純白の吸血姫

 

 

 

 

 

 

 

 月の光は、蒼い。

 夜空に浮かぶ真円の下、純白の彼女は空を見上げていた。

 

―――あぁ

 

 穏やかに降り注ぐ月の光はまるで自身を包み込むかのよう。

 

―――なんて、キレイ

 

 呟いて、視線を前へと戻す。

 そこには人でなく、人のカタチをした。生きていないのに、生きている。そんな曖昧で中途半端で、ただ人を襲い、血を吸うだけの存在。

 ぐらぐら、ぐらぐらと。

 確立しない自己を放棄して、ただ血を吸い続ける存在を前にして。

 

 瞳が更に朱に染まる。

 

 吸血行為に浸るソレを見ていると、腹が立つ。

 もう、どうしようもないくらいの怒りが支配する。

 今すぐにでもソレを消してやりたくなるくらいに。

 あぁそれもこれも。

 まるで、過去の自分を思い出すようで―――――――

 

 ギリ、と歯が鳴った。

 

 その音にソレは吸血行為を中断して、こちらを見た。

 ソレの目に映った私は、さぞや甘美に見えただろう。

 だけど、それは甘い甘い毒。

 

 蜜と思い飛び込めば、それは餌を待つ食虫花。

 純白の彼女は血を奪おうと飛び掛ってきたソレを躱すと、ゆっくりと振り返った。

 

 その瞬間、世界が震撼する。

 

 朱の瞳は今や金に染まり、圧倒的な敵意と殺意が渦巻く。

 圧倒的な圧迫感が空間を支配する。

 全てを掌握された世界の中、彼女だけが唯一の支配者。

 空間を支配する、圧倒的な強さ。

 

 蛇に睨まれた蛙。

 

 普通の生物ならば竦み上がり、懺悔するのに。

 あぁ何て愚かなことか。

 ソレはそんなことを感じる心さえ持たないのか。

 圧倒的な力の差を感じることも出来ず、ただ目の前にいるのは餌だとしか認識できない。

 愚か。

 何て、愚か。

 百獣の王と謳われる獅子でさえ力の差というものを理解するというのに。

 

――――――もう、どうでもいい。

 

 再び飛び掛ってきたソレに爪を掻ける。

 ザン、と一閃。

 走った線は既に分断した後の軌跡。

 

 ソレは何も理解できていないに違いない。

 狩る側は狩られる側を理解することなど出来ない。

 理解してしまえば、狩ることなど出来るはずがないからだ。

 ゆえに理解しない。

 

 全身が朱に染まる。

 返り血をその身に浴びて、純白は今や真紅。

 どくどくと鳴動する鼓動を押しとめて、血を毛嫌いするように。

 

 あぁこれもすべて。

 

 蛇を殺すまで。

 

 姫君なんてとんでもない。

 私はただの穢れた存在。

 今の自分の姿のように、白に見えて真は朱。

 

 ただ蛇を殺すためだけに此処にいる。

 見つけて、殺して、あとはまた眠りにつく。

 ずっと繰り返してきた循環。

 これからも続くだろう循環。

 

 なんてつまらない日々。

 なんてつまらない世界。

 

 そんな世界の中心で、ひとり孤独に踊る。

 

 あぁ―――と声を漏らして。

 

 

 彼女は深く昏い夜に、蒼い蒼い月を見上げる。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 思いつき短編その2。

 今回はアルクェイド。場面としては志貴に会うより前、といったところ。

 前回よりワカラナイ。

 こんなの書く自分自身もワカラナイ。

 

◇ 記憶を退避する


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