ちっ、と軽く舌打ちしてナイフを懐にしまい込む。
「今のお前とじゃ面白くない」
一言、そう吐き捨てて式は元来た道を戻りだした。
今のあの男とでは、ギリギリの殺し合いなどできない。それ以前に、殺人対象とも成りえない。
あんな男、殺す価値もない。
空の境界
= 血 流 残 置 =
/2
煙草
「黒桐、少し買出しに行って来い」
開口一番に、蒼崎燈子はそう言い放った。
「は?」
今、丁度扉を開けたばかりの黒桐幹也はあまりもの不意打ちに思考を停止させた。
いや、いきなりでそれですか。
「どうした黒桐?」
「――なんですいきなり。
人が遅刻しないように急いで来て、今やっと少し休憩できるかな、というところでソレですか」
「安心しろ」
眼鏡をかけていない燈子が容赦なく言い放つ。
「完全に遅刻だ」
ここは蒼崎燈子の工房――伽藍の堂。
人目に付かない、廃墟といっても過言ではないような場所。
しかも、人目に付かないというより、付けさせない、といった空間に取り巻かれていたりするのだから性質が悪い。
無論、そんな場所に陣取っている人物が、性質が悪くないはずがなかった。
「――それで、何を買ってこればいいんですか?
完全に遅刻なのは確かみたいなので拒否はしませんよ。…まぁ例外有りですが」
「煙草」
「はい?」
「だから煙草だ。そんなことも分からないのか黒桐」
言って燈子が、早く行け、と視線で示した。
幹也が何かを言おうとしてそれを飲み込み、扉に手をかけようとしたところで、それが自動ドアだったかのように勝手に開いた。
「――式?」
扉が開いたのは自動ドアだからでも何でもなく、ただ単にやってきた式が開けただけのことだった。
「幹也、邪魔」
「あ、ごめん」
式の言葉に幹也が道を開ける。
式はそんな幹也の横を悠然と横切って中に入ると、燈子に挨拶ひとつもしないでソファーにどかりと座り込んだ。
「式、挨拶のひとつくらいしたらどうだ?」
「呼び出しておきながらよく言う。…あぁ、おはようトウコ」
半ば、と言うか完全に投げやりに挨拶の言葉を発す。
それを聞いた燈子は言い出したくせに、自分は挨拶を返しもしないで椅子に深く座りなおした。
「…ん? どうした黒桐。早く煙草を買って来いと言っているだろう?」
幹也は、扉の所でぽかん、と立ち尽くしていた。
「えーと燈子さん?」
「なんだ?」
「式を呼び出したっていうのは、何故です?」
「あぁ、それはお前にはまったく関係のない事だから気にするな」
残り少ないであろう煙草に火をつけながら平然と言う。
「気にしますよ。燈子さんから式への用事と聞いて良い事はないですから」
「言うようになったな黒桐。
まぁ安心しろ。今回のは言うほど危険なことじゃない」
言うほど――? 燈子の言葉に引っかかるものを覚えながらも、どうせ何を言っても無駄だと分かっているのでその言葉を信じて煙草を買いにいくことにした。
「それじゃあ行ってきますけど…式、危ないことはあまりしないでくれよ」
そんなことを言い残して、幹也は部屋を出て行った。
「さて、仕事の話だ」
幹也がいなくなったのを確認すると、燈子が話を切り出した。
彼女の言う仕事≠ニいうのはいつも決まって厄介なものが多い。式としては殺人≠ニ言う行為に及べればそれで満足なのだが、実際に
生きた人間 を相手にしたことは一度しかない。――その時も殺すことはできなかったが。「――なんだ式、その不機嫌な顔は」
知らず顔に出ていたようだ。
「トウコ、さっさと仕事のことを話してくれ」
ふむ…と少し思案するような態度を見せると、
「今回は人が相手だ」
ハッキリと告げた。その言葉に、式がピクリと反応する。
「それ、殺してもいいんだろ?」
「あぁ、問題ない」
生きたまま捕らえてくれたほうが都合がいいんだがな、と煙草を吹かしながらどうでもよさそうに呟く。
「それで、オレは誰を殺していいんだ?」
「そうだったな。それを言わなくては話にならない」
言って、燈子は式に写真を投げよこした。
その写真を受け取ると、式が気だるそうにそれ見――哂った。
「そいつは今世間を騒がしている殺人犯だ。
知っているだろう? あの連続殺人だ」
「知ってる。それに、コイツだったら昨日あったぜ?」
「気が早いな、式。
それでどうしたんだ? 殺してはいないのだろう?」
燈子の言葉に、式が気だるそうに答える。
「――あんなヤツ、殺人対象にもならない」
式のその言葉に、燈子が意外そうな顔をした。
「何故だ、式。共通性のない殺人ということは、こいつは殺し≠愉しんでいるのだろう?
十分な殺人対象ではないのか?」
「―――」
燈子の言葉に何の反応も示さず、式は立ち上がると扉まで歩いた。
「おい、どこに行く」
「――そんなの、オレの勝手だろ」
行って、式はその部屋を後にした。
吐き出される煙が、部屋を漂い、そして窓から抜けていく。
煙草を吹かす燈子の目は窓の外を観ていた。
「――そこに何かを残すということは、何か思いがあってのことだ。
それは未練だったり、メッセージだったりする。――式、お前はそれに気付いているのか?」
燈子の吐く煙が、窓から外に抜け、そして消えた。
中書き兼後書き・その2
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