ふたりの想い − Happy Happyまでもう少し? −

 

     ちゅっごぉぉぉぉぉん!!

「待てェーーっ、こらァーーーッ!」

「待つくらいなら…逃げねぇよッ!」

「とにかく待てェーーーー!!」

     ずどががががぁんッ!!

 こんな騒動を巻き起こしているのは、当然の如くアーチェとチェスター。

 前の件でお互いが反省し、謝ったこともあり、こんなことはもう起きないかと思われたが…やはり日常的になるとそれもかなわないらしい。

「だ・か・ら! アタシの 特性、、 クリームシチュー食べてったら!」

 今回の騒動の理由はソレらしい。

「なんで 赤い、、 クリームシチューを食わなきゃいけねぇんだッ!?」

 アーチェはミントに料理を習って上達してはいるのだが、完璧とは決して言えない。

 今まで安心して食べていたら――今日のコレだ。

「色なんて別にいーじゃん! とにかく食べてみてよっ!」

「ぜってぇ食わねェーーーッ!!」

「こんのぉ…! 天光満つる所に我は在り 黄泉の門開く所に汝在り!(超早口)」

 怒りに身を任せ、詩のような言葉を紡いでいく。

「な!? お、おい! ま、待てっ!!」

 その詠唱の示す魔術を悟り、焦りが表れる。

 何度も喰らってはいるが、さすがに慣れるモノではない。

「――出でよ、神の雷! ……待つわけないじゃん! インデグニションッ!!」

 詠唱を唱えながらでもチェスターの言葉を聞いていたのか、しっかりと答えてから、魔術を発動させた!

 雷属性最強呪文−INDIGNATIONインデグニション

 憤慨を指すその言葉、それは…怒りの度合いが高ければ、高いほどに威力を増すのかもしれない。

 今のコレは、いつもの数段上をいく威力だった。

 ジェリィ系のモンスターなら一瞬で蒸発してしまうだろう。それほどの、だ。

「あ゛!? う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 そんな威力の上昇した魔術を受けて、黒焦げになりながら吹っ飛ぶチェスター。すでに見慣れた光景。

 今日も良く飛んだ。

 そして相も変わらず、食事時。

「イツツツ…」

 そこには苦痛に表情を歪めたチェスターの姿があった。

「だ、大丈夫か、チェスター…?」

 心配そうにクレスが声を掛ける。

 さすがのチェスターとはいえ、いい加減ダメージが蓄積されてきているに違いない。はっきり言って、いつ倒れてもおかしくはない。…というより、一発で倒れないほうがおかしい。

「いや…マジヤベェかもしれねぇ…」

 自己認識していたようだ。そうでなければ本当にヤバイ。

「チェスターさん。今日はどうしてこんなことになったのですか?」

 ミントが尋ねる。

 騒いでいるのは知っていながら理由は知らなかったらしい。習慣となったためにいちいち気をつかわない。というか、つかうのも疲れるということだ。

 ――起こりうる恐怖の一つだ。

「あぁ…、そこの バカ、、 がオレに料理を食えってな…。それを拒否しただけだ」

 バカ、、 を強調する。その言葉が指すのは――

「なによッ、いつもバカバカって…!」

 反論した、アーチェに他ならない。

「バカはバカだろッ!?」

 反論に対する反論。…両者とも懲りない。

     プチッ。 何かが、切れた。

「フフ、フフフ…」

 怪しい笑み。引きつった笑みだ。

「…逝っちゃえぇ! サイクロンッ!!(詠唱なし、速攻FIRE!)」

 チェスターの所 だけ、、 に風が吹き荒れた!

「げ! おっ、とっ、う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁ………」

 その風に体を持ち上げられ、そのまま遠方、建物の二階ほどの高さまでに吹き飛ばされる。

 そして、空中のため身動き不可。

「ファイヤーボール(×5)ッ! アイスニードル(×7)ッ! ライトニング(×3)ッ!」

 空中のチェスターに立て続けに魔術をぶつける!

 身動き不可=回避不可

「ぐはぁ…」

 ――かなり危険な状態にある。

 しかし、これで終わり。この後で文句でも言って、すこし痛い目に合わせてやる…そう思っていた、が――

「――に風の裁きを! テンペストッ!!」

 受身を取ろうとしたところに、そんな声が響き渡った。

 一体いつから詠唱にはいっていたのか、再び魔術が放たれる!

 地面につくこともなく、再び空へと。

 ――天光生みし宇宙の叡智

 すべてが時間を失ったかのように動きを止めた。

 アーチェの口より紡がれる言葉がマナを動かし、絶大な力が一点に収束していく!

 ――天光生みし宇宙の叡智

 ――――黄泉を砕きし破滅の光

 ――――――運命の審判をも覆す力を駆り

 ――――――――無へと還し有を生み出すもの

 ――――――――――こなた始端の光より

 ――――――――――――かなた終焉の光へ

 ――――――――――――――生じて滅ぼさん

 バチバチと空気がはぜ、力を秘めたマナが収束する!

「――ビック・バンッ!!」 

 収束されたマナが互いに増幅し合い、力を解放した。

 光属性最強の禁呪文が、無防備な人間、ただ一人に…我を忘れた一人の少女によって放たれた!

「あ゛…。ワリィなアミィ…バカな兄貴で…。オレ、もうダメだわ…。今、いくからな…」

 そう言ったと同時に大地を揺るがす大爆発が生じた。その中心にいる彼の表情は穏やか過ぎるほどの笑顔だった…。

「んぁ…?」

 体を起こすと、見覚えのある部屋の情景が飛び込んできた。

 状況が掴めず…というより、まだしっかりと頭が起きていなかった。とりあえず自分の頬を叩いて意識を引っ張ってくる。

 そうしなければ状況を知ることは無理だ。

「……?」

 だが、結局状況を掴みきることはできなかった。

 とりあえず自分が生きているということは確かなのだが、なぜ生きているのかが分からない。

 ――確かに、大量の魔術と、止めのビックバンを受けたはず。

 考えていてもしょうがないと、取り敢えずみんなの所に行くことにした。

 すると、ちょうど夕食が始まるところだった。

 あの事件が、朝のことだった…つまり一日のほとんどを気絶したまま過ごしていたらしい。

「………」

 最初に気付いたのはすずだった。

「…大丈夫ですか?」

 一言声を掛ける。たった一言でもうれしい。そして連鎖的に、

「チェスター、もういいのか?」

「もう平気ですか?」

「よかったな」

 と声を掛けてくれる。仲間の有難さをかみ締めた時だった。

 そんなことを思っていて、あることに気付く。

「おい」

 気付いたこと…それはある一人のことだった。その一人に声を掛ける。

「――なによ?」

 その一人が言葉を返す。言わなくても分かるだろうが、アーチェのことだ。

「オマエな…反省、つーのを知らねぇのか?」

「知ってるに決まってんじゃん。それがどーしたの?」

 その言葉に怒りゲージが過剰反応を見せた。

「なら、なんでオマエはオレに声の一言も、掛けないんだよ!」

 一言一言に怒りがこもる。それに対してアーチェは、

「もうピンピンしてるじゃん」

 キッパリと言う。確かにピンピンしてはいるが…誰の責任だと思っているのか。

「オマエな…! ――はっ、もういい。とりあえずオレも食う」

 一瞬、怒りに身を任せかけたが、ハッキリ言ってムダ。

 ケガがひどくなるだけだ。怒る気も失せる。とりあえず席について、夕食をとることにした。

「そういえば・・・・。どうしてアーチェさんの料理を食べなかったのですか?」

 思い出したかのように訊いてくるミント。おそらくずっと訊きたかったのだろう。

 だが、気絶している人間にまではさすがに訊けない。

 だから今訊いて来たのだろう。

「あー…まぁ、単に食いたくなかっただけだ」

 適当にはぐらかす。本当は…食えるようなものではなかった。

「アーチェ。まだその料理はあるのかい?」

 興味ありげに尋ねるクレス。最近は料理の腕が上がってきていたから油断している。哀れだ。

「え? うん、あるよ」

 そう言ってパタパタと走っていく。戻ってきた時にはその手に例の物が――

「…チェスター、どうして食べなかったんだ? おいしそうじゃないか」

「なら、クレス食ってみろよ…」

 見たくもなかった。片手で顔を覆い、相手の顔も見ずに言った。

「? まぁいいや。それじゃあいただきます。おいしそうなカレーだと―――――」

「あ、それクリームシ――」

   パクッ。

 言おうとした時にはすでに遅い。

―――――時が――――止まった―――――― 

      ぱたっ

「……ク、クレスーーーーーーーーーーッ!!」

 親友の叫びもすでに耳には届いていなかった。

「だから言ったろ? 『特製』はやめておけって…」

「うん…」

 チェスターの言葉に素直に答える。さすがに反省しているらしい。

 二人は夜の散歩に出かけていた。今は見つけた大木のトコで休憩中。アーチェは木の根元で。チェスターは木の上で。

「そういや、今日は逆だな…」

「…なにがよ?」

「ん〜…いや、いつもはオマエのほうはホウキだからな。見下ろされてばっかだったけど、今はオレが見下ろしてるから、な…」

 飛べるものの特権といえばそうなのだが、上から見下ろすのがいつもアーチェなのは当然だ。

「そだね…」

(にしても、なんかやけに素直だな…。チョットからかってみるか…)

 その後に反撃があることも分かっているのに、そんなことを思ってしまう。

「なぁ、アーチェ…」

「…うん?」

 ふと呼びかける。アーチェもそれに反応した。

「オマエって…こう見るとやっぱ背、低いよな」

「………」

 ハッキリ言う。だがアーチェの反応はなし。…いや、そういうわけでもない。

「ハーフエルフはみんな背低いのか? ってんなことねぇか!」

「―――――――」

 その言葉を黙って聞くだけ。否、うつむいたまま何か口ずさんでいる。歌とはまた違う独特のリズムを持った――

「オマエもうチョット背、伸ばせよ!」

 そう言った時だった。今までうつむいていたアーチェがすっと顔を上げ、チェスターを見上げたのだ。

 しかし、表情がどこか――

「――サンダーブレー…ド……」

 反応するとほぼ同時、周囲を雷の嵐が包み込んだ!

 が、その後の衝撃がない。その変わりに目に入ってきたのは…

「アーチェ!」

 見下ろすと小さな身体が横たわっていた。

 先ほどの表情は、どこか辛そうだった。

 あわてて木から飛び降りると、その身体を抱き起こした。

「おいアーチェ!」

「エヘヘ…。チョット疲れちゃった…」

 笑顔を浮かべているが、無理をしていることは一目瞭然だった。肩で息をし、伝わってくる体温も高すぎる。チョットどころのものではない。

「なにがチョットだ…! ムリしやがって…待ってろ! 今、医者んトコ連れてってやるからな!!」

 そう言って小さな身体をおぶさると、医者の所へと急いだ。

「…もう、少しだからな…!」

「…チェスター」

「あぁ!?」

「…うぅん、なんでもない」

「? ほら、着くぞ…!」

 診療所の前までくると、そのまま中へと駆け込み、大声で叫んだ。

「おい先生! いねぇのかっ!?」

 するとその声にひとりの老人が姿を見せた。

「なんじゃ? 急患かの?」

 紛れもない医師だった。信用するには欠ける言い振りではあったが…。

「あぁ! とにかく診てやってくれ!!」

 アーチェをおろしてやる。だが、よほどふらつくのか、支えがないと立っていられないような状態だった。

「譲ちゃん、大丈夫かの?」

 老医師が声を掛けると、ダメかも、とひとことだけアーチェが答えた。

「どうなんだ!?」

「まだ診とらんわ!」

 焦りすぎ。

「ふむ…。これは一種の流行病じゃな。この時期、この地域では多いんじゃ。時に、この病気が元で死ぬ者もおる…」

 血の気が引くのを感じた。 アーチェが死ぬ、、、、、、、 そう考えただけでいてもたってもいられない気分になった。

「――どうしたらいいんだ、どうしたらアーチェは助かるんだ!?」

 気付いたときには、そう叫んでいた。

「うむ。薬を作る薬草が必要じゃ。ここにはもう無いが…」

「他のところにはあるのか!?」

「ここから東の洞窟…。おそらくそこにある」

「東の洞窟だな! それで、どんな形なんだ!?」

 言われて老医師は一冊の本を取り出してきた。

「これじゃ」

 そこには、鮮やかな赤色をした特徴的な薬草が記されてあった。

「こいつだな…! わかった! 行ってくる!!」

「洞窟はモンスターが住み着いておる。気をつけてな…」

「あぁ!」

 そして診療所を飛び出す。洞窟を目指し、月明かりの中を突き進んだ。

 洞窟はすぐに見つかった。中は暗く、湿気が多い。そして、モンスターの巣窟だった。

「紅蓮ッ!!」

 何体目かのモンスターを撃退する。質は低いが、なにぶん数が多い。気を抜いては進めない。

 そうやって洞窟をすすんでいると、開けた空間に出た。

「ここは…? ―――――!!」

 反射的に横へ飛ぶ。するとさっきまでいたところに多くの毒針が突き刺さっていた!

「大ボスってわけか…」

 チェスターの見据える先…。そこに巨大な一つの影があった。

 甲殻類のような硬い殻を持つ、サソリのような形をしたモンスターだった。

シャァァァァァアアアアアッ!!!

 唸りをあげて向かってくる。すんでのところで回避すると反撃に移る。

「震天ッ!」

 大量の矢を頭上に降らせる。これだけ巨大な敵なら効くはず、と思ったが、考えが甘かった。

     キキィン!

 全てはじかれる。思った以上に殻が硬かった。こいつは厄介だ。

「くそっ! どうすりゃいいんだ…!」

 回避しては隙を見て攻撃。それを繰り返しながら考える。

「……! そうだ! あれなら!!」

 ひとつのコトを思い出した。以前に知ったひとつの知識。

 おそらく、コレはこの場合でも通用するに違いない!

 ピンポイントに狙いを定め、矢を射る!

「凍牙ッ!」

 突き刺さりはしなかったが、狙ったポイントは一瞬で凍りついた!

 そのままもう一本射る!

「紅蓮ッ!!」

 狙いは凍牙によって凍結したポイント。――直撃!

     ビシ、ビシシ……!

 なにかがひび割れるようなそんな音が響く。

 見ると、奴の体の一部…矢を射ち込んだ箇所がひび割れていた。

 理由は…さっきの矢だ。凍牙で冷却し、そこを紅蓮で急速に加熱する。これによりその部分は急速に膨張し、破壊されたということだ。

 すずの知識の一つだったりする。

「これで!」

 弓を構える。矢の先端が輝きだした。大きく、そして力強く…!

シャアァァアアアアアッ!!

 向かってくる奴のピンポイント――ひびの入った部分を狙う!

「喰らえェ! 屠龍ッ!!」

 紅き龍が解き放たれた!

 それはそのまま狙いのポイントに突き刺さり、その体を空中に持ち上げた!

「いっけェーーーーーッ!!」

 龍が閃光と化し、その身を…貫き、派生した複数の閃光が空中で身動きのとれない体を切り裂いた!

「へへ、やったぜ…。――それより薬草は!?」

 溶けるように消えていくモンスターに目もくれず、周囲を探索する。

 そして見つけた。

「これだ…!」

 見つけた薬草を手に取ると、大急ぎで洞窟を走り抜ける。

 そしてそのまま診療所になだれ込んだ。

「見つけてきたぞ!! …………ぁ?」

「あ、チェスター。お帰り〜♪」

 笑顔で迎えたのはアーチェ。

「へ……?」

 チェスターが状況をつかめず突っ立っていると、奥からあの老医師が顔を出した。

「おぉ、戻ったか。どうじゃった?」

 放心しながらも薬草を手渡す。

「うむ。確かに…」

「――確かに、じゃねぇ! アーチェの奴、ピンピンしてるじゃねぇか!!」

「そりゃ、ただの風邪だからのぉ…」

「は? 風邪?」

「そうじゃ。この時期は多いから気をつけるんじゃぞ。ひどくなりすぎると他の病気に繋がって死ぬこともあるからのぉ」

   プチッ。

「――こんの野暮医者がぁーーーーーーッ!! 屠りゅ――」

「ライトニングッ!」

 技を撃とうとしたところをアーチェのライトニングにとめられ、そのまま昏倒した。

 

「…よかった…」

 寝言でチェスターはそんなことを言っていた。

「…ありがと…そんなに心配してくれて………それと、ゴメンね」

 聞いていたアーチェは笑みを浮かべて言ったが、最後のあたりでは涙が零れていた。

 

 それからの毎日は…結局いつもと同じだったが、二人の間は確実に近付きつつあった…と思う。ここからは二人しだい…。

END...

 

あとがき

 結構修正。

 なんかね、今読むと恥ずかしいわけよ。かなり前に書いたのだから。

 ホントに駄文だなぁとか思いつつ修正しました。

 というわけで、感想もらえたら嬉しいです。掲示板に書いてください、お願いしますです。

 

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