも懲りない。
プチッ。 何かが、切れた。
「フフ、フフフ…」
怪しい笑み。引きつった笑みだ。
「…逝っちゃえぇ! サイクロンッ!!(詠唱なし、速攻FIRE!)」
チェスターの所
だけ に風が吹き荒れた!「げ! おっ、とっ、う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁ………」
その風に体を持ち上げられ、そのまま遠方、建物の二階ほどの高さまでに吹き飛ばされる。
そして、空中のため身動き不可。
「ファイヤーボール(×5)ッ! アイスニードル(×7)ッ! ライトニング(×3)ッ!」
空中のチェスターに立て続けに魔術をぶつける!
身動き不可=回避不可
「ぐはぁ…」
――かなり危険な状態にある。
しかし、これで終わり。この後で文句でも言って、すこし痛い目に合わせてやる…そう思っていた、が――
「――に風の裁きを! テンペストッ!!」
受身を取ろうとしたところに、そんな声が響き渡った。
一体いつから詠唱にはいっていたのか、再び魔術が放たれる!
地面につくこともなく、再び空へと。
――天光生みし宇宙の叡智
すべてが時間を失ったかのように動きを止めた。
アーチェの口より紡がれる言葉がマナを動かし、絶大な力が一点に収束していく!
――天光生みし宇宙の叡智
――――黄泉を砕きし破滅の光
――――――運命の審判をも覆す力を駆り
――――――――無へと還し有を生み出すもの
――――――――――こなた始端の光より
――――――――――――かなた終焉の光へ
――――――――――――――生じて滅ぼさん
バチバチと空気がはぜ、力を秘めたマナが収束する!
「――ビック・バンッ!!」
収束されたマナが互いに増幅し合い、力を解放した。
光属性最強の禁呪文が、無防備な人間、ただ一人に…我を忘れた一人の少女によって放たれた!
「あ゛…。ワリィなアミィ…バカな兄貴で…。オレ、もうダメだわ…。今、いくからな…」
そう言ったと同時に大地を揺るがす大爆発が生じた。その中心にいる彼の表情は穏やか過ぎるほどの笑顔だった…。
※
「んぁ…?」
体を起こすと、見覚えのある部屋の情景が飛び込んできた。
状況が掴めず…というより、まだしっかりと頭が起きていなかった。とりあえず自分の頬を叩いて意識を引っ張ってくる。
そうしなければ状況を知ることは無理だ。
「……?」
だが、結局状況を掴みきることはできなかった。
とりあえず自分が生きているということは確かなのだが、なぜ生きているのかが分からない。
――確かに、大量の魔術と、止めのビックバンを受けたはず。
考えていてもしょうがないと、取り敢えずみんなの所に行くことにした。
すると、ちょうど夕食が始まるところだった。
あの事件が、朝のことだった…つまり一日のほとんどを気絶したまま過ごしていたらしい。
「………」
最初に気付いたのはすずだった。
「…大丈夫ですか?」
一言声を掛ける。たった一言でもうれしい。そして連鎖的に、
「チェスター、もういいのか?」
「もう平気ですか?」
「よかったな」
と声を掛けてくれる。仲間の有難さをかみ締めた時だった。
そんなことを思っていて、あることに気付く。
「おい」
気付いたこと…それはある一人のことだった。その一人に声を掛ける。
「――なによ?」
その一人が言葉を返す。言わなくても分かるだろうが、アーチェのことだ。
「オマエな…反省、つーのを知らねぇのか?」
「知ってるに決まってんじゃん。それがどーしたの?」
その言葉に怒りゲージが過剰反応を見せた。
「なら、なんでオマエはオレに声の一言も、掛けないんだよ!」
一言一言に怒りがこもる。それに対してアーチェは、
「もうピンピンしてるじゃん」
キッパリと言う。確かにピンピンしてはいるが…誰の責任だと思っているのか。
「オマエな…! ――はっ、もういい。とりあえずオレも食う」
一瞬、怒りに身を任せかけたが、ハッキリ言ってムダ。
ケガがひどくなるだけだ。怒る気も失せる。とりあえず席について、夕食をとることにした。
「そういえば・・・・。どうしてアーチェさんの料理を食べなかったのですか?」
思い出したかのように訊いてくるミント。おそらくずっと訊きたかったのだろう。
だが、気絶している人間にまではさすがに訊けない。
だから今訊いて来たのだろう。
「あー…まぁ、単に食いたくなかっただけだ」
適当にはぐらかす。本当は…食えるようなものではなかった。
「アーチェ。まだその料理はあるのかい?」
興味ありげに尋ねるクレス。最近は料理の腕が上がってきていたから油断している。哀れだ。
「え? うん、あるよ」
そう言ってパタパタと走っていく。戻ってきた時にはその手に例の物が――
「…チェスター、どうして食べなかったんだ? おいしそうじゃないか」
「なら、クレス食ってみろよ…」
見たくもなかった。片手で顔を覆い、相手の顔も見ずに言った。
「? まぁいいや。それじゃあいただきます。おいしそうなカレーだと―――――」
「あ、それクリームシ――」
パクッ。
言おうとした時にはすでに遅い。
―――――時が――――止まった――――――
ぱたっ
「……ク、クレスーーーーーーーーーーッ!!」
親友の叫びもすでに耳には届いていなかった。
※
「だから言ったろ? 『特製』はやめておけって…」
「うん…」
チェスターの言葉に素直に答える。さすがに反省しているらしい。
二人は夜の散歩に出かけていた。今は見つけた大木のトコで休憩中。アーチェは木の根元で。チェスターは木の上で。
「そういや、今日は逆だな…」
「…なにがよ?」
「ん〜…いや、いつもはオマエのほうはホウキだからな。見下ろされてばっかだったけど、今はオレが見下ろしてるから、な…」
飛べるものの特権といえばそうなのだが、上から見下ろすのがいつもアーチェなのは当然だ。
「そだね…」
(にしても、なんかやけに素直だな…。チョットからかってみるか…)
その後に反撃があることも分かっているのに、そんなことを思ってしまう。
「なぁ、アーチェ…」
「…うん?」
ふと呼びかける。アーチェもそれに反応した。
「オマエって…こう見るとやっぱ背、低いよな」
「………」
ハッキリ言う。だがアーチェの反応はなし。…いや、そういうわけでもない。
「ハーフエルフはみんな背低いのか? ってんなことねぇか!」
「―――――――」
その言葉を黙って聞くだけ。否、うつむいたまま何か口ずさんでいる。歌とはまた違う独特のリズムを持った――
「オマエもうチョット背、伸ばせよ!」
そう言った時だった。今までうつむいていたアーチェがすっと顔を上げ、チェスターを見上げたのだ。
しかし、表情がどこか――
「――サンダーブレー…ド……」
反応するとほぼ同時、周囲を雷の嵐が包み込んだ!
が、その後の衝撃がない。その変わりに目に入ってきたのは…
「アーチェ!」
見下ろすと小さな身体が横たわっていた。
先ほどの表情は、どこか辛そうだった。
あわてて木から飛び降りると、その身体を抱き起こした。
「おいアーチェ!」
「エヘヘ…。チョット疲れちゃった…」
笑顔を浮かべているが、無理をしていることは一目瞭然だった。肩で息をし、伝わってくる体温も高すぎる。チョットどころのものではない。
「なにがチョットだ…! ムリしやがって…待ってろ! 今、医者んトコ連れてってやるからな!!」
そう言って小さな身体をおぶさると、医者の所へと急いだ。
※
「…もう、少しだからな…!」
「…チェスター」
「あぁ!?」
「…うぅん、なんでもない」
「? ほら、着くぞ…!」
診療所の前までくると、そのまま中へと駆け込み、大声で叫んだ。
「おい先生! いねぇのかっ!?」
するとその声にひとりの老人が姿を見せた。
「なんじゃ? 急患かの?」
紛れもない医師だった。信用するには欠ける言い振りではあったが…。
「あぁ! とにかく診てやってくれ!!」
アーチェをおろしてやる。だが、よほどふらつくのか、支えがないと立っていられないような状態だった。
「譲ちゃん、大丈夫かの?」
老医師が声を掛けると、ダメかも、とひとことだけアーチェが答えた。
「どうなんだ!?」
「まだ診とらんわ!」
焦りすぎ。
「ふむ…。これは一種の流行病じゃな。この時期、この地域では多いんじゃ。時に、この病気が元で死ぬ者もおる…」
血の気が引くのを感じた。
アーチェが死ぬ そう考えただけでいてもたってもいられない気分になった。「――どうしたらいいんだ、どうしたらアーチェは助かるんだ!?」
気付いたときには、そう叫んでいた。
「うむ。薬を作る薬草が必要じゃ。ここにはもう無いが…」
「他のところにはあるのか!?」
「ここから東の洞窟…。おそらくそこにある」
「東の洞窟だな! それで、どんな形なんだ!?」
言われて老医師は一冊の本を取り出してきた。
「これじゃ」
そこには、鮮やかな赤色をした特徴的な薬草が記されてあった。
「こいつだな…! わかった! 行ってくる!!」
「洞窟はモンスターが住み着いておる。気をつけてな…」
「あぁ!」
そして診療所を飛び出す。洞窟を目指し、月明かりの中を突き進んだ。
※
洞窟はすぐに見つかった。中は暗く、湿気が多い。そして、モンスターの巣窟だった。
「紅蓮ッ!!」
何体目かのモンスターを撃退する。質は低いが、なにぶん数が多い。気を抜いては進めない。
そうやって洞窟をすすんでいると、開けた空間に出た。
「ここは…? ―――――!!」
反射的に横へ飛ぶ。するとさっきまでいたところに多くの毒針が突き刺さっていた!
「大ボスってわけか…」
チェスターの見据える先…。そこに巨大な一つの影があった。
甲殻類のような硬い殻を持つ、サソリのような形をしたモンスターだった。
シャァァァァァアアアアアッ!!!
唸りをあげて向かってくる。すんでのところで回避すると反撃に移る。
「震天ッ!」
大量の矢を頭上に降らせる。これだけ巨大な敵なら効くはず、と思ったが、考えが甘かった。
キキィン!
全てはじかれる。思った以上に殻が硬かった。こいつは厄介だ。
「くそっ! どうすりゃいいんだ…!」
回避しては隙を見て攻撃。それを繰り返しながら考える。
「……! そうだ! あれなら!!」
ひとつのコトを思い出した。以前に知ったひとつの知識。
おそらく、コレはこの場合でも通用するに違いない!
ピンポイントに狙いを定め、矢を射る!
「凍牙ッ!」
突き刺さりはしなかったが、狙ったポイントは一瞬で凍りついた!
そのままもう一本射る!
「紅蓮ッ!!」
狙いは凍牙によって凍結したポイント。――直撃!
ビシ、ビシシ……!
なにかがひび割れるようなそんな音が響く。
見ると、奴の体の一部…矢を射ち込んだ箇所がひび割れていた。
理由は…さっきの矢だ。凍牙で冷却し、そこを紅蓮で急速に加熱する。これによりその部分は急速に膨張し、破壊されたということだ。
すずの知識の一つだったりする。
「これで!」
弓を構える。矢の先端が輝きだした。大きく、そして力強く…!
シャアァァアアアアアッ!!
向かってくる奴のピンポイント――ひびの入った部分を狙う!
「喰らえェ! 屠龍ッ!!」
紅き龍が解き放たれた!
それはそのまま狙いのポイントに突き刺さり、その体を空中に持ち上げた!
「いっけェーーーーーッ!!」
龍が閃光と化し、その身を…貫き、派生した複数の閃光が空中で身動きのとれない体を切り裂いた!
「へへ、やったぜ…。――それより薬草は!?」
溶けるように消えていくモンスターに目もくれず、周囲を探索する。
そして見つけた。
「これだ…!」
見つけた薬草を手に取ると、大急ぎで洞窟を走り抜ける。
そしてそのまま診療所になだれ込んだ。
「見つけてきたぞ!! …………ぁ?」
「あ、チェスター。お帰り〜♪」
笑顔で迎えたのはアーチェ。
「へ……?」
チェスターが状況をつかめず突っ立っていると、奥からあの老医師が顔を出した。
「おぉ、戻ったか。どうじゃった?」
放心しながらも薬草を手渡す。
「うむ。確かに…」
「――確かに、じゃねぇ! アーチェの奴、ピンピンしてるじゃねぇか!!」
「そりゃ、ただの風邪だからのぉ…」
「は? 風邪?」
「そうじゃ。この時期は多いから気をつけるんじゃぞ。ひどくなりすぎると他の病気に繋がって死ぬこともあるからのぉ」
プチッ。
「――こんの野暮医者がぁーーーーーーッ!! 屠りゅ――」
「ライトニングッ!」
技を撃とうとしたところをアーチェのライトニングにとめられ、そのまま昏倒した。
「…よかった…」
寝言でチェスターはそんなことを言っていた。
「…ありがと…そんなに心配してくれて………それと、ゴメンね」
聞いていたアーチェは笑みを浮かべて言ったが、最後のあたりでは涙が零れていた。
それからの毎日は…結局いつもと同じだったが、二人の間は確実に近付きつつあった…と思う。ここからは二人しだい…。
END...
あとがき
結構修正。
なんかね、今読むと恥ずかしいわけよ。かなり前に書いたのだから。
ホントに駄文だなぁとか思いつつ修正しました。
というわけで、感想もらえたら嬉しいです。掲示板に書いてください、お願いしますです。
+ こんなショボイSSでいいのなら転載可能です。 転載希望の方はメールもしくは掲示板でお知らせください。
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