とある日の昼下がり。僕がいつもと同じように本を読んでいたときだ。
その日は実に穏やかで、惰眠をむさぼるには最適だっただろう。ただし僕はそれよりもこうして本を読むほうが好きなので時間をそっちに割いていた。
ちなみに今読んでいる本には『多次元的平行世界』と銘打ってある。
自分たちの生きている時間を一本の線に例え、その横を平行するように別の線が走っている。同時間軸の別世界、というものらしい。実に興味がある。
と。そんな僕の後ろに誰かが立っていることに気付いた。
「よ、香霖。また来たぜ」
白黒の魔法使い、霧雨魔理沙がやって来た。
「相変わらず唐突な奴だな」
「唐突じゃない客なんていないぜ」
まぁ、確かにその通りではある。
僕の店、香霖堂は魔法の森の近く――人間と妖怪の中間の位置にあった。これは両方からの客入りを狙って、である。
実際は「客」はあまり来ないのだが。
「そういうからには今日は客なんだな?」
「あー?」
分かり切っていたことだが、今日も客ではないらしい。
ならば何のためにうちに来たのだろうか。
「じゃあ何しに来たんだ?」
疑問をそのまま訊いてみることにした。
「なんだ。客じゃなかったら来ちゃいけないのか?」
そういうわけではないが、と返す。
こんなでも一応はお得意さんだ。お客様は神様だと言うくらいだ。さすがに来るなとは言えない。言いたいとしても言えない。
「でも何かあって来たんだろう?」
「まぁな。これから紅魔館に行くんだ」
「紅魔館に? なんでまた」
「レミリアからの誘いらしいぜ」
レミリアというのは確か紅魔館のお嬢様のはずだ。500年生きる、吸血鬼である。昨夜と一緒だったのを見たことが何度かある。
……はて。そういえば今の魔理沙の言い振りは何か不自然なところがなかっただろうか。
「らしい、ってのは何だ?」
そう、らしい、という言い振りだ。紅魔館に行く、とハッキリと言ったくせにその理由が不確定というのはおかしい。
魔理沙はそんな僕の疑問にあっけらかんと答えた。
「らしいはらしいだぜ」
答えになっていなかった。
「……で、本当は霊夢に聞いただけ、と」
そうだぜ、と言いながら魔理沙は勝手に棚から急須やら湯飲みやらを出してお茶を淹れていた。勝手知った物である。
レミリアは散歩のついでとかでよく博麗神社に立ち寄っているらしい。多分、そのときにでも誘ったのだろう。ただし、何にかはわからない。
「でも魔理沙、君が紅魔館に招待されているわけではないのだろう?」
「されてないぜ」
ハッキリと言う。
いや待て。招待されていないのに行く気なのか。
「それだと咲夜が黙っていないだろう? 実質あそこの責任者だからな」
「関係ないけどな。それに私は紅魔館に行くけど、用があるのはレミリアじゃないし」
そうか。確かにレミリア以外に用があるのなら問題もないだろう。だが、それだと前の話に疑問ができてしまう。
「魔理沙。僕が訊いた、なぜ紅魔館に行くのか、というやつの答え。なにかおかしくないか?」
「あー? 私なにか言ったか?」
言った。
「あぁ言った。レミリアからの誘いらしいぜ、と迷うことなく」
「だからレミリアからの誘いなんだろ? 霊夢が」
「いや、だからそれは君は関係ないんだろう?」
「関係ないぜ」
「……」
頭が痛くなってきた。どうも、いや、前から分かっていたことだが、魔理沙相手に普通の会話ができるはずがないようだ。
「――あー、そういうことか」
何か難しい顔をしていた魔理沙が閃いたかのように言った。
「香霖、私はもとから紅魔館に行くつもりだったんだ。で、そんな時にたまたま霊夢から話を聞いたわけだ。目的地は同じだろ? なら一緒に行こうぜ、……とまぁ、そんなわけだ」
なるほど。納得できた。
確かに目的地が同じなのだからその経緯にも納得がいく。紅魔館側も対応が一度でいいのだからまさに一石二鳥だろう。
……さて、そうすると残る疑問はひとつだ。
「それで、どうしてうちに来たんだ?」
紅魔館に行くのにうちによる必要性はまったくない。もし土産を用意しようとでもいうのなら納得できないでもないが、魔理沙は客ではないと言い切ったのだからそれも違うだろう。
僕にとっては大きな疑問だった。
だが魔理沙にとっては意外な質問だったようである。
「なんだ香霖、そんなこともわからないのか?」
「あぁわからないね」
はぁ、と魔理沙がため息をついた。どこか馬鹿にされているようで気分がいいものではない。
「……単純な理由なんだがな」
魔理沙がそこまで言ったときだ。店の扉が勢いよく開いた。
次いで声が響く。いつもどおり、賑やかな奴だ。
「魔理沙、居るんでしょ? 早く行くわよ」
わかったぜ、と魔理沙が湯飲みを置きながら答えた。
「……とまぁ、そういうわけだ」
「あぁよく分かった。気をつけて行ってこい」
妖怪が出てきてもいちころだぜ、と言いながら魔理沙が扉の方へと歩いていく。扉を開けたまま待っていた紅白の巫女はどこか慌てているようにも見えた。どうせ指定された時間に遅れそうなのだろう。
「じゃあね霖之助さん。また今度暇なときに来るわ」
「茶、ご馳走になったな」
待ち合わせ、だったのだろう。確かに霊夢か魔理沙のどちらかが家を訪ねるよりも効率的だ。
扉の閉まる音が響いた。途端、店の中は静かになる。穏やかな陽気はそのままだ。
読みかけだった本を開く。その時、ふと視界に魔理沙が置いた湯飲みが映った。
「ふむ。ツケに追加だな」
お茶の代金を、頭の中のツケ帳に書き込んだ。
あとがき。
――で、なんだというんだろうか、一体。
取り敢えず東方です。ちなみにはじめてです。全然わかりません。キャラが立ちすぎだ東方シリーズ。
これを書き始めた理由は至極単純で、なんとなく、です。ある意味一番謎とも言える。
まぁこれは実験を兼ねてるようなものですが。東方で書けるかなんてまったくわからなかったし。
あぁ、一番大きな理由は「東方香霖堂」を読んだからかもしれない。今回も香霖堂メインだし。
これからも東方を書くかは謎。書きたいという思いは結構ある。だから書くかもしれない。咲夜書きたいし。
ちなみに弾幕シーンはほとんどない、だろうと予想。無理っぽいのは極力避ける主義です、はい。
だからきっと、まったりまったりと。もしくはシリアスにー。
そんな東方SSをまた書くかも。書かないかも。
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