月夜 / 式

 

 

 

 

 

 ―――気付けば、今日も夜の街を歩いていた。

 

 何を思い立ってその行動に出たかは私の記憶にはないし、記憶にないということはやはり習慣からのものなのだろうか。

 習慣というものは無意識にでもできてしまうものなのだから、きっとそうなのだろう。

 朝、顔を洗う。人に会ったら、挨拶をする。

 そんなどうでもいいことは既に習慣というものでひと括りにできてしまう。普段、誰もそれを意識的にやろうとはしていない。気付けばやっていた。その程度だ。

 だけどそれゆえに習慣というものは恐ろしい。

 

 まったく。自分の意思とは無関係に事を起こしているなんて、まるで操り人形じゃないか。

 

 そう思って、内心で哂った。

 私が夜の街を出歩くようになったのはかなり前だ。

 そう、両儀式が夜の街を闊歩するようになったのはかなり昔。自分でも明確に思いだせないが今でも続いているその習慣は、されど自分の習慣とは言い難い。

 

 以前の両儀式がただ夜の静かな街を求めていたのなら。

 今の私は、血生臭い人殺しを求めている―――。

 

 考えてみれば不確かな私がこの行為を始めたのも以前の私に近づくためだった。

 自己の不確かな両儀式は、記憶の中の両儀式に近づくために夜の街を出歩いていたのだ。

 

 それも今では意味合いが変わってしまった。

 いや、記憶の両儀式に近づくため、ということは依然続いてはいる。だけど、その優先順位が変わってしまっただけで。

 今の私は生の実感がほしい。

 自己が不明瞭な私は、生の実感さえ不明瞭。

 両儀式が生きていると実感できるのは、殺し合いという極限の状態の中だけ。

 そんな私が夜の街を出歩くのは当然とも言える。

 

 ほら、どんな三文芝居だって、

 ―――異常者が現れるのは夜の昏い闇の中じゃないか。

 

「……今日は、静かだ」

 

 呟いて、今夜が満月だということに気付いた。

 いつにも増して静寂な闇。その空に浮かぶ真円はどこか蒼く映った。

 まるで穴。

 いつも思うことだが、夜空の月は真っ黒な画用紙に穿たれた、ひとつの穴にしか見えない。

 そう考えれば月が異界への門だという話にも納得ができるというものだろう。

 その月を背に、ひとつの影が横切ったのが目に入った。

 

「へぇ」

 

 と、喜びに顔が歪んだ。

 あれがトウコの言っていたヤツだろうか。

 月を背にあんなに堂々と夜の街を闊歩するなんて、それだけ自信があるのか。それともただの莫迦なのか。

 どうでもいいか。と哂う。

 人じゃないアレじゃ満足できないだろうけど、取り敢えず足しにはなるだろう。

 吸血鬼だかなんだか知らないが、私の眼に入ったからには殺すしかない。

 

 ―――奴らは血を吸うことで擬似的な不老不死を会得している。まぁ、その中でも更に劣化品だがね。

 

 そう言ってトウコは笑っていたっけ。

 トウコは知っている。

 私には不老不死だろうと何だろうと関係ないということに。

 ―――そう。

 

「生きているのなら、例え神でも殺してみせる」

 

 言って、着物を翻した。

 得物の感触を確かめてから、歩を進める。

 目的地も決まった。あとはそこに出向いて、

 

 ただ、殺しあうだけ―――。

 

 

 

 あとがき

  …えーと、暇だった時間に書いた、手抜き+意味不明。

  講談社ノベルス、空の境界購入記念、ってことで。

 

 

 

◇ 記憶を退避する


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