「ここが、伽藍の堂か……」

 俺と琥珀さんが態々三県も離れているここに来ているのには訳があった。

 それは……、俺が大学に入って最初の冬の事だ。

 

 

月夜の空 〜 不完境界 〜

/1

 

 

「おはよう秋葉」

「おはようございます兄さん、今日は早いんですね」

 やんわりと制服姿の秋葉が挨拶を返してきてくれる。そうだ、秋葉なら知っているかな?

「なあ秋葉、俺の眼鏡知らないか?」

 えっ? と秋葉が怪訝な顔をする。まあ、普通の反応だろうな。しかし、俺にしては死活問題になりかねない。現に今だって頭痛が酷くて堪らないのだから。

「はあ、何を言っているんですか。今兄さんは眼鏡を掛けているじゃないですか」

 そう言われて自分の眼に触れようとしたが眼鏡に邪魔された。……自分は眼鏡をしている。が、線が視えてしまっている。昨日までは見えていなかった筈だ。何故突然魔眼殺しが効かなくなってしまったのかは解らないが、これだけはハッキリしている。

 数日までにこれを何とかしないと遠野志貴は壊れてしまう。

「兄さん、どうかしたんですか?」

 秋葉が心配そうな顔でこっちを見ているが心配はかけられない。

「いいや、なんかボケてたのかな俺?」

 ハハハ…、と笑って誤魔化そうとしたが秋葉にはそんな事は効かないらしい。

「兄さん、隠し事はしないでください。兄さんは直にそうやって一人で抱え込もうとするんですから」

 ……どうやら、我が妹には隠し事は出来ないらしい。

「秋葉、あまりいい話じゃないぞ。それでも良いのか?」

「では兄さんはその良くない話を私達に相談もしないつもりだったんですか?」

 ぐっ、痛い所を。

「解った。けど、秋葉ほど察しがよければ解っているんじゃないか?」

「大体の予想はついています。けど、相談されるのとされないのとではこちらの気持ちが違います」

 俺はこの時、やはり乙女心というものは良くわからないと心から思った。

「まあ、察しのとおり眼鏡をしていても線が視えてしまうんだ。けど、これっばかりは琥珀さんの薬で治せる物じゃないしお手上げかな?」

 本当にそうなのだ。先生でもいないかぎりこの眼鏡は治せないし、医学でこれを治せないのは小さい頃に経験済みだ。

「ふう、不本意ですがあの人に頼る他無いみたいですね」

 そう言って秋葉は電話をかけに行ってしまった。と、思うとほんの一分かそこらで帰ってきてしまった。

「9、8、7、……3、2、1」

 帰ってきたかと思うとなにやらカウントダウンを始める我が妹。

「…ゼロ」 「間に合ってー!!」

 秋葉の声ととても聞き覚えのある先輩の声が重なった。

「はあ、はあ、はあ……、間に合いましたね」

「ギリギリでしたけどね。まあ、良いでしょう。では兄さんこの人なら解ると思うので説明してください」

 ……秋葉が、シエル先輩を呼びつけた?ちょっと意外だった。先輩と秋葉は何と言うか、馬が合わない、と言うか相性が悪いと言うか……。

「突然で悪いんだけど先輩。先生……いや『ミス・ブルー』の居場所を知ってる?」

 それを効いた途端先輩はとても真剣な目になった。

「遠野君それを知ってどうするつもりですか?」

「居場所を知ってるなら教えてもらって逢うつもりだよ」

「……そうですか。しかし、教えられません」

 先輩がきっぱりと断るがこちらも引く訳にはいかない。

「先輩、魔眼殺しが効かなくなってしまったんだ。このままじゃ俺が壊れてしまう」

「……すみません、私にはミス・ブルーの居場所は解らないんです」

 先輩は苦々しい顔をしていた。それだけで先輩は嘘を言っていないと解る。

「しかし、その魔眼殺しを作った人はミス・ブルーではありません。

 ミス・ブルーは魔術師としては平均以下ですし破壊を専門とする魔術師です、それが魔眼殺しの様な物を作れるとは思えません。恐らく『橙色の魔術師』が作ったのでしょう」

 先輩は先生の悪い人みたいに言うけど俺は俺はそうは思わ無いんだけどなあ『橙色の魔術師』って人が作ったにしろ、俺に渡してくれたのは先生なんだから。

「『橙色の魔術師』ってだれなんですか?」

「蒼崎橙子、人形師です」

 蒼崎……、どこかで効いた様な気がする。

「『橙色の魔術師』はミス・ブルーの姉です」

 ああ、道理で聞き覚えのある名前だと思った。

「それで、居場所は分かるかな?」

 俺は、単刀直入に聞く事にした。今は実を閉じて視え無い様にはしているが、時々閉じていても視えてしまうから気が気じゃない。

「いえ、残念ながらこの日本に居ると言う事が解っているだけなのです」

 クッ、日本に居る。それだけじゃあとてもじゃないが広すぎる。

「分かりました。先輩ありがとうございました」

 今まで黙って聞いていた秋葉が頭を軽く下げる。それを見て先輩は驚いていたが。

「いえ、私の方でも探してみます。向こうは封印指定の魔術師です、探す理由は十分にありますから」

 そう言うと早速先輩は蒼い空の中へ消えていった。あの人って夢中になると周りが見えなくなるよなぁ、封印されたら俺の眼鏡治らないんだけど……。まあ、見付け次第連絡はくれるだろう。

 

 

「さて、兄さん話があります」

 シエルとの話の後少し席を外していた秋葉に呼ばれると書斎に入れられた。そこには琥珀さんと秋葉が数枚のプリント紙の前で俺を待っていた。秋葉の前に腰を降ろそうとするとプリントの一番上に書いてあった『蒼崎橙子』という文字に目がとまった。

「あ、秋葉……、これ?」

「ええ、以前『蒼崎橙子』に遠野グループで仕事をしてもらった時に調べた資料です。琥珀」

 琥珀さんは返事をしながら手元にある資料を見ながら説明をし出した。

「蒼崎橙子、現在ここより三県離れた所で伽藍の堂という製作事務所で所長をしています。高校は礼園女学院を出ています。その後イギリスに留学していますがイギリスへ行った後の事は殆ど分かりませんでした。日本に帰ってきてからは伽藍の堂で住み込みで暮らすています、今現在では社員は二名ほどです」

 ……お、驚いた。仕事を任せるからと言って秋葉達はここまで調べたのか。本当に今更ながら遠野グループの大きさに驚かされるな。

「兄さんは今冬休みですから行って来て下さい」

「ふえ?」

 あまりにも突然の事に不覚にも佐○理さんみたいな返答をしてしまった。

「ですから、兄さんもそんな状態では困るでしょうから行って来て下さいと言ったのです」

「あ、ありがとう秋葉」

「そのかわり琥珀と一緒に行ってもらいます」

「え?琥珀さん?なんで?」

 俺のお付は翡翠のはずだし、琥珀さんは秋葉のお付なんだし。

「志貴さんは私と行くのが嫌なんですか?嫌なんですね〜」

 こ、琥珀さん笑顔で裾に手を伸ばしながら殺気を出すのはやめてください。

「だ、誰もそんなこと言ってないじゃないじゃないですか。う、嬉しい!!嬉しいな〜」

 ふう、そうだった。あの人を敵に回しちゃいけなかった。

「でも、てっきり秋葉が行くって言い出すと思ってたんだけどな」

 そう言った瞬間秋葉がむくれて拗ねた様な声で。

「私だって行きたいのは山々ですが、私は兄さんと違って高校生ですから学校があるんです。しかも、卒業も間近ですから休む訳にはいかないんです」

 そ、そうか、秋葉まだ高校三年生だもんな。うちの高校に入って随分柔らかくなって来たと思ってたけど最近ピリピリし始めたのはそのせいか。

「あれ?でも、秋葉って卒業を気にするほど成績は悪くなかっただろう?」

「当たり前です。しかし、今月はテストが固まっていて休み訳には行きません」

 そう言えば俺もこの時期には地獄を見たっけ。

「そうか、それは解ったけど何で琥珀さん?」

「兄さんは翡翠を街中に連れて行く気ですか?」

 ああ、それは無理だ。翡翠は基本的に人ごみが苦手だ(特に男)それを連れて行くのは流石に可哀想だよな。

「そうだな、解ったよ。琥珀さんと行って来るよ」

 まあ、それはそれで多いに不安があるんだけどね……。

「さて、志貴さん早速明日の朝には出るので準備してくださいね」

 あ、明日か急な話だな。でも、何時までも眼を瞑っているかしているのも限界があるだろう。

「じゃあ、明日だね。……あと、秋葉」

「? 何ですか兄さん?」

「学校、いいのか?」

 その瞬間、遠野秋葉が凍り付いて動けなくなってしまったのは言うまでも無い。

 

 ――――――その夜

 はあ、今日は最悪の一日ね……。と言うより今日から、と言った方がいいかしら。明日から兄さんが居ないのだから……。ああ、それは確かに最悪だわ、でもそんな事を思う前にしなきゃいけない事があるわね……。

 

 

 

to be next

 

 

 

 

 

・あとがき

 どうも、今回雷牙がお届けする小説はあの『奈須きのこ』さんの『月姫』と『空の境界』のコラボレーション作品です。なんか、巨大な事件になる予定なのでがんばって書いていこうと思います。

同時進行の『七つ夜、舞い降りる』もがんばって書いていますのでBBSにでも応援メッセージを書いてくれると励みになります。では、また次回で。

 最後に乱筆乱文をお許しください


感想送信用フォーム>気軽にどうぞ。と言うか、お願いしますマジで。
おなまえ    めーる   ほむぺ 
メッセージ
 

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