吐き出される煙が、部屋を漂い、そして窓から抜けていく。
煙草を吹かす燈子の目は窓の外を観ていた。
「――そこに何かを残すということは、何か思いがあってのことだ。
それは未練だったり、メッセージだったりする。――式、お前はそれに気付いているのか?」
燈子の吐く煙が、窓から外に抜け、そして消えた。
空の境界
= 血 流 残 置 =
/3
折り鶴
朝の光が差し込む室内。
そこには生活感、というものが感じられなかった。
何もない。
あるのは、本当に最小限の家具のみ。
そんな中、唯一生活感を体現しているのがニュースを流し続けるテレビだった。
そのテレビの前に、ひとりの男がいた。
生気のない瞳で、虚ろに。
「―――」
朝のテレビから流れてくる映像と音声は、まるで霧のよう。頭に入ってきても、それは薄れていて、認識できない。
映し出されている光景は、あの路地裏。
何もかもが深紅に染まった、あの異界と化した地。
そして―――死神と出会った地。
頭は認識できなくても、その記憶は確かに存在していた。悠然と歩んできたあの少女は、間違いなく死神だ。そう、記憶がどこかで直感していた。
相変わらず、霧がかかっていて、テレビの言葉もボンヤリとしか認識できない。
と、
『―――殺人鬼―――』
テレビから流れてきたその言葉で、すべての霧が一斉に消え去った。
意識は覚醒し、テレビの映像と音声が一方的に流れ込んでくる。
『またもや殺人鬼が――』
テレビの報道は、一方的でそれでいて絶対的だ。世界中の人々がその報道により多大な影響をうける。良い意味でも、悪い意味でも。
そして報道は時として残酷だ。この男にとっての報道は、精神を打ち砕こうとする悪魔に等しい。
どこまでも、男の精神を追い詰めるのは自分自身の内面と、そしてこの報道だ。
男は報道を聞きながら、呟いていた。
―――違う。
と。
『被害者にはまたも共通点が見つからないとのことです。しかしその手口は同じで――』
―――違う…。
繰り返される、そんな男の呟き。
だが、無情にも男の呟きは届くことはない。
『いつもと同じように、折り鶴が置かれて―――』
「違うッ!!」
バンッ、と手を叩きつけ立ち上がると、荒々しくテレビのコードを引き抜いた。
それにより、テレビは電力の供給を受けられなくなり、その画面は黒くフェードアウトしていく。それに並行して音声も消えていった。
「ハァ、ハァ、ハ―――」
男は荒れた呼吸を整えようと試みるが、うまくいかなかった。
「俺は、違う、んだ―――」
嗚咽の混じった呟き。男は強く身体を抱き、嗚咽を漏らし続けた。
自分は、そんな殺人鬼なんかじゃない。
そう、言い聞かせて、今はただ、嗚咽を漏らし続けた。
その小さな一室には、朝日に照らされる無数の――純白の折り鶴が散らばっていた―――
燈子が受けた依頼は、殺人鬼の抹消だ。
その依頼者と、この対象との関係は知らない。だが、おそらくは血縁者なのだろう。依頼者の声に浮かんでいたのは哀しみ≠セった。
燈子はその依頼をあっさり受けた。
深い理由はない。
何より、実際に行動するのは燈子ではなく、式なのだから―――
といった背景での依頼承諾だったのだが、実際は状況が違ってきていた。
式が、この殺人鬼のことを「殺人対象にもならない」と言ったのだ。
おそらく式も、何も気付いていないわけではないのだろう。
そうでなければ、あの時点でキッパリとこの話を切っている。
実際そうしなかったのが、その証拠だ。
だが――
「さぁ、式。お前はどうする―――?」
折り鶴に込められるのは何かの想い、そして願い。
男の想い、そして願いは何なのか。
―――そんなことは、知らない。
呟き、哂う少女が、街を歩く―――
中書き兼後書き その3
今回は、繋ぎなだけです。
本当に、読んでも面白くない。
式の出番ないし。
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